※本記事は、株式会社エスクロー・エージェント・ジャパンの有価証券報告書(第19期、自 2025年3月1日 至 2026年2月28日、2026年5月22日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. エスクロー・エージェント・ジャパンってどんな会社?
金融、不動産、建築、士業の領域で、取引手続きや決済分野を支援するサービスを提供しています。
■(1) 会社概要
1982年に士業専門家の合同事務所として創業し、2007年に不動産取引におけるエスクローサービスを主な事業として同社を設立しました。2014年の上場と同年のエスクロー・エージェント・ジャパン信託の設立に加え、近年は中央グループやサムポローニアを子会社化するなど、継続的な事業拡大を図っています。
同社グループの従業員数は連結で314名、単体で152名です。筆頭株主は中央グループホールディングスで、第2位は代表取締役会長の本間英明氏、第3位は千代田プロパティホールディングスとなっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 中央グループホールディングス | 42.70% |
| 本間 英明 | 7.16% |
| 千代田プロパティホールディングス | 6.31% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性6名、女性0名の計6名で構成され、女性役員比率は0.0%です。代表取締役会長は本間英明氏、代表取締役社長は成宮正一郎氏です。社外取締役比率は50.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 本間 英明 | 代表取締役会長 | 1982年本間英明土地家屋調査士事務所開設。2004年アイディーユー総合事務所代表取締役就任。2007年同社代表取締役社長就任。2021年より現職。 |
| 成宮 正一郎 | 代表取締役社長 | 2000年雪印乳業入社。2007年マザーズエスクロー入社。2016年同社営業本部長、2018年同社不動産事業本部長を歴任し、2021年より現職。 |
| 太田 昌景 | 取締役 | 2000年朝日監査法人入社。2007年ジャスダック証券取引所入社。金融庁証券取引等監視委員会事務局を経て2014年同社入社。2022年より現職。 |
社外取締役は、山本 隆(元山本隆法律事務所所長弁護士)、丸尾 浩一(元大和証券専務取締役)、園田 博之(元あずさ監査法人パートナー)です。
2. 事業内容
同社グループは、「金融ソリューション事業」「不動産ソリューション事業」「建築ソリューション事業」「士業ソリューション事業」の報告セグメントを展開しています。
■金融ソリューション事業
主に金融機関に対し、住宅ローンに係る事務及び相続手続きの利便性・安全性、業務の効率化に寄与する各種サービスをクラウドシステムを通じて提供しています。また、信託サービスや相続・終活手続き代行サービスでは決済の安全性確保、財産保全等のニーズに対応しています。
取引関係者に対し不動産取引に係る受発注管理、進捗管理等に資するクラウドシステムを通じてサービスを提供し、システム利用料や業務受託の手数料を収益としています。同事業の運営は、主に同社およびエスクロー・エージェント・ジャパン信託が担っています。
■不動産ソリューション事業
主に不動産事業者に対し、取引関係者が非対面にて不動産取引決済を完結できるパッケージサービス等の提供を行っています。また、主に税理士等の士業からの相談に応じ、不動産の調査から取引決済まで安全性の高い不動産オークション取引の機会の場を提供しています。
不動産取引決済パッケージサービスの提供や、担保評価替え等における物件調査、不動産オークションの運営に対する手数料などを収益源としています。同事業の運営は、主に同社およびエスクロー・エージェント・ジャパン信託が行っています。
■建築ソリューション事業
主に建築事業者に対し、現場管理及び建築確認・申請業務等の利便性・安全性及び業務の効率化に寄与する各種サービスを提供しています。建築の申請から図面作成、検査、アフターフォローまでワンストップでサポートする住宅建築支援ツールの提供も行っています。
住宅建築支援ツールや、測量、建築設計等の専門サービス、各種コンサルティングサービスを提供し、これらの業務受託等による手数料を収益としています。同事業の運営は、中央グループが中心となって行っています。
■士業ソリューション事業
主に不動産取引に関わる士業に対し、業務の利便性・安全性及び業務の効率化のための各種サービスを、クラウド環境下におけるオンライン申請機能や情報管理機能等を有するシステムを通じて提供しています。マイナンバーカードを利用した電子署名サービスなども展開しています。
登記申請に関連する分野におけるシステム等を通じて士業専門家へサービスを提供し、システム利用料や情報取得システム等の手数料を収益としています。同事業の運営は、サムポローニアが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上高は増加傾向にあり、5期間連続で増収を達成しています。一方、経常利益や当期純利益は増減を繰り返しており、直近の期においては貸倒引当金繰入額の増加等の影響により減益となっています。利益率は10%前後で推移していましたが、直近では6.2%に低下しています。
| 項目 | 2022年2月期 | 2023年2月期 | 2024年2月期 | 2025年2月期 | 2026年2月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 35.5億円 | 37.1億円 | 41.4億円 | 47.4億円 | 50.8億円 |
| 経常利益 | 6.2億円 | 2.7億円 | 4.6億円 | 4.9億円 | 3.2億円 |
| 利益率(%) | 17.4% | 7.3% | 11.0% | 10.3% | 6.2% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 1.8億円 | -1.2億円 | 1.9億円 | 1.7億円 | 1.4億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は堅調に推移し増収となったものの、売上原価や販売費及び一般管理費が増加したことにより、営業利益は減益となりました。売上総利益率は40%台を維持していますが、営業利益率は低下しています。
| 項目 | 2025年2月期 | 2026年2月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 47.4億円 | 50.8億円 |
| 売上総利益 | 20.8億円 | 21.5億円 |
| 売上総利益率(%) | 43.9% | 42.3% |
| 営業利益 | 4.8億円 | 3.2億円 |
| 営業利益率(%) | 10.1% | 6.4% |
販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が4.5億円(構成比25%)、役員報酬が1.8億円(同10%)を占めています。
■(3) セグメント収益
金融ソリューション事業や士業ソリューション事業が堅調に推移したほか、建築ソリューション事業が設計サポートサービスの好調により大幅な増収となりました。一方、不動産ソリューション事業は利用件数の減少等により減収となり、損失を計上しています。
| 区分 | 売上(2025年2月期) | 売上(2026年2月期) | 利益(2025年2月期) | 利益(2026年2月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 金融ソリューション事業 | 19.4億円 | 19.5億円 | 8.0億円 | 7.9億円 | 40.5% |
| 不動産ソリューション事業 | 8.9億円 | 8.2億円 | - | -0.4億円 | -4.9% |
| 建築ソリューション事業 | 9.5億円 | 12.8億円 | 1.2億円 | 1.2億円 | 9.4% |
| 士業ソリューション事業 | 9.6億円 | 10.2億円 | 1.6億円 | 0.9億円 | 8.8% |
| 連結(合計) | 47.4億円 | 50.8億円 | 4.8億円 | 3.2億円 | 6.3% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社は、営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業である「健全型」のキャッシュ・フローとなっています。
| 項目 | 2025年2月期 | 2026年2月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 6.9億円 | 3.8億円 |
| 投資CF | -3.1億円 | -5.8億円 |
| 財務CF | -3.0億円 | -3.1億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は5.4%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は73.4%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「共に育つ」の経営理念のもと、不動産取引の安心・安全を支えることで顧客と社会の信頼に応えることを目指しています。堅実・健全・革新を基本的な経営方針として定め、取引の安心と安全を支えるエスクローの基盤を構築し、合理的な利便性のある専門サービスの創出を図っています。
■(2) 企業文化
経営理念の実現のためには、事業活動を行う「人財」こそが根幹であると位置づけ、従業員の行動基準である「EAJ Way」を定めています。従業員の人権と多様性(ダイバーシティ)を尊重し、高い倫理観と信頼関係により、互いを理解し感謝し高め合い、尊重する風通しの良い企業風土の醸成に努めています。
■(3) 経営計画・目標
中期経営計画2027を策定し、売上高営業利益率やROE(自己資本利益率)を主要な経営指標として位置づけています。また、自己資本向上を経営指標として健全な経営体質を目指し、事業生産性並びに収益性の向上による企業価値の最大化を追求して十分な自己資本を維持することを目標としています。
■(4) 成長戦略と重点施策
確かな知識と経験、リスク管理能力を活かした業務の仕組み化・分業化を進め、「専門性×革新的サービス」で未来を支える社会インフラ企業となることを長期ビジョンとしています。重要施策として、サービスの専門性を深めることや、最適化された業務プロセスの提供、M&Aや提携による取引プロセスの網羅的カバーなどを推進しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
個々の能力が最大限に発揮できるよう、従業員のキャリア志向、経験、適性等により適切な人財配置を行っています。また、管理職のマネジメント力の向上や業務の合理化・効率化を進める等、従業員が能力を十分に発揮し、安心して働くことができる環境を提供し、ワーク・ライフ・バランスの確保・充実を図っています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年2月期 | 41.4歳 | 5.4年 | 4,915,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 44.1% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 65.8% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 73.2% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 40.5% |
※男性育児休業取得率については、公表義務の対象ではないため、有報には本稿の記載がありません。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) オペレーショナルリスク
内部プロセスや人員体制、システム等が機能しないことにより業務に支障が発生するリスクです。具体的には、事務過誤やシステム障害、優秀な人材の流出、法令違反等が挙げられており、同社は業務プロセスの標準化やシステム化、情報セキュリティ管理の徹底、教育研修の実施等によりリスク管理を行っています。
■(2) 住宅ローン・不動産市況等の動向リスク
同社の事業は住宅ローン市場や不動産流通など、国内不動産市況の動向に大きな影響を受けます。市場が急速に悪化した場合に取扱件数が大幅に減少する可能性があり、同社は市場動向を見定めるとともに、相続市場など長期的に拡大が見込まれる事業分野へのシフトを基本に新しいサービスの開拓に注力しています。
■(3) 債権の貸倒れに関するリスク
同社グループは、景気の動向や取引先の信用不安の発生により予期せぬ貸倒れリスクが顕在化し、貸倒損失の発生や追加的な引当金の計上が必要となる可能性があります。これに対し、与信管理規程に則った取引先別の与信限度額の設定や継続的な信用状態の把握、債権保全措置等を行うことで不良債権の発生防止に努めています。
■(4) レピュテーショナルリスク
マスコミ報道やインターネットの掲示板等における評判・風評・風説等により、取引先との取引の縮小や停止につながるリスクです。同社グループは、このリスクに対応するため、適時適切な情報発信を心掛けるとともに、レピュテーショナル事案発生時には早期に対処を行うための体制整備等を実施しています。



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