※本記事は、マルハニチロ株式会社 の有価証券報告書(第81期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
なお、同社は現在、Umios株式会社に商号変更しています。
1. マルハニチロってどんな会社?
水産物の調達力と加工技術を強みとする世界最大級の水産食品会社です。漁業から食卓まで一貫したバリューチェーンを構築しています。
■(1) 会社概要
同社の起源は1943年に設立された西大洋漁業統制に遡り、1945年に大洋漁業へ商号変更しました。1993年にはマルハへ商号変更し、2007年にニチロと経営統合して持株会社体制へ移行しました。その後、2014年に事業会社を吸収合併して現在のマルハニチロが発足し、名実ともに一体化した総合食品企業となりました。
連結従業員数は12,454名、単体では1,689名が在籍しています。筆頭株主は信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(12.94%)で、第2位は大東通商(9.76%)です。大東通商は創業家関連の資産管理会社としての側面を持ち、同社の主要株主として長期的に株式を保有しています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 12.94% |
| 大東通商 | 9.76% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 5.90% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性2名の計12名で構成され、女性役員比率は16.7%です。代表取締役社長は池見賢氏が務めています。社外取締役比率は33.3%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 池見 賢 | 代表取締役社長 | 1981年入社。マルハニチロ食品海外部長、マルハニチロホールディングス執行役員、同社取締役、常務執行役員、専務執行役員などを歴任し、2020年4月より現職。 |
| 廣嶋 精一 | 取締役常務執行役員 | 1985年入社。経理部長、執行役員などを経て2023年4月常務執行役員就任。同年6月より現職。 |
| 半澤 貞彦 | 取締役特任顧問 | 1983年入社。水産直販部長、マルハニチロ水産執行役員、同社取締役、常務執行役員、代表取締役副社長執行役員などを歴任し、2025年4月より現職。 |
社外取締役は、奥田かつ枝(不動産鑑定士)、外ノ池佳子(弁護士)、ブラッドリー エドミスター(弁護士)、高松信彦(元トピー工業代表取締役社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「水産資源」「食材流通」「加工食品」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 水産資源事業
国内外での漁業、養殖、および北米・欧州を拠点とした水産物の加工・販売を行っています。漁業ユニットによる漁獲、養殖ユニットによるブリ・カンパチ・マグロ等の生産、北米ユニットによるスケソウダラ等の加工・販売を手掛けています。
主な収益は、国内外の顧客への水産物および加工製品の販売代金です。運営は、同社および大洋エーアンドエフ、Austral Fisheries Pty Ltd.、Westward Seafoods, Inc.、Maruha Nichiro Europe Holding B.V.などの連結子会社が行っています。
■(2) 食材流通事業
水産物の調達・市場流通を行う水産商事ユニット、多様な業態に対し業務用食材等を販売する食材流通ユニット、畜産物・農産物を扱う農畜産ユニットで構成されています。国内外のネットワークを活用し、多様なニーズに対応した食材を提供しています。
収益源は、卸売業者、量販店、外食産業等への商品販売代金です。運営は、同社および大都魚類、神港魚類、ヤヨイサンフーズ、マルハニチロオーシャン、マルハニチロ畜産などの連結子会社が担っています。
■(3) 加工食品事業
家庭用冷凍食品、缶詰、フィッシュソーセージ、ちくわ、デザート、ペットフード等の製造・販売を行う加工食品ユニットと、化成品を扱うファインケミカルユニットから構成されています。消費者向けの身近な商品を幅広く展開しています。
主な収益は、スーパーマーケットやコンビニエンスストア等の小売業者、卸売業者への製品販売代金です。運営は、同社およびアイシア、マルハニチロ北日本、KF Foods Limited、Kingfisher Holdings Limitedなどの連結子会社が行っています。
■(4) その他
冷凍品や飼料等の保管、輸配送、および不動産業等を行っています。グループ全体の物流機能を支えるとともに、外部顧客向けの物流サービスも提供しています。
収益源は、顧客からの保管料、配送運賃、不動産賃貸料などです。運営は、主に同社およびマルハニチロ物流などの連結子会社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は着実に増加傾向にあり、第81期には1兆円を超えています。利益面では、経常利益が安定して300億円台を維持しており、利益率も3%前後で推移しています。当期純利益も第78期以降は高い水準を保っており、全体として堅調な成長を続けています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 8,091億円 | 8,667億円 | 10,205億円 | 10,307億円 | 10,786億円 |
| 経常利益 | 181億円 | 276億円 | 335億円 | 311億円 | 323億円 |
| 利益率(%) | 2.2% | 3.2% | 3.3% | 3.0% | 3.0% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 58億円 | 169億円 | 186億円 | 209億円 | 233億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の比較では、売上高の増加に伴い売上総利益も増加しています。売上総利益率は約13%台で安定しており、営業利益率も同水準を維持しています。コストコントロールを行いつつ、事業規模の拡大に応じて利益額を着実に伸ばしていることが読み取れます。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 10,307億円 | 10,786億円 |
| 売上総利益 | 1,338億円 | 1,456億円 |
| 売上総利益率(%) | 13.0% | 13.5% |
| 営業利益 | 265億円 | 304億円 |
| 営業利益率(%) | 2.6% | 2.8% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給料が298億円(構成比26%)、発送配達費が230億円(同20%)を占めています。
■(3) セグメント収益
各セグメントの状況を見ると、水産資源事業は増収ながら減益となりました。一方、食材流通事業と加工食品事業は増収増益を達成しており、特に食材流通事業は利益貢献度が最も高いセグメントとなっています。加工食品事業も利益率が比較的高く、全社の収益性向上に寄与しています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 水産資源 | 2,261億円 | 2,526億円 | 29億円 | 16億円 | 0.6% |
| 食材流通 | 6,249億円 | 6,303億円 | 100億円 | 133億円 | 2.1% |
| 加工食品 | 1,604億円 | 1,757億円 | 106億円 | 135億円 | 7.7% |
| その他 | 193億円 | 200億円 | 35億円 | 38億円 | 18.9% |
| 調整額 | - | - | -5億円 | -18億円 | - |
| 連結(合計) | 10,307億円 | 10,786億円 | 265億円 | 304億円 | 2.8% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
* **パターン**:健全型(営業CFがプラス、投資CF・財務CFがマイナス)
* 本業で稼いだ資金で借入金の返済や投資を賄っており、財務体質が健全な状態です。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 536億円 | 392億円 |
| 投資CF | -189億円 | -19億円 |
| 財務CF | -329億円 | -294億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は10.7%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は33.7%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「For the ocean, for life -海といのちの未来をつくる-」をパーパスとして定め、海を起点とした価値創造力で食を通じて人も地球も健康にする「ソリューションカンパニー」への変革を目指しています。また、ミッションとして「私たちは誠実を旨とし、本物・安心・健康な「食」から広がる豊かなくらしとしあわせに貢献します」を掲げています。
■(2) 企業文化
同社は「誠実を旨とし」というミッションに基づき、食品安全を基盤とした品質保証体制やリスク管理体制の強化に取り組んでいます。また、これまでのやり方にとらわれず、変化を受け入れ、挑戦し、共創していく企業文化の醸成を目指しています。ステークホルダーとの連携やDX推進を通じ、イノベーションを追求する姿勢を重視しています。
■(3) 経営計画・目標
2025年度から2027年度までの中期経営計画「For the ocean, for life 2027」において、以下の目標数値を掲げています。
* 2027年度 営業利益:400億円
* 2027年度 EBITDA:640億円
* 2027年度 ROIC:5.0%
* 2027年度 ROE:9.0%
* 2027年度 ネットD/Eレシオ:1.0倍
■(4) 成長戦略と重点施策
新長期ビジョンの達成に向け、「バリューサイクルの構築」「グローカル戦略の推進」「挑戦と共創の企業文化を醸成」の3つのアクションを推進します。「資源調達力」「加工技術力」「食材提供力」という3つの強みを消費者起点のバリューサイクルで強化し、国内外のニーズに合わせてグローカルに展開することで、持続的なタンパク質の提供と健康価値の創造を目指します。
* 環境的、経済的に持続可能性の高い事業への選択と集中
* 収益安定・向上のための事業構造改革、及び川下戦略強化
* 食材流通、加工食品領域における海外展開の強化
* 国内の生産拠点最適化へ向けた取組みの加速
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「非連続の成長に貢献できる中核人財の輩出/グループ全体としての最適配置」「事業戦略の実行に必要な人財の確保」「従業員の自律的キャリア形成支援/成長実感を得られる機会の提供」を柱としています。挑戦を奨励する風土を育み、全部門で人材を共有・活用する仕組みを整備することで、人財育成と価値創造を実現する組織づくりに取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 41.4歳 | 15.0年 | 7,684,093円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 9.1% |
| 男性育児休業取得率 | 79.2% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 59.1% |
| 男女賃金差異(正規) | 67.0% |
| 男女賃金差異(非正規) | 77.9% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性新卒入社比率(48.4%)、女性従業員比率(31.5%)、障がい者雇用率(2.64%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 原材料価格の変動
原材料の需要動向、為替相場や漁獲高の変動などにより仕入価格が高騰した場合、経営成績に影響を与える可能性があります。これに対し、取扱品目や調達先・調達時期の分散化、仕入・販売価格の適正維持、在庫水準の適正化等に取り組んでいます。
■(2) 原油価格の高騰
原油価格の上昇は、漁業における動燃料コストや物流における発送配達費等の上昇につながり、業績に影響を及ぼす可能性があります。設備の省エネ化や効率的な操業、カートンモジュール化等による保管配送の効率化、在庫水準の適正化により対応しています。
■(3) 自然災害・感染症及び事故等
地震等の自然災害による生産設備の破損や物流機能の麻痺、感染症の蔓延、養殖事業における魚病や赤潮等による斃死が発生した場合、商品の供給不能や損失計上が生じる可能性があります。生産・保管拠点の分散、BCPの策定、衛生管理の徹底、保険加入等の対策を講じています。
■(4) 労働力の確保
少子高齢化等による労働力不足が深刻化した場合、操業停止や生産性低下のリスクがあります。デジタル技術活用による業務効率化、適正な賃金体系の構築、戦略的な操業エリア選択、機械による省人化、キャリア採用の活用等により、人材確保と生産性向上を図っています。



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