クミアイ化学工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

クミアイ化学工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証プライム上場の農薬専業メーカーです。JA全農系企業として、殺虫剤、殺菌剤、除草剤等の農薬製造・販売を主力事業とし、化成品事業も展開しています。2025年10月期は、売上高は海外市場での販売増や為替影響等により増収となりましたが、利益面では販促費用の増加や為替差損の計上等により減益となりました。


※本記事は、株式会社クミアイ化学工業 の有価証券報告書(第77期、自 2024年11月1日 至 2025年10月31日、2026年1月27日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. クミアイ化学工業ってどんな会社?


農薬の製造販売を中核とし、JAグループの一員として日本の農業を支えるとともに、自社創製農薬のグローバル展開も進める研究開発型企業です。

(1) 会社概要


1949年に静岡県で庵原農薬として設立され、1962年に東京証券取引所市場第2部に上場しました。1968年に現在の社名へ変更し、1977年には市場第1部銘柄に指定されました。2017年には関連会社であったイハラケミカル工業と経営統合し、研究開発から製造販売までの一貫体制を強化しています。

連結従業員数は2,153名、単体では799名です。筆頭株主は、農業協同組合の全国組織である全国農業協同組合連合会(全農)であり、強固な事業基盤を有しています。第2位株主は信託銀行であり、第3位にはJAグループの金融機関である農林中央金庫が名を連ねています。

氏名 持株比率
全国農業協同組合連合会 22.02%
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 7.56%
農林中央金庫 3.72%

(2) 経営陣


同社の役員は男性11名、女性2名の計13名で構成され、女性役員比率は15.4%です。代表取締役社長は横山優氏です。社外取締役比率は23.1%です。

氏名 役職 主な経歴
横山 優 代表取締役取締役社長 1989年入社。海外営業部長、経営企画部長、経営管理本部長などを歴任し、2024年11月より現職。
今井 克 樹 代表取締役専務執行役員 1991年全国農業協同組合連合会入会。同会肥料農薬部や経営企画部の要職を経て、2025年1月より現職。
吉村 巧 取締役専務執行役員 1981年ケイ・アイ研究所入社。同社所長を経て、同社経営管理部長、研究開発本部副本部長などを歴任し、2023年1月より現職。
井川 照 彦 取締役常務執行役員生産資材本部長 1984年イハラケミカル工業入社。同社執行役員SCM事業本部長等を経て、同社取締役生産資材本部長などを歴任し、2022年6月より現職。
山地 充 洋 取締役常務執行役員経営管理本部長 1994年入社。経営戦略室長、米国子会社社長を経て、2025年1月より現職。
岩田 浩 一 取締役常務執行役員国内営業本部長 1990年入社。マーケティング部長などを経て、2025年1月より現職。


社外取締役は、西尾忠久(元鈴与代表取締役副社長)、池田寛二(法政大学名誉教授)、山梨智里(静岡シェル石油販売専務取締役)です。

2. 事業内容


同社グループは、「農薬及び農業関連事業」「化成品事業」および「その他」事業を展開しています。

**(1) 農薬及び農業関連事業**
殺虫剤、殺菌剤、除草剤等の農薬を製造し、国内および海外へ販売しています。国内ではJA全農を通じて販売するほか、緑化関連薬剤等は子会社を通じて販売しています。また、海外子会社や関連会社を通じてグローバルに製品を提供しています。

収益は、農薬製品の販売代金等から得ています。運営は、同社、連結子会社の理研グリーン、尾道クミカ工業、K-I CHEMICAL U.S.A. INC.等が担当しています。

**(2) 化成品事業**
クロロトルエン・クロロキシレン系化学品、精密化学品(医薬中間体、ウレタン硬化剤等)、産業薬品等を製造・販売しています。また、発泡スチロール製造業も行っています。

収益は、化学品や工業薬品等の販売代金から得ています。運営は、同社、連結子会社のイハラニッケイ化学工業、ケイ・アイ化成、イハラ建成工業等が担当しています。

**(3) その他**
不動産賃貸事業、発電・売電事業のほか、建設業、印刷事業、物流事業、人材派遣事業、食品添加物事業などを展開しています。

収益は、賃貸料、売電収入、工事代金、物流業務の対価等から得ています。運営は、同社、連結子会社の理研グリーン、クミカ物流、日本印刷工業、ネップ等が担当しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績を見ると、売上高は増加傾向にあり、第77期には1,700億円を超えました。一方、利益面では第75期をピークに減少傾向に転じています。特に第77期は営業利益、経常利益、当期純利益ともに前期を下回りました。利益率も低下傾向にあり、収益性の維持・向上が課題となっています。

項目 2021年10月期 2022年10月期 2023年10月期 2024年10月期 2025年10月期
売上収益(または売上高) 1,182億円 1,453億円 1,610億円 1,610億円 1,705億円
税引前利益 / 経常利益 / 営業利益 128億円 236億円 241億円 183億円 134億円
利益率(%) 10.9% 16.2% 15.0% 11.4% 7.8%
当期利益(親会社所有者帰属) 90億円 163億円 180億円 136億円 44億円

(2) 損益計算書


直近2期間を比較すると、売上高は増加しましたが、売上原価の増加率が売上高の増加率を上回り、売上総利益は減少しました。販管費は微減しましたが、売上総利益の減少をカバーできず、営業利益は減益となりました。営業利益率は低下しています。

項目 2024年10月期 2025年10月期
売上高 1,610億円 1,705億円
売上総利益 354億円 344億円
売上総利益率(%) 22.0% 20.2%
営業利益 114億円 106億円
営業利益率(%) 7.0% 6.2%


販売費及び一般管理費のうち、給料手当が67億円(構成比28%)、減価償却費が25億円(同10%)を占めています。

(3) セグメント収益


主力の農薬及び農業関連事業は、国内販売の好調や海外の一部地域での伸長により増収となりましたが、主力除草剤の価格対応等により減益となりました。化成品事業は需要回復により増収増益、その他事業も建設業の受注増等により増収となりました。

区分 売上(2024年10月期) 売上(2025年10月期) 利益(2024年10月期) 利益(2025年10月期) 利益率
農薬及び農業関連事業 1,281億円 1,357億円 121億円 106億円 7.8%
化成品事業 250億円 251億円 8億円 15億円 6.1%
その他 79億円 97億円 8億円 9億円 9.0%
調整額 - - -24億円 -24億円 -
連結(合計) 1,610億円 1,705億円 114億円 106億円 6.2%

(4) キャッシュ・フローと財務指標

クミアイ化学工業は、棚卸資産の減少や税金等調整前当期純利益の増加などにより、営業活動によるキャッシュ・フローは大幅な増加となりました。一方で、有形固定資産の取得による支出が主な要因となり、投資活動によるキャッシュ・フローは減少しています。また、短期借入金の減少や長期借入金の返済、配当金の支払いなどにより、財務活動によるキャッシュ・フローも減少しました。

項目 2024年10月期 2025年10月期
営業CF -167億円 338億円
投資CF -88億円 -89億円
財務CF 236億円 -279億円

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、「創造する科学を通じて『いのちと自然』を守り育てる」ことをメインテーマとし、安全・安心で豊かな社会の実現に貢献することを企業理念として掲げています。世界規模での農作物の生産性向上に貢献することを目指しています。

(2) 企業文化


創立当初より安全で環境負荷の少ない農薬の開発に傾注してきた歴史を持ち、研究開発を根幹とする姿勢を重視しています。また、生産、物流、販売の連携を図り、収益本位の経営に徹底することで、売上・利益の確保ができる強靭な企業体質の確立を目指しています。

(3) 経営計画・目標


中期経営計画「KUMI STORY 2026」において、2026年10月期の数値目標として以下を掲げています。
* 売上高:1,850億円
* 営業利益:160億円
* 自己資本利益率(ROE):11.0%以上

(4) 成長戦略と重点施策


中核事業である農薬事業において、国内では水稲用除草剤等のシェア維持・拡大やスマート農業への対応を進めます。海外では主力除草剤「アクシーブ」の販売拡大や新規混合剤の開発、ジェネリック対策としてのコスト削減を推進します。また、環境負荷低減に貢献する製品や技術の開発を加速させます。化成品事業では、電子材料分野への展開や高付加価値ビジネスの創出に取り組みます。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


企業の持続的成長において人財を最も重要な要素と捉え、「人財の育成/人的資本の考え方をベースにした人財戦略」を掲げています。新たな人事制度の導入により、従業員のチャレンジを後押しする環境整備や、努力と成果を適正に評価する仕組みを構築し、エンゲージメントの向上を目指しています。また、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を推進し、多様な人財が活躍できる風土づくりに取り組んでいます。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均とほぼ同じ水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年10月期 40.3歳 14.7年 7,703,331円


※平均年間給与は、賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 2.2%
男性育児休業取得率 92.9%
男女賃金差異(全労働者) 71.6%
男女賃金差異(正規) 78.4%
男女賃金差異(非正規) 71.1%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、有給休暇取得率(71.5%)、平均時間外労働時間(10.3時間/月)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 国内農薬事業の変動リスク


国内農薬事業は、天候や病害虫・雑草の発生状況、農作物の価格変動などの外部環境の影響を受けやすく、需要が予想以上に減少した場合、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、農薬登録の再評価制度により、一部製品の登録維持が困難になった場合も影響を受ける可能性があります。

(2) 海外事業展開に伴うリスク


海外売上高比率が高いため、各国の政治・経済情勢、法規制の変更、関税政策、為替変動などの影響を受ける可能性があります。特に主力製品である除草剤「アクシーブ」の主要市場での競争激化やジェネリック品の参入、知的財産権の侵害などが業績に影響を与えるリスクがあります。

(3) 原材料調達リスク


一部の原材料を特定の海外サプライヤーに依存しているため、相手国の規制強化や地政学的リスク、サプライチェーンの混乱等により供給が滞った場合、生産活動に支障をきたす可能性があります。また、原材料価格やエネルギーコストの高騰が収益を圧迫するリスクもあります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


関連記事

クミアイ化学工業の転職研究 2025年10月期決算に見るキャリア機会

クミアイ化学工業の2025年10月期決算は、生成AI需要による化成品事業の躍進(利益97.9%増)が光る一方、主力の農薬事業は価格対応で減益。「なぜ今クミアイ化学なのか?」、新人事制度の施行や半導体分野への投資加速など、変革期にある「研究開発型企業」のキャリアの可能性を整理します。