※本記事は、株式会社多摩川ホールディングス の有価証券報告書(第58期、自 2024年11月1日 至 2025年10月31日、2026年01月28日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 多摩川ホールディングスってどんな会社?
電子・通信用機器と再生可能エネルギーの2事業を展開する持株会社です。高周波技術を核とした通信インフラ支援と、再エネ発電所の開発・運営を行っています。
■(1) 会社概要
1968年に有限会社多摩川電子として設立され、高周波回路素子の開発・製造を開始しました。1999年に株式を店頭登録し、2007年の会社分割により多摩川ホールディングスへ商号変更して持株会社体制へ移行しました。2012年には太陽光発電事業を行う子会社を設立して再生可能エネルギー分野へ進出、2015年にはベトナムに生産拠点を設立しています。
2025年10月31日現在、連結従業員数は278名、単体従業員数は8名です。筆頭株主は資産管理業務を行うBNP Paribas Singaporeで、第2位も同様に資産管理を行うBNYM AS AGT、第3位も外国銀行のDBS BANK LTD.となっており、上位を外国法人が占めています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| BNP Paribas Singapore/2S/Jasdec/UOB Kay Hian Private Limited | 11.83% |
| BNYM AS AGT/CLTS NON TREATY JASDEC | 5.81% |
| DBS BANK LTD. 700104 | 4.85% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性12名、女性1名の計13名で構成され、女性役員比率は7.7%です。代表取締役社長は桝沢徹氏が務めています。社外取締役比率は約22.2%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 桝沢 徹 | 代表取締役社長 | 和光証券、外資系銀行等を経てジェイ・ブリッジ(現アジア開発キャピタル)社長を歴任。2012年より現職。 |
| 小林 正憲 | 代表取締役副社長 | 1981年入社。計測機器部部長、取締役、監査役を経て多摩川電子社長に就任。2014年より現職。 |
| 増山 慶太 | 取締役 | 証券会社等を経て2015年より現職。税理士法人トップ会計事務所代表社員を兼務。 |
| 鈴木 淳一 | 取締役 | 1992年多摩川電子入社。設計部部長等を経てベトナム現地法人社長を兼務。2020年より現職。 |
| 日下 成人 | 取締役 | 1989年クサカ入社、1999年より同社代表取締役。2020年より現職。 |
| 宮地 司 | 取締役 | 野村証券、バークレイズバンク等を経て日本ウェルスシンガポールシニアウェルスマネージャーを兼務。2023年より現職。 |
| 木村 力 | 取締役 | 1994年多摩川電子入社。多摩川電子製造部長、同社取締役を経て2024年より現職。 |
| 松宮 弘幸 | 取締役経営企画部部長 | 三菱銀行、佐藤製薬等を経て2024年入社。2025年より現職。 |
社外取締役は、上林典子(弁護士)、日下成人(クサカ代表取締役)です。
2. 事業内容
同社グループは、「電子・通信用機器事業」および「再生可能エネルギー事業」を展開しています。
■(1) 電子・通信用機器事業
高周波電子部品(アッテネータ、スプリッタ等)や光関連・電子応用機器(光伝送装置、映像監視システム等)、ミリ波製品の開発・製造・販売を行っています。主な顧客は官公庁や公共プロジェクト、モバイル通信インフラ関連企業です。
収益は、これらの製品の販売対価として顧客から得ています。運営は、主に子会社の多摩川電子およびベトナムの現地法人であるTAMAGAWA ELECTRONICS VIETNAM CO.,LTD.が行っています。
■(2) 再生可能エネルギー事業
太陽光発電所や小形風力発電所などの再生可能エネルギー発電所の開発、保有、および売却を行っています。発電した電力の販売事業に加え、開発した発電所そのものを投資家等へ販売する事業も展開しています。
収益は、電力会社への売電収入および発電所の売却代金です。運営は、主に子会社の多摩川エナジーや、個別の発電プロジェクトごとに設立されたGPエナジー各社、シンガポールのTHEG PTE. LTD.などが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近の業績を見ると、売上高は第57期の減少から第58期には大きく回復・拡大しています。利益面では、経常損失や当期純損失が続いていましたが、第58期において黒字転換を果たしました。第57期が決算期変更に伴う変則決算であった影響もありますが、第58期は収益性が大きく改善しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2024年10月期 | 2025年10月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 62.4億円 | 32.9億円 | 41.5億円 | 23.6億円 | 55.9億円 |
| 経常利益 | 3.3億円 | -5.1億円 | -2.2億円 | -0.5億円 | 2.3億円 |
| 利益率(%) | 5.3% | -15.6% | -5.2% | -2.2% | 4.1% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -0.5億円 | -2.9億円 | -4.5億円 | -2.1億円 | 2.5億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間を比較すると、売上高は倍増以上の伸びを示し、売上総利益率も大幅に改善しています。営業損益についても、前期の損失から当期は利益計上へと転換しました。売上規模の拡大に伴い利益率が向上し、収益構造が強化されています。
| 項目 | 2024年10月期 | 2025年10月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 23.6億円 | 55.9億円 |
| 売上総利益 | 7.1億円 | 16.9億円 |
| 売上総利益率(%) | 30.2% | 30.3% |
| 営業利益 | -0.5億円 | 2.8億円 |
| 営業利益率(%) | -2.0% | 5.0% |
販売費及び一般管理費のうち、給与・賞与が3.5億円(構成比24.5%)、支払手数料が1.7億円(同12.4%)、研究開発費が1.6億円(同11.4%)を占めています。
■(3) セグメント収益
電子・通信用機器事業は、官公庁関連需要の拡大などにより売上が大きく伸長し、利益も大幅に増加しました。再生可能エネルギー事業も、風力発電所の通期稼働や新たな発電所の連系により増収増益となり、全セグメントで業績が向上しています。
| 区分 | 売上(2024年10月期) | 売上(2025年10月期) | 利益(2024年10月期) | 利益(2025年10月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 電子・通信用機器事業 | 21.0億円 | 50.3億円 | 2.0億円 | 5.7億円 | 11.4% |
| 再生可能エネルギー事業 | 2.6億円 | 5.6億円 | -0.3億円 | 0.7億円 | 13.4% |
| 連結(合計) | 23.6億円 | 55.9億円 | -0.5億円 | 2.8億円 | 5.0% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社は「勝負型」のキャッシュ・フロー状態にあります。本業の営業活動によるキャッシュ・フローがマイナスとなる一方で、投資活動にも資金を投じており、その資金を財務活動(借入等)で賄っている状況です。なお、当期は損益計算書上では黒字ですが、売上債権や棚卸資産の増加等の運転資金需要により営業CFがマイナスとなっています。
| 項目 | 2024年10月期 | 2025年10月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 2.6億円 | -0.3億円 |
| 投資CF | -1.0億円 | -4.7億円 |
| 財務CF | 3.9億円 | 0.8億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は5.3%でスタンダード市場平均(7.2%)を下回っており、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は48.4%でスタンダード市場平均(57.5%)を下回る水準です。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「社会インフラの整備に貢献する企業を目指します」を基本方針とし、事業投資を通じて地域社会への利益還元と循環型社会の実現を目指しています。また、5G/IoT時代に必要な技術と再生可能エネルギー事業の開発により、豊かな社会の実現と地球環境への貢献を掲げています。
■(2) 企業文化
同社は「企業『再』生」「『再』生エネルギーの普及」「生まれたキャッシュの『再』投資」という3つの「再」に取り組むことを企業理念としています。また、常にコンプライアンスに重点を置いた経営を行い、ESGおよびSDGsの視点を十分に取り入れた企業としての活動を重視しています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、中長期的な視点で企業価値の拡大と利益の最大化を目指しています。具体的な数値目標としては、国の「第7次エネルギー基本計画」などの外部環境の変化に対応しつつ、安定した経営基盤の確立と事業領域の拡大を進める方針を示していますが、特定の到達年度や詳細なKPI数値については明記されていません。
■(4) 成長戦略と重点施策
電子・通信用機器事業では、5G市場や官公庁・公共インフラ需要の拡大を捉え、アナログ高周波技術とデジタル技術を融合した高付加価値製品の提供を強化します。また、ベトナム工場の拡張や国内工場の建設により生産能力を増強し、コスト競争力を高めます。再生可能エネルギー事業では、小形風力発電所や太陽光発電所の開発に加え、系統用蓄電所の開発を推進し、安定収益の確保と新たなビジネスモデルの構築を目指します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は「人」を最大の財産と位置づけ、多様な人材が活躍できる企業づくりを推進しています。採用においては属性に関わらず多様な人材を積極的に確保し、育成面では技術者に必要な専門知識やスキル研鑽を中心とした教育制度を充実させています。また、時差通勤や有給休暇、育児休業の取得促進など、働きやすい社内環境の整備にも注力しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年10月期 | 41.0歳 | 4.1年 | 7,417,000円 |
※平均年間給与は基準外賃金及び賞与を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 60.0% |
| 男性育児休業取得率 | - |
| 男女賃金差異(全労働者) | 62.1% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 63.8% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | - |
※男性育児休業取得率は、対象期間において取得対象となる従業員がいなかったため「-」となっています。非正規雇用の賃金差異についても該当データがないため記載がありません。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 経済状況
電子・通信用機器事業は通信設備投資需要の影響を受けやすく、景気変動により業績が左右される可能性があります。また、海外企業の参入や円安、原材料費の高騰、地政学リスクなどがコスト増や競争激化を招き、業績に悪影響を及ぼす恐れがあります。
■(2) 価格競争
高周波無線技術市場において、国内外の競合他社との価格競争が激化しています。同社は高品質・高付加価値製品の提供とコスト削減で対抗していますが、競争優位性を維持できない場合や価格面で対抗できない場合、顧客離れが生じ業績に影響を与える可能性があります。
■(3) 人材の確保及び育成
電子・通信用機器事業における技術者の確保・育成や、再生可能エネルギー事業における専門知識を持つ人材の確保は重要な課題です。特に高周波アナログ無線技術者の育成には時間を要するため、人材不足や採用・育成コストの増加が業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(4) 出荷後の製品の欠陥
公共性の高い設備に使用される製品のため厳格な品質管理を行っていますが、精密機器であるため使用環境により性能への影響が出る可能性があります。設計・製造に起因する性能劣化が発生した場合、改修費用等により業績に悪影響が及ぶリスクがあります。



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