東洋紡 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東洋紡 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証プライム市場上場の東洋紡は、包装用・工業用フィルムをはじめ、バイオ製品や医療機器を扱うライフサイエンス、環境・機能材、機能繊維などの事業をグローバルに展開する化学メーカーです。直近の業績は、売上高が微減となったものの、新設備の生産性改善などが寄与し、大幅な営業増益を達成しています。


※本記事は、東洋紡株式会社の有価証券報告書(第168期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 東洋紡ってどんな会社?


同社はフィルムやライフサイエンス、環境・機能材などを幅広く展開する化学メーカーです。

(1) 会社概要


1882年に大阪紡績会社として発足し、1914年に三重紡績と合併して東洋紡績(現在の東洋紡)が設立されました。1949年に東京・大阪の株式市場へ上場。その後、プラスチック、バイオ、医薬品事業へと進出し、2012年に現在の社名へ変更しました。2022年に東証プライム市場へ移行しています。

従業員数は連結で9,398名、単体で2,885名です。筆頭株主は信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行で、第2位も同様に信託業務を行う日本カストディ銀行となっています。第3位には従業員持株会が名を連ねており、安定した株主構成となっています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 13.40%
日本カストディ銀行(信託口) 8.01%
東洋紡従業員持株会 2.59%

(2) 経営陣


同社の役員は男性9名、女性2名の計11名で構成され、女性役員比率は18.2%です。代表取締役社長は竹内郁夫氏が務めています。取締役11名のうち、社外取締役は4名です。

氏名 役職 主な経歴
竹内郁夫 取締役社長 兼社長執行役員(代表取締役)内部監査部統括 1985年入社。経営企画室長などを経て、2018年執行役員、2020年常務執行役員ならびに取締役に就任。2021年より現職。
酒井太市 取締役 兼専務執行役員(代表取締役)環境安全防災本部長生産技術部門、調達・物流総括部統括 1986年入社。生産技術統括部長などを経て、2020年執行役員、2023年常務執行役員ならびに取締役に就任。2024年より現職。
楢原誠慈 取締役会長 1988年入社。財務部長などを経て、2011年取締役、2014年取締役社長に就任。2021年より現職。SCREENホールディングス社外取締役等も兼務。
相良誉仁 取締役 兼社長特命事項担当 1990年入社。メディカル事業総括部長などを経て、2021年執行役員、2023年常務執行役員に就任。2026年より現職。
田保高幸 取締役(常勤監査等委員) 1983年入社。経理部長、東洋紡STC代表取締役社長などを経て、2021年監査役に就任。2025年より現職。


社外取締役は、播磨政明氏(伏見町法律事務所開設)、福士博司氏(元味の素代表取締役)、髙瀬正子氏(元シスコシステムズ専務執行役員)、神崎夕紀氏(元協和発酵バイオ代表取締役社長)、入江昭彦氏(元大阪瓦斯執行役員)、新免和久氏(新免公認会計士事務所代表)です。

2. 事業内容


同社グループは、「フィルム」「ライフサイエンス」「環境・機能材」「機能繊維・商事」「不動産」および「その他」事業を展開しています。

フィルム


食品などの包装用フィルムや、液晶偏光子保護フィルム・セラミックコンデンサ用離型フィルムといった工業用フィルムなどを幅広く提供しています。国内外の食品メーカーや電子部品メーカーなどが主な顧客となります。

フィルム製品の製造・販売を主な収益源としています。事業の運営は同社のほか、東洋クロスなどの連結子会社および関連会社が担っており、同社と原料などの売買を行っています。

ライフサイエンス


診断薬用酵素をはじめとするバイオ製品や、医薬品、人工腎臓用中空糸膜などの医用膜、医療機器等の製造・販売を行っています。製薬会社や医療機関、検査機関向けに製品を提供しています。

診断薬の製造・販売や医療機器の製造受託などを通じて収益を獲得しています。事業の運営は主に同社が担うほか、Spinreact, S.A.U.などの連結子会社が展開しています。

環境・機能材


エンジニアリングプラスチックや工業用接着剤、機能フィルター、スーパー繊維、水処理用のアクア膜、不織布などの高機能素材を提供しています。自動車、電子材料、環境ソリューションなど多様な産業の企業が顧客です。

各種高機能素材の製造・販売による対価が主な収益源となります。事業の運営は東洋紡エムシーなどの連結子会社12社および関連会社が担っており、同社とも原料の売買を行っています。

機能繊維・商事


エアバッグ用基布などの産業用繊維から、スポーツ・アパレル向けの衣料テキスタイル、衣料ファイバーまで幅広い繊維製品を提供しています。自動車部品メーカーやアパレルメーカーなどが主な顧客です。

繊維製品の製造加工および販売、流通によって収益を得ています。事業の運営は同社に加え、東洋紡せんい、東洋紡STC、TOYOBO INDUSTRIAL MATERIAL (THAILAND) LTD.などの国内外のグループ会社が担っています。

不動産


大阪府その他の地域において、賃貸用のオフィスビルや店舗、住宅などの不動産を保有し、顧客に提供しています。テナント企業や一般の居住者が主な顧客となります。

保有する不動産の賃貸や販売、施設の管理運営に伴う収入が主な収益源です。事業の運営は、東洋紡不動産などの連結子会社2社が中心となって行っています。

その他


建物や機械の設計・施工、機器の販売といったエンジニアリング事業のほか、情報処理サービスや物流サービスなどのインフラ関連事業を展開しています。グループ内外の企業が顧客となります。

設計・施工の請負代金や機器の販売代金、物流サービスの提供による手数料などを収益源としています。事業の運営は東洋紡エンジニアリングや東洋紡ロジスティクスなどの連結子会社が行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5年間の売上高は概ね右肩上がりで推移しており、3,700億円台から4,200億円規模へと成長しています。一方、経常利益は一時落ち込みを見せましたが、直近では新設備の生産性改善や高機能製品の販売拡大により回復傾向にあり、利益率も5%台へと大きく改善しています。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 3757億円 3999億円 4143億円 4220億円 4216億円
経常利益 231億円 66億円 70億円 106億円 229億円
利益率(%) 6.1% 1.6% 1.7% 2.5% 5.4%
当期利益(親会社所有者帰属) 62億円 -20億円 0.4億円 31億円 161億円

(2) 損益計算書


直近の損益状況を見ると、売上高はほぼ横ばいで推移していますが、売上総利益は大幅に増加し、利益率も改善しています。これに伴い、営業利益は前期の167億円から当期は279億円へと躍進し、収益性の向上が鮮明に表れています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 4220億円 4216億円
売上総利益 971億円 1082億円
売上総利益率(%) 23.0% 25.7%
営業利益 167億円 279億円
営業利益率(%) 3.9% 6.6%


販売費及び一般管理費のうち、給料賃金賞与等が193億円(構成比24%)、研究開発費が141億円(同18%)、運送・保管費が131億円(同16%)を占めています。

(3) セグメント収益


売上の約4割を占めるフィルム事業は、工業用フィルムの好調により増収増益を牽引しました。環境・機能材や機能繊維・商事事業も収益改善が進み増益となりましたが、ライフサイエンス事業は海外の販売減や新工場立ち上げの遅れが響き、大幅な減益となっています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期) 利益(2025年3月期) 利益(2026年3月期) 利益率
フィルム 1668億円 1752億円 69億円 166億円 9.5%
ライフサイエンス 343億円 345億円 20億円 0.7億円 0.2%
環境・機能材 1108億円 1101億円 80億円 97億円 8.8%
機能繊維・商事 981億円 896億円 5億円 13億円 1.4%
不動産 41億円 45億円 18億円 20億円 45.6%
その他 78億円 77億円 8億円 11億円 14.7%
調整額 -億円 -億円 -33億円 -29億円 -%
連結(合計) 4220億円 4216億円 167億円 279億円 6.6%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


同社は健全型(営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業)のキャッシュ・フロー状況です。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 301億円 450億円
投資CF -464億円 -271億円
財務CF 105億円 -165億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は5.5%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も34.0%で市場平均を下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


創立者である渋沢栄一が座右の銘とした「順理則裕(じゅんりそくゆう)」を企業理念として掲げています。「なすべきことをする、なすべからざることはしない。順理を貫くことで、世の中をゆたかにし、自らも成長する」という創業精神です。社会課題の解決と経済的価値の向上を両立するCSVの考え方を140年以上にわたり受け継いでいます。

(2) 企業文化


2019年に企業理念体系「TOYOBO PVVs」を再整理し、大切にする価値観(Values)として「変化を恐れず、変化を楽しみ、変化をつくる」ことを掲げています。また、日々の行動指針である「TOYOBO Spirit~9つの約束」を実践し、「挑戦」「信頼」「協働」を柱とした真摯な企業文化を育んでいます。

(3) 経営計画・目標


長期ビジョン「サステナブル・ビジョン2030」の後半にあたる「2030中期経営計画(2026~2030年度)」を策定し、財務体質の改善と利益成長の両立を図っています。営業キャッシュ・フローの創出力を向上させつつ、持続的な企業価値向上をめざしています。

* 2030年度目標 売上高:5,000億円
* 2030年度目標 営業利益:450億円
* 2030年度目標 ROE:8.0%超

(4) 成長戦略と重点施策


事業ポートフォリオ改革として、各事業を「重点」「維持改善」「育成」「課題」に層別し、収益拡大のため重点事業へ経営資源を投下します。また「先端材料」「ヘルスケア」「環境・エネルギー」の3領域に開発資源をシフトしイノベーションを加速させると同時に、DXによる生産性改革や安全・品質基盤の強化を推進します。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「人」こそが最も重要で大切な経営資本であるという方針のもと、従業員が誇りとやりがいを持って活躍できる仕組みづくりを進めています。経営戦略の実現に向けて「共創・変革人材」の育成や「しなやかで強い組織」の構築を図り、多様な人材が共に高め合い、安心と働きがいを実感できる風土の醸成をめざしています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 40.1歳 14.2年 6,853,737円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 5.6%
男性育児休業取得率 116.2%
男女賃金差異(全労働者) 66.8%
男女賃金差異(正規雇用) 68.8%
男女賃金差異(非正規雇用) 51.5%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、年休取得率(80.8%)、過重労働者比率(0.13%)、新卒採用の女性比率目標(40%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 大規模災害や事故による操業停止リスク


地震や風水害などの自然災害、火災事故、感染症などにより生産拠点が被害を受けた場合、操業の停止や復旧費用の発生により業績に影響が及ぶ可能性があります。同社はBCPガイドラインの策定や安全文化の醸成、ISO45001の認証取得などを通じてリスク低減に努めています。

(2) 原材料価格の高騰と調達リスク


同社の製品はポリエステルやナイロンなどの石油化学製品を主要な原材料としています。地政学的な混乱や自然災害などにより原材料の供給が停止したり、価格が高騰したりした場合、生産活動や収益に影響が生じるおそれがあります。仕入先の分散やリサイクル原料の使用を進め、調達手段の多様化を図っています。

(3) 製品の欠陥に伴う品質・賠償リスク


自動車のエアバッグ用基布や医薬品製造受託など、人命に関わる製品を取り扱っているため、万が一製品に欠陥が生じた場合は大規模なリコールや損害賠償に発展する可能性があります。品質保証体制の強化やリスクアセスメントの徹底により、製品の安全性確保に万全を期しています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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