巴川コーポレーション 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

巴川コーポレーション 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

巴川コーポレーションは東京証券取引所スタンダード市場に上場し、トナーや半導体・ディスプレイ関連、機能性シートなどの製造・販売を主力事業としています。直近の業績では、機能性不織布関連製品や車載用光学フィルムなどの販売が伸長し、価格転嫁の効果も寄与したことで、前年同期比で増収増益を達成しています。


※本記事は、株式会社巴川コーポレーションの有価証券報告書(第167期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月18日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 巴川コーポレーションってどんな会社?


同社は、トナーや半導体関連材料、機能性シートなどの高機能性材料を提供する提案型ソリューションパートナーです。

(1) 会社概要


1914年に巴川製紙所として創設され、電気絶縁紙などの研究試作を開始しました。1917年に巴川製紙所を設立し、1961年に東京証券取引所および大阪証券取引所の市場第一部に上場を果たしています。その後もトナーや光学フィルムなどの高機能製品へ事業領域を広げ、2024年には現在の巴川コーポレーションへ商号を変更しました。

同社グループは、連結従業員数1,346名、単体従業員数418名の体制で事業を展開しています。筆頭株主は事業提携先であるTOPPANホールディングスで、第2位も事業会社の栄紙業となっています。第3位には創業者一族の資産管理会社である井上ホールディングスが名を連ねています。

氏名 持株比率
TOPPANホールディングス 11.61%
栄紙業 7.14%
井上ホールディングス 6.44%

(2) 経営陣


同社の役員は男性7名、女性1名の計8名で構成され、女性役員比率は12.5%です。代表取締役社長は井上雄介氏が務めており、社外取締役の比率は50.0%となっています。

氏名 役職 主な経歴
井上善雄 代表取締役会長CEO 日本興業銀行(現みずほ銀行)を経て、同社へ入社。代表取締役社長などを歴任し、2026年より現職。
井上雄介 代表取締役社長COO兼CTO 三菱商事を経て、同社へ入社。事業開発本部長や専務執行役員などを歴任し、2026年より現職。
山口正明 取締役専務執行役員CFO経営管理本部長 新日本製鐵(現日本製鉄)などを経て、同社へ入社。経営戦略本部長などを歴任し、2026年より現職。
林隆一 取締役 デュポンジャパンなどを経て、同社顧問に就任。パウダーテクノロジーカンパニー長などを歴任し、2026年より現職。


社外取締役は、遠藤仁(元オルタステクノロジー社長)、鮫島正洋(弁護士法人内田・鮫島法律事務所代表パートナー)、鈴木健一郎(鈴与社長)です。

2. 事業内容


同社グループは、「トナー事業」「半導体・ディスプレイ関連事業」「機能性シート事業」「セキュリティメディア事業」「新規開発事業」および「その他の事業」を展開しています。

トナー事業

複合機やプリンター用トナー、粉体関連製品などの化成品を事務機器メーカーなどに提供しています。独自の粉体技術をベースに、モノクロトナーから付加価値の高いカラートナーまで幅広い製品ラインナップを展開しています。
収益源は、事務機器メーカーなどからの製品販売代金です。運営は巴川コーポレーションが中心となり、海外の販売機能はTOMOEGAWA(U.S.A.)INC.やTOMOEGAWA EUROPE B.V.などの子会社が、製造機能は巴川影像科技(恵州)有限公司などの子会社が担っています。

半導体・ディスプレイ関連事業

FPD(フラットパネルディスプレイ)向けの光学フィルムや、半導体実装用の固定テープ、静電チャックなどの半導体関連部品を製造・販売しています。特に車載向けのディスプレイ用飛散防止フィルムなどで高いシェアを有しています。
収益源は、フィルムメーカーやICメーカー、リードフレームメーカーなどからの製品販売代金です。巴川コーポレーションが主体となって運営し、子会社の新巴川加工が製造および仕上げ加工を行い、関連会社のTOPPAN・TOMOEGAWAオプティカルフィルムも製品の製造・販売を担っています。

機能性シート事業

木材パルプ由来の洋紙や電気絶縁紙、セラミック繊維シートなどの機能性不織布関連製品のほか、磁気記録関連製品や印刷関連製品などの塗工紙を製造・販売しています。抄紙技術を活かし、少量多品種生産に対応しています。
収益源は、代理店や鉄道・バス会社、機器メーカーなどからの製品販売代金です。運営は巴川コーポレーションと各子会社が製品を相互に供給し合いながら行っており、子会社の新巴川加工が半製品の供給を受けて製造および仕上げ加工を担当しています。

セキュリティメディア事業

有価証券やICカード、ポイントカード、プリペイドカード、帳票、磁気記録関連製品などの製造・加工、および情報処理関連事業を展開しています。環境系素材を活用した製品展開なども進めています。
収益源は、需要家からの製品販売代金およびサービス利用料です。運営は主に子会社の昌栄印刷が担当し、デジタル社会におけるセキュリティ追求や決済手段の多様化ニーズに対応した事業展開を行っています。

新規開発事業

同社グループが保有する基礎・要素技術の融合を図り、熱・電気・電磁波コントロール材料や環境制御材料などの新製品開発と販売を行っています。半導体製造装置向けのフレキシブル面状ヒーターなどの量産化を進めています。
収益源は、需要家からの新製品販売代金です。巴川コーポレーションの開発本部が中心となり、各事業部門と協力しながら技術の融合を進め、次世代の事業の柱となる新領域の開拓を担っています。

その他の事業

グループ内の各事業を支えるための補完的なサービスとして、不動産賃貸や物流サービスなどを展開しています。
収益源は、賃貸料や物流サービスの手数料です。主に子会社の巴川物流サービスが、同社グループの製品や原材料の輸送、保管などを担い、グループ全体のサプライチェーンを支えています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移

直近5期間の業績を見ると、売上高は328億円から356億円へと緩やかな拡大傾向を示しています。経常利益も16億円から23億円の間で推移しており、一定の収益力を維持しています。当期利益についても安定して黒字を継続しており、強固な事業基盤を築いていることが伺えます。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 328億円 342億円 337億円 344億円 356億円
経常利益 23億円 22億円 16億円 16億円 19億円
利益率(%) 7.0% 6.3% 4.9% 4.5% 5.2%
当期利益 7億円 8億円 10億円 7億円 7億円

(2) 損益計算書

売上高の増加に伴い、売上総利益も拡大しており、売上総利益率は約23%台で安定しています。営業利益も前期間から増加しており、価格転嫁や製品構成の改善による粗利率の上昇が、開発費用や設備投資に伴うコスト増を吸収する形で収益性の向上に寄与しています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 344億円 356億円
売上総利益 80億円 84億円
売上総利益率(%) 23.2% 23.6%
営業利益 13億円 16億円
営業利益率(%) 3.7% 4.6%


販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が18億円(構成比26%)、給与手当が8億円(同12%)、運送費が4億円(同6%)を占めています。

(3) セグメント収益

機能性シート事業や半導体・ディスプレイ関連事業が売上を大きく牽引しています。一方でトナー事業は、モノクロトナーの市況低迷の影響を受け、売上高が減少傾向にあります。新規開発事業は売上規模はまだ小さいものの、成長に向けた事業立ち上げのフェーズにあります。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期)
トナー事業 124億円 115億円
半導体・ディスプレイ関連事業 65億円 72億円
機能性シート事業 112億円 123億円
セキュリティメディア事業 40億円 42億円
新規開発事業 0.4億円 0.7億円
その他の事業 2億円 3億円
連結(合計) 344億円 356億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標

営業活動で安定したキャッシュを生み出しつつ、新製品量産のための設備投資やDX推進など積極的な投資活動を行い、借入等で資金を調達する積極型のキャッシュ・フロー構造となっています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 18億円 33億円
投資CF -28億円 -37億円
財務CF 5億円 5億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は5.7%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も34.7%で市場平均を下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念

同社はミッション(存在意義)として「感動こそが、持続可能な価値と考える。これまでも、これからも新製品・新技術開発に挑戦し、人や社会に新しい喜びを提案しつづける。」を掲げています。また、ビジョン(ありたい姿)には「グローバル視点の提案型ソリューションパートナーへ。」を据え、組織の壁を超えた感動創造を目指しています。

(2) 企業文化

バリュー(価値観)として「誠実」「社会貢献」「開拓者精神」の3つを重んじています。事業や人に対して誠実に向き合い、事業を通じて社会へ貢献するとともに、開拓者精神をもって未知の領域や新たな事業への挑戦に挺身する企業文化を大切にしています。

(3) 経営計画・目標

2027年3月期を初年度とし、2029年3月期を最終年度とする3カ年の「第9次中期経営計画」を策定し、持続的成長と強固な経営基盤の確立を目指しています。

・売上高:400億円
・営業利益:20億円
・経常利益:22億円
・ROE:5.4%
・新製品売上高比率:30%

(4) 成長戦略と重点施策

既存事業の構造改革による収益基盤の強化と、新事業の創出を柱とする成長戦略を推進しています。特にフレキシブル面状ヒーターなどの新製品立ち上げや、独自の発想を活かした複合化技術の開発に注力し、パートナー企業との協業を通じた付加価値創出やDX・AI活用による生産性向上を図っています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針

「人財の価値を最大限に引き出す」ことが企業競争力や中長期的な企業価値向上につながると考え、経営戦略の基本に人財戦略を据えています。多様な人財を確保・活用し、技術力と高い生産性を兼ね備えたプロフェッショナルを育成するとともに、挑戦と協働を促す企業文化の醸成や職場環境づくりを推進しています。

(2) 給与水準・報酬設計

同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 44.5歳 16.3年 7,037,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示

同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 6.6%
男性育児休業取得率 100.0%
男女賃金差異(全労働者) 65.2%
男女賃金差異(正規雇用) 67.9%
男女賃金差異(非正規雇用) 69.6%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、階層別研修制度受講者人数(197名)、自己啓発教育制度受講者(80名)、一人当たり教育研修費(20,000円)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 市場の変動および技術革新

同社グループは多様な業界へ製品を提供しているため、顧客が属する市場の縮小や競合との価格競争により、需要が急速に減少するリスクがあります。また、技術革新に伴う既存製品の陳腐化が業績に影響を及ぼす可能性があるため、新製品開発の促進や他社との共同開発を推進しています。

(2) 主要原材料や燃料価格の高騰

プラスチックフィルムなどの石油化学製品やパルプを原材料とし、燃料には主にLNGを使用しています。国際紛争などによる調達価格の急激な変動や、サプライチェーンの供給停止が発生した場合、業績に大きな影響を与える可能性があるため、エネルギー供給リソースの多元化を図っています。

(3) 海外展開に伴うカントリーリスク

北米、欧州、アジアなどへグローバルな事業展開を推進しているため、進出先におけるテロや紛争、治安悪化、法令・税制・環境規制の変更などが発生した場合、事業活動に支障をきたす恐れがあります。これに対し、従業員の安全確保マニュアルの運用や海外拠点の動向把握に努めています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。