日産化学 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

日産化学 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

日産化学は東京証券取引所プライム市場に上場する化学メーカーです。化学品や機能性材料、農業化学品など多様な事業を展開しています。直近の業績では、半導体材料等の需要拡大により機能性材料セグメントが牽引し、全社で売上高と各利益ともに前年を上回る増収増益を達成しており、安定的な成長を続けています。


※本記事は、日産化学株式会社の有価証券報告書(第156期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 日産化学ってどんな会社?


化学品、機能性材料、農業化学品、ヘルスケアなど、多岐にわたる事業を展開する化学メーカーです。

(1) 会社概要


1887年、日本初の化学肥料製造会社として東京人造肥料会社を設立しました。1937年に日産化学工業へ改称し、1949年に株式を上場しています。1960年代に石油化学事業へ進出後、1980年代に撤退し、その後は電子材料や農薬事業を拡大しました。2018年には日産化学へ社名を変更しています。

同社グループは、連結従業員数3,411名、単体従業員数2,107名の体制で事業を運営しています。大株主の状況を見ると、筆頭株主をはじめ上位3名はすべて資産管理業務等を行う信託銀行となっており、安定した資本基盤を背景にグローバルな事業展開を推進しています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 24.93%
日本カストディ銀行(信託口) 12.00%
みずほ信託銀行 退職給付信託 みずほ銀行口 再信託受託者 日本カストディ銀行 4.07%

(2) 経営陣


同社の役員は男性11名、女性3名の計14名で構成され、女性役員比率は21.4%です。代表取締役社長は八木晋介が務めています。

氏名 役職 主な経歴
木下 小次郎 取締役会長(代表取締役) 1977年同社入社。取締役経営企画部長、常務取締役、代表取締役社長などを経て、2021年より現職。
八木 晋介 取締役社長(代表取締役) 1985年同社入社。小野田工場次長、袖ケ浦工場長、専務執行役員生産技術部長などを経て、2021年より現職。
大門 秀樹 取締役副社長 1988年日本興業銀行入行。みずほ信託銀行常務執行役員等を経て同社執行役員。2025年より現職。
石川 元明 取締役専務執行役員機能性材料事業部長 1986年同社入社。電子材料研究所長や機能性材料事業部長を歴任し、2022年より現職。
佐藤 祐二 取締役専務執行役員農業化学品事業部長 1990年同社入社。農業化学品事業部海外本部長や同事業部長などを経て、2025年より現職。
松岡 健 取締役常務執行役員経営企画部長 1996年同社入社。経営企画部CSR・広報室長や内部監査部長等を経て、2022年より現職。


社外取締役は、片岡一則(東京大学名誉教授)、中川深雪(中央大学大学院法務研究科教授)、竹岡裕子(上智大学研究推進センター長)、濱逸夫(元ライオン代表取締役会長)です。

2. 事業内容


同社グループは、「化学品事業」「機能性材料事業」「農業化学品事業」「ヘルスケア事業」「卸売事業」「その他の事業」を展開しています。

化学品事業


基礎化学品(硫酸、硝酸、アンモニア等)やファインケミカル(特殊エポキシ、難燃剤、殺菌消毒剤等)を様々な産業向けに提供しています。先端分野に対応する高純度薬品や高機能化学品の市場投入にも注力しています。
収益は、製品の販売対価として顧客から受け取ります。同事業の運営は、主に日産化学が行っており、一部の子会社も製造・販売に関わっています。

機能性材料事業


ディスプレイ材料(液晶配向材用ポリイミド等)、半導体材料(反射防止コーティング材等)、無機コロイド(研磨剤等)を展開し、スマート社会の実現に貢献しています。スマートフォンやテレビ、半導体の微細加工向けに先端材料を提供しています。
収益は、国内外の電子部品メーカーや半導体メーカー等への製品販売により得ています。同事業の運営は日産化学を中心に、韓国やアメリカ、台湾の子会社も担っています。

農業化学品事業


除草剤、殺虫剤、殺菌剤などの農薬や、動物用医薬品原薬(ノミ・マダニ駆除剤等)の開発・製造・販売を行っています。新規薬剤の探索から開発まで一貫した事業活動を展開し、食料の安定供給に貢献しています。
収益は、農業関係者や製薬会社等に対する製品の販売対価として受け取ります。運営は日産化学のほか、フランス、インド、国内の子会社などがグローバルに展開しています。

ヘルスケア事業


高コレステロール血症治療薬の原薬や、顧客ニーズに合わせて医薬品原薬の開発をサポートする課題解決型受託事業(ファインテック)を提供しています。低分子医薬や核酸医薬の創薬研究にも注力しています。
収益は、製薬会社への原薬販売や受託製造・サービスの対価として得ています。同事業の運営は、主に日産化学が手掛けています。

卸売事業およびその他の事業


卸売事業では化学品などの卸売を行い、その他の事業では肥料、造園緑化、運送、プラントエンジニアリングなどを手掛けています。グループ各社の事業活動をサポートし、幅広いサービスを提供しています。
収益は、製品の販売やサービスの提供による手数料などから得ています。卸売事業は日星産業などが担い、その他の事業は日産物流、日産エンジニアリングなどの子会社が運営しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5年間の業績を見ると、売上高と経常利益は成長傾向にあります。一時的な足踏みは見られたものの、直近の2026年3月期には売上高が2796億円、経常利益が659億円に達し、過去最高を更新しています。利益率も安定して20%以上を維持しており、高い収益力を誇っています。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 2080億円 2281億円 2267億円 2514億円 2796億円
経常利益 537億円 558億円 516億円 580億円 659億円
利益率(%) 25.8% 24.5% 22.8% 23.1% 23.6%
当期利益(親会社所有者帰属) 344億円 362億円 346億円 366億円 433億円

(2) 損益計算書


売上高は前期から約282億円増加し、売上総利益や営業利益も堅調に伸びています。売上総利益率は約47%、営業利益率も約23%と非常に高い水準を確保しており、高付加価値な製品群による収益性の高さが伺えます。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 2514億円 2796億円
売上総利益 1165億円 1309億円
売上総利益率(%) 46.3% 46.8%
営業利益 568億円 636億円
営業利益率(%) 22.6% 22.7%


販売費及び一般管理費のうち、労務費が199億円(構成比30%)、減価償却費が56億円(同8%)、試験費が55億円(同8%)を占めています。

(3) セグメント収益


各セグメントの売上を見ると、機能性材料事業と農業化学品事業が売上高の大部分を占めており、成長を牽引しています。特に機能性材料事業は半導体材料の需要増等により前期比で大きく伸長しました。化学品事業や卸売事業なども底堅い推移を見せています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期)
化学品事業 252億円 262億円
機能性材料事業 736億円 783億円
農業化学品事業 707億円 821億円
ヘルスケア事業 59億円 51億円
卸売事業 904億円 981億円
その他の事業 115億円 155億円
調整額 -259億円 -258億円
連結(合計) 2514億円 2796億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業で得た資金で借入の返済や株主還元を行い、成長のための投資も手元資金で賄っている健全な状態です。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 592億円 642億円
投資CF -176億円 -212億円
財務CF -357億円 -362億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は20.3%で市場平均を上回っており、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も71.9%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は「社会が求める価値を提供し、地球環境の保護、人類の生存と発展に貢献する」を企業理念に掲げています。この理念のもと、2050年のあるべき姿として「人と自然の豊かさを希求し成長する未来創造企業」「強い情熱で変革に挑む共創者集団」を定め、社会課題の解決に貢献する製品やサービスの提供を目指しています。

(2) 企業文化


同社は、「誠実を力に」「志で踏み出す」「協働を超えた共創へ」を基本姿勢として重視しています。従業員が目の前のミッションに対して自ら努力を積み重ねる誠実な姿勢を強みとしつつ、既存の枠を超えた価値創出に向けた「挑戦する力」、異なる専門性が交わる「共創する力」、未来の価値を見定める「目利きする力」の強化を図る組織風土の醸成に取り組んでいます。

(3) 経営計画・目標


同社は中期経営計画「Vista2027」のStageⅡ(2025年度〜2027年度)において、2027年度の数値目標を以下のように定めています。

・売上高2,930億円
・営業利益650億円
・売上高営業利益率20%以上
・ROE18%以上
・配当性向55%以上
・総還元性向75%以上

(4) 成長戦略と重点施策


同社は「新製品の創出」を最重要課題とし、「現有事業の利益拡大」「2030年を見据えた新製品の開発」「事業基盤の強化」の3つを基本戦略に掲げています。成長領域である機能性材料や農業化学品へM&Aを含めて経営資源を集中投下するとともに、情報通信やライフサイエンス領域での新規材料開発を加速させる方針です。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は、新製品・新事業の継続的な創出に向け、「挑戦する力」「共創する力」「目利きする力」の3つを重点的に強化する人材戦略を推進しています。年間労働時間の10%を自由なテーマに取り組める「10%Challenge」制度の導入や、イントラプレナー育成プログラム、職域横断ローテーションなどを通じ、自律的な成長と多様性が尊重される組織づくりを行っています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 40.8歳 15.9年 8,707,047円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 5.4%
男性育児休業取得率 75.4%
男女賃金差異(全労働者) 68.2%
男女賃金差異(正規雇用労働者) 76.4%
男女賃金差異(パート・有期労働者) 65.6%


また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、研究員に占める女性総合職比率(19.5%)、年次有給休暇取得率(77.0%)、高ストレス者割合(8.1%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 事業ポートフォリオ戦略の失敗


各事業において、原燃料の供給制約や市況の変化、代替技術の台頭、企業間競争の激化により、売上やシェアが低下するリスクがあります。また、新薬創出には多大な時間と費用がかかるため、その結果が中長期的な経営成績や財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

(2) 新製品の開発と技術革新の遅れ


同社は売上高の7〜9%を研究開発費に投じるなど新製品開発に注力していますが、高度な技術や資金、長期間の開発が必要となります。ターゲットとする市場環境や技術動向が急激に変化した場合、開発が想定通りに進まず、経営成績や財務状況に悪影響が及ぶリスクが存在します。

(3) 原料調達と製品供給の滞り


高度な技術で合成された化合物など供給元が限定される原料や、海外からの輸入に依存する原料を扱っています。国際紛争の発生や突発的な法規制の強化、予期せぬトラブル等によって調達先からの供給が滞った場合、製品の安定的な製造・販売に支障をきたし、経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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