日産化学 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

日産化学 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

日産化学は東京証券取引所プライム市場に上場する化学メーカーです。化学品、機能性材料、農業化学品、ヘルスケア等の事業を展開し、独自の技術力で高収益体質を維持しています。直近の業績は、売上高が2,281億円(前期比9.7%増)、経常利益が558億円(同3.9%増)と増収増益を達成しました。


※本記事は、日産化学株式会社 の有価証券報告書(第153期、自 2022年4月1日 至 2023年3月31日、2023年6月28日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 日産化学ってどんな会社?


明治20年創業の日本初の化学肥料製造会社を起源とし、現在は機能性材料や農薬等を展開する高収益化学メーカーです。

(1) 会社概要


同社は1887年、日本初の化学肥料製造会社である東京人造肥料会社として設立されました。1937年に日産化学工業へ改称し、1949年に株式を上場しています。2001年には肥料事業を分社化し、研究開発体制を再編して機能性材料等の高付加価値分野へ注力しました。2018年には現社名の日産化学へ商号変更し、2019年には海外企業から農薬殺菌剤を買収するなど、グローバル展開を加速させています。

2023年3月31日現在、連結従業員数は2,965名、単体従業員数は1,959名です。大株主の構成を見ると、筆頭株主は信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)、第2位も同様に資産管理を行う日本カストディ銀行(信託口)です。第3位はみずほ信託銀行の退職給付信託口となっており、機関投資家による保有比率が高い構成となっています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) 25.33%
株式会社日本カストディ銀行(信託口) 10.68%
みずほ信託銀行株式会社 退職給付信託 みずほ銀行口 再信託受託者 株式会社日本カストディ銀行 4.11%

(2) 経営陣


同社の役員は男性12名、女性2名(うち社外取締役4名)の計14名で構成され、女性役員比率は14.3%です。代表者は取締役社長の八木晋介氏が務めています。社外取締役比率は30.8%です。

氏名 役職 主な経歴
木下 小次郎 取締役会長(代表取締役) 1977年入社。経営企画部長を経て2008年より代表取締役・取締役社長。2021年4月より現職。
八木 晋介 取締役社長(代表取締役) 1985年入社。小野田工場次長、執行役員袖ケ浦工場長、専務執行役員生産技術部長等を経て2021年4月より現職。
本田 卓 取締役副社長 1981年入社。農業化学品事業部長、常務執行役員、専務執行役員等を歴任。インド関連子会社の会長も務め、2022年4月より現職。
石川 元明 取締役専務執行役員機能性材料事業部長 1986年入社。電子材料事業部ディスプレイ材料部長、機能性材料事業部事業推進部長等を経て2022年6月より現職。
大門 秀樹 取締役専務執行役員サステナビリティ・IR部長 1988年日本興業銀行入行。みずほ信託銀行常務執行役員を経て2020年同社入社。2023年4月より現職。
松岡 健 取締役常務執行役員経営企画部長 1996年入社。経営企画部CSR・広報室長、執行役員内部監査部長、化学品事業部長を経て2022年6月より現職。


社外取締役は、大林秀仁(日立ハイテク名誉相談役)、片岡一則(東京大学名誉教授)、中川深雪(弁護士・中央大学法科大学院教授)、竹岡裕子(上智大学理工学部教授)です。

2. 事業内容


同社グループは、「化学品事業」「機能性材料事業」「農業化学品事業」「ヘルスケア事業」「卸売事業」および「その他の事業」を展開しています。

化学品事業

メラミン、硫酸、硝酸、アンモニア等の基礎化学品や、特殊エポキシ、難燃剤、殺菌消毒剤等のファインケミカル製品を製造・販売しています。幅広い産業の基盤を支える製品群を提供しており、顧客は化学、電子部品、環境関連企業など多岐にわたります。
収益は、製品の販売対価として顧客から得ています。運営は主に日産化学が行っており、一部製品については関連会社も製造・販売に関与しています。

機能性材料事業

液晶表示用材料(ポリイミド等)や半導体材料(反射防止コーティング材等)、無機コロイド(電子材料用研磨剤等)などの高付加価値製品を展開しています。スマートフォンやタブレット、PCなどのディスプレイや半導体デバイスメーカーが主な顧客です。
収益は、製品販売およびライセンス供与等により得ています。運営は日産化学が主体となり、海外ではNissan Chemical America CorporationやNCK Co., Ltd.などの子会社が販売・開発を担っています。

農業化学品事業

除草剤、殺虫剤、殺菌剤等の農薬や、動物用医薬品原薬の研究開発・製造・販売を行っています。国内外の農家や農業関連企業、動物薬メーカーに対し、独自の有効成分を含む製品を提供しています。
収益は、製品販売およびライセンス収入等から成ります。運営は日産化学およびNissan Chemical Europe S.A.S.などの海外子会社、インドの合弁会社Nissan Bharat Rasayan Pvt., Ltd.などが担っています。

ヘルスケア事業

高コレステロール血症治療薬原薬(ピタバスタチンカルシウム)の製造・販売に加え、医薬品原薬開発を支援する課題解決型受託事業「ファインテック」を展開しています。製薬会社等が主な顧客です。
収益は、原薬の販売対価や受託サービス料から得ています。運営は主に日産化学が行っています。

卸売事業

同社グループ製品を含む化学品の卸売や保険代理業等を行っています。商社機能として、幅広い化学製品を多様な顧客に提供しています。
収益は、商品の販売マージンや手数料等から得ています。運営は連結子会社である日星産業株式会社などが担っています。

その他の事業

肥料(高度化成等)の製造・販売、造園緑化、運送、プラントエンジニアリング等を行っています。農業従事者や一般企業、公共団体などが顧客です。
収益は、製品・サービスの販売対価から得ています。運営は日本肥糧株式会社、日産物流株式会社、日産緑化株式会社、日産エンジニアリング株式会社などの連結子会社が行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績を見ると、売上高は2,000億円台で堅調に推移しています。特に利益面では、経常利益率が約19%から24%台へと上昇傾向にあり、高い収益性を維持しています。当期純利益も増加傾向にあり、安定した成長を続けています。

項目 2019年3月期 2020年3月期 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期
売上高 2,049億円 2,068億円 2,091億円 2,080億円 2,281億円
経常利益 391億円 400億円 439億円 537億円 558億円
利益率(%) 19.1% 19.3% 21.0% 25.8% 24.5%
当期利益(親会社所有者帰属) 294億円 308億円 335億円 388億円 411億円

(2) 損益計算書


直近2期間の比較では、売上高の増加に伴い売上総利益も増加しています。売上総利益率は高い水準を維持しており、営業利益率も20%を超えています。コストコントロールと高付加価値製品の販売により、安定して高い利益率を確保していることが分かります。

項目 2022年3月期 2023年3月期
売上高 2,080億円 2,281億円
売上総利益 1,011億円 1,068億円
売上総利益率(%) 48.6% 46.8%
営業利益 510億円 523億円
営業利益率(%) 24.5% 22.9%


販売費及び一般管理費のうち、給与手当などの労務費が175億円(構成比32%)、研究開発等の試験費が51億円(同9%)を占めています。売上原価については内訳の詳細データはありません。

(3) セグメント収益


全セグメントで増収となりました。特に農業化学品事業と卸売事業の増収幅が大きく、全体を牽引しています。機能性材料事業は高い利益率を維持しており、全社の利益に大きく貢献しています。化学品事業は増収ながらも減益となりました。

区分 売上(2022年3月期) 売上(2023年3月期) 利益(2022年3月期) 利益(2023年3月期) 利益率
化学品事業 260億円 265億円 38億円 14億円 5.2%
機能性材料事業 697億円 662億円 276億円 254億円 38.4%
農業化学品事業 580億円 703億円 181億円 231億円 32.9%
ヘルスケア事業 65億円 67億円 28億円 30億円 44.9%
卸売事業 596億円 755億円 29億円 37億円 4.9%
その他の事業 109億円 121億円 7億円 9億円 7.3%
調整額 -228億円 -292億円 -50億円 -52億円 -
連結(合計) 2,080億円 2,281億円 510億円 523億円 22.9%

(4) キャッシュ・フローと財務指標

日産化学は、中期経営計画「Vista2027」の目標達成に向け、堅調な財務基盤を構築しています。

当連結会計年度は、本業で稼ぎ出した資金が大幅に増加しました。工場などの設備投資は計画通りに進められましたが、株主還元策の拡充などにより、財務活動での資金流出は増加しました。これらの活動の結果、手元資金は増加し、自己資本比率も向上しています。

同社は、研究開発を成長の源泉と捉え、精密有機合成や機能性高分子設計といったコア技術を磨きつつ、情報科学や微生物制御といった新たな技術領域の開拓にも注力しています。これにより、化学品や機能性材料分野で、半導体実装用途やディスプレイ材料、AR/VRデバイス用材料などの開発を進め、持続的な成長を目指しています。

項目 2022年3月期 2023年3月期
営業CF 419億円 352億円
投資CF -124億円 -196億円
財務CF -279億円 -250億円

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、「社会が求める価値を提供し、地球環境の保護、人類の生存と発展に貢献する」という企業理念を掲げています。社会課題の解決と持続可能な発展を意識した企業価値向上により、環境との調和を図りながら、人々の豊かな暮らしと幸せの実現を目指しています。

(2) 企業文化


同社は、2050年のあるべき組織の姿を「強い情熱で変革に挑む共創者集団」と定めています。そのための社員の基本姿勢として、「誠実を力に」「志で踏み出す」「協働を超えた共創へ」の3つを掲げ、誠実な企業風土と多様な人材が目標に向かって挑戦し成長する組織づくりを推進しています。

(3) 経営計画・目標


長期経営計画「Atelier2050」および中期経営計画「Vista2027」において、2050年の企業像実現に向けた目標を設定しています。Stage I(2022〜2024年度)の最終年度である2024年度の数値目標に加え、2027年度に向けたKPIも定めています。

* 2024年度売上高:2,550億円
* 2024年度営業利益:585億円
* 売上高営業利益率:20%以上(2022〜2027年)
* 自己資本当期純利益率(ROE):18%以上(2022〜2027年)

(4) 成長戦略と重点施策


同社は「事業領域の深掘りとマーケティング力の向上」「サステナブル経営の推進」「価値創造・共創プロセスの強化」「現有事業のシェア・利益の拡大」を基本戦略としています。具体的には、微生物を利用した農業資材の創出、マテリアルズインフォマティクスを活用した製品開発の迅速化、動物用医薬品事業の拡大等に取り組みます。

また、殺虫剤「グレーシア」のグローバル展開や、半導体・ディスプレイ材料の研究開発強化、インドや韓国での生産・製造拠点の強化など、既存事業の競争力向上も図っています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は人的資本の拡充を最重要課題とし、価値向上に「挑戦」し続ける牽引人材、領域を超えた「共創」人材、ビジネスの実需化を見極める「目利き」人材の輩出を目指しています。そのために、仮説検証型研修や業務時間の10%を自由な挑戦に充てる制度、社内起業家育成プログラムなどを実施し、多様性が尊重される風土づくりや健康経営も推進しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2023年3月期 40.2歳 15.7年 8,257,077円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 3.3%
男性育児休業取得率 41.4%
男女賃金差異(全労働者) 64.7%
男女賃金差異(正規雇用) 72.9%
男女賃金差異(非正規雇用) 55.8%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、高ストレス者割合(8.1%)、企業理念への共感度に関する従業員意識調査肯定回答者割合(64.4%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 事業ポートフォリオ戦略の失敗

化学品、機能性材料、農業化学品、ヘルスケアの各事業において、原燃料価格変動、中国市況の変化、競合技術(有機ELなど)の台頭、特許切れによるジェネリック医薬品の影響などにより、計画通りの収益を確保できない可能性があります。

(2) 新製品の開発、外部の技術革新

社会課題解決のため新製品開発を進めていますが、これには多額の資金と時間が必要です。市場環境や技術動向の急激な変化により、開発の成否が左右され、経営成績や財務状況に影響を与える可能性があります。

(3) 原料調達、製品供給

特定の供給元や海外からの輸入に依存している原料があり、地政学的リスクや法規制強化等により供給が滞った場合、製品の安定的な製造・販売に支障をきたし、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。

(4) 法的規制、法令違反

国内外の化学物質規制の強化により、事業活動の制限や対応コストの増加が生じる可能性があります。また、コンプライアンス違反が発生した場合、法的処罰や社会的信用の失墜を招く恐れがあります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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