※本記事は、デンカの有価証券報告書(第167期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月17日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. デンカってどんな会社?
電子・先端プロダクツやライフイノベーション分野をはじめ、多岐にわたる化学製品を製造・販売する企業です。
■(1) 会社概要
1915年に設立され、翌年に株式を上場(現在はプライム市場)しました。1962年に国産クロロプレンゴムの製造に成功し、2015年に現在のデンカへ商号変更しています。近年は2023年のタイでのアセチレンブラック合弁会社設立や、2026年のカイノスの子会社化など、グローバル展開とライフイノベーション分野の強化を進めています。
現在の従業員数は連結で6,454名、単体で4,234名です。筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位および第3位も同様に信託業務を担う金融機関が名を連ねており、機関投資家による保有割合が高い構成となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 18.27% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 12.85% |
| みずほ信託銀行 退職給付信託 みずほ銀行口 再信託受託者 日本カストディ銀行 | 3.73% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性7名、女性2名の計9名で構成され、女性役員比率は22.2%です。代表取締役社長は石田郁雄が務めています。取締役9名のうち4名が社外取締役であり、独立した立場から経営を監督しています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 今井俊夫 | 代表取締役会長 | 1982年入社。経営企画室長、エラストマー・機能樹脂部門長等を歴任。2021年に代表取締役社長兼社長執行役員に就任。2025年4月より現職。 |
| 石田郁雄 | 代表取締役社長 | 1985年入社。電子材料事業部機能フィルム部長、先端機能材料部長等を歴任。執行役員電子・先端プロダクツ部門長を経て、2025年4月より現職。 |
| 林田りみる | 取締役財務戦略担当(CFO)サプライチェーン担当(CSCO) | 1985年入社。経理部長、執行役員経理部長等を経て、2024年に財務戦略担当(CFO)に就任。2025年6月より現職。 |
| 香坂昌信 | 取締役技術統括(CTO) | 1985年入社。青海工場次長、米国子会社副社長、執行役員青海工場長等を歴任し、技術企画部やサステナビリティー推進部等を担当。2025年6月より現職。 |
| 内田瑞宏 | 取締役常勤監査等委員 | 1984年入社。樹脂加工事業部事業企画部長、内部監査室長、内部統制部長等を歴任し、2023年6月より常勤監査等委員として監査業務を担当。 |
社外取締役は、中田るみ子(元ファイザー人事・総務部門長)、木下俊男(元日本公認会計士協会理事)、山本明夫(元三井物産プラスチック社長)、的場美友紀(東京弁護士会副会長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「電子・先端プロダクツ」、「ライフイノベーション」、「エラストマー・インフラソリューション」、「ポリマーソリューション」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 電子・先端プロダクツ
溶融シリカ、球状アルミナ、電子回路基板、ファインセラミックス、電子包装材料やアセチレンブラック等の製造・販売を行っています。半導体やEV、電力インフラ向けなど、高度な技術が求められる最先端分野の顧客へ部材を提供しています。
収益は製品の販売代金から得ています。運営は同社が主体となり、販売はYKアクロスが担うほか、国内外の子会社も製造・販売を行っています。例えばシンガポールのデンカアドバンテックなどが主力製品を展開しています。
■(2) ライフイノベーション
ワクチン、抗原迅速診断キット、臨床試薬、がん治療ウイルス製剤などの製造・販売を行っています。医療機関や検査機関などのヘルスケア関連市場を顧客としており、感染症予防や診断、疾患治療に貢献する製品を提供しています。
製品の販売による収益を基盤としています。国内での製造・販売は同社が中心となって展開しているほか、2026年には臨床試薬の開発・製造・販売を行うカイノスを連結子会社化し、事業基盤の強化を図っています。
■(3) エラストマー・インフラソリューション
クロロプレンゴム、特殊混和材、肥料、カーバイド、耐火物、ポリエチレン製コルゲート管などを提供しています。土木・建築分野や農業分野をはじめとする幅広いインフラ関連市場に向けて、製品を製造・販売しています。
製品の販売代金が主な収益源です。運営は同社が製造・販売を行うほか、YKアクロスが製品販売を担います。また、日之出化学工業やデンカアヅミンが肥料の製造を行い、海外では中国やマレーシアの子会社も事業を展開しています。
■(4) ポリマーソリューション
スチレンモノマー、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、透明樹脂、食品包装用シート、ウィッグ・ヘアピース用合成繊維等を提供しています。生活関連製品や包装資材、住宅設備などを取り扱うメーカー等を中心に製品を供給しています。
製品の販売を通じて収益を得ています。同社や東洋スチレン、デンカポリマー、デンカアステックなどの国内子会社が製造・販売を担うほか、海外ではシンガポールの子会社がスチレン系樹脂や合成繊維の製造・販売を行っています。
■(5) その他
プラントエンジニアリング事業や卸売業、電力供給事業などを展開しています。グループ内の生産設備の設計・施工や、外部向けの製品卸売、周辺地域への電力供給など、各事業会社のインフラを支える多様なサービスを提供しています。
各サービスの提供対価や電力販売、卸売による手数料から収益を得ています。運営は、プラントエンジニアリング事業をデンカエンジニアリングが、製品等の卸売をYKアクロスが、電力供給事業を関連会社の黒部川電力がそれぞれ担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績推移を見ると、売上高は4,000億円前後で推移していますが、利益面では外部環境の変化や原燃料価格の変動等により一時的に悪化しました。しかし、当期はポートフォリオ変革やコストダウン等の施策が奏功し、経常利益・当期利益ともに大幅な回復を見せています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 3,848億円 | 4,076億円 | 3,893億円 | 4,003億円 | 3,842億円 |
| 経常利益 | 365億円 | 280億円 | 55億円 | 76億円 | 193億円 |
| 利益率(%) | 9.5% | 6.9% | 1.4% | 1.9% | 5.0% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 160億円 | 87億円 | 74億円 | -111億円 | 36億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は前期比で減少したものの、売上総利益および営業利益は大幅に改善しています。電子・先端プロダクツ部門での先行投資の刈り取りや全社的なコストダウンプロジェクトの進展が、利益率の向上に寄与していることがわかります。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 4,003億円 | 3,842億円 |
| 売上総利益 | 846億円 | 943億円 |
| 売上総利益率(%) | 21.1% | 24.5% |
| 営業利益 | 144億円 | 262億円 |
| 営業利益率(%) | 3.6% | 6.8% |
販売費及び一般管理費のうち、運賃・保管費用が157億円(構成比23.1%)、給与手当が146億円(同21.5%)、技術研究費が122億円(同17.9%)を占めています。
■(3) セグメント収益
主力の「電子・先端プロダクツ」はAI関連や電力インフラ向け需要が拡大し増収増益を牽引しました。「ポリマーソリューション」は減収ながらも価格改定により増益。「エラストマー・インフラソリューション」も米国子会社の設備停止等により利益水準が改善しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 電子・先端プロダクツ | 922億円 | 1,044億円 | 92億円 | 139億円 | 13.3% |
| ライフイノベーション | 433億円 | 405億円 | 96億円 | 62億円 | 15.3% |
| エラストマー・インフラソリューション | 1,117億円 | 976億円 | -80億円 | 0.7億円 | 0.1% |
| ポリマーソリューション | 1,354億円 | 1,242億円 | 12億円 | 36億円 | 2.9% |
| その他 | 177億円 | 176億円 | 24億円 | 24億円 | 13.6% |
| 連結(合計) | 4,003億円 | 3,842億円 | 144億円 | 262億円 | 6.8% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業で利益を出し、借入によって積極投資を行う状態です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 186億円 | 362億円 |
| 投資CF | -596億円 | -450億円 |
| 財務CF | 401億円 | 76億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は5.2%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は45.6%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「化学の力」「世界をよりよくする」「スペシャリスト」という言葉を盛り込んだ「パーパス」を北極星として掲げています。同社は世界に誇れる唯一無二の存在として、化学の力で世界をよりよくすることを目指し、「世界に誇れる、化学を。」というコーポレートメッセージを発信しています。
■(2) 企業文化
同社は脈々と受け継いできた姿勢を「コアバリュー」として言語化し、企業活動の土台としています。具体的には「挑戦」「誠実」「共感」の3つを掲げており、さまざまな意思決定の判断基準として従業員に共有されています。これらの価値観を重視することで、社会の信頼と共感を得られる企業であり続けることを目指しています。
■(3) 経営計画・目標
「Mission 2030」のもと、2030年までに人財・経営価値を高め、スペシャリティ・メガトレンド・サステナビリティの3要素を備えた事業価値創造に集中するミッションを掲げています。フェーズ2(2026〜2028年度)において以下のような数値目標の達成を目指しています。
* 営業利益の過去最高益更新(2028年度に450億円)
* ROE(自己資本利益率)8.0%の達成
* D/Eレシオ0.7以下
■(4) 成長戦略と重点施策
事業領域を「ICT & Energy」「Healthcare」「Sustainable Living」の3つに分け、メリハリのある投資を行います。成長分野での市場拡大を取り込みつつ、安定的で着実な成長分野を掛け合わせたベストミックスにより持続的成長を図ります。また、不採算事業の整理や事業構造改革も並行して進めます。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
経営計画「Mission 2030」における成長戦略の一つとして「人財価値創造」を掲げ、「人財育成体制の強化」「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンの推進」「健康経営と働き方改革」を基本方針としています。自ら学ぶ文化の醸成や多様な人材が活躍できる職場環境の整備を進め、「挑戦を後押しする風土づくり」を目指しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 40.8歳 | 16.4年 | 7,555,075円 |
※平均年間給与は時間外手当等の基準外賃金および賞与手当を含んでおります。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 5.7% |
| 男性育児休業取得率 | 77.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 64.4% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 73.2% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 41.2% |
また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、労働災害度数率(0.44)、温室効果ガス排出量削減(51.0%)、再生可能エネルギー発電最大出力(145MW)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 外部事業環境と原燃料市況の変動
自動車や電子部品などの需要動向、原油や基礎石油化学製品などの原燃料市況、為替相場の変動による影響を受けるリスクがあります。これに対し、外部環境の変化に左右されにくい体質強化を目指し、全事業のスペシャリティ化を推進しています。
■(2) 製品の品質と製造物責任
科学技術の発展により品質保証活動が複雑化する中、製品やサービスに品質問題が発生した場合、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。同社は3層の品質保証体制を構築し、過去の不適切行為に対する再発防止策を完了させるなど、コンプライアンス強化と信頼回復に努めています。
■(3) 環境規制への対応とコスト負担
2050年のカーボンニュートラルに向け温室効果ガス排出削減に取り組んでいますが、環境規制の強化や排出量取引制度の開始、化石燃料賦課金の導入などにより、事業活動の制限や対応費用の増加が生じ、財務状況に影響を与えるリスクがあります。
■(4) 海外事業展開と国際情勢の不確実性
アジア、米国、欧州等での海外展開において、法制度の変更や社会的混乱が生じるリスクがあります。また、地政学的な問題によるサプライチェーンへの影響や、ナフサ等の調達困難・価格高騰が、グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。



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