デンカ 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

デンカ 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証プライム上場。電子材料や医薬品、樹脂、インフラ素材などを手掛ける化学メーカー。「Mission 2030」を掲げ事業変革を推進中。2025年3月期は、価格改定や円安効果により増収となりましたが、クロロプレンゴム事業の構造改革に伴う巨額の特別損失を計上し、最終損益は減益となり赤字へ転落しました。


※本記事は、デンカ株式会社 の有価証券報告書(第166期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月19日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. デンカってどんな会社?


無機・有機化学品から電子材料、医薬品まで幅広い事業を展開し、社会課題解決に貢献する化学メーカーです。

(1) 会社概要


1915年に設立され、翌1916年に大牟田工場にてカーバイド等の製造を開始しました。1949年に東京・大阪・名古屋各証券取引所に上場。2015年には商号をデンカへ変更し、2020年にはデンカ生研を吸収合併しました。2023年にはタイに合弁会社を設立するなど、グローバル展開を加速しています。

連結従業員数は6,542名、単体では4,369名です。筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位も同様に信託銀行が名を連ねています。また、第3位も退職給付信託口となっており、機関投資家による保有比率が高い構成となっています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 17.90%
日本カストディ銀行(信託口) 11.33%
みずほ信託銀行 退職給付信託 みずほ銀行口 再信託受託者 日本カストディ銀行 3.73%

(2) 経営陣


同社の役員は男性7名、女性2名の計9名で構成され、女性役員比率は22.2%です。代表取締役社長は石田郁雄氏です。社外取締役比率は44.4%です。

氏名 役職 主な経歴
今井俊夫 代表取締役会長 1982年入社。スチレン事業部長、経営企画室長、常務執行役員などを歴任。2021年より社長を務め、2025年4月より現職。
石田郁雄 代表取締役社長 1985年入社。電子材料事業部機能フィルム部長、電子・先端プロダクツ部門長などを経て、2025年4月より現職。
山本学 取締役特別顧問 1981年入社。電子材料事業本部電子材料事業部長、社長、会長などを歴任。2025年4月より現職。
高橋和男 取締役エグゼクティブフェロー 1983年入社。大船工場長、デンカパフォーマンスエラストマーLLC社長などを経て、2025年4月より現職。
内田瑞宏 取締役常勤監査等委員 1984年入社。資材部長、内部監査室長、内部統制部長などを経て、2023年6月より現職。


社外取締役は、中田るみ子(元ファイザー執行役員)、木下俊男(元日本公認会計士協会専務理事)、山本明夫(元三井物産執行役員)、的場美友紀(弁護士・日東工器部長)です。

2. 事業内容


同社グループは、「電子・先端プロダクツ」「ライフイノベーション」「エラストマー・インフラソリューション」「ポリマーソリューション」および「その他」事業を展開しています。

(1) 電子・先端プロダクツ


溶融シリカ、球状アルミナ、電子回路基板、ファインセラミックス、電子包装材料、アセチレンブラックなどの製造・販売を行っています。半導体や電子部品、xEV(電動車)などの先端産業分野を主な顧客としています。

製品販売による対価を収益源としています。製造・販売は主にデンカが行うほか、販売は子会社のYKアクロスなどが担っています。海外では、シンガポールのデンカアドバンテックP.L.やデンカシンガポールP.L.などが製造・販売を行っています。

(2) ライフイノベーション


インフルエンザワクチン、抗原迅速診断キット、臨床試薬、がん治療ウイルス製剤などを取り扱っています。医療機関や検査機関などが主な顧客であり、人々の健康と医療の質の向上に貢献する製品を提供しています。

製品販売による対価を収益源としています。国内ではデンカが製造・販売を行っています。海外では、ドイツの子会社Icon Genetics GmbHがバイオ医薬品の研究開発や受託サービスを提供しています。

(3) エラストマー・インフラソリューション


クロロプレンゴム、肥料、カーバイド、耐火物、特殊混和材、ポリエチレン製コルゲート管などを製造・販売しています。自動車部品や土木・建築、農業分野など幅広い産業を支える素材を提供しています。

製品販売による対価を収益源としています。製造・販売はデンカおよびYKアクロスなどの子会社が行っています。海外では、米国のデンカパフォーマンスエラストマーLLCがクロロプレンゴムの製造を行っています。

(4) ポリマーソリューション


スチレンモノマー、ABS樹脂、透明樹脂、食品包装用シート、ウィッグ用合成繊維などを取り扱っています。食品包装や住設資材、生活用品など、身近な暮らしに関わる製品の素材を提供しています。

製品販売による対価を収益源としています。製造・販売はデンカおよびYKアクロスなどが行っています。国内ではデンカポリマーが食品包装用容器を、デンカアステックが住設資材を製造・販売しています。

(5) その他


プラントエンジニアリング事業や卸売業などを行っています。グループ内の設備建設やメンテナンス、製品の販売支援などを担っています。

エンジニアリングサービスの提供や商品の卸売による対価を収益源としています。デンカエンジニアリングがプラントエンジニアリングを、YKアクロスが製品の卸売を、関連会社の黒部川電力が電力供給事業を行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の推移を見ると、売上高は3,500億円台から4,000億円規模へと拡大傾向にありますが、利益面では変動が見られます。特に当期は、売上高が過去最高水準に達した一方で、構造改革に伴う特別損失の計上などにより、最終損益が赤字に転落しています。利益率は低下傾向にあり、収益性の改善が課題となっています。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上収益(または売上高) 3,544億円 3,848億円 4,076億円 3,893億円 4,003億円
経常利益 321億円 365億円 280億円 55億円 76億円
利益率(%) 9.1% 9.5% 6.9% 1.4% 1.9%
当期利益(親会社所有者帰属) 530億円 160億円 87億円 74億円 -111億円

(2) 損益計算書


直近2期間を比較すると、売上高は増加し、売上総利益も微増していますが、売上原価率の上昇が見られます。営業利益は増加したものの、利益率は依然として低水準です。販売費及び一般管理費も増加傾向にあり、コストコントロールが求められる状況と言えます。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 3,893億円 4,003億円
売上総利益 825億円 846億円
売上総利益率(%) 21.2% 21.1%
営業利益 134億円 144億円
営業利益率(%) 3.4% 3.6%


販売費及び一般管理費のうち、給与手当が155億円(構成比22%)、運賃・保管費用が149億円(同21%)、技術研究費が124億円(同18%)を占めています。

(3) セグメント収益


電子・先端プロダクツ部門は、生成AI用半導体向け需要の拡大などにより増収増益となりました。一方、エラストマー・インフラソリューション部門は、クロロプレンゴムの需要低迷やコスト増により営業損失を計上しています。ライフイノベーション部門は減収減益となり、ポリマーソリューション部門は価格改定効果で増収黒字化しました。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期) 利益(2024年3月期) 利益(2025年3月期) 利益率
電子・先端プロダクツ 878億円 922億円 90億円 92億円 9.9%
ライフイノベーション 471億円 433億円 117億円 96億円 22.2%
エラストマー・インフラソリューション 1,114億円 1,117億円 -93億円 -80億円 -7.1%
ポリマーソリューション 1,242億円 1,354億円 -1億円 12億円 0.9%
その他 188億円 177億円 19億円 24億円 13.5%
調整額 - - 1億円 1億円 -
連結(合計) 3,893億円 4,003億円 134億円 144億円 3.6%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


同社は、営業活動で得た資金に加え、財務活動による資金調達を行い、将来の成長に向けた投資を積極的に実施している「積極型」のキャッシュ・フロー状態にあります。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 363億円 186億円
投資CF -226億円 -596億円
財務CF 7億円 401億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は-4.1%で市場平均を下回り、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は45.2%で市場平均を下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は「化学の力で世界をよりよくするスペシャリストになる。」をパーパス(存在意義)と定めています。また、2030年までに人財・経営価値を高め、「スペシャリティ・メガトレンド・サステナビリティ」の3要素を備えた事業価値創造に集中するというミッションを掲げています。コーポレートメッセージには「世界に誇れる、化学を。」を掲げています。

(2) 企業文化


同社は「The Denka Value」として、「挑戦」「誠実」「共感」の3つをコアバリューに定めています。これらは同社が脈々と受け継いできた姿勢であり、さまざまな判断をする上での拠り所となるDNAとして位置づけられています。また、安全・品質・環境は企業活動継続の絶対条件であるとしています。

(3) 経営計画・目標


2030年度をゴールとする経営計画「Mission 2030」を推進しています。事業価値創造、人財価値創造、経営価値創造の3つを成長戦略とし、全事業を「3つ星事業」とすることを目指しています。

* 売上高:6,000億円以上
* 営業利益:1,000億円以上
* 営業利益率:15%以上
* ROE:15%以上
* ROIC:10%以上

(4) 成長戦略と重点施策


「事業価値創造」では、ICT & Energy、Healthcare、Sustainable Livingの3つの注力分野に重点を置き、スペシャリティ・メガトレンド・サステナビリティの要素を備えた事業への転換を図ります。ポートフォリオ変革を推進し、クロロプレンゴム事業の抜本的対策や大船工場の稼働停止などの構造改革を実行しています。

* ICT & Energy:2030年営業利益目標450億円
* Healthcare:2030年営業利益目標400億円
* Sustainable Living:2030年営業利益目標150億円

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「人財価値創造」を掲げ、社員一人ひとりが自己実現と成長を実感できる企業を目指しています。「人財育成体制の強化」として将来の経営層育成や自ら学ぶ文化の醸成、「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンの推進」として多様な人材が活躍できる環境づくり、「健康経営と働き方改革」を進めています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均とほぼ同じ水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 40.6歳 16.0年 7,515,305円


※平均年間給与は、時間外手当等の基準外賃金および賞与手当を含んでいます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 5.4%
男性育児休業取得率 73.5%
男女賃金差異(全労働者) 61.9%
男女賃金差異(正規雇用) 70.5%
男女賃金差異(非正規雇用) 40.9%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、温室効果ガス排出量(175万t-CO2)、労働災害度数率(0.73)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 外部事業環境等


自動車や電子部品などの需要動向、原油やナフサなどの原燃料市況、為替相場の変動などが経営成績に影響を与える可能性があります。これに対し、スペシャリティ・メガトレンド・サステナビリティの要素を備えた「3つ星事業」への転換を進め、外部環境の変化に左右されにくい企業体質の強化を図っています。

(2) 品質、製造物責任


製品やサービスに品質問題が発生した場合、業績や財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。過去の認証不正等の再発防止策を推進し、是正処置を行っています。また、本社、事業部門、生産拠点による3層の品質保証体制を構築し、品質管理と改善に努めています。

(3) 事故・自然災害


重大な産業事故や地震、気候変動による自然災害が発生した場合、人的・物的損害や生産停止が生じるリスクがあります。安全最優先を掲げ、リスクアセスメントの向上や安全教育、安全監査などの対策を進めていますが、万一の際には業績に悪影響を及ぼす可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


関連記事

デンカの転職研究 2026年3月期2Q決算に見るキャリア機会

デンカの2026年3月期2Q決算は、米国子会社の操業停止やセメント事業撤退など、痛みを伴う不採算事業の整理を断行した中間期となりました。一方で生成AI向け材料が利益を牽引。「なぜ今デンカなのか?」「転職希望者がどの事業で、どんな変革を担えるのか」を整理します。