#記事タイトル:堺化学工業転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態
※本記事は、株式会社堺化学工業 の有価証券報告書(第130期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 堺化学工業ってどんな会社?
創業100年を超える化学メーカーで、酸化チタンや電子材料、医薬品など多岐にわたる化学製品の製造販売を展開しています。
■(1) 会社概要
同社は1918年に堺精煉所として創業し、1932年に現在の社名へ変更しました。1961年に東京証券取引所へ上場し、長年にわたり事業を拡大しています。2012年には株式会社カイゲン(現カイゲンファーマ株式会社)を完全子会社化して医療事業を強化し、2023年には堺商事株式会社を完全子会社化しました。2022年の市場区分見直しにより、現在はプライム市場に上場しています。
2025年3月31日時点で、同社グループの従業員数は連結1,972名、単体808名です。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位も同様に資産管理を行う株式会社日本カストディ銀行(信託口)です。第3位は外国法人等向けの金融サービスを提供するCEPLUX THE INDEPENDENT UCITS PLATFORMとなっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 13.85% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 8.76% |
| CEPLUX THE INDEPENDENT UCITS PLATFORM | 5.62% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性1名の計11名で構成され、女性役員比率は9.1%です。代表取締役社長執行役員は矢倉敏行氏です。社外取締役比率は36.4%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 矢倉 敏行 | 代表取締役社長執行役員 | 1988年4月同社入社。経営企画室長、人事総務部長、取締役管理本部長、取締役執行役員管理本部長などを経て、2022年6月より現職。 |
| 岡本 康寛 | 取締役 執行役員小名浜事業所長生産技術本部長 | 1987年4月同社入社。無機材料事業部製造部長、取締役生産技術本部長兼堺事業所長などを経て、2024年6月より現職。 |
| 服部 浩之 | 取締役 執行役員経営戦略本部長経理部長 | 1988年4月同社入社。カイゲンファーマ取締役総務部長、同社取締役経営戦略副本部長兼経理部長などを経て、2023年6月より現職。 |
| 真柄 光一郎 | 取締役 執行役員研究開発本部長 | 1990年4月同社入社。機能材料部長、小名浜事業所松原工場長、執行役員研究開発本部副本部長を経て、2024年6月より現職。 |
社外取締役は、伊藤善計(元クノール食品社長)、和田浩美(元パナソニック理事)、松田充功(元アステラス製薬上席執行役員)、宮川壽夫(大阪公立大学大学院教授)です。
2. 事業内容
同社グループは、「電子材料」「化粧品材料」「有機化学品」「衛生材料」「受託加工」「酸化チタン・亜鉛製品」「樹脂添加剤」「触媒」「無機材料」「医療事業」および「その他」事業を展開しています。
■電子材料
高純度誘電体粉末、高輝度無機発光材料等の製造販売を行っています。電子部品メーカー等が主な顧客です。
製品の販売代金が主な収益源です。製造販売は同社が行うほか、堺商事、SAKAI TRADING NEW YORK INC.、堺商事貿易(上海)有限公司、台湾堺股份有限公司、SAKAI TRADING (THAILAND) CO.,LTD.などが販売を行っています。
■化粧品材料
超微粒子酸化亜鉛、板状硫酸バリウム等の製造販売を行っています。化粧品メーカー等が主な顧客です。
製品の販売代金が主な収益源です。製造販売は同社が行うほか、堺商事、SAKAI TRADING NEW YORK INC.、台湾堺股份有限公司などが販売を行っています。
■有機化学品
有機イオウ化合物、医薬品原薬・中間体等の製造販売を行っています。化学メーカーや製薬会社等が主な顧客です。
製品の販売代金や受託製造料が主な収益源です。製造販売は同社および株式会社片山製薬所が行うほか、堺商事、台湾堺股份有限公司などが販売を行っています。
■衛生材料
高吸収性ポリマー、通気性フィルム等の製造販売を行っています。衛生用品メーカー等が主な顧客です。
製品の販売代金が主な収益源です。PT. S&S HYGIENE SOLUTIONで製造販売するほか、堺商事、SAKAI TRADING (THAILAND) CO.,LTD.などが販売を行っています。
■受託加工
カラー舗装・塗工剤等の受託加工を行っています。建材メーカー等が主な顧客です。
加工賃が主な収益源です。レジノカラー工業株式会社および日本カラー工業株式会社で製造販売するほか、堺商事で販売を行っています。
■酸化チタン・亜鉛製品
ルチル型酸化チタン、酸化亜鉛等の製造販売を行っています。塗料・インキ・樹脂メーカー等が主な顧客です。
製品の販売代金が主な収益源です。製造販売は同社および常磐化成株式会社が行うほか、堺商事、SAKAI TRADING NEW YORK INC.、堺商事貿易(上海)有限公司などが販売を行っています。
■樹脂添加剤
金属石鹸、錫系安定剤等の製造販売を行っています。樹脂加工メーカー等が主な顧客です。
製品の販売代金が主な収益源です。製造販売は同社および共同薬品株式会社、SAKAI CHEMICAL (VIETNAM) CO.,LTD.、SIAM STABILIZERS AND CHEMICALS CO., LTD.が行うほか、堺商事、台湾堺股份有限公司などが販売を行っています。
■触媒
脱硝触媒、還元ニッケル触媒等の製造販売を行っています。電力会社や化学プラント等が主な顧客です。
製品の販売代金が主な収益源です。製造販売は同社が行うほか、堺商事、SAKAI TRADING NEW YORK INC.、堺商事貿易(上海)有限公司、SAKAI TRADING (THAILAND) CO.,LTD.などが販売を行っています。
■無機材料
硫酸バリウム、炭酸ストロンチウム等の製造販売を行っています。塗料・インキメーカー等が主な顧客です。
製品の販売代金が主な収益源です。製造販売は同社が行うほか、堺商事、SAKAI TRADING NEW YORK INC.、堺商事貿易(上海)有限公司、台湾堺股份有限公司などが販売を行っています。
■医療事業
医療用医薬品、一般用医薬品、医療機器等の製造販売を行っています。医療機関やドラッグストア等が主な顧客です。
製品の販売代金が主な収益源です。カイゲンファーマ株式会社で製造販売するほか、堺商事で販売を行っています。
■その他
リン酸化合物等の販売、酢酸ニッケル、路面標示剤等の製造販売を行っています。
製品の販売代金が主な収益源です。大崎工業株式会社で製造販売するほか、堺商事、SAKAI TRADING NEW YORK INC.、SAKAI AUSTRALIA PTY LTD.などが販売を行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
2024年3月期は大幅な最終赤字を計上しましたが、2025年3月期は売上高が増加し、利益面でもV字回復を果たして黒字転換しました。減損損失の減少などが寄与しています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 849億円 | 801億円 | 839億円 | 821億円 | 844億円 |
| 経常利益 | 40億円 | 88億円 | 49億円 | 31億円 | 63億円 |
| 利益率(%) | 4.7% | 11.0% | 5.8% | 3.7% | 7.4% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -41億円 | 46億円 | 14億円 | -77億円 | 62億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間では、売上高が増加し、売上原価率の改善等により売上総利益率が向上しました。これに伴い営業利益率も大きく改善しています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 821億円 | 844億円 |
| 売上総利益 | 169億円 | 203億円 |
| 売上総利益率(%) | 20.5% | 24.0% |
| 営業利益 | 29億円 | 61億円 |
| 営業利益率(%) | 3.6% | 7.2% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給与手当が42億円(構成比30%)、運送費が21億円(同14%)を占めています。売上原価については、原材料費などが主要な構成要素となっています。
■(3) セグメント収益
電子材料や化粧品材料などの成長事業が増収増益となり、全体の業績を牽引しました。一方で、有機化学品や酸化チタン・亜鉛製品などは減収となりましたが、酸化チタン・亜鉛製品は価格是正効果などで大幅な増益となりました。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 電子材料 | 79億円 | 100億円 | 6億円 | 15億円 | 14.9% |
| 化粧品材料 | 25億円 | 27億円 | 1億円 | 3億円 | 10.9% |
| 有機化学品 | 78億円 | 66億円 | 13億円 | 8億円 | 11.6% |
| 衛生材料 | 53億円 | 56億円 | 4億円 | 4億円 | 7.6% |
| 受託加工 | 62億円 | 64億円 | 6億円 | 6億円 | 9.7% |
| 酸化チタン・亜鉛製品 | 139億円 | 131億円 | -0.2億円 | 15億円 | 11.3% |
| 樹脂添加剤 | 133億円 | 131億円 | 8億円 | 14億円 | 10.7% |
| 触媒 | 32億円 | 32億円 | 4億円 | 0.2億円 | 0.6% |
| 無機材料 | 50億円 | 52億円 | 2億円 | 8億円 | 16.0% |
| 医療事業 | 81億円 | 83億円 | 1億円 | -0.2億円 | -0.3% |
| その他 | 90億円 | 102億円 | 8億円 | 12億円 | 11.5% |
| 調整額 | - | - | -22億円 | -24億円 | - |
| 連結(合計) | 821億円 | 844億円 | 29億円 | 61億円 | 7.2% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社のCF状態は「健全型」です。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 69億円 | 120億円 |
| 投資CF | -40億円 | -57億円 |
| 財務CF | 13億円 | -69億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は6.6%で市場平均(9.4%)を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は63.5%で市場平均(46.8%)を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「グループの総合力を最大限に高め、社会のニーズにタイムリーに応える事業活動を展開する。以て盤石な経営基盤を構築し社会的貢献を希求する」ことを経営理念としています。また、「化学でやさしい未来づくり」をミッションとし、ステークホルダーと共に持続可能な社会の実現を目指しています。
■(2) 企業文化
創業のきっかけである無鉛白粉原料の開発以来、「思いやりの心と技術革新」で社会の快適と安心を支える素材づくりにこだわってきました。社員が日々ワクワクして働くことで価値ある創造が継続できるとの考えから、能動的で躍動感に溢れる「わくわくカンパニー」を目指す文化を持っています。
■(3) 経営計画・目標
2024年にスタートした中期経営計画「変革・BEYOND2030」では、2027年3月期を最終年度とし、「Smart Materialで社会に貢献できるエクセレントカンパニー」を目指しています。
* ROE目標:8%
■(4) 成長戦略と重点施策
高付加価値品シフトを企図した事業ポートフォリオの入替えを進めます。具体的には、顔料級酸化チタン事業の2026年3月期終了と構造改革を実施し、電子材料・化粧品材料・有機化学品を成長ドライバーと位置づけてリソースを集中させます。また、資本コストを上回るROE達成のため、資産圧縮や資本効率向上に取り組みます。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「わくわくカンパニー」の実現に向け、ジョブローテーションによるキャリア形成支援や、ダイバーシティの推進、次代の経営人材育成に注力しています。多様な人材が健やかに働ける環境整備や、公的資格取得の奨励などにより、社員と会社の双方が成長し続けることを目指しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 42.3歳 | 15.4年 | 6,235,838円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 4.1% |
| 男性育児休業取得率 | 54.5% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 78.3% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 78.1% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 71.1% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、新規採用者に占めるキャリア採用者の割合(経験者採用比率)(28.2%)、中核人材に占める女性雇用率(10.6%)、年次有給休暇取得率(85.7%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 資材等の調達
原燃料や特定の輸入原料(酸化チタン、バリウム製品等)の価格高騰、供給の逼迫・遅延が生じた場合、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。これに対し、輸入原料の調達先分散化や、適正在庫の確保などの対策を行っています。
■(2) 環境規制
化学素材事業における環境負荷低減は重要課題です。環境関連規制の強化や環境税導入により大規模な設備投資が必要となった場合、業績や財務状況に影響を及ぼす可能性があります。各拠点で排水管理等を徹底し、生産効率向上による環境負荷低減に取り組んでいます。
■(3) 製造物責任
製品の品質問題、特に医薬品等でのGQP・GMPにおける不正逸脱等が発生した場合、販売中止や製品回収、社会的信用の失墜により、業績に影響を与える可能性があります。サプライチェーン全体の品質管理、製造物責任保険への加入、品質連絡会による予防活動などを行っています。
■(4) 自然災害・事故災害の影響
地震や台風等の災害による事業所の閉鎖や生産停止はリスク要因です。事業継続管理システム規程の制定や安否確認システムの導入、定期的な防災点検を行っていますが、想定外の大規模災害が発生した場合、影響を完全に防ぐことはできず、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。



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