※本記事は、堺化学工業株式会社の有価証券報告書(第131期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 堺化学工業ってどんな会社?
電子材料や化粧品材料などの化学工業製品を製造販売し、多彩な素材開発で社会に貢献する企業です。
■(1) 会社概要
同社は1918年に堺精煉所として創立され、1932年に現在の堺化学工業へと商号変更しました。1950年に大阪証券取引所へ上場し、1961年には東京証券取引所に上場しています。2012年にはカイゲンを完全子会社化して事業領域を拡大しました。現在は多種多様な化学製品を通じてやさしい未来社会の実現に貢献しています。
現在の従業員数は連結で1,942名、単体で769名となっています。筆頭株主および第2位の株主は資産管理業務を行う信託銀行であり、第3位には海外の機関投資家または資産管理ファンドが名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 14.90% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 8.90% |
| CEPLUX-THE INDEPENDENT UCITS PLATFORM 2 | 6.98% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性1名の計11名で構成され、女性役員比率は9.1%です。代表取締役社長執行役員は矢倉敏行氏が務めています。社外取締役比率は36.4%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 矢倉敏行 | 代表取締役社長執行役員 | 1988年に同社入社。経営企画室長、人事総務部長などを経て、2020年に取締役管理本部長に就任。2022年より現職。 |
| 岡本康寛 | 取締役執行役員 小名浜事業所長 生産技術本部長 | 1987年に同社入社。無機材料事業部製造部長などを経て、2015年に取締役生産技術本部長に就任。2024年より現職。 |
| 服部浩之 | 取締役執行役員 経営戦略本部長 経理部長 情報システム部長 | 1988年に同社入社。カイゲンファーマの取締役などを経て、2020年に同社取締役に就任。2026年より現職。 |
| 真柄光一郎 | 取締役執行役員 研究開発本部長 | 1990年に同社入社。機能材料部長や小名浜事業所松原工場長などを経て、2022年に執行役員に就任。2024年より現職。 |
社外取締役は、伊藤善計(元味の素食品専務取締役)、松田充功(元アステラス製薬上席執行役員)、宮川壽夫(元野村證券エグゼクティブ・マネージャー)、浜崎佳子(元パナソニック理事)です。
2. 事業内容
同社グループは、以下の各報告セグメントおよび「その他」事業を展開しています。
■電子材料
高純度誘電体材料や誘電体粉末の製造販売を行っており、AIサーバーや車載向けなど先端電子機器の性能向上に不可欠な素材を顧客に提供しています。
収益はこれらの電子材料製品の販売対価として顧客から得ています。運営は同社のほか、堺商事やSAKAI TRADING NEW YORK INC.等のグループ会社で行っています。
■化粧品材料
超微粒子酸化亜鉛や板状硫酸バリウム等の製造販売を展開しており、主に国内外の化粧品メーカーに向けて紫外線防御やメイクアップ用途の高品質な素材を提供しています。
収益は化粧品材料の販売代金として顧客から受け取っています。運営は同社を中心に、堺商事や台湾堺股份有限公司などが販売を担っています。
■有機化学品
有機イオウ化合物や医薬品原薬・中間体等の製造販売を行っています。特にプラスチックレンズ向け材料やセメント添加剤、医薬品メーカー向けの受託製造を提供しています。
収益は化学製品の販売および医薬品原薬・中間体の受託製造に対する対価から得ています。運営は同社および片山製薬所が製造を担い、堺商事などが販売を行っています。
■衛生材料
高吸収性ポリマーや通気性フィルム等の製造販売を行っています。主におむつやフェミニンケア用品などの衛生用品を製造する国内外の顧客に対して部材を提供しています。
収益はこれらの衛生関連部材の販売代金として顧客から受け取っています。製造運営はPT. S&S HYGIENE SOLUTIONが担い、販売は堺商事などが行っています。
■受託加工
カラー舗装や塗工剤のほか、混合、ろ過水洗、乾燥、焼成等の工程受託加工を提供しています。多種多様なニーズを持つ顧客に対し、高度な分散・配合技術を駆使した加工を行っています。
収益は顧客からの受託加工手数料および製品販売代金として得ています。運営は主にレジノカラー工業および日本カラー工業が担っています。
■酸化チタン・亜鉛製品
ルチル型酸化チタンや酸化亜鉛等の製造販売を行っており、塗料やタイヤゴム市場の顧客に対して環境に配慮した無機材料を提供しています(なお酸化チタン事業は終了を予定しています)。
収益はこれら製品の販売対価として顧客から受け取っています。運営は同社および常磐化成が製造を担い、堺商事や関連子会社が販売を行っています。
■樹脂添加剤
金属石鹸や錫系安定剤などの製造販売を行っています。主に塩化ビニール樹脂を製造する国内外のメーカーに向けて、機能性を高める添加剤を提供しています。
収益は樹脂添加剤製品の販売代金から得ています。運営は同社および共同薬品、SAKAI CHEMICAL (VIETNAM) CO.,LTD.などが製造販売を行っています。
■触媒
脱硝触媒や還元ニッケル触媒等の製造販売を行っており、火力発電所やごみ焼却施設、光学フィルムなどの製造メーカーに向けて環境改善や化学反応を促進する触媒を提供しています。
収益は触媒製品の販売対価として顧客から受け取っています。運営は同社が製造を担い、堺商事や海外の販売子会社がグローバルに販売を行っています。
■無機材料
硫酸バリウムや炭酸ストロンチウム等の製造販売を展開しています。塗料やインキのほか、メガネレンズ等の高屈折材料向けに特徴ある機能的なバリウム化合物などを提供しています。
収益は無機材料の販売代金として顧客から得ています。運営は同社が製造を担い、販売は堺商事や堺商事貿易(上海)有限公司などのグループ会社で行っています。
■医療事業
医療用医薬品、一般用医薬品、医療機器等の製造販売を行っています。医療機関や一般消費者に向けて、消化器領域の検査薬や風邪薬「改源」、内視鏡洗浄消毒器などを提供しています。
収益は医薬品や医療機器の販売代金、および無償保証サービス等を含む契約対価から得ています。運営は主にカイゲンファーマが製造販売を担っています。
■その他
リン酸化合物や酢酸ニッケル、路面標示材等の製造販売を行っています。幅広い産業分野の顧客に向けた特殊な化学材料の提供を通じて、ニッチな市場ニーズに対応しています。
収益はこれら各種製品の販売代金として顧客から受け取っています。運営は大崎工業が製造を担い、堺商事やSAKAI AUSTRALIA PTY LTD.などが販売を行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績を見ると、売上高は800億円台で安定して推移していますが、利益面では変動が見られます。特に2024年3月期は大幅な最終赤字を計上しましたが、翌期以降は経常利益率が7%〜8%台に回復しています。直近の2026年3月期は、減損損失などの特別損失計上により当期利益が減少したものの、本業の収益力を示す経常利益は底堅く推移しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 801億円 | 839億円 | 821億円 | 844億円 | 814億円 |
| 経常利益 | 88億円 | 49億円 | 31億円 | 63億円 | 65億円 |
| 利益率(%) | 11.0% | 5.8% | 3.7% | 7.4% | 8.0% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 46億円 | 14億円 | -77億円 | 62億円 | 8億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は前年比で減少したものの、売上総利益と営業利益はともに増加しています。価格是正や高付加価値品へのシフトが進んだことで売上総利益率が改善し、これに伴い営業利益率も上昇基調にあります。効率化検討事業の改善や成長事業への注力が利益率向上の要因となっています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 844億円 | 814億円 |
| 売上総利益 | 203億円 | 207億円 |
| 売上総利益率(%) | 24.0% | 25.4% |
| 営業利益 | 61億円 | 65億円 |
| 営業利益率(%) | 7.2% | 8.0% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給与手当が43億円(構成比30%)、運送費が19億円(同13%)を占めています。
■(3) セグメント収益
電子材料や有機化学品など複数の事業で増収を記録していますが、化粧品材料や酸化チタン・亜鉛製品事業の減収が影響し、全体としては微減収となりました。化粧品材料は中国向けの需要減、酸化チタン事業は撤退に向けた事業終了のプロセスが進んでいることが主な要因となっています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 電子材料 | 100億円 | 114億円 |
| 化粧品材料 | 27億円 | 17億円 |
| 有機化学品 | 66億円 | 72億円 |
| 衛生材料 | 56億円 | 54億円 |
| 受託加工 | 64億円 | 67億円 |
| 酸化チタン・亜鉛製品 | 131億円 | 102億円 |
| 樹脂添加剤 | 131億円 | 115億円 |
| 触媒 | 32億円 | 35億円 |
| 無機材料 | 52億円 | 51億円 |
| 医療事業 | 83億円 | 84億円 |
| その他 | 102億円 | 104億円 |
| 連結(合計) | 844億円 | 814億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業である「健全型」のキャッシュ・フローとなっています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 120億円 | 145億円 |
| 投資CF | -57億円 | -46億円 |
| 財務CF | -69億円 | -106億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は3.5%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は66.3%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「グループの総合力を最大限に高め、社会のニーズにタイムリーに応える事業活動を展開する。以て盤石な経営基盤を構築し社会的貢献を希求する」ことを経営理念に掲げています。「化学でやさしい未来づくり」をミッションとし、各ステークホルダーとともに持続可能なやさしい未来社会を実現する素材づくりにこだわっています。
■(2) 企業文化
社員が日々ワクワクして働いてこそ価値ある創造が継続できるとの考えから、働く社員が能動的で躍動感に溢れる「わくわくカンパニー」を目指しています。また、思いやりの心と技術革新で社会の快適と安心を支えるという創業以来の価値観を重んじ、多様な人材が健やかに働ける柔軟な環境の整備を推進しています。
■(3) 経営計画・目標
グループ中期経営計画「変革・BEYOND2030」をスタートさせ、高付加価値品シフトを企図した事業ポートフォリオの入替えや資本効率の向上を推進しています。中長期的には「Smart Materialで社会に貢献できるエクセレントカンパニー」を目指し、以下の数値を目標として掲げています。
* 2027年3月期のROE目標:8.0%
* 運転資金の圧縮:70億円(3年間)
■(4) 成長戦略と重点施策
顔料級酸化チタン事業の終了など効率化検討事業の構造改革を進め、成長事業である電子材料、化粧品材料、有機化学品へリソースを集中させます。M&Aや既存事業への積極投資を行い、高付加価値製品の開発・拡販に努めるほか、サステナビリティ推進や人的資本経営の取り組みを強化し、持続的な利益成長と企業価値の向上を図ります。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「わくわくカンパニー」の実現を目指し、社員の成長を支援する人材育成方針を定めています。専門性やスキルを磨き上げるためのジョブローテーションの実施やキャリア形成支援、多様な人材が活躍できる柔軟な社内環境の整備を進め、個人と組織が持続的に成長できる強い企業への変革に取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 41.7歳 | 16.5年 | 6,544,836円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 3.5% |
| 男性育児休業取得率 | 57.1% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 77.4% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 76.1% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 69.8% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、新規採用者に占めるキャリア採用者の割合(43.8%)、年次有給休暇取得率(71.1%)、エンゲージメントスコア(65.1)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 原燃料の調達遅延と価格高騰
重油や非鉄金属などの原燃料において、カントリーリスクの比較的高い地域からの輸入依存や、国内での調達先が限られる特殊な原料・資材について価格高騰や供給逼迫が生じた場合、同社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。これに対し、複数の国や調達先を確保し、余裕を持った在庫運用を行っています。
■(2) 環境規制強化に伴うコスト増加
同社グループは化学素材を主体としているため、資源やエネルギーの大量消費による環境負荷が課題となります。環境負荷低減のための設備管理やモニタリングを実施していますが、今後、環境税の導入や環境関連規制の強化により大規模な設備投資が必要となった場合、業績や財務状況に影響を及ぼす可能性があります。
■(3) 製品の品質問題と製造物責任
同社の製品は電子機器や医薬品など暮らしに身近なものから社会インフラまで広範に使われています。万一、製品の品質に問題が生じた場合や、医薬品の製造管理・品質管理基準(GMP等)において問題が発生した場合には、製品の回収や社会的信頼の喪失を招き、同社グループの業績に重大な影響を与える可能性があります。



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