高圧ガス工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

高圧ガス工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

高圧ガス工業は東証プライム市場に上場し、溶解アセチレンをはじめとする各種高圧ガスの製造販売を行うガス事業と、接着剤や塗料を扱う化成品事業を主力としています。直近の業績は、売上高が微減となった一方で経常利益は増益を確保しており、堅実な事業運営により安定した収益基盤と高い自己資本比率を維持しています。


※本記事は、高圧ガス工業株式会社の有価証券報告書(第93期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 高圧ガス工業ってどんな会社?


同社は国内シェアの高い溶解アセチレンを主力とするガス事業と、接着剤などを扱う化成品事業を展開する化学メーカーです。

(1) 会社概要


同社は1958年に中部ガス産業として設立され、溶解アセチレンやその原材料の販売を開始しました。1962年に現在の高圧ガス工業に商号を変更し、同年に大阪証券取引所市場第二部へ上場を果たしました。その後、1978年に東京証券取引所市場第一部へ指定され、市場再編を経て現在は東京証券取引所プライム市場に上場しています。

同社グループは、連結で2005名、単体で606名の従業員を擁しています。筆頭株主は同社の取引先会社で構成される持株会であるこうあつ共栄会で、第2位は事業会社であるデンカ、第3位は共栄火災海上保険となっています。

氏名 持株比率
こうあつ共栄会 13.51%
デンカ 9.88%
共栄火災海上保険 7.25%

(2) 経営陣


同社の役員は男性8名、女性1名の計9名で構成され、女性役員比率は11.1%です。代表取締役社長は黒木幹也氏が務めています。社外取締役比率は44.4%です。

氏名 役職 主な経歴
黒木幹也 代表取締役社長 1988年同社入社。東京事務所長やガス事業本部関東地区長等を経て2017年専務取締役に就任。2021年より現職。
説田和洋 代表取締役副社長兼化成品事業本部長 1988年同社入社。化成品事業本部長などを歴任し、2011年取締役に就任。常務、専務を経て2021年より現職。
森本孝 取締役ガス事業本部長 1986年同社入社。ガス事業本部東海地区長を経て2015年取締役に就任。2021年ガス事業本部長となり2023年より現職。
池田佳弘 取締役管理本部長 1989年同社入社。東京事務所管理本部総務部部長、経営企画部長等を経て2018年取締役に就任。2023年より現職。
松井良祐 取締役(常勤監査等委員) 1985年同社入社。管理本部長等を経て2018年常勤監査役に就任。2021年より現職。


社外取締役は、中野健次(元デンカ取締役兼常務執行役員)、山村忠夫(山村忠夫法律事務所開設)、長島広明(長島公認会計士事務所開設)、西片和代(元阪本豊起法律事務所所属)です。

2. 事業内容


同社グループは、「ガス事業」「化成品事業」および「その他」事業を展開しています。

ガス事業


建設、橋梁、造船、機械などの幅広い産業分野向けに、溶解アセチレンを主体として酸素、窒素、アルゴンなどの各種高圧ガスや石油系ガスの製造販売を行っています。また、高圧ガス関連材料や溶接溶断関連機器などの仕入販売、設備の賃貸も手掛けており、とくに溶解アセチレンについては国内で高いシェアを有しています。

同事業は高圧ガス工業を中心に、宇野酸素やKGKサービスなどの複数の子会社を通じて全国的なネットワークで展開されています。顧客への製品供給は、主にグループ内の物流組織によって行われ、安定的な供給体制を構築しています。

化成品事業


合成樹脂系接着剤を主体に、瞬間接着剤や塗料などの製造販売および仕入販売を行っています。紙工や木工分野などの生活に密着した用途から、住宅、自動車、医療分野などの高付加価値製品まで幅広く展開しており、塗装や防水工事業なども手掛けています。

同事業の運営は高圧ガス工業のほか、スズカファインやベトナムの現地子会社などが担っています。国内市場で蓄積した事業ノウハウを活かし、アジア圏を中心とした海外市場への展開も積極的に推進しています。

その他事業


LSIカードを主体に、ディスプレイタグなどの電子ペーパー応用製品や周辺機器の販売、および食品添加物の販売を行っています。

同事業の販売や運営は、主にスミコエアーなどの子会社を通じて行われています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績を見ると、売上高は900億円台後半で安定的に推移しており、経常利益も60億円を超える水準を維持しています。利益率も堅実であり、強固な事業基盤を背景に安定した当期利益を継続して創出しています。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 821億円 909億円 926億円 983億円 980億円
経常利益 54億円 58億円 67億円 66億円 70億円
利益率(%) 6.6% 6.4% 7.2% 6.8% 7.1%
当期利益(親会社所有者帰属) 30億円 33億円 35億円 43億円 40億円

(2) 損益計算書


売上高は前期比で微減となったものの、原価低減などの取り組みにより売上総利益は増加しています。一方で、販売費および一般管理費が増加した影響により、営業利益はわずかに減少する結果となりました。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 983億円 980億円
売上総利益 256億円 258億円
売上総利益率(%) 26.1% 26.3%
営業利益 60億円 59億円
営業利益率(%) 6.1% 6.0%


販売費及び一般管理費(206億円)のうち、給料が54億円(構成比26%)、運賃が39億円(同19%)を占めています。なお、売上原価の合計は722億円となっています。

(3) セグメント収益


ガス事業は産業ガス需要の減少により売上が横ばいでしたが、化成品事業では取扱商品の増加により売上が微増しました。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期)
ガス事業 728億円 728億円
化成品事業 217億円 217億円
その他事業 39億円 35億円
連結(合計) 983億円 980億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業CFがプラス、投資CFがマイナス、財務CFがマイナスとなっており、営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業である「健全型」に該当します。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 64億円 80億円
投資CF -51億円 -44億円
財務CF -11億円 -63億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は5.7%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は68.2%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは「人と技術と環境の調和。無限の可能性に挑む。」を企業理念に掲げています。創業の精神を忘れず、アセチレンバウム(アセチレンの樹)の夢を追い求めて限りない可能性の炎を燃やし続ける企業を目指し、株主、取引先、従業員を三位一体と考えて社会に貢献する経営を行っています。

(2) 企業文化


「安全・安心をすべての基本姿勢」とすることを創業以来一貫して貫いています。全般的な経営の効率化を地道に推進し、企業体質の健全性を維持しながら存在感のあるグループ企業を目指すとともに、公正妥当な倫理基準に基づいた事業活動を重視する文化が定着しています。

(3) 経営計画・目標


中期経営計画「Challenging 2030」(2026年4月〜2031年3月)を推進し、持続的成長と企業価値の向上を目指しています。最終年度となる2030年度(第98期)には、以下の数値目標の達成を掲げています。

* 売上高1,200億円
* 営業利益85億円

(4) 成長戦略と重点施策


ガス事業、化成品事業、ITソリューション事業の3本柱を軸に成長を図ります。シリンダーガスビジネスの最大化やカーボンナノチューブなどの事業化を進めるとともに、接着剤・塗料の国内生産強化と海外市場開拓を推進します。あわせて、人材開発や人事制度の拡充による成長基盤の構築にも注力しています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


多様な知識や経験を有する人材の確保と能力発揮を競争力の源泉と位置づけ、年齢や性別、国籍等にかかわらず多様な人材を採用する方針を掲げています。OJTとOff-JTを組み合わせた階層別研修や資格取得支援を通じて計画的な育成を進め、評価体系の見直しや福利厚生の充実など、人的資本への積極的な投資を行っています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 40.8歳 14.2年 6,225,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
男性労働者の育児休業取得率 60.0%
労働者の男女の賃金の差異(全労働者) 75.0%
労働者の男女の賃金の差異(正規雇用労働者) 75.3%
労働者の男女の賃金の差異(パート・有期労働者) 64.5%


同社および連結子会社は規定による公表を行なっていない項目または公表義務の対象ではないため、有報には女性管理職比率の記載がありません。

また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、年次有給休暇取得率(63.2%)、女性総合職割合(4.4%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 市場の需要・競争によるリスク


主要な需要先である鉄鋼、自動車、化学、半導体などの産業分野において国内市場の成長鈍化や競争が激化した場合、同社グループが製品や販売価格などで十分な競争優位性を維持できなくなり、経営成績や財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

(2) 原料・物流コスト上昇のリスク


原油価格の変動や地政学的要因により、ナフサなどの仕入価格が高騰するリスクがあります。加えて、燃料費の高騰やドライバー不足による人件費の上昇など、物流コストが急激に上昇する可能性もあり、これらが同社グループの収益に悪影響を及ぼすリスクを抱えています。

(3) 情報セキュリティに関するリスク


サイバー攻撃の巧妙化により、事業上の重要情報や個人情報などが漏洩するリスク、またはシステム停止を引き起こすリスクが高まっています。同社グループでは、セキュリティツールの導入やインシデント対応訓練の実施などを通じて、管理体制の継続的な強化に努めています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。