日本化学工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

日本化学工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証プライム上場の化学メーカーです。無機・有機化学製品や電子材料等の製造販売を主力とし、グローバルに展開しています。直近決算では、電子材料分野の一部回復や価格改定が進んだことなどから、売上高388億円、経常利益32億円、当期純利益26億円といずれも前年を上回り、増収増益を達成しました。


※本記事は、日本化学工業株式会社 の有価証券報告書(第167期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 日本化学工業ってどんな会社?


創業130年以上の歴史を持つ化学メーカーで、無機・有機化学品から電子材料等の機能品まで幅広く展開しています。

(1) 会社概要


1893年に棚橋製薬所として創業し、1915年に日本製錬へ改組しました。1949年に東京証券取引所へ上場し、2012年には日本電工のクロム塩事業を譲受するなど事業基盤を強化しています。近年では海外展開も進めており、2024年6月には台湾に現地法人を設立し、アジア地域での販売体制強化を図っています。

同社の従業員数は連結732名、単体665名です。大株主の構成を見ると、筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位は取引先企業で構成される持株会、第3位は証券会社関連の法人が名を連ねています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) 11.03%
日本化学工業取引先持株会 9.89%
INTERACTIVE BROKERS LLC 4.59%

(2) 経営陣


同社の役員は男性5名、女性1名の計6名で構成され、女性役員比率は16.6%です。代表取締役社長は棚橋洋太氏が務めています。社外取締役比率は50.0%です。

氏名 役職 主な経歴
棚橋 洋太 代表取締役社長取締役会議長及び経営会議議長 2000年住友スリーエム(現スリーエムジャパン)入社。2007年同社入社後、経営企画室長、営業本部長、専務執行役員などを経て、2017年より現職。
愛川 浩功 取締役兼常務執行役員生産技術本部管掌兼研究開発本部管掌 1981年同社入社。徳山工場長、研究開発本部長、生産技術本部長などを歴任し、2022年より現職。
佐藤 学 取締役(常勤監査等委員) 1987年同社入社。経理部長を経て、2021年より現職。


社外取締役は、遠山壮一(遠山公認会計士事務所代表)、多田智子(多田国際社会保険労務士法人代表社員)、剱持健(剱持健公認会計士事務所代表)です。

2. 事業内容


同社グループは、「化学品事業」「機能品事業」「賃貸事業」および「その他」事業を展開しています。

化学品事業

クロム製品、シリカ製品、燐製品などの工業薬品を製造・販売しています。これらの製品は、めっき、耐火レンガ、顔料、古紙脱インク、食品添加剤など幅広い産業分野で使用されており、国内製造業を支える基礎素材として重要な役割を担っています。

収益は、製品の販売代金として顧客から受け取ります。運営は主に日本化学工業が行い、一部製品については子会社の東邦顔料工業や関連会社の京葉ケミカルなどが製造・販売を担っています。また、一部原材料の仕入を海外子会社等から行っています。

機能品事業

電子セラミック材料、電池材料、回路材料、高純度電子材料などを製造・販売しています。積層セラミックコンデンサ用材料やリチウムイオン電池用正極材、半導体向け高純度ガスなど、エレクトロニクスや自動車関連の先端分野に向けた高付加価値製品を提供しています。

収益は、製品の販売代金として顧客から受け取ります。運営は主に日本化学工業が行い、海外子会社のJCI USA INC.やJCI(THAILAND)CO.,LTD.などが販売拠点として機能しています。技術力の高さを背景に、特定顧客との強固な取引関係を築いています。

賃貸事業

大阪府大阪市西淀川区と福島県郡山市において不動産賃貸を行っています。

収益は、土地・建屋の賃貸料としてテナント(病院・小売業等)から受け取ります。運営は日本化学工業が行っています。

その他

上記セグメントに含まれない事業として、環境測定や分析業務などを行っています。

収益は、サービスの対価として顧客から受け取ります。運営は主に子会社のニッカシステムや日本化学環境センターが行っています。なお、書店事業については撤退しました。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績を見ると、売上高は300億円台後半で推移しており、底堅い動きを見せています。利益面では、2023年3月期に一時的な落ち込みが見られましたが、その後は回復基調にあり、直近の2025年3月期には経常利益32億円、当期純利益26億円と高い水準を記録しました。利益率も改善傾向にあります。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 346億円 373億円 381億円 385億円 388億円
経常利益 23億円 39億円 14億円 24億円 32億円
利益率(%) 6.7% 10.4% 3.7% 6.2% 8.2%
当期利益(親会社所有者帰属) 21億円 37億円 7億円 15億円 26億円

(2) 損益計算書


直近2期間を比較すると、売上高は微増ながら、売上総利益が大きく伸長しました。これは原価率の改善などが寄与したと考えられます。販売費及び一般管理費は増加傾向にありますが、売上総利益の増加がそれを上回り、営業利益は前期比で約11億円の増益となりました。営業利益率は8.6%まで向上しています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 385億円 388億円
売上総利益 73億円 88億円
売上総利益率(%) 19.0% 22.5%
営業利益 23億円 33億円
営業利益率(%) 5.9% 8.6%


販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が16億円(構成比30%)、運送費及び保管費が9億円(同17%)を占めています。売上原価については、原材料費や製造経費などが含まれています。

(3) セグメント収益


化学品事業は売上・利益ともに増加し、安定した収益源となっています。機能品事業は売上が微減したものの、利益率は大幅に改善し、増益となりました。賃貸事業は安定的に推移しています。全社的に利益率が向上しており、特に化学品と機能品の収益性改善が全体の増益を牽引しました。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期) 利益(2024年3月期) 利益(2025年3月期) 利益率
化学品事業 178億円 183億円 11億円 15億円 8.4%
機能品事業 191億円 189億円 6億円 12億円 6.4%
賃貸事業 9億円 9億円 5億円 5億円 59.4%
その他 8億円 8億円 0.5億円 0.3億円 4.1%
調整額 -4億円 -4億円 0.3億円 0.1億円 -
連結(合計) 385億円 388億円 23億円 33億円 8.6%

(4) キャッシュ・フローと財務指標

日本化学工業は、事業運営に必要な流動性と資金源泉の安定確保を基本方針としています。

営業活動によるキャッシュ・フローは、化学品事業のクロム製品が好調だった一方、シリカ製品は需要減や原燃料価格上昇の影響を受けました。機能品事業では、ホスフィン誘導体が海外向け触媒の落ち込みを、量子ドット向けや有機合成用触媒原料の伸びでカバーしましたが、回路材料や高純度電子材料は一部製品の需要低調により売上高が減少しました。財務活動によるキャッシュ・フローは、金融機関とのコミットメントライン契約により機動的な資金調達を図っています。投資活動によるキャッシュ・フローについては、有価証券報告書に具体的な記載はありませんでした。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 62億円 64億円
投資CF -44億円 -51億円
財務CF -9億円 -24億円

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は「人を大切に、技を大切に」を経営理念として掲げています。130年以上の伝統と実績を受け継ぎ、どのような市場環境の変化においても高収益体質を実現し、蓄積してきた「人と技術」を通じて高品質な製品とサービスを提供することで、価値創造企業への挑戦を続けることを基本方針としています。

(2) 企業文化


サステナビリティ経営の実践を重視し、環境・社会・経済のバランスを大切にする文化があります。環境負荷低減や社会課題解決への貢献を目指し、法令遵守やワークライフバランスの重視、強靭なサプライチェーン構築などに取り組んでいます。また、BCP(事業継続計画)体制の整備など、リスク管理にも組織的に取り組む姿勢を持っています。

(3) 経営計画・目標


2024年度から2026年度までの中期経営計画において、最終年度の目標数値を設定しています。持続的な成長と企業価値向上を目指し、資本コストを意識した経営を推進しています。

* 売上高:490億円
* 営業利益:33億円
* EBITDA:80億円
* ROE:6%

(4) 成長戦略と重点施策


「事業拡大と体質強化」「グローバル化の推進」「新たな価値の創造」の3つを重点施策としています。電子セラミック材料への投資継続や半導体材料の効率化、海外拠点の連携強化による現地ニーズ対応などを進めています。また、外部リソースを活用した技術プラットフォームの拡大や、カーボンニュートラル等の社会課題解決に繋がる製品開発にも挑戦しています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「多様な人材の確保」「人材の育成」「職場環境の整備」を3つの方針として掲げています。女性活躍やキャリア採用、外国人採用を推進するとともに、体系的な教育制度やコーチング・プログラムを通じて自律的な人材育成を図っています。また、ワークライフバランスの充実や健康経営、労働安全衛生の推進により、社員が安心して働ける環境づくりを目指しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 41.4歳 19.0年 6,900,000円


※平均年間給与は基準外賃金及び賞与を含んでおります。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 4.6%
男性育児休業取得率 91.7%
男女賃金差異(全労働者) 79.9%
男女賃金差異(正規雇用) 79.7%
男女賃金差異(非正規) 87.7%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性採用比率(16%)、キャリア採用比率(40%)、有給休暇取得率(78%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 経済変動に係るリスク

基礎化学品からスペシャリティケミカルまで多種多様な製品をグローバルに展開しているため、販売国・地域の経済状況や、最終用途である自動車・電子部品業界の生産動向の変化が、経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

(2) 原材料調達及び価格変動リスク

地政学的リスクや環境問題等によりサプライヤーが生産停止した場合の調達難や、需給逼迫による価格上昇のリスクがあります。これらにより納入遅延やコスト増が発生し、業績に悪影響を与える可能性があります。

(3) 気候変動への対応

脱炭素社会への移行に伴う炭素税導入やエネルギー価格上昇によるコスト増が想定されます。また、異常気象による自然災害が発生した場合、製造拠点の被災やサプライチェーンの断絶により、操業停止等の甚大な被害を受ける可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。