日本触媒 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

日本触媒 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東京証券取引所プライム市場に上場する化学メーカーです。マテリアルズ事業とソリューションズ事業を展開し、アクリル酸や高吸水性樹脂などを製造販売しています。2025年3月期の連結業績は、売上収益4,093億円、当期利益174億円となり、前期比で増収増益を達成しました。


※本記事は、株式会社日本触媒 の有価証券報告書(第113期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月17日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。

1. 日本触媒ってどんな会社?


独自の触媒技術を核に、紙おむつ原料の高吸水性樹脂やアクリル酸など多様な化学品をグローバルに提供する企業です。

(1) 会社概要


1941年にヲサメ合成化学工業として設立され、1949年に日本触媒化学工業へ社名変更しました。1952年に大阪証券取引所、1956年に東京証券取引所へ上場し、1991年に現在の株式会社日本触媒へ商号を変更しています。2002年には住友化学工業との事業交換によりアクリル酸事業を譲り受けました。

連結従業員数は4,685名、単体では2,541名です。筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位はエネルギー・素材事業を展開するENEOSホールディングス、第3位は資産管理業務を行う信託銀行です。同社は化学品の製造販売を主軸に、グローバルな供給体制を構築しています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) 11.83%
ENEOSホールディングス株式会社 5.61%
株式会社日本カストディ銀行(信託口) 3.80%

(2) 経営陣


同社の役員は男性10名、女性2名の計12名で構成され、女性役員比率は17.0%です。代表取締役社長 社長執行役員は野田 和宏氏です。社外取締役比率は37.5%です。

氏名 役職 主な経歴
野田 和宏 代表取締役社長社長執行役員 1986年同社入社。吸水性樹脂事業部長、執行役員、取締役常務執行役員などを歴任。2022年6月より現職。
高木 邦明 取締役常務執行役員 1987年住友化学工業入社。同社総務人事本部長、執行役員などを経て、2020年6月より現職。事務部門を管掌する。
渡部 将博 取締役常務執行役員 1984年同社入社。購買物流本部長、執行役員、日触物流代表取締役社長などを歴任。2021年6月より現職。事業部門を管掌する。
住田 康隆 取締役常務執行役員 1991年同社入社。事業創出本部長、執行役員などを経て2021年6月より現職。事業創出部門やコーポレート研究本部等を担当する。
松本 行弘 取締役常務執行役員 1988年同社入社。生産本部長、経営企画室長、取締役執行役員、常務執行役員などを歴任。2023年6月より現職。生産・技術部門を管掌する。


社外取締役は、瀨戸口哲夫(元大阪ガス代表取締役副社長執行役員)、櫻井美幸(花水木法律事務所共同経営)、池田安希子(元ココスジャパン代表取締役社長)です。

2. 事業内容


同社グループは、「マテリアルズ事業」および「ソリューションズ事業」を展開しています。

(1) マテリアルズ事業


アクリル酸、アクリル酸エステル、酸化エチレン、高吸水性樹脂(SAP)などの基礎化学品を製造・販売しています。これらは紙おむつ、洗剤、塗料、接着剤などの原料として、幅広い産業や一般消費者に利用されています。

製品の販売による収益を得ています。運営は主に日本触媒が行い、海外ではニッポンショクバイ・アメリカ・インダストリーズInc.やPT.ニッポンショクバイ・インドネシア、ニッポンショクバイ・ヨーロッパ N.V.などの連結子会社が製造販売を担っています。

(2) ソリューションズ事業


コンクリート混和剤用ポリマー、電子情報材料、電池材料、自動車触媒などを製造・販売しています。高機能・高付加価値製品を提供し、建設、自動車、エレクトロニクス、エネルギー分野などの顧客ニーズに対応しています。

製品の販売対価を収益源としています。運営は日本触媒のほか、日宝化学、日本乳化剤、日本ポリマー工業などの国内子会社や、海外子会社が行っています。自動車触媒については、ユミコア日本触媒が同社から製品を仕入れて販売しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績を見ると、売上収益は3,000億円台後半から4,000億円台で推移しています。第109期は赤字となりましたが、その後回復し、黒字基調を維持しています。第113期は前期比で増収増益となり、利益率も改善傾向にあります。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上収益 2,732億円 3,693億円 4,196億円 3,920億円 4,093億円
税引前利益 -129億円 337億円 262億円 157億円 232億円
利益率(%) -4.7% 9.1% 6.2% 4.0% 5.7%
当期利益(親会社所有者帰属) -109億円 237億円 194億円 110億円 174億円

(2) 損益計算書


直近2期間を比較すると、売上収益の増加に伴い売上総利益も増加しています。営業利益率も改善しており、本業の収益性が高まっています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 3,920億円 4,093億円
売上総利益 680億円 704億円
売上総利益率(%) 17.3% 17.2%
営業利益 166億円 191億円
営業利益率(%) 4.2% 4.7%


販売費及び一般管理費のうち、運送費及び保管費が175億円(構成比33%)、研究開発費が144億円(同27%)を占めています。

(3) セグメント収益


マテリアルズ事業は増収となり、利益も微増しました。ソリューションズ事業も増収となり、利益は大幅に増加しました。特にソリューションズ事業の利益率改善が全体の増益に寄与しています。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期) 利益(2024年3月期) 利益(2025年3月期) 利益率
マテリアルズ事業 2,999億円 3,108億円 127億円 129億円 4.2%
ソリューションズ事業 1,110億円 1,181億円 27億円 51億円 4.3%
調整額 -189億円 -196億円 11億円 10億円 -
連結(合計) 3,920億円 4,093億円 166億円 191億円 4.7%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


同社は、営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業である「健全型」です。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 579億円 470億円
投資CF -157億円 -305億円
財務CF -284億円 -168億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は4.5%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は70.5%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは企業理念「TechnoAmenity ~私たちはテクノロジーをもって人と社会に豊かさと快適さを提供します」を掲げています。この理念のもと、人々が安心して暮らせる持続可能な社会の実現に貢献することを目指しています。

(2) 企業文化


サステナビリティ基本方針において、「ステークホルダーと対話を重ね、公正・誠実な事業活動を行う」ことを重視しています。事業を通じた社会課題の解決、地球環境の保護、多様な人財が活躍する成長し続ける組織の実現を目指す価値観を持っています。

(3) 経営計画・目標


2025年度からの「中期経営計画 2027」を策定しており、以下の財務目標を掲げています。
* ROIC(投下資本利益率):5.0%以上(2027年度)
* EBITDA:470億円(2027年度)
* ROE(親会社所有者帰属持分当期利益率):6.0%以上(2027年度)
* 配当性向:100%またはDOE2.0%のいずれか大きい金額を目安

(4) 成長戦略と重点施策


「事業ポートフォリオの変革」を最優先事項とし、ソリューションズ事業へ積極的にリソースを投入します。スペシャリティ、エレクトロニクス、電池等の成長領域での設備投資により事業規模と利益の拡大を図ります。一方、マテリアルズ事業では設備の最適化や生産性向上、海外成長市場での拡販により収益力の強化を進める方針です。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「人財開発方針」に基づき、多様な人財の個性や能力を活かし、自律的に考動し成長する人財を支援することを重視しています。具体的には、人財の適切な配置、自己成長の促進(学習プログラム等)、働きがいの向上(D&I推進等)を実行し、事業戦略の実現に最適な人財の育成と配置を進める方針です。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 39.2歳 16.5年 8,109,000円


※平均年間給与は、賞与及び基準外賃金を含んでおります。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 6.3%
男性育児休業取得率 97.8%
男女賃金差異(全労働者) 82.2%
男女賃金差異(正規雇用) 83.2%
男女賃金差異(非正規) 63.4%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、事務系・化学系女性採用比率(38.8%)、男性の育児休職取得率(15日以上)(95.7%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 原油・ナフサの市場変動に関するリスク


主原料の価格は原油・ナフサ価格と連動性が高く、地政学リスクや為替変動により急激に価格が変動した場合、製品価格への転嫁が遅れる可能性があります。フォーミュラ方式による価格設定などでリスク軽減を図っていますが、全ての製品に適用されていないため、経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

(2) 海外展開に関するリスク


アジア、欧州、北米に生産・販売拠点を有しており、アクリル酸などの海外生産能力はグループ全体の約5割を占めています。海外事業においては、予期せぬ法規制の変更、自然災害、テロや戦争などの社会的・政治的混乱が発生するリスクがあり、これらが顕在化した場合には事業活動に支障が生じ、業績に悪影響を与える可能性があります。

(3) 事業ポートフォリオ変革に関するリスク


マテリアルズ事業の競争激化に対応するため、ソリューションズ事業へのポートフォリオ変革を進めています。しかし、変革の遅れや市場ニーズの急変により、ソリューションズ事業で十分な収益が得られない場合、中長期的な成長や経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

(4) 環境に関するリスク


化学物質の製造から廃棄に至る過程で、環境規制の強化や新たな法的・社会的責任が発生する可能性があります。また、法整備以前の行為に起因する環境汚染などが生じた場合、対策費用の増加や行政指導による製造販売の制限を受ける可能性があり、経営成績や財政状態に影響を与える恐れがあります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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