※本記事は、日本触媒の有価証券報告書(第114期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月17日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. 日本触媒ってどんな会社?
アクリル酸や高吸水性樹脂などの化学品をグローバルに展開する素材メーカーです。
■(1) 会社概要
1941年にヲサメ合成化学工業として設立され、1949年に日本触媒化学工業へ改称しました。1952年に無水マレイン酸の製造を開始し、1956年に東京証券取引所へ上場しました。1970年からはアクリル酸およびアクリル酸エステル、1983年からは高吸水性樹脂の製造を開始し、事業を拡大しています。
従業員数は連結で4,880名、単体で2,573名です。筆頭株主は信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位も信託業務を行う日本カストディ銀行(信託口)、第3位は事業会社であるENEOSホールディングスとなっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 12.22% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 4.57% |
| ENEOSホールディングス | 4.06% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性2名の計12名で構成され、女性役員比率は17.0%です。代表取締役社長社長執行役員は野田和宏氏が務めています。社外取締役比率は37.5%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 野田和宏 | 代表取締役社長社長執行役員 | 1986年同社入社。吸水性樹脂事業部長、執行役員、取締役常務執行役員を経て、2022年より現職。 |
| 高木邦明 | 取締役常務執行役員 | 1987年住友化学工業(現住友化学)入社。同社総務人事本部長、執行役員を経て、2020年より現職。 |
| 住田康隆 | 取締役常務執行役員 | 1991年同社入社。事業創出本部長、執行役員を経て、2021年より現職。 |
| 松本行弘 | 取締役常務執行役員 | 1988年同社入社。生産本部長、経営企画室長、取締役執行役員、常務執行役員を経て、2023年より現職。 |
| 薦田健二郎 | 取締役常務執行役員 | 1986年同社入社。事業企画本部長、執行役員、上席執行役員を経て、2025年より現職。 |
社外取締役は、瀨戸口哲夫(元大阪ガス副社長)、櫻井美幸(弁護士)、池田安希子(元ジョリーパスタ社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「マテリアルズ事業」および「ソリューションズ事業」を展開しています。
■(1) マテリアルズ事業
アクリル酸やアクリル酸エステル、高吸水性樹脂、酸化エチレン、エチレングリコールなどを製造・販売しています。これらは紙おむつなどの衛生材料や様々な化学品の基礎原料として、世界中の幅広い産業の顧客に向けて提供されています。
収益は製品の販売による代金から得ています。運営は同社のほか、米国で高吸水性樹脂を製造販売するニッポンショクバイ・アメリカ・インダストリーズや、インドネシアのPT.ニッポンショクバイ・インドネシアなど、多数の海外子会社とともに行っています。
■(2) ソリューションズ事業
コンクリート混和剤用ポリマー、水溶性ポリマー、電子情報材料、電池材料などを製造・販売しています。建築・土木からエレクトロニクス、自動車、健康・医療まで、顧客の抱える課題を解決する高機能なスペシャリティ素材を提供しています。
収益はこれらの高機能素材・製品の販売代金から得ています。運営は同社を中心に、ヨウ素化合物を扱う日宝化学や、界面活性剤を扱う日本乳化剤、建築・土木用材料を製造販売するイーテックなど、専門分野に特化した子会社各社が担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上収益は3,693億円から4,196億円まで拡大したのち、直近では4,000億円へと減少しています。税引前利益も過去最高の337億円から直近は215億円に落ち着いており、利益率は9.1%から5.4%へと低下傾向にあります。海外市況や原料価格の変動が利益率に影響を与えています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 3,693億円 | 4,196億円 | 3,920億円 | 4,093億円 | 4,000億円 |
| 税引前利益 | 337億円 | 262億円 | 157億円 | 232億円 | 215億円 |
| 利益率(%) | 9.1% | 6.2% | 4.0% | 5.7% | 5.4% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 237億円 | 194億円 | 110億円 | 174億円 | 168億円 |
■(2) 損益計算書
売上収益は前期比で減少したものの、売上総利益は517億円から532億円へと増加し、売上総利益率は12.6%から13.3%へと改善しています。一方で、製造固定費や販売費及び一般管理費が増加したことにより、営業利益は191億円から175億円に減少し、営業利益率も低下する結果となりました。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上収益 | 4,093億円 | 4,000億円 |
| 売上総利益 | 517億円 | 532億円 |
| 売上総利益率(%) | 12.6% | 13.3% |
| 営業利益 | 191億円 | 175億円 |
| 営業利益率(%) | 4.7% | 4.4% |
販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が144億円(構成比25%)、運送費及び保管費が130億円(同23%)を占めています。積極的な研究開発投資と運送物流コストが費用構成の大きな割合を占めていることが特徴です。
■(3) セグメント収益
マテリアルズ事業は、一部製品の販売数量増加があったものの、海外市況の悪化や原料価格の下落に伴う販売価格の低下により減収減益となりました。ソリューションズ事業は、販売数量の減少が見られたものの、新規洗浄用高機能ポリマーの上市やスプレッドの拡大などが寄与し増収となり、営業利益の増益を確保しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| マテリアルズ事業 | 3,108億円 | 2,944億円 | 129億円 | 102億円 | 3.5% |
| ソリューションズ事業 | 1,181億円 | 1,238億円 | 51億円 | 65億円 | 5.3% |
| 調整額 | -196億円 | -183億円 | 10億円 | 8億円 | - |
| 連結(合計) | 4,093億円 | 4,000億円 | 191億円 | 175億円 | 4.4% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は4.3%でプライム市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は70.4%でプライム市場の製造業平均を上回っています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 470億円 | 535億円 |
| 投資CF | -305億円 | -483億円 |
| 財務CF | -168億円 | -98億円 |
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「TechnoAmenity 〜私たちはテクノロジーをもって人と社会に豊かさと快適さを提供します」を企業理念に定めています。この理念のもと、人々が安心して暮らせる、持続可能な社会の実現に貢献することを目指し、これからの社会に必要とされる素材やソリューションを提供しています。
■(2) 企業文化
同社は、サステナビリティ推進において「人と社会への貢献」「環境対応の推進」「会社の基盤強化および持続的成長」を全体方針の柱に掲げています。ステークホルダーと対話を重ね、公正・誠実な事業活動を行うことで、持続可能な社会の実現と企業価値の向上を目指す姿勢を重視しています。
■(3) 経営計画・目標
中期経営計画2027において、事業の変革、環境対応への変革、組織の変革という3つの変革を推し進めています。これらを通じ、持続的な成長を実現するための財務目標を掲げています。
* 売上収益:2027年度 4,500億円
* 営業利益:2027年度 330億円
* ROE:2027年度 6.5%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
事業ポートフォリオの変革実現を最優先事項とし、ソリューションズ事業への積極的なリソース投入を進めています。スペシャリティ、エレクトロニクス、電池等の成長領域における設備投資により規模と利益を拡大し、デジタル活用で技術開発を促進します。マテリアルズ事業では設備の最適化等により生産性を高め、収益力の強化を図ります。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は人財を企業価値創造の源泉と位置づけ、「事業戦略の実現に最適な人財を育成・配置し、個々の能力を最大限に引き出す」ことを人財戦略に掲げています。マテリアルズからソリューションズへの事業変革を実現するため、専門性・多様性・実行力を兼ね備えた人財の獲得と育成を進め、自律的な成長を促す環境整備に取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 39.4歳 | 16.6年 | 8,590,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 7.0% |
| 男性育児休業取得率 | 98.1% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 82.6% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 83.9% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 61.8% |
また、同社は「人財育成・活躍推進」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、事務系・化学系女性採用比率(38.8%)、自己選択型研修の受講者割合(70%以上)、コンプライアンス研修参加率(95%以上)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 国内外の政治・経済・景気動向に関するリスク
同社グループは化学品の製造販売をグローバルに展開しており、海外売上収益が全体の約56%を占めています。特定の国や地域への依存度は低いものの、各国の政治・経済・景気の悪化による製品需要の減少や、生産拠点における設備稼働への影響が、業績および財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 原油・ナフサの市場変動に関するリスク
調達する主原料は原油・ナフサ価格と連動性が高いため、地政学リスクや為替変動等で価格が急激に変動した場合、コスト増を製品価格に即座に転嫁できないリスクがあります。フォーミュラ方式による価格設定でリスクを軽減していますが、全ての製品をカバーしているわけではなく、業績に影響する可能性があります。
■(3) 海外展開に関するリスク
アジア・欧州・北米に生産・販売拠点を有し、アクリル酸や高吸水性樹脂の海外生産能力はグループ全体の約5割を占めています。海外事業においては、予期し得ない法律や規則の変更、自然災害、テロや社会的混乱などのリスクが存在し、これらが顕在化した場合には海外での事業活動に支障が生じる可能性があります。
■(4) 事業ポートフォリオ変革に関するリスク
酸化エチレンやアクリル酸などのマテリアルズ事業の競争激化を受け、より安定した収益が見込めるソリューションズ事業へのポートフォリオ変革を推進しています。しかし、この変革の遅れや市場ニーズの急変により、ソリューションズ事業で十分な収益が得られない場合、経営成績に影響を及ぼす可能性があります。



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