※本記事は、日油の有価証券報告書(第103期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 日油ってどんな会社?
機能化学品から化薬、ライフサイエンス領域まで、独自の化学技術で多角的に事業を展開する総合化学メーカーです。
■(1) 会社概要
同社は1921年にスタンダード油脂として発足し、その後数社の合併を経て1937年に日本油脂と改称しました。1949年には企業再建整備法に基づき第二会社として分離独立しています。長年にわたり多角的な事業展開と海外展開を進め、2007年に社名を現在の日油へと変更しました。直近では2023年に事業再編を行い、機能材料事業部とライフサイエンス事業部を新設して成長分野への注力を強めています。
同社グループの現在の体制は、連結従業員数が4,155名、単体従業員数が1,976名となっています。同社の大株主の構成を見ると、筆頭株主および第2位の株主は資産管理業務を行う信託銀行であり、第3位には保険会社が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 15.73% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 6.18% |
| 明治安田生命保険相互会社 | 4.14% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性8名、女性2名の計10名で構成され、女性役員比率は20.0%です。代表取締役社長兼社長執行役員は沢村孝司氏が務めています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 沢村孝司 | 代表取締役社長兼社長執行役員 | 1988年同社入社。2021年執行役員DDS事業部長、2022年常務執行役員を経て、2023年6月より現職。 |
| 宮道建臣 | 代表取締役会長兼会長執行役員 | 1980年同社入社。2010年執行役員人事・総務部長、2018年代表取締役社長を経て、2023年6月より現職。 |
| 斉藤学 | 取締役兼常務執行役員 | 1985年同社入社。2020年執行役員食品事業部長を経て、2023年6月より現職。 |
| 山内一美 | 取締役兼常務執行役員技術本部長 | 1987年同社入社。2020年執行役員川崎事業所長などを経て、2023年4月より現職。 |
社外取締役は、鎌田卓史(元みずほ不動産販売社長)、林いづみ(桜坂法律事務所パートナー)、伊藤邦光(伊藤会計事務所代表)、相良由里子(中村合同特許法律事務所パートナー)、三浦啓一(元東ソー取締役)です。
2. 事業内容
同社グループは、「機能化学品事業」、「医薬・医療・健康事業」、「化薬事業」および「その他の事業」を展開しています。
■機能化学品事業
脂肪酸や界面活性剤、有機過酸化物、機能性ポリマー、電子材料、特殊防錆処理剤などの化学素材を製造し、自動車や電子部品など幅広い産業分野に向けて提供しています。
主な収益源は、これら化学素材・製品の顧客に対する販売代金です。事業の運営は同社のほか、日油工業や油化産業、NOFメタルコーティングスなどの子会社が国内および海外で行っています。
■医薬・医療・健康事業
食用加工油脂をはじめ、健康食品向けの素材、生体適合性素材、DDS(薬物送達システム)医薬用製剤原料などを製造し、食品メーカーや製薬会社、医療機関などに提供しています。
主な収益源は、これら加工油脂や高機能素材の顧客に対する販売代金です。事業の運営は主に同社が行い、販売面は日油商事やNOF AMERICA CORPORATIONなどの子会社が担っています。
■化薬事業
産業用爆薬類や機能製品のほか、ロケット向けの宇宙関連製品や防衛装備品などの防衛関連製品を製造・販売し、インフラ整備や国の宇宙・防衛機関に貢献しています。
主な収益源は、爆薬類や防衛・宇宙向け製品の販売代金です。事業の運営は同社をはじめ、日本工機、日油技研工業、昭和金属工業といった子会社が担っています。
■その他の事業
機能化学品や化薬など主要3セグメント以外の事業領域として、主に物流の合理化を目指す運送事業と、所有する資産を活用した不動産事業などを展開しています。
主な収益源は、製品の輸送に伴う運送料や不動産の賃貸料などです。運送事業はニチユ物流が、不動産事業は日油商事などの子会社がそれぞれ運営を担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
過去5年間の業績推移を見ると、売上高は一貫して右肩上がりで推移しており、堅調な成長を遂げています。経常利益も売上高の拡大に伴って順調に増加しており、高い利益水準を維持しています。経常利益率も19%台から20%台という高い水準で安定して推移しており、同社の収益力の高さが伺えます。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 1,926億円 | 2,177億円 | 2,223億円 | 2,383億円 | 2,580億円 |
| 経常利益 | 376億円 | 432億円 | 456億円 | 466億円 | 504億円 |
| 利益率(%) | 19.5% | 19.8% | 20.5% | 19.5% | 19.5% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 233億円 | 313億円 | 332億円 | 321億円 | 354億円 |
■(2) 損益計算書
売上高の成長に伴い、売上総利益および営業利益ともに増加しています。利益率は前年と比べてわずかに低下したものの、依然として高い水準を保っており、効率的な事業運営が行われていることが確認できます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 2,383億円 | 2,580億円 |
| 売上総利益 | 852億円 | 891億円 |
| 売上総利益率(%) | 35.7% | 34.5% |
| 営業利益 | 453億円 | 474億円 |
| 営業利益率(%) | 19.0% | 18.4% |
販売費及び一般管理費のうち、給料手当および賞与が104億円(構成比25%)、研究開発費が71億円(同17%)、発送配達費が64億円(同15%)を占めています。
■(3) セグメント収益
化薬事業が大幅な増収となり、連結全体の成長を強く牽引しています。医薬・医療・健康事業も堅調に推移した一方で、主力である機能化学品事業はわずかに減収となりました。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 機能化学品事業 | 1,509億円 | 1,458億円 |
| 医薬・医療・健康事業 | 480億円 | 499億円 |
| 化薬事業 | 388億円 | 617億円 |
| その他の事業 | 6億円 | 6億円 |
| 連結(合計) | 2,383億円 | 2,580億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
本業で十分な現金を創出し、その資金で投資や借入金の返済、株主還元を賄っている健全な状態です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 290億円 | 359億円 |
| 投資CF | -137億円 | -44億円 |
| 財務CF | -220億円 | -314億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は14.1%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は74.0%であり、いずれも市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「バイオから宇宙まで、化学の力で新しい価値を創造する企業グループとして、人と社会に貢献する」ことを経営理念に掲げています。独自の化学技術を応用し、変化する社会ニーズにこたえることで、すべてのステークホルダーにとって存在価値のある企業グループであり続けることを目指しています。
■(2) 企業文化
経営理念を実践するために重視する3つの価値観として「挑戦」「公正」「調和」を定めています。多様な個性の尊重が新たなイノベーションの源泉になるという考えのもと、あらゆる職場で一人ひとりが当事者意識を持ち、主体的に変化の起点となる「自律型人材」として行動できる組織風土の醸成に取り組んでいます。
■(3) 経営計画・目標
2030年度に向けた長期ビジョン「NOF VISION 2030」を策定しており、現在は2028年度を最終年度とする「2028中期経営計画」を推進しています。財務方針として安定的な利益還元を重視し、以下の目標水準を掲げています。
* 配当性向:40%程度
* 総還元性向:70%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
「変革と創造」を基本方針とし、ライフ・ヘルスケア、環境・エネルギー、電子・情報の3分野へ積極的に経営資源を投入して事業領域の拡大を図ります。
* 愛知事業所での化粧品ODM製造設備のさらなる増設
* 電子部品材料や高機能電子材料の製造設備の新規建設
* 防衛力整備計画に基づく化薬事業の生産基盤整備
* オープンイノベーションを通じた新技術・新事業の創出
* DXやデータサイエンスを活用した生産性向上とスマートファクトリー化の推進
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「人材の成長が経営の根幹をなす」との考えのもと、新たな価値創造をリードするイノベーション人材や、新規領域で活躍できる人材の採用・育成を推進しています。多様性を尊重し、柔軟な働き方の推進やコミュニケーションの活性化を図ることで従業員のエンゲージメントを高め、組織全体の生産性と創造性の向上につなげています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 42.9歳 | 17.5年 | 8,437,958円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 6.4% |
| 男性育児休業取得率 | 94.1% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 72.5% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 73.6% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 87.8% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、障がい者雇用率(2.82%)、新卒総合職採用の女性比率(39.1%)、年次有給休暇取得率(81.4%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 製品の品質管理リスク
研究開発から生産・試験検査、出荷に至るまで品質管理を徹底していますが、データ改ざんなどの重大な品質偽装問題が発生した場合、同社グループの信用が大きく低下・失墜し、業績および財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(2) サイバー攻撃・情報システム障害
事業活動において機密情報や個人情報を電子データとして蓄積・利用しています。外部からのサイバー攻撃や不正アクセス、システム障害などによって重大な情報の漏洩や事業活動の中断が発生した場合、同社の業績に影響を及ぼすリスクがあります。
■(3) 原材料の調達と環境対応リスク
サプライチェーン上で環境破壊や人権侵害を伴う原材料調達が行われた場合、社会的信用が低下する恐れがあります。また、気候変動対策としての炭素税導入など、各国の環境法規制強化による製造コストの増加も懸念されます。
■(4) 工場における火災・爆発リスク
化薬や化学製品を製造する国内外の工場を保有しており、火災や爆発などの事故が発生した場合、従業員や近隣住民の死傷、長期間の操業停止、巨額の損害賠償などが生じ、事業継続や業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。



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