※本記事は、東邦化学工業株式会社の有価証券報告書(第89期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 東邦化学工業ってどんな会社?
同社は界面活性剤を中心に、樹脂や化成品、スペシャリティーケミカルを製造販売する中堅化学メーカーです。
■(1) 会社概要
1938年に設立され金属油剤の製造を開始しました。1962年には東京証券取引所市場第二部へ上場し、国内で各種工場や研究所を新設しながら事業を拡大しました。近年は中国やタイ等の海外にも製造・販売拠点を設立し、2026年には中国子会社の設備を増設するなど、グローバルな事業展開を推進しています。
現在の従業員数は連結で856名、単体で653名となっています。筆頭株主は同社の取引先で構成される東邦化学工業取引会社持株会で、第2位は代表取締役社長の中崎龍雄氏、第3位は主要な原料調達先および販売先として事業上の関係がある三井物産です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 東邦化学工業取引会社持株会 | 16.55% |
| 中崎龍雄 | 12.02% |
| 三井物産 | 5.86% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性13名、女性0名の計13名で構成され、女性役員比率は0.0%です。代表取締役社長は中崎龍雄氏が務めています。社外取締役は2名選任されています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 中崎龍雄 | 代表取締役社長内部監査室担当経営企画本部長 | 1968年日本興業銀行入行。同銀行部長を経て1996年東邦化学工業代表取締役社長に就任。以降、各本部等を歴任し2016年より現職。 |
| 永岡幹人 | 常務取締役事業本部長兼大阪支店長 | 1988年東邦化学工業入社。大阪支店長等を経て2016年取締役就任。海外子会社代表等を務め、2020年常務取締役および事業本部長より現職。 |
| 中野憲一 | 常務取締役研究開発本部共同本部長兼追浜研究所長 | 1992年東邦化学工業入社。追浜研究所長等を歴任し2016年に取締役就任。その後研究開発本部副本部長を経て、2026年常務取締役より現職。 |
| 池田亮 | 常務取締役研究開発本部共同本部長兼千葉研究所長 | 1996年東邦化学工業入社。2015年千葉研究所長に就任。2016年執行役員、2020年取締役を経て、2026年常務取締役より現職。 |
| 川崎正一 | 常務取締役IR部門担当経理本部長兼情報管理本部長 | 1990年太陽神戸三井銀行入行。三井住友銀行等を経て、2018年東邦化学工業入社。2022年取締役となり、2026年常務取締役より現職。 |
| 越坂誠一 | 常務取締役購買部門担当生産本部長兼千葉工場長 | 2000年東邦化学工業入社。中国子会社総経理等を務め、2024年千葉工場長および取締役就任。2026年常務取締役生産本部長等より現職。 |
| 脇田雅元 | 取締役 | 1976年東邦化学工業入社。各種工場長を歴任し2012年取締役就任。生産本部副本部長や常務取締役を経て、2026年取締役より現職。 |
| 下田晴久 | 取締役事業本部副本部長兼スペシャリティーケミカルズ事業部長 | 1985年東邦化学工業入社。事業部長等を歴任し、2016年執行役員に就任。2020年取締役および事業本部副本部長より現職。 |
社外取締役は、綾部収治(元みずほファクター代表取締役社長)、川越弘三(元住友三井オートサービス代表取締役副社長執行役員)です。
2. 事業内容
同社グループは、「界面活性剤」「樹脂」「化成品」「スペシャリティーケミカル」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 界面活性剤
香粧原料、プラスチック用添加剤、土木建築用薬剤、農薬助剤、繊維助剤、紙パルプ用薬剤などの各種界面活性剤を国内外の多様な産業の顧客向けに製造・販売しています。家庭用洗剤やスキンケア製品向けから建設材料向けまで幅広い用途で利用されています。
顧客に対する製品の販売対価を主な収益源としています。国内では同社のほか近代化学工業が製造を担い、海外では東邦化学上海有限公司が製造し東邦化貿易上海有限公司を通じて販売するなど、グループ各社が連携して事業を展開しています。
■(2) 樹脂
石油樹脂、合成樹脂、樹脂エマルション、アクリレートなどの樹脂製品を顧客向けに製造および販売しています。土木用ウレタンフォームや断熱材用原料、床ワックス用添加剤、プリント配線基板向け感光性材料など多様な機能を持つ製品を提供しています。
樹脂製品の販売による代金が主な収益源となります。事業の運営は同社が主体となって製造販売を行うほか、中国の連結子会社である東邦化学上海有限公司での製造や、東邦化貿易上海有限公司を通じた販売が行われています。
■(3) 化成品
解乳化剤や流動点降下剤などの石油添加剤、金属加工油剤、合成ゴムやABS樹脂用のロジン系乳化重合剤などの化成品を製造販売しています。国内外の産業顧客の要望に合わせて性能を改良した製品や環境対応製品を開発・提供しています。
これら化成品製品の販売代金を収益源としています。同社が製造販売を担うほか、海外では懐集東邦化学有限公司での製造販売、東邦化学上海有限公司での製造、および東邦化貿易上海有限公司による販売が行われています。
■(4) スペシャリティーケミカル
汎用溶剤、高純度溶剤、ブレーキ液基剤といった溶剤や、電子情報産業向けの感光性微細加工用樹脂の研究開発・製造販売を行っています。半導体向けなど、顧客から求められる次世代の高機能要件に対応する付加価値の高い材料を提供しています。
微細加工用樹脂や各種溶剤の販売により収益を得ています。この事業の運営は主に同社が行っているほか、中国市場等においては東邦化学上海有限公司が製造を担当し、東邦化貿易上海有限公司が製品を販売する体制をとっています。
■(5) その他
化学工業製品の製造販売以外の事業領域として、環境調査測定や分析業務の受託、および市場調査等の業務を提供しています。企業や団体などを対象に、専門的な調査・分析サービスを行っています。
調査や測定、分析などのサービス提供に対する対価を収益としています。環境調査測定および分析業務については横須賀環境技術センターが行い、市場調査等の業務については東邦化貿易上海有限公司が担当しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
過去5年間の業績推移を見ると、売上高は500億円前後で底堅く推移しており、直近の2026年3月期は536億円となりました。経常利益は原材料価格の変動などの影響を受けつつも回復傾向にあり、利益率も直近では3.6%まで改善しています。当期利益についても安定的な水準を維持しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 499億円 | 554億円 | 506億円 | 536億円 | 536億円 |
| 経常利益 | 19億円 | 12億円 | 7億円 | 18億円 | 19億円 |
| 利益率(%) | 3.9% | 2.1% | 1.5% | 3.3% | 3.6% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 11億円 | 12億円 | 5億円 | 12億円 | 13億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は前期と同水準を確保する一方で、売上構成の変化や採算改善への取り組みにより売上総利益が改善しています。その結果、営業利益は前期から増加し、営業利益率も向上するなど、本業の収益性が高まっていることがうかがえます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 536億円 | 536億円 |
| 売上総利益 | 82億円 | 86億円 |
| 売上総利益率(%) | 15.2% | 16.0% |
| 営業利益 | 18億円 | 21億円 |
| 営業利益率(%) | 3.4% | 3.9% |
販売費及び一般管理費のうち、運賃が16億円(構成比25%)、従業員給料及び手当が11億円(同17%)、研究開発費が10億円(同16%)を占めています。
■(3) セグメント収益
スペシャリティーケミカルセグメントは電子情報産業向けの微細加工用樹脂が好調に推移し増収となりました。一方、主力となる界面活性剤セグメントは土木建築用薬剤や海外向け繊維助剤などの低調が響き、減収となっています。全体としては各セグメントの増減が相殺され、横ばいの売上水準となりました。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 界面活性剤 | 263億円 | 255億円 |
| 樹脂 | 48億円 | 48億円 |
| 化成品 | 66億円 | 66億円 |
| スペシャリティーケミカル | 158億円 | 166億円 |
| その他 | 1億円 | 2億円 |
| 連結(合計) | 536億円 | 536億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFがプラス、投資CFと財務CFがマイナスとなっており、営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う健全型のキャッシュ・フロー状況を示しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 33億円 | 44億円 |
| 投資CF | -26億円 | -46億円 |
| 財務CF | -19億円 | -4億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は6.8%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は33.9%で、いずれも市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は経営の基本方針として、「多岐にわたる技術と多様な製品群を擁し、小粒でも光る、ファインケミカル中心の中堅優良化学メーカーを目指す」ことを掲げています。創業以来の「技術重視」の経営姿勢を堅持し、技術の向上を通じ、広く時代のニーズに応える製品を開発・提供することで、豊かな社会づくりに貢献することを目指しています。
■(2) 企業文化
行動規範やCSR憲章に基づき、「公正な取引と倫理」や「安全衛生」「環境保全」を重視する企業文化があります。製品を通じた豊かな社会づくりへの貢献や、人材の確保・育成および幸福度の追求といったマテリアリティ(重要課題)を特定しており、企業も個人も共に成長できる風土の醸成に取り組んでいます。
■(3) 経営計画・目標
2026年3月期を初年度とする「TOHO Step Up Plan 2027」において、持続可能な成長と価値創造のための変革期と位置づけ、以下の数値目標(2028年3月期)を掲げています。
* 売上高:600億円
* 営業利益:30億円
* 売上高営業利益率:5.0%
* 純資産額:230億円
* 自己資本比率:32.0%
* ROE:8.0%
* 1株当たり配当額:30円
■(4) 成長戦略と重点施策
中期経営計画において、急速に変化する事業環境下でも力強く成長するための地盤づくりを進めています。電子情報材料事業の拡大と中核事業化、中国拠点を通じた海外市場開拓の強化、高機能・高付加価値製品の開発加速などに注力しています。また、最適生産体制の構築による生産性改善と業務効率化、資本効率やPBRの改善といった施策も推し進めています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
人的資本重視の経営を推進し、「採算意識とスピードに対する意識を持ち、国内外の職場で活躍できる人材の育成」を方針としています。社員一人ひとりに活躍の場を与えチャレンジ意欲を喚起する環境整備や、報いるべき社員にしっかり報いる人事制度への改定を目指すなど、企業と個人が共に成長できる環境づくりに注力しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 41.2歳 | 17.2年 | 6,989,995円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 6.2% |
| 男性育児休業取得率 | 88.9% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 70.0% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 72.7% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 60.6% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、出産・育児・介護を理由とした離職率(0%)、有給休暇義務日数消化率(99.7%)、障がい者法定雇用率達成率(122.2%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 原材料の調達と価格変動リスク
同社の製品は石油化学製品や油脂等を主原料としており、原油価格変動の影響を強く受けます。原材料価格の高騰分を製品価格へ転嫁することが遅れた場合や、サプライチェーンの混乱により原材料の入手が困難になった場合、生産停滞やコスト増加により業績に影響が及ぶ可能性があります。
■(2) 競争優位性の低下リスク
独自技術の強化や生産性改善により競争優位性の維持に努めていますが、海外安価品の流入や新興国企業の台頭、競合他社の技術力向上などにより競争力が低下するリスクがあります。また、新製品開発の長期化により顧客ニーズに対応できない場合も、利益減少につながる可能性があります。
■(3) 海外事業活動や地政学的リスク
中国をはじめとする海外市場向けに事業を展開しており、中国国内には複数の連結子会社を有しています。そのため、現地における政治・経済情勢の悪化や予期せぬ法規制の変更、貿易の停滞や地政学的リスクが顕在化した場合、海外での生産・販売活動に支障をきたし業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(4) 情報セキュリティと情報漏洩リスク
システム障害の発生による事業活動の停止や対応費用の発生のほか、サイバー攻撃などにより情報が漏洩した場合、社会的信用の失墜や損害賠償責任が発生するリスクがあります。過去にサーバーへの不正アクセスを受けた経緯もあり、情報セキュリティの強化に取り組んでいますが、万一の場合には影響が生じる可能性があります。



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