※本記事は、塩野義製薬株式会社の有価証券報告書(第161期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月19日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. 塩野義製薬ってどんな会社?
医療用医薬品の研究開発から製造・販売までを手がけ、感染症領域に強みを持つ老舗製薬企業です。
■(1) 会社概要
1878年に初代塩野義三郎薬種問屋として創業し、和漢薬の販売からスタートしました。1949年に株式上場を果たし、2019年にはシオノギファーマに医療用医薬品等の製造業務を承継するなどの再編を行っています。直近では2025年9月に鳥居薬品を連結子会社化し、同年12月には日本たばこ産業の医薬事業を承継しました。
同社グループの従業員数は連結で6,223名、単体で2,808名となっています。筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行であり、第2位も同様に信託銀行、第3位には生命保険会社が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 18.31% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 7.81% |
| 住友生命保険相互会社 | 6.48% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性8名、女性3名の計11名で構成され、女性役員比率は27.3%です。代表取締役会長兼社長 CEOは手代木功氏が務めており、過半数を占める7名が社外取締役となっています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 手代木功 | 代表取締役会長兼社長 CEO | 1982年入社。秘書室長兼経営企画部長等を経て、2008年に社長就任。2022年より現職。 |
| ジョン ケラー | 取締役 | 2010年Shionogi Inc.入社。同社社長等を経て、2013年執行役員。2025年より現職。 |
社外取締役は、安藤圭一(元三井住友銀行副頭取執行役員)、尾崎裕(元大阪瓦斯社長)、藤原崇起(元阪神電気鉄道社長)、廣瀬恭子(広瀬製作所社長)、奥原主一(日本ベンチャーキャピタル会長)、髙槻史(大江橋法律事務所パートナー)、後藤順子(後藤順子公認会計士事務所代表)です。
2. 事業内容
同社グループは、医療用医薬品の研究開発、仕入、製造、販売並びにこれらの付随業務を事業内容とする単一セグメントで事業を展開しています。
■(1) 医薬品事業
同社グループは、医療用医薬品や一般用医薬品等の研究開発、仕入、製造、販売を行っています。特に感染症領域や、精神・神経疾患、睡眠障害などのQOL(生活の質)向上に寄与する疾患領域、および希少疾患領域などに注力し、グローバルに革新的な新薬を提供しています。
収益は、医療機関等への医薬品の販売収入のほか、他社へのライセンス供与に伴うロイヤリティー収入、および製造受託等から得ています。事業の運営は塩野義製薬が中核を担うほか、製造はシオノギファーマ、一般用医薬品の販売はシオノギヘルスケアが担当するなど、グループ各社が連携して事業を推進しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上収益は3351億円から4997億円へと順調に拡大しています。利益面でも高い水準を維持しており、積極的な事業投資を行いながらも着実な増収増益トレンドを描いています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 3351億円 | 4267億円 | 4101億円 | 4383億円 | 4997億円 |
| 税引前利益 | 1263億円 | 2203億円 | 1983億円 | 2008億円 | 2389億円 |
| 利益率(%) | 37.7% | 51.6% | 48.4% | 45.8% | 47.8% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 1142億円 | 1850億円 | 1620億円 | 1704億円 | 2052億円 |
■(2) 損益計算書
売上収益の拡大に伴い、売上総利益と営業利益も増加しています。売上総利益率は約70%と高く、研究開発や事業基盤への先行投資をこなしながらも、30%台の安定した営業利益率を確保しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 4383億円 | 4997億円 |
| 売上総利益 | 3106億円 | 3395億円 |
| 売上総利益率(%) | 70.9% | 67.9% |
| 営業利益 | 1566億円 | 1667億円 |
| 営業利益率(%) | 35.7% | 33.4% |
販売費及び一般管理費のうち、給与及び賞与が410億円(構成比32%)、業務委託費が286億円(同23%)を占めています。
■(3) セグメント収益
同社は医薬品事業の単一セグメントであるため、業績推移と同様に、海外での主力製品の好調な販売やロイヤリティー収入の増加などにより、全体として増収増益となっています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 連結(合計) | 4383億円 | 4997億円 | 1566億円 | 1667億円 | 33.4% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業で利益を出し、借入によって積極投資を行う状態です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 1955億円 | 2136億円 |
| 投資CF | -1161億円 | -5061億円 |
| 財務CF | -649億円 | 5993億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は13.5%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は49.3%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「常に人々の健康を守るために必要な最もよい薬(ヘルスケアソリューション)を提供する」ことを基本方針として掲げています。革新的な新薬を創製・提供し、品質と安全性に裏付けられた正確な情報を届けることで、すべてのステークホルダーの利益拡大を目指しています。
■(2) 企業文化
変化を恐れず多様性を受容し、既成概念を超えて自らを「Transform」していく姿勢を重視しています。従来型の「創薬型製薬企業」から、幅広いサービスを提供する「HaaS(Healthcare as a Service)企業」へと変革し、他社との協創を通じて社会課題を包括的に解決する文化を醸成しています。
■(3) 経営計画・目標
中期経営計画「STS2030 Revision」において、成長性指標と株主還元指標を設定し、積極的な事業投資とトップラインの成長を進めてきました。直近の業績拡大や事業買収による基盤強化を踏まえ、さらなる成長を見据えた新中期経営計画を今後公表する予定です。
* 売上収益:5300億円(2025年度目標)
* EBITDA:1960億円(2025年度目標)
* EPS:200円以上(2025年度目標)
* DOE:4%(2025年度目標)
* ROE:14%以上(2025年度目標)
■(4) 成長戦略と重点施策
「感染症の脅威からの解放」と「健やかで豊かな人生への貢献」を重要課題とし、COVID-19治療薬やワクチンの展開、HIV等の世界三大感染症へのコミットメントを推進しています。さらに、鳥居薬品や日本たばこ産業の医薬事業等を買収し、研究開発・販売力の強化とQOL・希少疾患領域のパイプライン拡充を図っています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「人が競争力の源泉」という理念のもと、「他者を惹きつける強みを持ち、貪欲に知識とスキルを高めつつ、積極的に挑戦しやり遂げる人」を求める人材像として定めています。自律的な学びを後押しし、多様な人材が活躍できる組織構築とエンゲージメントの向上を図ることで、戦略実行力の最大化を目指しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 42.4歳 | 15.6年 | 10,300,842円 |
※平均年間給与は、賞与、基準外賃金および法定外福利厚生を含んでおります。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 17.1% |
| 男性育児休業取得率 | 74.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 80.6% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 79.6% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 90.8% |
また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、自己投資支援制度の利用率(59.6%)、従業員・管理職の教育受講率(90%)、健康診断受診率(100%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 感染症やQOL疾患領域の成長鈍化リスク
感染症の流行状況や公衆衛生政策、競争環境の変化により、主力とするHIV事業や急性呼吸器感染症事業などの売上が低下し、期待した成長が実現しないリスクがあります。また、新規治療薬の研究開発の遅延や、買収事業の統合プロセス(PMI)が想定通りに進まない可能性もあります。
■(2) パイプラインの拡充と人材育成の停滞
M&Aや提携によって研究体制を強化していますが、既存資産や人材のシナジーが十分に発揮されず、研究開発のスピードや成功確率が向上しないリスクがあります。また、専門人材が特定領域に固定化し、次世代を担う人材育成や新たなモダリティ獲得が遅れる可能性も存在します。
■(3) 組織風土の変化とエンゲージメント低下
事業規模の拡大やM&Aを契機として組織構造が変化する中で、多様な人材の融合が進まず、従業員エンゲージメントが低下するリスクがあります。また、将来のコア人材の育成遅れや優秀な人材の流出により、中長期的な競争力や戦略の実行力が損なわれるおそれがあります。
■(4) グローバルサプライチェーンの供給途絶
自然災害や地政学的な緊張の高まり等により、原材料の調達困難や工場の操業停止が発生するリスクがあります。これにより医薬品の安定供給に支障を来すほか、在庫の過剰な積み上げや調達コストの急激な上昇が収益性を低下させる可能性があります。



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