※本記事は、日本農薬株式会社の有価証券報告書(第127期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月12日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 日本農薬ってどんな会社?
日本農薬は、農薬製造・販売を主軸とし、医薬品などの化学品分野でも事業を展開する研究開発型企業です。
■(1) 会社概要
1928年に日本最初の農薬総合メーカーとして設立されました。1963年に東証二部へ上場し、1985年に東証一部へ指定替えとなりました。2002年には三菱化学より農薬事業を譲受して事業基盤を強化し、2018年にADEKAの連結子会社となりました。直近では英国企業の株式を取得し欧州展開を加速しています。
現在の従業員数は連結で1,527名、単体で395名です。大株主構成については、筆頭株主が親会社であるADEKAで過半数の株式を保有しており、第2位および第3位は資産管理業務を行う信託銀行となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| ADEKA | 51.00% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 5.76% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 3.69% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性7名、女性4名の計11名で構成され、女性役員比率は36.4%です。代表取締役社長は岩田浩幸氏が務めており、社外取締役の比率は54.5%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 岩田浩幸 | 代表取締役社長 | 1986年同社入社。営業本部第一営業部長、海外営業本部長などを歴任し、2018年取締役に就任。経営企画本部長などを経て、2022年6月より代表取締役社長に就任し現職。 |
| 宍戸康司 | 代表取締役副社長 | 1983年旭電化工業(現ADEKA)入社。同社環境・安全対策本部長などを歴任し、2018年同社代表取締役兼専務執行役員に就任。生産本部長などを経て2024年6月より現職。 |
| 郡昭夫 | 取締役 | 1971年旭電化工業(現ADEKA)入社。同社食品本部長等を経て、2012年同社代表取締役社長に就任。2013年12月より同社取締役に就任し現職。ADEKA相談役も務める。 |
| 冨安治彦 | 取締役 | 1979年第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ADEKA常勤監査役や専務執行役員を歴任。2009年同社監査役に就任し、2020年取締役監査等委員を経て、2023年6月より現職。 |
| 山本秀夫 | 取締役常勤監査等委員 | 1985年同社入社。営業本部第一営業部長などを経て2018年取締役に就任。国内営業本部長、管理本部長などを歴任し、2024年6月より取締役常勤監査等委員として現職。 |
社外取締役は、中田ちず子(中田ビジネスコンサルティング代表取締役)、松本昇(元コーセーホールディングス常勤監査役)、山名群(生産性ガーデン代表取締役社長)、戸井川岩夫(弁護士)、大島良子(弁護士・税理士)、大谷益世(公認会計士・税理士)です。
2. 事業内容
同社グループは、「農薬事業」「農薬以外の化学品事業」および「その他」事業を展開しています。
■農薬事業
主に殺虫剤、殺菌剤、除草剤などの農薬製品および農薬原体を製造し、全国の特約店やJA、農薬メーカーなどを通じて販売しています。また、米国、インド、ブラジル、欧州、アジア地域など世界各地に向けて製品を展開し、農業従事者やゴルフ場などの需要に応えています。
収益源は、製品の販売代金です。製造や販売は同社が主体となって行うほか、海外子会社のNichino AmericaやNichino India、Sipcam Nichino Brasilなどが各地域で展開しています。また、国内ではニチノー緑化がゴルフ場向けなどの販売を担っています。
■農薬以外の化学品事業
農薬製造で培った技術を応用し、木材薬品や医薬品などの化学品を製造・販売しています。具体的には、シロアリ防除資材や防疫用殺虫剤のほか、外用抗真菌剤、動物用医薬品、飼料添加物などを医薬品メーカーや特約店向けに幅広く提供しています。
収益源は、木材薬品や医薬品などの製品販売による代金です。外用抗真菌剤などの医薬品は主に同社が製造し販売を行っているほか、木材薬品については子会社のアグリマートが特約店などを通じて販売事業を展開しています。
■その他
農薬事業の周辺領域として、緑化造園その他の建設工事の請負や設計・施工を手掛けているほか、作物や食品、環境中の残留農薬分析サービスを提供しています。さらに、不動産の賃貸や農薬の物流・倉庫業務の請負などもグループ一体となって行っています。
収益源は、工事請負代金、分析手数料、賃貸料や物流受託料です。造園緑化工事はニチノー緑化が、不動産賃貸や物流業務はニチノーサービスが運営しています。また、残留農薬分析業務については日本エコテックが手掛けています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
過去5年間の業績を見ると、売上高は概ね拡大傾向にあり、直近の期には海外販売の増加等により過去最高を更新しました。経常利益率も改善傾向にあり、堅調な推移を示しています。一方、直近前の期には関係会社株式評価損などの計上により一時的に親会社株主に帰属する当期純損失を計上しましたが、直近の期には黒字に回復しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 801億円 | 1021億円 | 1030億円 | 1000億円 | 1118億円 |
| 経常利益 | 57億円 | 78億円 | 59億円 | 71億円 | 105億円 |
| 利益率(%) | 7.1% | 7.6% | 5.8% | 7.1% | 9.4% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 36億円 | 41億円 | 41億円 | -27億円 | 46億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は国内外の農薬販売が伸長し、前期比で増収となりました。売上総利益も増加し、売上総利益率は改善しています。また、利益率の高い海外向けの販売が増加したことにより、営業利益および営業利益率も前期を上回り、収益性の向上が見られます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1000億円 | 1118億円 |
| 売上総利益 | 332億円 | 381億円 |
| 売上総利益率(%) | 33.2% | 34.1% |
| 営業利益 | 86億円 | 109億円 |
| 営業利益率(%) | 8.6% | 9.8% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給料が70億円(構成比26%)、委託研究費が35億円(同13%)、手数料が29億円(同11%)を占めています。
■(3) セグメント収益
主力の農薬事業は、国内における水稲向け製品の拡販や、北米・欧州での果樹分野向け製品の販売増などが寄与し、堅調な伸びを示しました。農薬以外の化学品事業もシロアリ薬剤分野や医薬品の販売が好調で増収となり、その他事業も造園工事などの受注増により成長しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 農薬事業 | 946億円 | 1055億円 |
| 農薬以外の化学品事業 | 35億円 | 42億円 |
| その他 | 19億円 | 22億円 |
| 連結(合計) | 1000億円 | 1118億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業活動で生み出したキャッシュをもとに、借入金の返済と将来に向けた投資を手元資金で賄っている「健全型」のキャッシュ・フロー状況です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 104億円 | 45億円 |
| 投資CF | -4億円 | -19億円 |
| 財務CF | -69億円 | -78億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は8.9%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は54.9%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「Global Innovator for Crop & Life 食とくらしのグローバルイノベーター」をビジョンに掲げ、世界中の人々の安全で安定的な食の確保とくらしを守ることを使命としています。優れた化学農薬や非化学農薬の創出を通じて持続可能な社会の実現に貢献することを目指しています。
■(2) 企業文化
「NICHINO グループ理念体系」に基づきサステナビリティ経営を推進し、持続可能性の追求を重視しています。ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンを成長に不可欠と考え、多様な価値観をイノベーションの創出に活かす組織文化の醸成に取り組んでいます。
■(3) 経営計画・目標
中期経営計画「Growing Global for Sustainability(GGS)」の最終年度(2027年3月期)における数値計画を設定しています。
* 売上高:1,200億円
* 営業利益:108億円
* ROE:8%以上
* 海外売上高比率:75%
■(4) 成長戦略と重点施策
今後は重点品目の拡販や原体製造の内製化による原価低減、アジア・中南米を中心とするエリア戦略に基づいた市場拡大を進めます。また、デジタル技術を活用したスマート農業の展開やバイオリソースの活用、生物農薬等のポートフォリオ拡大を推進し、新たなビジネスモデルの創出と環境調和型製品の継続的な開発を図ります。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
人材を最も重要な経営資源と位置付け、研究開発力を起点とした持続的な企業価値向上を目指しています。高度な専門性やグローバル対応力を備えた人材の確保・育成を重視し、若手社員のグローバル経営人材としての育成や、専門人材の中途採用を積極的に進めることで、多様性を活かした組織体制を構築しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 42.3歳 | 14.7年 | 8,030,534円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 10.6% |
| 男性育児休業取得率 | 87.5% |
| 労働者の男女の賃金の差異(全労働者) | 76.9% |
| 労働者の男女の賃金の差異(正規雇用労働者) | 84.6% |
| 労働者の男女の賃金の差異(パート・有期労働者) | 62.9% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、キャリア採用者の割合(約3分の1)、係長相当職の女性比率(31.4%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 原材料の調達・価格変動
農薬原体などの原材料は特定の地域や購入先に集中する傾向があり、法規制の強化や操業事故により調達に制約が生じるリスクがあります。また、市況や原油・ナフサ価格の変動によるコスト高騰も業績に影響を与える可能性があります。
■(2) 農薬における新製品の開発遅延
新製品の開発には、多大な技術的・財務的リソースと長期間を要します。市場環境の変化や農薬登録に関する法規制の強化、技術水準の進捗などにより、開発が不成立に終わる場合や遅延が生じた場合、将来の成長や収益性に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(3) 海外展開に伴う為替・地政学リスク
同社グループはインドやブラジル、米国などで農薬の生産・販売を行っており、外貨建て取引が多く存在します。そのため、為替レートの急激な変動や、進出先における経済状況の悪化、地政学的なリスクの顕在化が、円換算後の業績に影響を与える可能性があります。



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