※本記事は、エーザイ株式会社 の有価証券報告書(第113期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月13日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. エーザイってどんな会社?
ヒューマン・ヘルスケア(hhc)理念のもと、認知症領域やがん領域に強みを持つグローバル製薬企業です。
■(1) 会社概要
1941年に日本衛材として設立され、1944年に合資会社桜ヶ岡研究所と合併し新発足しました。1955年に現社名であるエーザイへ商号を変更し、1961年には東京証券取引所市場第一部に上場しました。その後、海外展開を加速し、2022年の市場区分見直しに伴いプライム市場へ移行しています。
連結従業員数は10,917名、単体では2,998名です。筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位も同様に信託銀行です。上位株主には国内外の機関投資家や信託銀行が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) | 19.22% |
| 株式会社日本カストディ銀行(信託口) | 10.74% |
| STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 505001 | 6.66% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性25名、女性5名の計30名で構成され、女性役員比率は16.7%です。代表者は代表執行役CEOの内藤晴夫氏です。取締役11名のうち社外取締役は7名で、社外取締役比率は63.6%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 内藤 晴夫 | 取締役 代表執行役CEO |
1975年入社。取締役、研究開発本部長、代表取締役社長等を歴任し、2014年より現職。 |
| 岡田 安史 | 代表執行役業界担当 | 1981年入社。アジア・大洋州・中東事業本部長、代表執行役COO等を歴任し、2025年より現職。 |
| 内藤 景介 | 代表執行役専務COO兼チーフグロースオフィサー | 2013年入社。チーフデジタルオフィサー、チーフストラテジー&プランニングオフィサー等を歴任し、2024年より現職。 |
| 井池 輝繁 | 代表執行役専務チーフビジネスオフィサー兼チーフIRオフィサー兼内部監査担当兼国内ネットワーク企業担当兼COO特命担当 | 1986年入社。オンコロジービジネスグループプレジデント、エーザイ・ジャパン・プレジデント等を歴任し、2025年より現職。 |
| ガリー・ヘンドラー | 常務執行役EMEAリージョンプレジデント兼エーザイ・ヨーロッパ・リミテッド 会長&CE0 | 2008年エーザイ・ヨーロッパ・リミテッド入社。同社社長兼CEO等を経て、2016年より現職。 |
| 安野 達之 | 常務執行役アメリカス・リージョンプレジデント兼エーザイ・インク 会長&CEO | 1991年入社。チーフプランニングオフィサー、チーフフィナンシャルオフィサー等を歴任し、2023年より現職。 |
| ヤンホイ・フェン | 常務執行役衛材(中国)投資有限公司総裁 | 2012年衛材(中国)薬業有限公司入社。同社総経理、衛材(中国)投資有限公司総経理等を経て、2022年より現職。 |
| 加藤 義輝 | 取締役 | 1988年入社。川島工園長、エーザイデマンドチェーンシステムズプレジデント、常務執行役等を歴任し、2021年より現職。 |
| 加藤 弘之 | 取締役 | 1982年入社。メディスン開発センター長、チーフクリニカルクオリティオフィサー、常務執行役等を歴任し、2022年より現職。 |
| 高橋 健太 | 取締役 | 1983年入社。ゼネラル・カウンセル、エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント代表取締役社長等を歴任し、2024年より現職。 |
社外取締役は、三和 裕美子(明治大学商学部教授)、池 史彦(元本田技研工業代表取締役会長)、三浦 亮太(三浦法律事務所パートナー)、リチャード・ソーンリー(ソーンリー・インターナショナルCEO)、森山 透(元三菱食品代表取締役社長)、安田 結子(株式会社ボードアドバイザーズ取締役副社長)、金井 沢治(元有限責任あずさ監査法人専務理事)です。
2. 事業内容
同社グループは、「医薬品事業」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 医薬品事業(日本)
日本国内において、医療用医薬品および一般用医薬品の研究開発・製造・販売を行っています。主要製品には、認知症治療剤や抗がん剤などが含まれます。
医薬品卸売業者等からの製品販売収入や、提携先からのライセンス収入等を収益源としています。運営は主にエーザイやEAファーマ株式会社が行っています。
■(2) 医薬品事業(北米)
米国を中心とする北米地域において、医薬品の研究開発・製造・販売を展開しています。グローバル製品の最大市場の一つとして重要な役割を担っています。
現地の医療機関や流通業者への製品販売収入、および共同プロモーションによる収益などを得ています。運営は主にEisai Inc.が行っています。
■(3) 医薬品事業(中国)
中国において、医薬品の製造・販売を行っています。急速に成長する中国市場において、自社製品の展開を進めています。
現地販売代理店や医療機関等からの製品販売収入を主な収益源としています。運営は衛材(中国)投資有限公司や衛材(中国)薬業有限公司等が行っています。
■(4) 医薬品事業(EMEA)
欧州、中東、アフリカ、ロシア、オセアニア地域において、医薬品の研究開発・製造・販売を行っています。多様な国々で事業を展開しています。
各国での製品販売収入やライセンス収入等を収益源としています。運営はEisai Europe Ltd.を中心に行っています。
■(5) 医薬品事業(イーストアジア・グローバルサウス)
韓国、台湾、インド、アセアン、中南米等の地域において、医薬品の販売を行っています。新興国市場におけるアクセス向上にも取り組んでいます。
各地域での製品販売収入を主な収益源としています。運営はEisai Asia Regional Services Pte. Ltd.や各国の子会社が行っています。
■(6) その他事業
医薬品事業に含まれないライセンス、医薬品原料の販売、および業務サービスなどを展開しています。
提携先からのライセンス収入、原料販売収入、グループ会社等からの業務受託手数料などを収益源としています。運営はエーザイや株式会社サンプラネットが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上収益は6,400億円台から7,800億円台へと推移しており、増収傾向にあります。利益面では、営業利益は一時的な変動が見られるものの、当期は544億円を確保しています。当期利益は400億円台で安定的に推移しています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 6,459億円 | 7,562億円 | 7,444億円 | 7,418億円 | 7,894億円 |
| 営業利益 | 515億円 | 538億円 | 400億円 | 534億円 | 544億円 |
| 利益率(%) | 8.0% | 7.1% | 5.4% | 7.2% | 6.9% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 419億円 | 480億円 | 554億円 | 424億円 | 464億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間を比較すると、売上収益は増加し、売上総利益率も改善しています。販管費や研究開発費のコントロールを行いつつ、営業利益率も維持しています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 7,418億円 | 7,894億円 |
| 売上総利益 | 5,864億円 | 6,206億円 |
| 売上総利益率(%) | 79.1% | 78.6% |
| 営業利益 | 534億円 | 544億円 |
| 営業利益率(%) | 7.2% | 6.9% |
販売費及び一般管理費のうち、主要な内訳として研究開発費が1,402億円(構成比34.4%)、給料及び賞与が222億円(同5.4%)を占めています。
■(3) セグメント収益
各セグメントの状況を見ると、北米(アメリカス)地域が大幅な増収増益となり、全体の成長を牽引しています。日本や欧州(EMEA)も安定的に推移していますが、調整額として全社的な研究開発費等が大きく計上されており、連結利益を押し下げる要因となっています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 日本 | 2,169億円 | 2,163億円 | 710億円 | 717億円 | 33.2% |
| アメリカス | 2,324億円 | 2,783億円 | 1,382億円 | 1,583億円 | 56.9% |
| 中国 | 1,119億円 | 1,155億円 | 566億円 | 572億円 | 49.5% |
| EMEA | 760億円 | 794億円 | 356億円 | 359億円 | 45.3% |
| イーストアジア・グローバルサウス | 542億円 | 596億円 | 228億円 | 274億円 | 46.0% |
| その他事業 | 503億円 | 404億円 | 402億円 | 296億円 | 73.4% |
| 調整額 | - | - | -3,110億円 | -3,258億円 | - |
| 連結(合計) | 7,418億円 | 7,894億円 | 534億円 | 544億円 | 6.9% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社のキャッシュ・フローは、本業で稼いだ資金で投資を行い、財務活動による支出も行っている「健全型」です。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 560億円 | 301億円 |
| 投資CF | -253億円 | -101億円 |
| 財務CF | -227億円 | -578億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は5.4%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は53.4%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「患者様と生活者の皆様の喜怒哀楽を第一義に考え、そのベネフィット向上に貢献する」ことを企業理念(ヒューマン・ヘルスケア:hhc理念)としています。この理念のもと、ヘルスケアの多様なニーズを充足し、いかなる医療システム下においても存在意義のある企業となることを目指しています。
■(2) 企業文化
社員一人ひとりが患者様と共に時間を過ごす「共同化」によって患者様の真のニーズを理解することを重視しています。この共同化が社員の動機付けとなり、イノベーション創出の源泉となっています。また、自律したプロフェッショナルとして主体的に取り組む姿勢を尊重する風土があります。
■(3) 経営計画・目標
中期経営計画「EWAY Future & Beyond」において、2026年度以降を「EWAY Beyond」と位置づけ、患者様だけでなく生活者全体への貢献を目指しています。また、2030年度に向けた長期目標を設定し、マテリアリティ(重要課題)の解決に取り組んでいます。
* 2025年度売上収益:7,900億円
* 2025年度営業利益:545億円
* 2025年度ROE:5.0%
* 2026年度ROE目標:8%レベル
* 2027年度営業利益率目標:10%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
「hhceco(hhc理念+エコシステム)」企業への進化を目指し、認知症領域とがん領域に注力しています。他産業との連携によるエコシステム構築を通じて、日常領域から医療領域までのソリューション創出を進めています。また、デジタルトランスフォーメーションを推進し、データに基づく経営の強化を図っています。
* 認知症領域:治療薬「レケンビ」の価値最大化、診断・治療パスウェイの構築
* がん領域:「レンビマ」の適応拡大と価値最大化
* エコシステム:デジタル技術を活用した認知症プラットフォームの構築
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「統合人事戦略」を策定し、社員の「健康」「働き方」「成長」「事業・組織」の4つの柱に基づいた施策を実行しています。多様な人財が活躍できる風土づくりや、グローバルな視点でのリーダー育成、専門性の強化に注力しています。また、社員のウェルビーイング向上や自律的なキャリア形成を支援する環境整備も進めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 44.6歳 | 18.5年 | 10,556,563円 |
※平均年間給与には基準内賃金、基準外賃金および賞与を含めています。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 13.6% |
| 男性育児休業取得率 | 100.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 72.9% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 74.4% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 65.7% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、社員の女性比率(28.4%)、30代以下組織長比率(6.4%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 新薬開発の不確実性
医薬品の研究開発には長期間と多額の投資が必要ですが、成功確率は低く不確実性が高いものです。期待された結果が得られず開発が中止・遅延した場合や、承認が得られない場合、将来の収益確保に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 製品品質および安定供給
原材料の調達難や製造工程のトラブル、地政学的リスク等により製品の供給に支障が生じた場合、患者様の治療に影響を与えるとともに、業績や信頼性の低下を招く恐れがあります。厳格な品質管理とサプライチェーンの強化に取り組んでいます。
■(3) 知的財産権
主力製品の特許期間満了後にジェネリック医薬品が参入することで、売上収益が減少するリスクがあります。また、第三者の知的財産権を侵害したとして訴訟を提起される可能性や、自社の特許が無効とされるリスクも存在します。
■(4) 医療費抑制策
各国の政府による医療費抑制策や薬価引き下げ圧力は、医薬品事業の収益性に影響を与えます。薬価制度の改定やジェネリック使用促進策などが、業績にネガティブな影響を及ぼす可能性があります。



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