※本記事は、エーザイ株式会社の有価証券報告書(第114期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月12日提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準はIFRSです。
1. エーザイってどんな会社?
同社は、医療用医薬品および一般用医薬品の研究開発から製造・販売までをグローバルに展開するヘルスケア企業です。
■(1) 会社概要
1936年に合資会社桜ヶ岡研究所として設立され、1941年に日本衛材として現在の基盤となる会社が設立されました。1955年に現在の社名であるエーザイに変更し、1961年には東京証券取引所市場第一部に上場を果たしています。その後、米国、欧州、アジア地域に拠点を設立してグローバル展開を加速させ、直近では2025年にエコナビスタを完全子会社化するなど、認知症エコシステムの構築に向けて事業領域を拡大しています。
現在、同社グループの従業員数は連結で10,543名、単体で2,979名となっています。主要株主の構成を見ると、筆頭株主は信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位も同様に日本カストディ銀行(信託口)、第3位は金融機関のSTATE STREET BANK AND TRUST COMPANYとなっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 18.55% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 9.99% |
| STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 505001(常任代理人 みずほ銀行決済営業部) | 5.31% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性23名、女性5名の計28名で構成され、女性役員比率は17.9%です。代表者は代表執行役CEOの内藤晴夫氏です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 内藤 晴夫 | 取締役兼代表執行役CEO | 1975年同社入社。1985年研究開発本部長、1986年代表取締役専務などを経て1988年代表取締役社長に就任。2004年取締役兼代表執行役社長(CEO)となり、2014年より現職。 |
| 内藤 景介 | 代表執行役専務COO兼チーフグロースオフィサー | 2013年同社入社。2019年執行役チーフデジタルオフィサー、2022年IT統括本部長などを歴任。2023年常務執行役などを経て、2024年より現職。 |
| 井池 輝繁 | 代表執行役専務チーフビジネスオフィサー兼内部監査担当兼国内ネットワーク企業担当兼COO特命担当 | 1986年同社入社。2014年エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント代表取締役社長、2015年常務執行役などを歴任。2023年専務執行役を経て、2025年より現職。 |
| 加藤 弘之 | 取締役 | 1982年同社入社。2012年執行役員、2016年執行役メディスン開発センター長、2019年常務執行役チーフクリニカルクオリティオフィサーなどを経て、2022年より現職。 |
| 高橋 健太 | 取締役 | 1983年同社入社。2001年法務部長、2007年執行役、2011年常務執行役、2019年専務執行役などを歴任。2023年チーフコンプライアンスオフィサーなどを経て、2024年より現職。 |
| 岡田 安史 | 取締役 | 1981年同社入社。2011年執行役、2013年専務執行役、2017年代表執行役、2019年代表執行役COOなどを歴任。2021年日本製薬工業協会会長なども務め、2025年より現職。 |
社外取締役は、池史彦(元本田技研工業代表取締役会長)、三浦亮太(三浦法律事務所パートナー)、リチャード・ソーンリー(ソーンリー・インターナショナル最高経営責任者)、森山透(元三菱食品代表取締役社長)、安田結子(ボードアドバイザーズ取締役副社長)、金井沢治(元KPMG Asia Pacific監査部門統括責任者)、上田亮子(公認会計士・監査審査会委員)です。
2. 事業内容
同社グループは、医薬品事業(各地域セグメント)および「その他」事業を展開しています。
■(1) 日本医薬品事業
同社グループの国内拠点において、医療用医薬品および一般用医薬品等の研究開発、製造、販売を行っています。主に医療機関や一般生活者を顧客とし、神経領域やがん領域を中心とした新薬や、一般用医薬品「チョコラBB」グループなどの製品を提供しています。
収益は、医療機関向けの医療用医薬品や、薬局等を通じた一般用医薬品の販売による代金から得ています。事業の運営は、親会社であるエーザイや、消化器領域に特化した子会社のEAファーマが担っています。
■(2) アメリカス(北米)医薬品事業
北米地域において、アルツハイマー病治療剤や抗がん剤などの医療用医薬品の研究開発から販売までを展開しています。現地の医療機関や患者を主な顧客とし、革新的な医薬品の提供を通じてヘルスケアニーズに応えています。
収益は、開発した医薬品の販売代金のほか、提携先企業との共同開発・共同販促に伴う収益配分から得ています。事業の運営は、主に米国子会社のEisai Inc.やカナダ子会社のEisai Ltd.が行っています。
■(3) 中国医薬品事業
中国市場において、医療用医薬品の製造および販売を行っています。抗がん剤や末梢性神経障害治療剤などを提供し、現地の医療インフラや患者の健康課題の解決に貢献しています。また、デジタル技術を活用したオンライン健康プラットフォームの展開も進めています。
収益は、現地での医薬品販売による代金から得ています。事業の運営は、中国統括会社である衛材(中国)投資有限公司や衛材(中国)薬業有限公司などの各子会社が担っています。
■(4) EMEA医薬品事業
欧州、中東、アフリカ、ロシア、オセアニア地域を対象に、医療用医薬品の研究開発、製造、販売を展開しています。多様な医療制度を持つ各国の市場において、抗てんかん剤や抗がん剤などの専門的な医薬品を供給しています。
収益は、各国における医薬品の販売代金から得ています。事業の運営は、英国の欧州統括会社であるEisai Europe Ltd.を中心に、ドイツ、フランス、スペイン、イタリアなどの各国現地法人が担っています。
■(5) イーストアジア・グローバルサウス医薬品事業
韓国、台湾、インド、アセアン、中南米などの地域において、医療用医薬品の研究開発、製造、販売を行っています。新興国を中心とした市場で、現地ニーズに合わせた医薬品の普及やアクセス改善に向けた取り組みを推進しています。
収益は、各地域での医薬品販売代金から得ています。事業の運営は、シンガポールのアジア持株会社Eisai Asia Regional Services Pte. Ltd.をはじめ、台湾、タイ、韓国、インドなどの各子会社が担っています。
■(6) その他
医薬品事業を補完する事業として、ライセンス供与や医薬品原料の提供、さらには業務サービス等を手がけています。グループ内の業務効率化や他社との提携を通じた収益基盤の多様化を目的としています。
収益は、他社へのライセンス供与に伴う契約一時金やロイヤルティ、医薬品原料の販売代金、業務サービスの提供対価から得ています。事業の運営は、親会社であるエーザイおよび子会社のサンプラネットが担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
過去5期間において、売上収益は7,400億円から8,200億円台へと推移しており、直近の当期は過去最高を記録しました。一方で利益面は、積極的な研究開発や販売体制への資源投入等の影響を受け、営業利益や当期利益において増減を繰り返す傾向が見られます。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 7,562億円 | 7,444億円 | 7,418億円 | 7,894億円 | 8,254億円 |
| 営業利益 | 538億円 | 400億円 | 534億円 | 544億円 | 441億円 |
| 利益率(%) | 7.1% | 5.4% | 7.2% | 6.9% | 5.3% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 480億円 | 554億円 | 424億円 | 464億円 | 386億円 |
■(2) 損益計算書
売上収益は主力製品の伸長により増収となった一方、売上総利益および営業利益は減少しました。事業展開や構造改革等に伴うコストの増加などが影響したと見られます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 7,894億円 | 8,254億円 |
| 売上総利益 | 2,429億円 | 2,388億円 |
| 売上総利益率(%) | 30.8% | 28.9% |
| 営業利益 | 544億円 | 441億円 |
| 営業利益率(%) | 6.9% | 5.3% |
販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が1,543億円(構成比67%)、事務諸費が228億円(同10%)、給料及び賞与が204億円(同9%)を占めています。
■(3) セグメント収益
主力の「アメリカス」や「日本」をはじめとした全報告セグメントで増収を達成しました。特に「アメリカス」と「中国」は順調に利益も伸ばした一方、「EMEA」や「その他事業」においては減益となり、全体としての営業利益は減少しました。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 日本 | 2,163億円 | 2,292億円 | 717億円 | 730億円 | 31.9% |
| アメリカス | 2,783億円 | 3,004億円 | 1,583億円 | 1,744億円 | 58.1% |
| 中国 | 1,155億円 | 1,307億円 | 572億円 | 593億円 | 45.4% |
| EMEA | 794億円 | 815億円 | 359億円 | 304億円 | 37.3% |
| イーストアジア・グローバルサウス | 596億円 | 688億円 | 274億円 | 302億円 | 43.9% |
| その他事業 | 404億円 | 146億円 | 296億円 | 45億円 | 30.8% |
| 連結(合計) | 7,894億円 | 8,254億円 | 544億円 | 441億円 | 5.3% |
営業活動により安定して現金を生み出し、その資金を借入金の返済や設備投資、研究開発などの成長投資に充てている健全な財務状態です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 301億円 | 613億円 |
| 投資CF | -101億円 | -418億円 |
| 財務CF | -578億円 | -611億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は4.4%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は51.8%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は、「患者様と生活者の皆様の喜怒哀楽を第一義に考え、そのベネフィット向上に貢献する」ことを企業理念(hhc理念)として定款に定めています。この理念のもと、世界のヘルスケアの多様なニーズを充足し、いかなる医療システム下においても存在意義のある「ヒューマン・ヘルスケア(hhc)企業」となることを使命として掲げています。
■(2) 企業文化
同社には、コンプライアンス(法令と倫理の遵守)を経営の根幹に据え、日々実践する文化があります。また、ステークホルダーである患者や生活者、株主、社員との信頼関係構築を重視し、人々の「健康憂慮の解消」と「医療較差の是正」という社会善を効率的に実現することで、長期的な企業価値の増大を目指す価値観を持っています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、2026年度より3カ年単位の数値・実行計画を策定し、ローリング方式で毎年見直す体制としています。中長期の目標として以下を掲げています。
* 2028年度 目標売上収益:1兆円
* 2028年度 目標営業利益:900億円
* 2028年度 目標コア営業利益:900億円
* 2028年度 目標調整ROIC:9.0%
■(4) 成長戦略と重点施策
中期経営計画「EWAY Future & Beyond」に基づき、認知症を中心とする神経領域とがん領域に立脚したソリューション創出に注力しています。また、他産業との連携を通じた「hhcエコシステム」の構築を目指し、日常から医療領域までのすべてを支えるデジタル事業や介護事業の推進、グローバルなオペレーションの最適化にも取り組んでいます。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、社員を企業理念実現に向けた重要なステークホルダーと位置づけ、全社戦略と人事戦略を融合した「グローバルHRパーパス」を掲げています。安定的な雇用の確保や多様性の尊重に加え、共通の価値観に基づく一体感ある組織文化を醸成しつつ、社員一人ひとりのエナジーを解き放ち、自己実現を支える成長機会の充実と働きやすい環境整備を推進しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 44.5歳 | 18.5年 | 11,233,821円 |
※平均年間給与には基準内賃金、基準外賃金および賞与を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 14.3% |
| 男性育児休業取得率 | 100.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 74.1% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 75.7% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 76.7% |
また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、社員の女性比率(29.1%)、30代以下組織長比率(7.1%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) レケンビと次世代AD治療剤の価値最大化
アルツハイマー病治療剤「レケンビ」等において、診断・治療パスウェイの構築や治療選択肢の拡大が想定通りに進まない場合や、患者のアクセスが制限された場合、期待された収益が得られないリスクがあります。
■(2) レンビマの価値最大化
抗がん剤「レンビマ」と他剤の併用療法に関する臨床試験において期待した結果が得られない場合や、競合品によりポジショニングが変化した場合、売上計画を達成できず業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(3) パートナーシップモデル
新薬開発やエコシステム構築等における提携企業との間で、意見の相違や事業環境の変化に伴う協業の困難化が生じた場合、計画の遅延や予測外の費用負担、さらには訴訟への発展により事業価値最大化に支障をきたす可能性があります。



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