※本記事は、小野薬品工業株式会社の有価証券報告書(第78期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月15日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. 小野薬品工業ってどんな会社?
医療用医薬品の研究開発と製造販売を主軸とし、がんや免疫領域で革新的な新薬を創出する製薬企業です。
■(1) 会社概要
1717年に薬種仲買人として創業し、1948年に現在の小野薬品工業へ改称しました。1962年に上場を果たし、1969年には東京・大阪の各証券取引所市場第一部に指定替えされました。近年ではグローバル展開を加速しており、2024年には米国のバイオ医薬品企業Deciphera Pharmaceuticalsを買収するなど事業を拡大しています。
現在の従業員数は連結で4,206名、単体で3,396名体制です。大株主の構成は、筆頭株主ならびに第2位、第3位の株主がいずれも資産管理業務や信託業務を行う信託銀行や保険会社等の金融機関となっており、安定した資本基盤を背景に事業のグローバル展開と研究開発を推し進めています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 13.70% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 5.27% |
| 明治安田生命保険相互会社(常任代理人日本カストディ銀行) | 3.88% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性8名、女性2名の計10名で構成され、女性役員比率は20.0%です。代表取締役会長CEOは相良暁氏、代表取締役社長COOは滝野十一氏が務めています。社外取締役比率は30.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 相良暁 | 代表取締役会長CEO | 1983年入社。営業本部長、取締役副社長、代表取締役社長などを経て2024年4月より現職。 |
| 滝野十一 | 代表取締役社長COO | 1995年入社。事業戦略本部長、研究本部長、取締役専務執行役員などを経て2024年4月より現職。 |
| 辻中聡浩 | 代表取締役専務執行役員 | 1988年入社。オンコロジー統括部長、経営戦略本部長などを経て2026年4月より現職。 |
社外取締役は、野村雅男(元岩谷産業社長)、奥野明子(甲南大学教授)、長榮周作(元パナソニック電工社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「医薬品事業」の単一セグメントで事業を展開しています。
同社グループは、医療用および一般用医薬品等の製造・販売を中核としています。医療用医薬品分野の研究開発に注力しており、がん、免疫・炎症、神経領域を重点領域と定めています。国内外のパートナー企業や研究機関との協業を通じ、世界中の患者に向けた革新的な新薬創出に取り組んでいます。
収益は主に、自社創製・導入した医薬品の販売収入と、提携先からのロイヤルティ収入で構成されています。主力製品「オプジーボ」の販売や特許に関わる収入が基盤です。事業運営は同社のほか、米国で開発・販売を担う子会社Deciphera Pharmaceuticalsなどが担当しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上収益は直近5年間で順調な成長傾向にあり、第78期には5,158億円と高水準を記録しています。税引前利益および当期利益については、第77期に一時的な減益が見られたものの、第78期には再び回復基調に転じ、収益力の改善が進んでいます。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 3,614億円 | 4,472億円 | 5,027億円 | 4,869億円 | 5,158億円 |
| 税引前利益 | 1,050億円 | 1,435億円 | 1,637億円 | 593億円 | 927億円 |
| 利益率(%) | 29.1% | 32.1% | 32.6% | 12.2% | 18.0% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 805億円 | 1,127億円 | 1,280億円 | 500億円 | 698億円 |
■(2) 損益計算書
売上収益は前年を上回り増収となりました。それに伴い営業利益も大幅に伸長し、収益性の回復が確認できます。売上総利益も堅調に推移し、経営効率の改善に努めています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上収益 | 486,871億円 | 515,785億円 |
| 売上総利益 | 331,681億円 | 353,626億円 |
| 営業利益 | 59,747億円 | 92,236億円 |
販売費及び一般管理費の内訳について、販売促進費が28,999百万円、事業計画費が2,887百万円を占めています。研究開発費は160,831百万円となり、研究開発への積極的な投資を継続しています。
■(3) セグメント収益
医薬品事業が同社グループの唯一の事業セグメントであるため、売上収益および営業利益の推移は全社の業績と一致しています。
| セグメント | 2025年3月期 売上収益 | 2026年3月期 売上収益 | 2025年3月期 営業利益 | 2026年3月期 営業利益 | 2026年3月期 営業利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 医薬品事業 | 486,871億円 | 515,785億円 | 59,747億円 | 92,236億円 | 17.9% |
| 連結(合計) | 486,871億円 | 515,785億円 | 59,747億円 | 92,236億円 | 17.9% |
営業活動によるキャッシュ・フローは、税引前当期利益の増加などにより前年比で大幅な収入増となりました。投資活動については無形資産の取得等で支出が先行していますが、財務活動における配当金の支払いや長期借入金の返済を含め、全体として手元流動性は厚く保たれています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業活動によるキャッシュ・フロー | 82,459億円 | 136,821億円 |
| 投資活動によるキャッシュ・フロー | △136,785億円 | △39,860億円 |
| 財務活動によるキャッシュ・フロー | 94,299億円 | △65,493億円 |
4. 経営環境と対処すべき課題
■(1) 企業理念および基本方針
「病気と苦痛に対する人間の闘いのために」という企業理念のもと、いまだ満たされない医療ニーズに応えるため、革新的な医薬品の創製を行う「グローバル スペシャリティ ファーマ」を目指しています。事業活動を通じて持続可能な社会の実現に貢献するサステナブル経営方針を定め、重点課題への取り組みを推進するとともに、高い倫理観と法令遵守に基づくコンプライアンスの強化に努めています。
■(2) 経営課題
医薬品業界を取り巻く環境変化や成長機会に柔軟に対応するため、以下の4つの成長戦略とそれを支える経営基盤の強化に取り組んでいます。
* **成長戦略:製品価値最大化~患者本位の視点で~**
ウェルビーイングの実現を目指し、医療従事者とともに新薬の浸透に取り組みます。主力製品「オプジーボ」や「オンジェンティス」について、パートナー企業と連携し、製品価値の最大化に挑戦します。
* **成長戦略:パイプラインの強化**
がん、免疫・炎症、神経領域を重点領域とし、オープンイノベーションと創薬力の強化に努めます。デサイフェラ社の独自アプローチも活用し、臨床試験の質的強化とグローバル開発体制を整備します。
* **成長戦略:グローバル事業の拡大と加速**
デサイフェラ社の買収を通じて、米欧での販売基盤を獲得し、グローバル事業を加速させます。「キンロック」や「ロンビムザ」の販売地域拡大を通じた価値最大化を図ります。
* **成長戦略:事業ドメインの拡大**
ヘルスケア分野のニーズを捉え、機能性表示食品の開発やデジタルツールの提供(「michiteku Web」等)、ベンチャー企業への投資を通じて新たな事業の創出・拡大を目指します。
5. サステナビリティ・ESGの取り組み
■(1) サステナブル経営方針
社会から必要とされる企業であり続けるため、財務と非財務の経営課題を統合し、マテリアリティ(重要課題)を特定してサステナビリティ経営を推進しています。取締役会による監督のもと、代表取締役社長を最高責任者とするサステナビリティ戦略会議を設置し、取り組み状況は役員報酬の評価にも反映させています。
■(2) 人的資本の拡充
事業戦略を推進するため、「横断人財」と「専門人財」の計画的な採用・育成を行っています。自律的なキャリア形成を支援する研修や学習補助金を提供し、全ての従業員の能力底上げを図っています。また、多様な人材が活躍できる組織風土の醸成として、女性管理職の段階的な登用目標の設定や男性の育児休業取得の促進など、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)を強化しています。
■(3) 気候変動への対応(TCFD提言)
2050年に向けた環境ビジョン「ECO VISION 2050」を策定し、脱炭素社会・水循環社会・資源循環社会の実現に向けた目標を定めています。TCFD提言に賛同し、シナリオ分析を通じて気候変動が事業に及ぼすリスクと機会を評価のうえ、2025年の自社排出カーボンニュートラル達成を目指すなど、気候変動対策を積極的に推進しています。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 新薬開発の不確実性
画期的な医薬品の創製に向け、オープンイノベーションを通じた研究開発を進めています。しかし、新薬の開発には長期かつ多額の投資が必要であり、開発が中断されるなどして期待した収益が得られない場合、将来の業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 特定製品への収益依存リスク
売上収益の過半を主力製品「オプジーボ」および関連特許のロイヤルティ収入が占めています。薬価改定や競合品の台頭、特許期間の満了などにより同製品の売上が減少した場合、経営成績に影響を与える懸念があります。これに対し、グローバル展開による製品ポートフォリオの多角化を進めています。
■(3) 競争環境激化と医療費抑制策の影響
医薬品市場は各国の薬事行政等による厳しい規制を受けています。国内での公定薬価引き下げや後発医薬品の使用促進、海外での医療費抑制策の強化により、収益が圧迫されるリスクがあります。同社は開発早期から市場の変化を見据え、競争優位性を担保する戦略により対応を図っています。
7. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「企業の永続的な発展を支えるのは人財である」との考えに基づき、人的資本の拡充を推進しています。全ての従業員が多様性を活かし、能力を最大限に発揮できる組織風土の醸成に取り組んでおり、次世代経営人財やグローバル人財、デジタル人財などの横断的な育成プログラムを展開しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与は東証プライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 44.6歳 | 17.4年 | 10,935,334円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 9.1% |
| 男性育児休業取得率 | 88.8% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 73.6% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 73.1% |
| 男女賃金差異(有期労働者) | 79.7% |
また、同社は「人的資本の拡充に向けた取り組み」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、エンゲージメント指数(72)、正社員一人当たり研修時間(46.0時間)、健康年齢と実年齢との差(-2.0歳)などです。



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