※本記事は、キッセイ薬品工業株式会社 の有価証券報告書(第80期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. キッセイ薬品工業ってどんな会社?
泌尿器や腎・透析、希少疾病領域などに重点を置く創薬研究開発型の製薬企業です。
■(1) 会社概要
1946年に橘生化学研究所として設立され、1964年に現在のキッセイ薬品工業へ商号を変更しました。1988年に東京証券取引所市場第二部に上場し、1991年には同市場第一部銘柄に指定されています。2022年の市場区分見直しによりプライム市場へ移行しました。直近では2025年に連結子会社のキッセイコムテックがプロスを吸収合併しています。
連結従業員数は1,778名、単体では1,301名です。筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位は地元の有力地方銀行である八十二銀行です。上位には創業家やその資産管理会社、従業員持株会、地域の取引先企業などが名を連ねており、安定した株主構成となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 11.48% |
| 八十二銀行(常任代理人 日本マスタートラスト信託銀行) | 4.98% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 4.80% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性14名、女性2名の計16名で構成され、女性役員比率は12.5%です。代表取締役会長最高経営責任者(CEO)は神澤陸雄氏です。社外取締役比率は33.3%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 神 澤 陸 雄 | 代表取締役会長最高経営責任者(CEO) | 1976年入社。経営企画本部長等を経て1992年に社長就任。2014年より現職。 |
| 竹 花 泰 雄 | 代表取締役社長最高執行責任者(COO) | 1984年入社。研究本部創薬研究部長、経営企画部長等を歴任。2022年より現職。 |
| 福 島 敬 二 | 取締役副社長 | 1979年入社。医薬営業本部流通推進部長、医薬営業本部長等を歴任。2022年より現職。 |
| 高 山 哲 | 専務取締役最高人事責任者(CHRO) | 1985年入社。人事部担当部長、人事部長等を歴任。2024年10月より現職。 |
| 北 原 孝 秀 | 常務取締役財務管理部長最高財務責任者(CFO) | 1986年入社。2012年に財務管理部長就任。2023年10月より最高財務責任者も兼務し現職。 |
| 降 簱 喜 男 | 取締役相談役 | 1984年入社。開発本部長、代表取締役社長COO等を歴任。2022年より現職。 |
| 野 明 浩 史 | 取締役医薬営業本部長 | 1987年入社。医薬営業本部関越支店長、医薬企画部長等を歴任。2022年より現職。 |
| 宮 澤 敬 治 | 取締役研究本部長 | 1993年入社。事業開発部担当部長、研究本部研究統括部長等を歴任。2022年より現職。 |
社外取締役は、清水重孝(元八十二銀行常務取締役)、野村稔(野村ユニソン代表取締役会長)、内川小百合(丸の内ビジネス専門学校校長)、大月良則(元長野県庁健康福祉部長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「医薬品事業」、「情報サービス事業」、「建設・施設メンテナンス事業」および「物品販売事業」を展開しています。
■(1) 医薬品事業
同社が研究開発した医療用医薬品を製造販売するほか、他社からの仕入販売やヘルスケア食品の販売を行っています。泌尿器、腎・透析、希少疾病領域などを重点領域としています。海外においては、非連結子会社が医薬品開発情報の収集や研究開発業務の支援を行っています。
収益は、医療機関等への製品販売による対価や、導出先企業からの契約一時金、ロイヤルティ収入等から得ています。主な運営はキッセイ薬品工業が行っています。
■(2) 情報サービス事業
システムインテグレーションサービス、情報関連機器レンタルやネットワーク構築を行うシステムリソースサービス、メディカルシステム開発・販売の3分野で事業を展開しています。医療・介護等の社会課題解決に向けたシステム開発も行っています。
顧客に対し、システムの開発・保守、機器の貸出・販売等を行うことで収益を得ています。運営は連結子会社のキッセイコムテックが行っています。
■(3) 建設・施設メンテナンス事業
建物の建築から設備や施設の維持・管理までを行う総合建設サービス事業を展開しています。
顧客からの建設工事請負や施設メンテナンス業務の受託により収益を得ています。運営は連結子会社のハシバテクノスが行っています。
■(4) 物品販売事業
信州そばを中心とした麺類の開発・生産・販売を行うほか、各種設備機器や車両および燃料の販売、保険代理店業などを展開しています。
一般消費者や法人顧客への製品・商品販売等により収益を得ています。運営は連結子会社のキッセイ商事が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は第77期に一時減少しましたが、その後は増加傾向にあり、特に直近の第80期では大きく伸長しています。利益面でも、経常利益率は第77期、第78期に低迷しましたが、第79期以降は約8%の水準まで回復・向上しており、当期純利益も安定して確保しています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 690億円 | 654億円 | 675億円 | 756億円 | 883億円 |
| 経常利益 | 35億円 | 6億円 | 6億円 | 61億円 | 70億円 |
| 利益率(%) | 5.0% | 0.9% | 0.9% | 8.1% | 7.9% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 53億円 | 129億円 | 105億円 | 112億円 | 120億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間を比較すると、売上高の増加に伴い売上総利益が増加し、利益率も改善しています。営業利益についても増益となっており、本業の収益性が向上していることがうかがえます。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 756億円 | 883億円 |
| 売上総利益 | 373億円 | 441億円 |
| 売上総利益率(%) | 49.4% | 49.9% |
| 営業利益 | 40億円 | 58億円 |
| 営業利益率(%) | 5.3% | 6.5% |
販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が129億円(構成比34%)、給料手当・賞与が63億円(同17%)を占めています。
■(3) セグメント収益
主力の医薬品事業が増収増益となり、全社の業績を牽引しました。情報サービス事業や建設・施設メンテナンス事業、物品販売事業も増収となりましたが、建設・施設メンテナンス事業は増益、情報サービス事業は減益となりました。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 医薬品 | 633億円 | 753億円 | 26億円 | 47億円 | 6.2% |
| 情報サービス | 84億円 | 87億円 | 11億円 | 6億円 | 7.3% |
| 建設・施設メンテナンス | 30億円 | 34億円 | 3億円 | 5億円 | 13.4% |
| 物品販売 | 8億円 | 9億円 | 1億円 | 1億円 | 11.5% |
| 調整額 | -億円 | -億円 | 0億円 | 0億円 | -% |
| 連結(合計) | 756億円 | 883億円 | 40億円 | 58億円 | 6.5% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFと投資CFがプラスで、財務CFがマイナスの「改善型」です。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | -17億円 | 65億円 |
| 投資CF | 87億円 | 50億円 |
| 財務CF | -100億円 | -93億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は5.6%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は85.6%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「純良医薬品を通じて社会に貢献する」「会社構成員を通じて社会に奉仕する」を経営理念として掲げています。また、「世界の人びとの健康に貢献できる独創的な医薬品を開発し提供する創薬研究開発型企業を目指す」ことを医薬品事業の経営ビジョンとしています。
■(2) 企業文化
「輪と和を通じて、より大きく社会に貢献する」を経営理念とし、「株主、社員、地域、歴史・文化、環境」重視を基本方針とする経営を推進しています。「患者さんのために」という観点から、医薬品の研究開発や高品質な医薬品製造に取り組む姿勢を重視しています。
■(3) 経営計画・目標
2025年4月より中期5ヶ年経営計画「Beyond 80」をスタートさせました。10年後(2034年度)の目指す姿の実現に向け、以下の数値目標を掲げています。
* PBR 1倍超
* ROE 8%以上(2029年度まで)、10%以上(2034年度)
* 10年平均成長率(CAGR)売上高5%以上(2034年度)
* 研究開発費控除前営業利益10%以上(2034年度)
■(4) 成長戦略と重点施策
新たな中期経営計画において、5つの課題に対処し持続的成長を目指します。研究開発では低分子創薬へのフォーカスやAI活用、ライセンスインによるパイプライン拡充を図ります。国内事業では主力製品の最大化や新薬の事業化、海外ではリンザゴリクスの販売拡大等を推進します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「自律型人材の育成」をメインビジョンに掲げ、経営戦略を実現する創造性のある人材の育成に取り組んでいます。独自の複線型人事制度の運用や、階層別研修・DX人材育成などの教育制度拡充により、社員の自発的な能力開発を支援しています。また、多様性を尊重し、働きがいのある職場づくりを推進しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 43.3歳 | 18.8年 | 7,809,429円 |
※平均年間給与は、賞与及び基準外賃金を含んでいます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 7.3% |
| 男性育児休業取得率 | 100.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 71.0% |
| 男女賃金差異(正規) | 71.2% |
| 男女賃金差異(非正規) | 78.0% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、新卒採用に占める女性の割合(34.0%)、障がい者雇用率(2.76%)、ストレスチェック受検率(96.8%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 医薬品の研究開発に係るリスク
新薬の研究開発には多額の費用と期間を要しますが、有用な化合物の発見や開発の成功、承認取得の時期を確実に予測することは困難です。予測通りの成果が得られない場合、業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 医薬品行政の動向によるリスク
国内では医療費抑制のために薬価改定等の薬剤費抑制策が実施されています。医療保険制度の改定や規制の厳格化など、医療・薬務行政の抜本的な改革があった場合、業績や財政状態に影響を与える可能性があります。
■(3) 他社医薬品との競合によるリスク
同種の適応を持つ他社医薬品との競合に加え、特許満了後には後発医薬品との価格競争に直面します。これらの競合により、既存製品の売上が大きく影響を受ける可能性があります。
■(4) 医薬品副作用発現によるリスク
医薬品には予期せぬ副作用が発現する可能性があり、重篤な有害事象が生じた場合には、使用制限や販売中止となる可能性があります。これにより業績や財政状態に影響を及ぼす可能性があります。



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