キッセイ薬品工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

キッセイ薬品工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

キッセイ薬品工業は東京証券取引所プライム市場に上場し、医療用医薬品の研究開発や製造販売を主力とする製薬企業です。情報サービスや建設等の関連事業も展開しています。直近の業績は、主力製品の販売伸長により増収となった一方、研究開発費の増加により営業赤字となりましたが、最終利益は増益を確保しています。


※本記事は、キッセイ薬品工業株式会社の有価証券報告書(第81期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月22日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. キッセイ薬品工業ってどんな会社?


医療用医薬品の研究開発や製造販売を主力とし、関連事業も展開する製薬企業です。

(1) 会社概要


同社は1946年に長野県松本市で設立され、1964年にキッセイ薬品工業に商号を変更しました。1988年に東京証券取引所市場第二部に上場し、1991年に第一部銘柄に指定されました。2004年には米国現地法人キッセイアメリカを設立して海外展開を推進し、2022年にプライム市場へ移行しています。

現在の従業員数は連結で1,786名、単体で1,297名です。筆頭株主ならびに第3位は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位は取引金融機関である地方銀行です。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 12.14%
八十二長野銀行(常任代理人 日本マスタートラスト信託銀行) 4.98%
日本カストディ銀行(信託口) 4.44%

(2) 経営陣


同社の役員は男性14名、女性2名の計16名で構成され、女性役員比率は12.5%です。代表取締役会長最高経営責任者(CEO)は神澤陸雄氏です。

氏名 役職 主な経歴
神澤陸雄 代表取締役会長最高経営責任者(CEO) 1976年同社入社。取締役、常務、専務、経営企画本部長を経て、1992年に代表取締役社長に就任。2014年より現職。
竹花泰雄 代表取締役社長最高執行責任者(COO) 1984年同社入社。研究本部創薬研究部長、取締役、常務経営企画部長を経て、2022年より現職。
福島敬二 取締役副社長 1979年同社入社。医薬営業本部流通推進部長等を経て2014年に常務、2020年に専務に就任。2022年より現職。
高山哲 専務取締役最高人事責任者(CHRO) 1985年同社入社。人事部長等を経て2014年に取締役に就任。常務を経て2022年に専務となり、2024年より現職。
北原孝秀 常務取締役最高財務責任者(CFO) 1986年同社入社。財務管理部長等を経て2018年に取締役に就任。2022年に常務となり、2023年より現職。
降簱喜男 取締役相談役 1984年同社入社。事業開発部長、開発本部長等を経て、2018年に代表取締役社長最高執行責任者(COO)に就任。2022年より現職。
野明浩史 取締役医薬営業本部長 1987年同社入社。医薬営業本部関越支店長、医薬営業本部医薬企画部長等を経て、2022年より現職。
宮澤敬治 取締役研究本部長 1993年同社入社。事業開発部担当部長、研究本部研究統括部長等を経て、2022年より現職。


社外取締役は、清水重孝(元八十二銀行常務取締役)、野村稔(元野村ユニソン代表取締役社長)、内川小百合(丸の内ビジネス専門学校校長)、大月良則(元長野県庁健康福祉部長)です。

2. 事業内容


同社グループは、医薬品事業、情報サービス事業、建設・施設メンテナンス事業、物品販売事業を展開しています。

医薬品事業


同社が研究開発した医療用医薬品の製造販売を行うほか、医療用医薬品やヘルスケア食品を仕入れて販売しています。世界の人々の健康に貢献する独創的な製品を患者に提供しています。

収益は、医薬品やヘルスケア食品の販売代金や、技術導出によるライセンス収入(契約一時金やロイヤルティ等)から得ています。運営は主にキッセイ薬品工業が行い、子会社のキッセイアメリカが海外情報の収集や委託業務の管理を担っています。

情報サービス事業


システムインテグレーションサービス、情報関連機器レンタルやネットワーク構築などのシステムリソースサービス、メディカルシステムの開発および販売の3つの分野で事業を展開しています。

収益は、情報関連機器等の販売および貸出代金、システム開発の請負契約や保守契約に基づく対価から得ています。運営は子会社のキッセイコムテックが行っています。

建設・施設メンテナンス事業


建物の建築から設備や施設の維持・管理までを行う総合建設サービスを展開し、建築・土木請負工事などを幅広く手掛けています。

収益は、建築および土木請負工事契約に基づく工事代金などから得ています。運営は子会社のハシバテクノスが行っています。

物品販売事業


信州そばを中心とした麺類の開発・生産・販売、各種設備機器や車両および燃料の販売、保険代理店業などを展開し、一般消費者や法人を顧客としています。

収益は、麺類や設備機器、燃料の販売代金および保険代理店としての仲介手数料から得ています。運営は子会社のキッセイ商事が行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5年間の業績推移を見ると、売上高は右肩上がりで持続的な成長を続けています。一方、経常利益は研究開発等の先行投資により一時的な赤字を計上していますが、有価証券売却益などの寄与もあり、最終利益は安定して黒字を確保し増加傾向にあります。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 654億円 675億円 756億円 883億円 974億円
経常利益 6億円 6億円 61億円 70億円 -12億円
利益率(%) 0.9% 0.9% 8.1% 7.9% -1.2%
当期利益(親会社所有者帰属) 123億円 99億円 103億円 115億円 125億円

(2) 損益計算書


売上高および売上総利益は増加しましたが、売上総利益率がやや低下しています。また、将来の成長に向けた積極的な投資を行った結果、営業利益は赤字に転じました。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 883億円 974億円
売上総利益 441億円 458億円
売上総利益率(%) 49.9% 47.0%
営業利益 58億円 -29億円
営業利益率(%) 6.5% -3.0%


販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が225億円(構成比46%)、給与手当・賞与が73億円(同15%)を占めています。

(3) セグメント収益


主力である医薬品事業が堅調に推移し、全体の売上成長を牽引しています。また、情報サービス事業や建設・施設メンテナンス事業も大幅な増収を記録し、グループ全体の収益基盤の拡大に貢献しています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期)
医薬品事業 753億円 780億円
情報サービス事業 87億円 142億円
建設・施設メンテナンス事業 34億円 43億円
物品販売事業 9億円 9億円
連結(合計) 883億円 974億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


本業が低迷し、事業の見直しが迫られる状況を表す「事業検討型」のキャッシュ・フローとなっています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 65億円 -15億円
投資CF 50億円 175億円
財務CF -93億円 -103億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は6.3%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は83.7%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、「輪と和を通じて、より大きく社会に貢献する」を経営理念に掲げています。また、「株主、社員、地域、歴史・文化、環境」重視を基本方針とする経営を推進しており、社会に必要とされる健全で持続的な企業の発展を目指しています。

(2) 企業文化


同社は「純良医薬品を通じて社会に貢献する」「会社構成員を通じて社会に奉仕する」という理念のもと、従業員の多様性や個性を尊重した働きがいのある職場づくりに取り組んでいます。「患者さんのために」という観点から、品質の高い医薬品の提供を目指す文化を重視しています。

(3) 経営計画・目標


同社は中期5ヶ年経営計画「Beyond 80」を策定し、創薬研究開発型企業として持続的成長を遂げることを志向しています。成長投資を活発化させ、将来の持続的成長の原動力となる研究開発パイプラインの拡充を目指しています。

・ PBR1倍超
・ ROE8%以上(10年後は10%以上)
・ 10年平均成長率(CAGR)売上高5%以上

(4) 成長戦略と重点施策


同社は、強みである低分子創薬にフォーカスし、AIなどの技術革新を取り入れた創薬研究を推進します。また、既存主力製品の売上最大化や海外パートナーとの協力による収益基盤の拡大、脱炭素・循環型社会の実現に向けたサステナビリティ活動の強化などに取り組んでいます。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は「自律型人材の育成」をメインビジョンに掲げ、経営戦略を実現する創造性のある人材の育成および獲得に取り組んでいます。高度な専門性を持つ人材の計画的な育成を進め、ダイバーシティや健康経営を推進することで、働きがいのある職場環境の実現を目指しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 42.7歳 18.2年 7,980,826円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 7.1%
男性育児休業取得率 71.9%
男女賃金差異(全労働者) 72.0%
男女賃金差異(正規雇用労働者) 71.3%
男女賃金差異(パート・有期労働者) 69.3%


また、同社は「人的資本に関する取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、障がい者雇用率(2.73%)、ストレスチェック受検率(96.2%)、年次有給休暇取得率(73.9%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 医薬品の研究開発に係るリスク


新薬の研究開発には多額の費用と長い期間を要します。有用な化合物の発見や承認取得の時期を確実に予測することは困難であり、開発や薬務規制への対応が想定通りに進捗しない場合、業績に影響を及ぼす可能性があります。

(2) 医薬品行政の動向によるリスク


日本では社会保障制度の持続性確保のため、毎年の薬価改定をはじめとする薬剤費抑制策が実施されています。今後、さらなる医療保険制度の改定や規制の厳格化があった場合、同社の業績や財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

(3) 他社医薬品との競合によるリスク


同社が販売する医薬品と同種の適応を持つ他社医薬品との競合に加え、先発医薬品の特許満了後に発売される同成分の後発医薬品との価格競争に直面しており、既存製品の売上に大きな影響を及ぼす可能性があります。

(4) 医薬品副作用発現によるリスク


医薬品には、開発段階では発見できなかった未知の副作用が発現するリスクがあります。予期せぬ副作用や重篤な有害事象が発現した場合には、使用方法が制限されたり、場合によっては販売中止となる可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。