※本記事は、JCRファーマ株式会社の有価証券報告書(第51期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月23日提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. JCRファーマってどんな会社?
同社グループは、医療用医薬品や再生医療等製品、医薬品原料の研究開発・製造・販売を主力としています。
■(1) 会社概要
1975年に医薬品製造販売を目的として日本ケミカルリサーチ(現JCRファーマ)が設立されました。1993年に遺伝子組換えヒト成長ホルモン製剤「グロウジェクト」の製造承認を取得し、1995年には大阪証券取引所市場第二部へ上場を果たしました(現在は東証プライム市場)。その後も再生医療等製品の発売などを通じて事業を拡大しています。
従業員数は連結で985名、単体で937名です。筆頭株主は業務資本提携を結んでいる事業会社のメディパルホールディングスで、第2位は資産管理業務を行う信託銀行です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| メディパルホールディングス | 23.83% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 7.58% |
| フューチャーブレーン | 7.12% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性12名、女性3名の計15名で構成され、女性役員比率は20.0%です。代表取締役会長は芦田透氏、代表取締役社長は薗田啓之氏が務めています。社外取締役比率は46.7%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 芦田透 | 代表取締役取締役会長 | 1992年日本生命保険入社。フューチャーブレーン社長等を経て2014年入社。営業本部長等を経て、2026年4月より現職。 |
| 薗田啓之 | 代表取締役取締役社長チーフサイエンティフィックオフィサー | 2003年入社。研究本部長兼創薬研究所長、AlliedCel社長等を歴任。取締役専務執行役員を経て、2026年4月より現職。 |
| アンドレア スペッチ | 取締役専務執行役員開発担当 | コンサルタント小児科医等を歴任。Andrea Spezzi Executive Consultant設立。2023年入社、2026年4月より現職。 |
| 檜山義雄 | 取締役常務執行役員信頼性保証担当信頼性保証本部長 | 1986年第一製薬入社。ジャパンワクチン等の総括製造販売責任者を歴任。2019年入社し、2024年4月より現職。 |
| 芦田信 | 取締役ファウンダー | 1975年当社設立し代表取締役就任。取締役会長最高経営責任者やJCRインターナショナルS.A.社長等を経て、2026年4月より現職。 |
社外取締役は、末綱隆(元警察庁長官官房首席監察官)、林裕子(山口大学大学院特命教授)、跡見裕(杏林大学名誉学長)、フィリップ フォシェ(元グラクソ・スミスクライン社長)、浅野敏雄(旭化成特別顧問)、マーク デュノワイエ(アレクシオン・アストラゼネカ・レアディジーズ最高経営責任者)、依田俊英(メディパルホールディングス専務取締役)です。
2. 事業内容
同社グループは、「医薬品事業」の単一セグメントで事業を展開しています。
■(1) 医薬品事業
医療用医薬品、再生医療等製品、医薬品原料などの研究開発、製造、仕入れ、販売を行っています。特に小児領域を中心とした難病や希少疾病分野における治療薬、および独自の技術を用いた酵素補充療法などの新薬開発に強みを持ち、患者に新たな治療選択肢を提供しています。
医薬品等の製品販売からの収入に加え、国内外の提携先への技術ライセンス導出等による契約金収入を主な収益源としています。製品の製造および販売は主にJCRファーマが行っており、海外での開発業務や流通管理などは、アーマジェンやJCRヨーロッパなどの子会社が担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績を見ると、売上高はライセンス契約等により変動しつつも推移しています。経常利益は前期に赤字となりましたが、当期は製品販売の堅調な推移や契約金収入の増加により黒字に回復しており、積極的な研究開発投資を継続しながらも利益体質の改善が進んでいます。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 511億円 | 343億円 | 429億円 | 331億円 | 403億円 |
| 経常利益 | 205億円 | 54億円 | 73億円 | -70億円 | 12億円 |
| 利益率(%) | 40.2% | 15.8% | 16.9% | -21.3% | 2.9% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 144億円 | 37億円 | 64億円 | -44億円 | 19億円 |
■(2) 損益計算書
売上高の拡大に伴い売上総利益が増加し、売上総利益率も改善しています。これに加えて収益性の高い契約金収入が大きく寄与した結果、営業損益も黒字に転換し、本業における収益力が回復傾向にあることが読み取れます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 331億円 | 403億円 |
| 売上総利益 | 222億円 | 302億円 |
| 売上総利益率(%) | 67.0% | 74.9% |
| 営業利益 | -62億円 | 6億円 |
| 営業利益率(%) | -18.8% | 1.4% |
販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が168億円(構成比57%)と最も大きく、次いで支払手数料が43億円(同14%)、給料手当が29億円(同10%)を占めています。また、当期の総製造費用(126億円)のうち、材料費が51億円(同41%)、経費が45億円(同35%)を占めています。
■(3) セグメント収益
同社は医薬品事業の単一セグメントですが、製品別では主力製品や新薬の販売が堅調に推移したことに加え、外部企業への導出契約等による契約金収入が大きく増加したことが増収に貢献しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 医薬品事業 | 331億円 | 403億円 |
| 連結(合計) | 331億円 | 403億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFがマイナス、投資CFがマイナス、財務CFがプラスとなっており、本業のキャッシュ創出はマイナスですが将来の成長に向けた積極的な投資を借入等で継続する「勝負型」の局面と言えます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | -58億円 | -1.4億円 |
| 投資CF | -96億円 | -125億円 |
| 財務CF | 97億円 | 133億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は4.6%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は42.9%で、いずれも市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「私たちは、希少疾病にとどまらず、最も困難とされる治療の課題に挑戦し、答えを創り出していきます。」という企業理念を掲げています。また、創業50周年を機に新たなコーポレートスローガン「Life is Rare」を制定し、かけがえのない命の尊さや未解決の医療課題に挑む姿勢を表現しています。
■(2) 企業文化
「人」「独創」「進化」「卓越」という4つのコアバリューを重視しています。常識に縛られず誰にもつくれないものを生み出す独創性や、患者や社会のために最高水準の品質を追求する姿勢など、自ら考え行動する「チームJCR」としての価値観を組織全体で共有し、持続的な成長を目指しています。
■(3) 経営計画・目標
5ヵ年の中期経営計画「Reach Beyond, Together」を推進しています。将来のさらなる飛躍に向けた研究開発を重要な位置づけと捉えており、積極的な成長投資を計画しています。
* 2027年3月期は研究開発費193億円を計画
* 2027年3月期は営業利益11億円、経常利益5億円を見込む
■(4) 成長戦略と重点施策
独自の血液脳関門通過技術「J-Brain Cargo」を応用した新薬の研究開発や、海外での臨床開発・販売体制の整備を最優先課題としています。また、外部企業とのライセンス契約や製造受託事業への展開を通じて、製品売上に依存しない安定した収益基盤の構築とグローバル展開を推進する方針です。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「誰かがやる、その誰かになる」という当事者意識を持つ人材の育成を掲げています。動的な人材ポートフォリオの構築を進め、次世代グローバルリーダーを育成する「JCRアカデミー」の展開や、多様な人材が活躍できるダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)の浸透に取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 41.4歳 | 9.5年 | 8,192,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 16.9% |
| 男性育児休業取得率 | 93.5% |
| 労働者の男女の賃金の額の差異(全労働者) | 64.5% |
| 労働者の男女の賃金の額の差異(正規雇用労働者) | 69.5% |
| 労働者の男女の賃金の額の差異(パート・有期労働者) | 38.5% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、全社の女性比率(41.7%)、女性の育休からの復帰率(100%)、社員1人あたりの研修費用(102,000円)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) コンプライアンスに関するリスク
医薬品産業は有効性と安全性を担保するために様々な法規制を受けており、高い倫理観をもった事業活動が求められます。社会規範や企業倫理に反する行為が認められ、社会的信用が失墜した場合、同社グループの業績および財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 特定製品への依存リスク
同社の売上高のうち、ヒト成長ホルモン製剤が大きな割合を占めており、少子化や競合品の参入等の市場環境の変化が業績に影響を及ぼす可能性があります。これに対し、独自の基盤技術を応用した新薬の開発と上市を進め、特定製品への依存状態からの脱却を目指しています。
■(3) 研究開発に係るリスク
希少疾病領域において積極的な研究開発を行っていますが、医薬品の有効性や安全性が承認基準を満たさない場合、開発の中止や遅延が生じる可能性があります。また、ライセンス契約による収益もパイプラインの進捗に左右されるため、想定外の事態が業績に大きな影響を与えるリスクがあります。
■(4) グローバル展開に向けた活動のリスク
革新的医薬品の提供によるグローバル展開を目指していますが、各国固有の法規制や特許、医療制度等により事業展開のリスクが異なります。想定外の事態が発生した場合、事業の進捗や提携先企業から得られるロイヤルティの見込みに変動が生じ、業績に影響を及ぼす可能性があります。



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