第一三共 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

第一三共 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証プライム上場の製薬大手。医薬品等の製造販売を主な事業とし、特にがん領域の抗体薬物複合体(ADC)に強みを持ちます。2025年3月期は、グローバル主力製品「エンハーツ」の伸長や為替の円安影響等により、売上収益・各利益ともに前期を上回る増収増益となりました。


※本記事は、第一三共株式会社 の有価証券報告書(第20期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月20日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。

1. 第一三共ってどんな会社?


国内製薬大手。がん領域に強みを持ち、独自のADC技術を核にグローバル展開を加速させています。

(1) 会社概要


2005年に三共と第一製薬が経営統合し設立、2007年に両社を吸収合併しました。2008年に印ランバクシーを子会社化(後に売却)して新興国市場へ進出する一方、米プレキシコンやアンビット等の買収によりがん領域を強化しました。2019年よりアストラゼネカと提携し、ADC(抗体薬物複合体)技術のグローバル展開を推進しています。

連結従業員数は19,765名(単体6,252名)です。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)、第2位は株式会社日本カストディ銀行(信託口)、第3位は米国等で資産管理を行うSTATE STREET BANK AND TRUST COMPANYです。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) 17.69%
株式会社日本カストディ銀行(信託口) 7.55%
STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 505001 5.55%

(2) 経営陣


同社の役員は男性11名、女性4名の計15名で構成され、女性役員比率は26.6%です。代表取締役社長兼CEO社長執行役員は奥澤宏幸氏です。社外取締役比率は33.3%です。

氏名 役職 主な経歴
奥澤 宏幸 代表取締役社長兼CEO社長執行役員 1986年三共入社。グループ経営企画・管理ユニット長、CFO等を経て2023年社長兼COOに就任。2025年4月より現職。
眞鍋 淳 代表取締役会長会長執行役員 1978年三共入社。安全性研究所長、研究開発本部プロジェクト推進部長、経営戦略部長等を歴任。社長兼CEOを経て2023年会長兼CEO。2025年4月より現職。
平島 昭司 代表取締役 1988年第一製薬入社。U3 Pharma GmbH CEO、オンコロジー事業グループ長、製品戦略本部長、日本事業ユニット長等を歴任。2025年4月より現職。
松本 高史 取締役専務執行役員 1987年第一製薬入社。総務本部人事部長、総務本部人事管掌、グループヘッド オブ グローバル HR(現任)、グループCHRO(現任)等を歴任。2025年4月より現職。
福岡 隆 取締役 1987年三共入社。研究開発本部ベンチャーサイエンスラボラトリー長、Daiichi Sankyo, Inc.役員、経営戦略本部長、グループCStO等を歴任。2025年4月より現職。


社外取締役は、釡和明(元IHI社長)、野原佐和子(イプシ・マーケティング研究所社長)、小松康宏(群馬大学名誉教授)、西井孝明(元味の素社長)、本間洋(NTTデータグループ相談役)です。

2. 事業内容


同社グループは、「医薬品事業」および「その他」事業を展開しています。

医薬品事業


国内外において医療用医薬品の研究開発、製造、販売を行っています。重点領域であるがん領域(特にADC技術を用いた抗がん剤)に加え、循環器、中枢神経領域などの製品を提供しており、医療機関や患者が主な顧客です。

収益は、製品販売による売上のほか、アストラゼネカや米国メルクなどの提携先からの契約一時金、マイルストーン、ロイヤリティ収入等から成ります。運営は、国内は第一三共、米国は第一三共Inc.及びアメリカン・リージェントInc.、欧州は第一三共ヨーロッパGmbH等が担っています。

ヘルスケア事業


一般用医薬品(OTC医薬品)や化粧品等の研究開発、製造、販売を行っています。解熱鎮痛薬「ロキソニン」シリーズやスキンケア「ミノン」シリーズなどのブランドを展開し、一般消費者を対象としています。

収益は、ドラッグストアや薬局、通販チャネルを通じた製品販売による対価です。運営は、主に第一三共ヘルスケアが担当しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


売上収益は直近5期間で継続的に増加し、特に直近2期は大幅な増収となっています。利益面では、研究開発費等の増加はあるものの、売上拡大が寄与し、税引前利益および当期利益ともに増加傾向にあり、利益率も上昇しています。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上収益 9,625億円 10,449億円 12,785億円 16,017億円 18,863億円
税引前利益 741億円 735億円 1,269億円 2,372億円 3,556億円
利益率(%) 7.7% 7.0% 9.9% 14.8% 18.9%
当期利益(親会社所有者帰属) 760億円 670億円 1,092億円 2,007億円 2,958億円

(2) 損益計算書


前期と比較して売上収益が増加し、売上総利益率も改善しています。販管費や研究開発費は増加していますが、増収効果により営業利益率は上昇し、収益性が向上しています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上収益 16,017億円 18,863億円
売上総利益 11,864億円 14,705億円
売上総利益率(%) 74.1% 78.0%
営業利益 2,116億円 3,319億円
営業利益率(%) 13.2% 17.6%


販売費及び一般管理費のうち、広告宣伝費及び販売促進費が3,452億円(構成比47.2%)、給料及び賞与が3,142億円(同43.0%)を占めています。

(3) セグメント収益


全社的な売上収益は前期比で増加しています。特にグローバル主力品である抗がん剤「エンハーツ」が欧米を中心に伸長したことや、円安の影響が増収に寄与しました。利益面でも、増収効果によりコア営業利益等が大幅に増加しています。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期) 利益(2024年3月期) 利益(2025年3月期) 利益率
Total 16,017億円 18,863億円 2,116億円 3,319億円 17.6%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業活動によるキャッシュ・フローはプラスを維持しています。投資活動によるキャッシュ・フローは、定期預金の払戻や投資有価証券の売却収入が支出を上回りプラスとなりました。財務活動によるキャッシュ・フローは、自己株式の取得や配当金の支払によりマイナスとなりました。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 5,993億円 538億円
投資CF -2,826億円 3,342億円
財務CF -1,236億円 -3,778億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は17.9%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は34.8%で市場平均を下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、パーパス(存在意義)として「世界中の人々の健康で豊かな生活に貢献する」を掲げています。このパーパスの実現に向けて、自社の強みである「サイエンス&テクノロジー」に基づき、革新的医薬品の創出などの社会課題解決を目指し、イノベーティブなソリューションの提供に挑戦し続けることを経営の方針としています。

(2) 企業文化


同社グループは、独自の企業文化「One DS Culture」の醸成に取り組んでいます。その基盤として、グループ共通の核となる行動様式(Core Behavior)を定めています。具体的には、「Be Inclusive & Embrace Diversity」「Collaborate & Trust」「Drive Results」の3つを掲げ、これらをグループ全体で実践することで、グローバル組織と人材の強化を図っています。

(3) 経営計画・目標


第5期中期経営計画(2021年度-2025年度)において、2025年度目標「がんに強みを持つ先進的グローバル創薬企業」の達成を目指しています。また、KPIとして、株主資本配当率(DOE)を採用し、安定的な株主還元を行う方針です。

* 売上収益:1兆6,000億円(うち、がん領域において6,000億円以上)
* 研究開発費控除前コア営業利益率:40%以上
* ROE:16%以上
* DOE:8%以上

(4) 成長戦略と重点施策


「3ADC最大化の実現」を最重要課題とし、エンハーツ、Dato-DXd、HER3-DXdの3製品の市場浸透と適応拡大を加速させます。また、アストラゼネカや米国メルクとの戦略的提携を活用し、開発・販売体制を強化します。さらに、これらに次ぐ成長の柱として、新たなADCや改変型抗体等の領域から次世代の成長ドライバーを見極め、構築することを目指しています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「人」を最重要な資産と位置づけ、経営戦略と連動した人材戦略を推進しています。競争優位の源泉であるサイエンス&テクノロジーの強化に向け、グローバルでの人材獲得や、バイオ・DX等の強化領域への配置を進めています。また、「One DS Culture」の浸透やインクルージョン&ダイバーシティーの推進により、多様な社員が活躍できる環境を整備しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 46.0歳 20.3年 11,142,879円


※平均年間給与は基準外賃金及び賞与を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 14.3%
男性育児休業取得率 62.5%
男女賃金差異(全労働者) 79.7%
男女賃金差異(正規雇用) 78.4%
男女賃金差異(非正規雇用) 84.6%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性上級幹部社員比率(2025年度目標:30%)、企業風土・職場環境に関するエンゲージメントサーベイ肯定的回答率(2025年度目標:80%以上)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 研究開発・他社とのアライアンス等に関するリスク


新薬開発には多額の費用と期間を要し、開発中止や承認審査基準の変更により承認が得られない可能性があります。また、アストラゼネカ社や米国メルク社との戦略的提携において、開発・上市の遅延や契約条件の変更等が生じた場合、経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。特に重点領域である3ADC(エンハーツ等)の開発・販売の進捗は業績への影響が大きいため、注視が必要です。

(2) 医薬品の品質問題や副作用に関するリスク


医薬品の品質問題や予期せぬ副作用が発生した場合、製品回収、販売中止、損害賠償等により、経営成績や財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。同社はGMP・GDP適合の管理体制強化や、副作用情報の収集・分析・情報提供を通じてリスク最小化に努めていますが、健康被害等が発生した場合には多額の費用が発生するリスクがあります。

(3) 海外における事業展開に関するリスク


海外事業においては、地政学的要因、現地の法規制、労使関係等のリスクが存在します。特に米国における輸入関税の変更や急激な政策変更は、コスト上昇や競争力低下を招く可能性があります。同社は海外子会社との連携による情報収集や迅速な対応、日米欧の業界団体を通じた活動等によりリスク管理を行っていますが、これらが顕在化した場合には業績に悪影響を与える可能性があります。

(4) 知的財産権に関するリスク


事業活動が他者の知的財産権に抵触すると指摘された場合、事業断念や係争に発展する可能性があります。また、第三者による権利侵害に対して訴訟を提起することもあります。Seagen Inc.との特許侵害訴訟のように、ADC等のバイオ医薬品や新規モダリティの進展に伴い、知財リスクは増大傾向にあります。敗訴や多額の賠償金支払いが発生した場合、経営成績等に悪影響を及ぼす可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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