第一三共 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

第一三共 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

本記事は、第一三共の有価証券報告書に基づき企業実態を分析します。プライム市場に上場する同社は医薬品等の製造販売を主要事業として展開しています。直近の第21期決算では、主力製品の成長により売上収益が2兆1,230億円と増収を記録した一方で、一時的な費用計上等により営業利益は2,291億円の減益となりました。


※本記事は、第一三共株式会社の有価証券報告書(第21期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月19日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。

1. 第一三共ってどんな会社?


同社グループは、医療用医薬品やワクチンの研究開発、製造、販売をグローバルに展開する製薬企業です。

(1) 会社概要


同社は2005年9月に設立され、東京証券取引所に株式を上場しました。同年12月に第一三共ヘルスケアを設立し、2007年には三共および第一製薬を吸収合併して現在の事業基盤を構築しました。直近の動向としては、2024年に第一三共エスファの株式をクオールホールディングスに一部譲渡し持分法適用関連会社化したほか、2025年には第一三共プロファーマおよび第一三共ケミカルファーマを吸収合併しています。

同社グループの連結従業員数は20,171名、単体では8,009名が在籍しています。大株主の構成を見ると、筆頭株主および第2位は資産管理業務を行う信託銀行であり、第3位は生命保険会社となっています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 17.02%
日本カストディ銀行(信託口) 7.00%
日本生命保険相互会社 3.88%

(2) 経営陣


同社の役員は男性10名、女性5名の計15名で構成され、女性役員比率は33.3%です。代表取締役会長は眞鍋淳氏、代表取締役社長兼CEO社長執行役員は奥澤宏幸氏が務めています。また、取締役10名のうち5名が社外取締役であり、社外取締役比率は50.0%となっています。

氏名 役職 主な経歴
奥澤宏幸 代表取締役社長兼CEO社長執行役員 1986年三共入社。同社ASCAカンパニー事業企画部長、経営企画・管理本部長CFO等を経て2023年代表取締役社長兼COOに就任。2025年より現職。
眞鍋淳 代表取締役会長 1978年三共入社。同社安全性研究所長、日本カンパニープレジデント兼事業推進本部長等を経て、2019年代表取締役社長兼CEOに就任。2023年会長兼CEOを経て、2026年より現職。
松本高史 取締役上席執行役員 1987年第一製薬入社。同社人事部長等を経て2023年グループヘッドオブグローバルHR及びCHROに就任。2024年取締役常務執行役員を経て、2026年より現職。
上野司津子 取締役上席執行役員 1990年サントリー入社。2010年同社転籍。日本事業ユニットメディカルアフェアーズ本部長等を経て、2025年取締役常務執行役員、グループジャパンビジネスユニット長に就任。2026年より現職。
ジョセフ・ケネス・ケラー 取締役 アムジェン等を経て2014年第一三共Inc.入社。2019年同社社長兼CEO。2021年グループオンコロジービジネスユニット長を経て、2025年取締役に就任。2026年より現職。


社外取締役は、小松康宏(東京女子医科大学医療安全学講座主任教授)、西井孝明(花王社外取締役)、本間洋(NTTデータグループ相談役・報酬委員長)、渡辺章博(フーリハン・ローキー会長・指名委員長)、木下玲子(アドミラルキャピタル代表取締役社長)です。

2. 事業内容


同社グループは、「医薬品事業」を展開しています。

(1) 国内医薬品事業


国内において医療用医薬品や一般用医薬品、ワクチンの研究開発、製造、販売を行っています。全国の医療機関や一般消費者に向けて、治療や予防に貢献する幅広い医薬品等の製品を提供しています。

医薬品の販売代金から収益を得ています。医療用医薬品は第一三共が担い、一般用医薬品等は第一三共ヘルスケア、ワクチンは第一三共バイオテックが事業を運営しています。また、第一三共ビジネスアソシエがグループ各社に人事や経理などの事務サービスを提供しています。

(2) 海外医薬品事業


米国、欧州、アジア等の海外市場に向けて医薬品の研究開発、製造、販売を展開しています。各国の医療ニーズに応え、世界中の患者に向けて革新的な医薬品を提供するための体制を構築しています。

各地域の医療機関等への医薬品の供給および販売から収益を得ています。米国では第一三共Inc.やアメリカン・リージェントInc.が中心となり、欧州では第一三共ヨーロッパGmbHが主体となって事業を運営しています。また、その他の地域でも現地子会社を通じて展開しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


過去5期間の業績を見ると、売上収益は毎期順調に拡大を続けており、持続的な成長を実現しています。一方で、税引前利益や当期利益は直近まで増加傾向にありましたが、直近の決算期では一過性の費用などが影響し減益に転じました。全体としてはトップラインの力強い成長が確認できます。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上収益 10,449億円 12,785億円 16,017億円 18,863億円 21,230億円
税引前利益 735億円 1,269億円 2,372億円 3,556億円 2,634億円
利益率(%) 7.0% 9.9% 14.8% 18.9% 12.4%
当期利益(親会社所有者帰属) 670億円 1,092億円 2,007億円 2,958億円 2,599億円

(2) 損益計算書


売上収益は前期から順調に増加しており、それに伴い売上総利益も拡大し、売上総利益率も大きく改善しています。しかし、営業利益については前期から減少しており、営業利益率も低下しています。これは事業活動や供給体制に関連する一時的なコストの増加が影響していると推測されます。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 18,863億円 21,230億円
売上総利益 11,089億円 15,141億円
売上総利益率(%) 58.8% 71.3%
営業利益 3,319億円 2,291億円
営業利益率(%) 17.6% 10.8%

(3) セグメント収益


同社は医薬品事業の単一セグメントであり、主力製品のグローバルでの市場浸透や新規適応の取得、為替の影響などにより売上収益は増加しました。一方で、製造委託先への損失補償などを一過性の費用として計上したため、営業利益は前期を下回る結果となっています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期) 利益(2025年3月期) 利益(2026年3月期) 利益率
医薬品事業 18,863億円 21,230億円 3,319億円 2,291億円 10.8%
連結(合計) 18,863億円 21,230億円 3,319億円 2,291億円 10.8%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


同社のキャッシュ・フローは、営業活動で得た資金を投資や借入金の返済・株主還元に充てる「健全型」の傾向を示しています。企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は15.8%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は32.6%で市場平均を下回っています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 538億円 777億円
投資CF 3,342億円 -1,482億円
財務CF -3,778億円 -979億円

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


2035年ビジョンとして、「Trusted healthcare innovator transforming the lives of people through our science and technology」となることを掲げています。また、「サステナブルな社会の発展に貢献する先進的グローバルヘルスケアカンパニー」という2030年度目標への道筋を明確にし、革新的な医薬品を患者に迅速に届ける創薬プラットフォームの構築を目指しています。

(2) 企業文化


「One DS Culture」をグローバル共通の企業文化として醸成を図っています。社員の行動の指針・原則となる3つの「Core Values」、社員が実践すべき行動様式となる3つの「Core Behaviors」を策定し、その一つに「Be Inclusive & Embrace Diversity」を定めています。多様な社員が能力を最大限発揮できるインクルーシブな環境づくりに注力しています。

(3) 経営計画・目標


第6期中期経営計画(2026年度‐2030年度)において、2030年度の計数目標を設定しています。持続的な成長を実現するため、売上や利益水準、株主還元に関する具体的な目標値を掲げて経営を推進しています。

- 売上収益3兆円以上
- 営業利益6,000億円以上
- EPS260円以上
- 調整後DOE10.0%以上

(4) 成長戦略と重点施策


がん事業を拡大し、2035年までにグローバルトップ5のオンコロジー企業となることを目指しています。また、次世代の創薬技術プラットフォーム(BGTs)の特定と開発の加速化を進めます。さらに、AI活用やデジタルトランスフォーメーションによる生産性向上、調達・外注構造の抜本的最適化による利益創出力の強化に取り組んでいきます。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「第一三共グループピープルフィロソフィー」に基づき、人材を最重要資本と位置づけています。強化すべき人的資本として「成長し続ける個人の強み」「強化領域への継続的人材供給」「人や組織のシナジーを創出する環境・仕組み」の3本柱を掲げ、次世代経営幹部候補向けのDS Academy創設など、ワールドクラス人材の獲得・育成を推進しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 45.0歳 19.9年 10,976,771円

※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 15.3%
男性育児休業取得率 100.0%
男女賃金差異(全従業員) 78.2%
男女賃金差異(正規雇用) 76.8%
男女賃金差異(非正規雇用) 81.8%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性上級幹部社員比率(26.9%)、企業風土・職場環境に関するエンゲージメントサーベイ肯定的回答率(77%)、社員一人あたりの教育投資額(226,536円)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 研究開発や提携に関するリスク


新薬候補品の研究開発には多額の費用と長い年月を要しますが、期待された有用性が確認できず開発が中止される可能性があります。また、アストラゼネカ社や米国メルク社との戦略的提携において、契約の条件変更や終了、開発・上市の遅延などが生じた場合、同社の業績や財務状況に悪影響を及ぼすリスクがあります。

(2) バイオ医薬品市場での競争激化リスク


同社が注力するADC製品(抗体薬物複合体)などのバイオ医薬品市場では、競合他社による新薬の上市や次世代技術の台頭により競争環境が激化しています。また、製造委託先との長期契約における最低購入義務に対し、需要予測の変動により補償金の支払いが必要となる可能性があり、業績に影響を与える懸念があります。

(3) 医薬品の品質や副作用に関するリスク


医薬品の生産や供給過程において品質問題が発生した場合や、市販後に予期せぬ副作用が発現した場合には、製品の回収や販売中止、業務停止などの行政措置を受ける可能性があります。さらに、訴訟や損害賠償の発生により、同社グループの社会的信用や経営成績に重大な影響を及ぼすリスクが存在します。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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