※本記事は、株式会社ツムラ の有価証券報告書(第89期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. ツムラってどんな会社?
漢方医学と西洋医学の融合を掲げ、医療用漢方製剤で国内トップシェアを誇る製薬企業です。
■(1) 会社概要
1893年に中将湯本舗津村順天堂として創業し、1936年に株式会社を設立しました。1976年に医療用漢方製剤が健康保険薬価収載され、現在の主力事業の基盤を確立しました。2008年には家庭用品事業を売却して医薬品事業へ経営資源を集中させ、近年は中国における原料生薬の調達・製造基盤の強化や中薬事業の拡大を進めています。
連結従業員数は4,272名、単体では2,765名です。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行で、第2位は資本業務提携先である中国平安保険グループの関連会社となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行信託口 | 15.67% |
| BANK OF CHINA (HONG KONG) LIMITED-PING AN LIFE INSURANCE COMPANY OF CHINA,LIMITED | 10.06% |
| 日本カストディ銀行信託口 | 6.82% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性8名、女性1名の計9名で構成され、女性役員比率は11.0%です。代表取締役社長CEO(最高経営責任者)は加藤照和氏です。社外取締役比率は55.6%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 加藤 照和 | 代表取締役社長CEO(最高経営責任者) | 1986年同社入社。TSUMURA USA,INC.取締役社長、広報部長、コーポレート・コミュニケーション室長等を経て、2012年代表取締役社長に就任。2019年6月より現職。 |
| 杉井 圭 | 取締役Co-COO(共同最高執行責任者) | 三菱油化エンジニアリング、アクセンチュアを経て2009年同社入社。物流企画部長、SCM企画部長、深セン津村薬業有限公司董事長・総経理、執行役員生産本部長等を経て2022年6月より現職。 |
| 半田 宗樹 | 取締役 | 1985年三菱銀行入行。三菱東京UFJ銀行執行役員、三菱UFJキャピタル代表取締役社長を経て、2019年同社顧問。取締役常務執行役員CFO等を経て2025年4月より現職。 |
社外取締役は、三宅博(元特種東海製紙代表取締役副社長)、岡田正(元小松製作所常務執行役員)、柳良平(元エーザイ専務執行役CFO)、松下満俊(弁護士)、望月明美(公認会計士)です。
2. 事業内容
同社グループは、「医薬品事業」の単一セグメントで事業を展開しています。
■(1) 医薬品事業(日本)
国内においては、医療用医薬品および一般用医薬品の製造・販売を行っています。医療用漢方製剤では129処方をラインナップし、国内市場において圧倒的なシェアを有しています。また、一般用医薬品(OTC)として漢方製剤や生薬製剤も提供しています。
収益は、主に医薬品卸売業者などの販売代理店を通じた製品販売による対価として得ています。運営は主に親会社であるツムラが担い、運送・保管業務を株式会社ロジテムツムラが、原料生薬の栽培・調達等を株式会社夕張ツムラが担当しています。
■(2) 医薬品事業(中国)
中国においては、原料生薬の調達・選別加工・保管・販売や、漢方エキス粉末および中成薬(中国の伝統医薬品)の製造・販売を行っています。また、中薬(中国伝統医学に基づく医薬品)の研究開発や、飲片(刻み生薬)の付加価値サービスの展開も進めています。
収益は、製薬会社や病院、薬局などへの原料生薬、飲片、中成薬等の販売から得ています。運営は、津村(中国)有限公司による統括のもと、平安津村薬業有限公司、深セン津村薬業有限公司、上海津村製薬有限公司、天津津村製薬有限公司などの現地法人が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は毎期着実に増加しており、成長トレンドが継続しています。特に当期は売上高が大きく伸長し、利益面でも経常利益、当期利益ともに過去最高水準を記録しました。利益率も向上しており、収益性が高まっています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 1,164億円 | 1,295億円 | 1,400億円 | 1,508億円 | 1,811億円 |
| 経常利益 | 209億円 | 259億円 | 235億円 | 235億円 | 424億円 |
| 利益率(%) | 17.9% | 20.0% | 16.7% | 15.6% | 23.4% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 153億円 | 188億円 | 165億円 | 167億円 | 324億円 |
■(2) 損益計算書
売上高の大幅な増加に伴い、売上総利益、営業利益ともに大きく増加しました。営業利益率は前期比で大幅に改善しており、収益構造が強化されています。コスト面では、売上の増加に対応した原価の増加が見られますが、利益率の改善が上回っています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1,508億円 | 1,811億円 |
| 売上総利益 | 688億円 | 906億円 |
| 売上総利益率(%) | 45.6% | 50.0% |
| 営業利益 | 200億円 | 401億円 |
| 営業利益率(%) | 13.3% | 22.2% |
販売費及び一般管理費のうち、給料諸手当が191億円(構成比38%)、研究開発費が84億円(同17%)を占めています。
■(3) セグメント収益
同社は医薬品事業の単一セグメントですが、薬価改定によるプラス影響や販売数量の増加により、売上高、利益ともに前期を大きく上回りました。特に営業利益は倍増しており、主力である医療用漢方製剤の好調さが業績を牽引しています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 医薬品事業 | 1,508億円 | 1,811億円 | 200億円 | 401億円 | 22.2% |
| 連結(合計) | 1,508億円 | 1,811億円 | 200億円 | 401億円 | 22.2% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
**健全型**
本業の営業活動から十分なキャッシュを生み出し、それを原資として設備投資や借入金の返済、配当支払いを行っており、財務の健全性は高い状態です。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 56億円 | 338億円 |
| 投資CF | -194億円 | -250億円 |
| 財務CF | -44億円 | -199億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は11.4%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は64.7%で市場平均を上回っており、収益性と安全性の両面で良好な水準です。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、経営理念「自然と健康を科学する」および企業使命「漢方医学と西洋医学の融合により、世界で類のない最高の医療提供に貢献します」を基本理念としています。また、究極的に成し遂げようとする事業の志としてパーパス「一人ひとりの、生きるに、活きる。」を掲げ、自然由来の医薬品等を通じて人々の健康と医療に貢献することを目指しています。
■(2) 企業文化
同社は、創業時から受け継がれる「順天の精神」をプリンシプルとしています。また、品質と安全性を追求する「ツムラクオリティカルチャー」を醸成し、漢方バリューチェーンの基盤としています。組織のあり方としては、部門や人が調和し成果を創出する「漢方薬的組織」を目指すべき姿と定義し、対話を通じた企業文化の醸成に取り組んでいます。
■(3) 経営計画・目標
2025年度から2027年度までの第2期中期経営計画において、2027年度の数値目標を設定しています。日本事業の安定成長と中国事業の拡大、社会課題解決への貢献を通じて企業価値向上を目指しています。
* 売上高:2,340億円
* 営業利益:430億円
* ROE:8%
■(4) 成長戦略と重点施策
「TSUMURA VISION “Cho-WA” 2031」の実現に向け、漢方市場の成長とグローバル化を推進します。具体的には、エビデンス構築による漢方標準治療の拡大、先端技術を用いた「KAMPOmics」による個別化治療の推進、中国における中成薬事業への参入や飲片事業の拡大に取り組みます。また、漢方バリューチェーンのDX化による安定供給と生産性向上、人的資本経営の推進を重点施策として掲げています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「漢方薬的組織」の実現を目指し、多様な人材の採用と育成を推進しています。新卒・キャリア採用のバランスをとりつつ、女性の新卒採用比率50%維持を掲げています。育成面では「自ら育つ人を育む」をポリシーとし、階層別研修や次世代経営人材の養成プログラムを実施しています。また、ダイバーシティ&インクルージョンの推進や健康経営の実践により、働きがいのある環境整備に取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 42.6歳 | 16.5年 | 7,950,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 10.3% |
| 男性育児休業取得率 | 74.7% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 78.8% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 78.8% |
| 男女賃金差異(非正規) | 78.4% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、育児休業取得者復職率(100.0%)、障がい者雇用率(2.23%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 医療制度・薬価改定のリスク
国内の医療費抑制政策による薬価引き下げや制度改革が進められており、業績に影響を及ぼす可能性があります。同社は原価低減や流通効率化に取り組んでいますが、大幅な薬価引き下げや医療行政の方針転換があった場合、財政状態や経営成績に悪影響を与えるリスクがあります。
■(2) 原料生薬の調達リスク
漢方製剤の原料生薬は自然の産物であり、約90%を中国から調達しています。天候不順や自然災害による不作、政治・経済情勢の変化、法規制の変更等により、必要な量や品質の生薬確保が困難になったり、価格が高騰したりする可能性があります。これは製品の安定供給や製造コストに直接影響します。
■(3) 製品の品質・副作用に関するリスク
製品の品質と安全性の確保に努めていますが、予期せぬ副作用や品質問題が発生する可能性を完全に排除することはできません。万一、製品の回収や販売停止、健康被害等が発生した場合、社会的信用の失墜や損害賠償請求等により、業績やブランド価値に重大な影響を及ぼす可能性があります。
■(4) 国際事業(中国事業)のリスク
中国において事業拡大を進めていますが、法規制の変更、政治・経済状況の変動、商習慣の違いなどが事業運営の障壁となる可能性があります。また、現地企業との提携等が期待通りの成果を生まない場合や、カントリーリスクが顕在化した場合、投資回収の遅れや損失発生につながるリスクがあります。



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