櫻護謨 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

櫻護謨 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

櫻護謨は東京証券取引所スタンダード市場に上場し、消防・防災事業、航空・宇宙、工業用品事業、不動産賃貸事業を展開する企業です。直近の業績では、防災需要の拡大や航空・宇宙関連製品の販売増に支えられ、売上高は前期比19.3%増の145億円、経常利益は同81.8%増の12億円と大幅な増収増益を達成しました。


※本記事は、櫻護謨株式会社の有価証券報告書(第166期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月24日提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 櫻護謨ってどんな会社?


消防・防災用品や航空・宇宙向け工業用ゴム製品などの製造販売を手掛けるメーカーです。

(1) 会社概要


櫻護謨は1918年に各種ゴム製品の製造を目的に設立されました。1950年に「桜ファイヤーホース」の特許を登録し、1962年には米国企業との技術提携で航空機用ダクト類の生産を開始しました。1964年に上場を果たし、1978年には本社工場跡地に笹塚ショッピング・モールをオープンさせています。

現在は連結で351名、単体で323名の従業員が在籍しています。大株主の状況を見ると、筆頭株主は同社代表取締役社長である中村浩士氏であり、第2位は代表取締役副社長の岩﨑哲也氏が続いているなど、経営陣が上位の株主として名を連ねていることが特徴です。

氏名 持株比率
中村浩士 12.49%
岩﨑哲也 11.57%
梶原祐理子 8.68%

(2) 経営陣


同社の役員は男性14名、女性1名の計15名で構成され、女性役員比率は6.7%です。代表取締役社長は中村浩士氏が務めています。社外取締役比率は25.0%です。

氏名 役職 主な経歴
中村浩士 代表取締役社長兼営業本部長 1993年同社入社。取締役総合企画部長、専務取締役営業本部長兼総合企画部長等を経て、2003年より現職。
岩﨑哲也 代表取締役副社長 1991年同社入社。取締役大田原製作所技術部長等を経て、2010年より二十一世紀代表取締役社長ならびに同社代表取締役副社長。
遠藤聡 常務取締役総務部門統括 1977年同社入社。取締役総務部長兼物流部長、常務取締役総務部長等を経て、2024年より現職。
國府田文彦 常務取締役大田原製作所長 1990年同社入社。大田原製作所技術部長、取締役大田原製作所長等を経て、2025年より現職。
黒川洋二 取締役営業本部PM(消防・防災部門担当)兼営業一部長 1983年同社入社。取締役営業本部営業一部長等を経て、2021年より現職。桜ホース代表取締役社長も兼務。
中条誠 取締役大田原製作所副所長兼生産部長 1994年同社入社。執行役員大田原製作所生産部長等を経て、2026年より現職。
飯田牧子 取締役大田原製作所工務部長 1996年同社入社。大田原製作所技術部次長、執行役員大田原製作所工務部長等を経て、2026年より現職。
五嶋貴幸 取締役総務部長 1999年同社入社。総務部経理課長、執行役員総務部担当部長等を経て、2024年より現職。
佐藤重仁 取締役営業本部航空・宇宙部門、工業用品部門担当兼新技術営業部長 1982年同社入社。執行役員大田原製作所副所長等を経て、2025年より現職。


社外取締役は、中村一雄(金陽社代表取締役会長)、白坂成功(慶應義塾大学大学院委員長)、大庭孝之(建設資源広域利用センター常務取締役)です。

2. 事業内容


同社グループは、「消防・防災事業」「航空・宇宙、工業用品事業」「不動産賃貸事業」を展開しています。

消防・防災事業


消防ホースや消火栓ホース、防災救助資機材、労働安全機器などの製造販売を行っています。顧客は主に官公庁などの公的機関であり、多発する自然災害現場のニーズに応える資機材などを提供しています。

製品の販売や保守点検から収益を得ています。運営は同社のほか、子会社の桜ホースや日本エス・エイ・エスが行っており、顧客ニーズに沿った企画開発から生産、販売までをグループ一体となって手掛けています。

航空・宇宙、工業用品事業


航空機やロケット向けの関連部品のほか、原油貯蔵施設向けタンクシールなどの工業用品、ゴム製品製造用金型の製造販売を行っています。航空・宇宙分野では官需大型機やエンジン用部品、民需向けシール部品などを提供しています。

製品の販売から収益を得ています。運営は主に同社と子会社の川尻機械が担っており、独自の製造技術を活かした新分野への研究開発や、難易度の高い製品の製造に注力することで事業を推進しています。

不動産賃貸事業


主に本社に隣接する笹塚ショッピング・モールなどの商業施設や賃貸住宅の賃貸、運営を行っています。商業施設のテナントと連携し、地域社会に貢献する施設運営を進めています。

テナントからの賃料収入から収益を得ています。同社および子会社の二十一世紀が運営を担っており、得られた安定的な営業キャッシュフローはグループ全体の経営基盤を支える重要な構成要素となっています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


売上高は一時的な増減があるものの、概ね右肩上がりで拡大を続けています。経常利益についても堅調に推移しており、直近の2026年3月期には売上高145億円、経常利益12億円を達成しました。利益率も8%台へと上昇し、収益性の高い事業構造が定着しつつあります。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 89億円 107億円 134億円 122億円 145億円
経常利益 -2億円 4億円 11億円 7億円 12億円
利益率(%) -1.7% 3.8% 8.3% 5.4% 8.2%
当期利益(親会社所有者帰属) -2億円 3億円 7億円 4億円 6億円

(2) 損益計算書


売上高の増加にともない、売上総利益および営業利益ともに前期を大きく上回る結果となりました。一部製品における販売価格の改定効果などもあり、売上総利益率は21.7%から23.2%へ、営業利益率も5.3%から8.5%へと上昇し、収益力が大幅に改善しています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 122億円 145億円
売上総利益 26億円 34億円
売上総利益率(%) 21.7% 23.2%
営業利益 6億円 12億円
営業利益率(%) 5.3% 8.5%


販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が7億円(構成比32%)、役員報酬が2億円(同7%)を占めています。

(3) セグメント収益


すべての報告セグメントにおいて増収を達成しています。特に主力である消防・防災事業では自然災害向け資機材の需要が拡大し、航空・宇宙、工業用品事業でも官需向け部品などの販売が伸びたことで、両事業がグループ全体の売上高の成長を牽引する形となりました。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期)
消防・防災事業 68億円 83億円
航空・宇宙、工業用品事業 48億円 57億円
不動産賃貸事業 5億円 5億円
連結(合計) 122億円 145億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業キャッシュ・フローがマイナス、投資キャッシュ・フローがマイナス、財務キャッシュ・フローがプラスとなっており、将来の成長に向けて借入などで資金を調達し、積極的な投資を継続している「勝負型」の局面にあることが伺えます。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 4億円 -6億円
投資CF -2億円 -6億円
財務CF -1億円 8億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は7.0%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も51.0%であり、いずれも市場平均を下回る水準となっています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は、「顧客第一の精神に徹し、『顧客に満足される製品(もの)作り』、『正確な仕事で品質保証』を実践することにより広く社会に貢献する」ことを経営理念として掲げています。社会の安心・安全を支える製品やサービスを持続的に供給することが使命であると考え、事業を通じて社会の維持発展に寄与することを目指しています。

(2) 企業文化


同社は、経営理念を実践し持続的な成長を遂げるため、多様性に富んだ人材が活躍できる組織構築を重視しています。「正確な仕事で品質保証」を体現するため、従業員一人ひとりの技術や技能の向上を支援する教育体制を整備し、安全で働きがいのある職場環境づくりに取り組む文化が根付いています。

(3) 経営計画・目標


同社は、持続的な成長と企業価値の向上を図る観点から、安定的な収益の確保を経営目標として設定しています。

* 連結売上高経常利益率3%以上の維持

(4) 成長戦略と重点施策


同社は、将来の成長に向けた研究開発や生産体制の強化を重点施策としています。大田原製作所への新事務棟建設を通じた品質保証体制の向上や省人化設備の導入を進めるほか、消防・防災事業では提案型営業による販売力強化を図ります。航空・宇宙分野では、金属3Dプリンタを活用した新規需要の開拓にも注力していきます。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は、独自の技術やノウハウを次世代へ継承するため、新卒採用の継続とともに中途採用の拡充による多様な人材の確保を進めています。在宅勤務や副業制度などの柔軟な働き方を支援する制度を整備し、職種ごとに必要な社内資格を明確化することで、環境変化に柔軟に対応できる人材の育成と定着を目指しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均とほぼ同じ水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 41.0歳 16.5年 6,247,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 5.9%
男性育児休業取得率 100.0%
男女賃金差異(全労働者) 76.4%
男女賃金差異(正規雇用労働者) 84.9%
男女賃金差異(パート・有期労働者) 43.4%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、従業員数に占める女性従業員数の割合(19.1%)、男性の平均勤続年数における女性の平均勤続年数の割合(94.6%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 原材料の価格高騰と入手困難性


同社の製品は石油化学製品や金属素材を主原料としています。世界的な需給のひっ迫や地政学リスクの高まりによって原材料価格が急激に高騰した場合、コスト上昇分を販売価格へ十分に転嫁できず、収益を圧迫するリスクがあります。また、原材料の生産中止や調達の長期化による生産遅延の懸念も存在します。

(2) 重大な製品欠陥による品質問題


同社は国内外の厳格な品質基準に基づいて製品を製造し、万全の品質保証体制を敷いています。しかし、万が一重大な品質不良や品質事故が発生した場合には、回収等の追加コストの負担や顧客からの信用低下による取引の減少につながり、グループの経営成績や財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

(3) 専門人材の確保難と獲得競争の激化


同社の事業を持続的に成長させるためには、研究開発部門の技術者や製造部門の熟練技能者をはじめ、各部門での業務遂行を担う有能な人材の確保が不可欠です。企業間の人材獲得競争がさらに激化し、必要な人材の採用や育成が計画通りに進まない場合、同社の競争力や事業活動に重大な影響が生じるリスクがあります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。