※本記事は、日本板硝子株式会社の有価証券報告書(第159期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. 日本板硝子ってどんな会社?
建築用、自動車用、高機能ガラスの製造・販売を行う世界的ガラスメーカーで、独自の製造技術とグローバルな拠点が特徴です。
■(1) 会社概要
1918年に日米板硝子として設立され、1931年に現社名へ変更しました。1965年に東洋初のフロート方式ガラス製造設備を導入し、2006年には英国ピルキントン社を完全子会社化してグローバル経営を加速させました。2018年に創業100周年を迎え、2022年には東証プライム市場へ移行しています。
連結従業員数は25,406人、単体では1,787人です。筆頭株主は信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行で、第2位はモルガン・スタンレーMUFG証券が常任代理人を務める外国法人、第3位は三菱UFJ銀行が常任代理人を務める投資ファンドとなっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) | 15.57% |
| MSIP CLIENT SECURITIES | 2.76% |
| BBH CO FOR ARCUS JAPAN VALUE FUND | 2.19% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性17名、女性2名の計19名で構成され、女性役員比率は10.5%です。代表執行役社長兼CEOは細沼宗浩氏です。取締役会における社外取締役の比率は83.3%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 細沼 宗浩 | 取締役指名委員会委員報酬委員会委員代表執行役社長兼CEO(最高経営責任者) | ボストン・コンサルティング・グループ、住友スリーエムを経て2018年に入社。経営企画統括部長、建築ガラス事業部門長、COO等を歴任し2023年4月より現職。 |
| 森 重樹 | 執行役会長 | 1981年入社。建築ガラス事業や高機能ガラス事業の要職を経て2015年に代表執行役社長兼CEOに就任。2023年6月より現職。 |
| レオポルド・ガルセス・カスティーリャ | 執行役常務建築ガラス事業部門事業部門長 | 1991年Vidrieria Argentina入社。南米での要職を経て、2009年建築ガラス事業部門南米事業部長等を歴任。2022年4月より現職。 |
| 日吉 孝一 | 執行役常務CAO(最高管理部門責任者)兼カンパニーセクレタリー | 1982年入社。法務部長、CLO(最高法務責任者)、CRO(最高リスク責任者)などを歴任し、2024年6月より現職。 |
| 岡本 久 | 執行役常務クリエイティブ・テクノロジー事業部門 事業部門長 | 1985年入社。情報通信デバイス事業部での営業マーケティング等の要職を経て、2022年11月より現職。 |
| 大河内 聡人 | 執行役常務CFO(最高財務責任者) | 三井信託銀行、日本電産、ジャパンディスプレイCFOなどを経て2023年5月に入社。2023年6月より現職。 |
| ロブ・パーセル | 執行役常務Auto事業部門 事業部門長 | 1992年Pilkington Automotive入社。サプライチェーンダイレクターやAuto OE事業部門長などを歴任し、2024年5月より現職。 |
社外取締役は、石野博(元関西ペイント代表取締役社長・指名委員会委員長)、ヨーク・ラウパッハ・スミヤ(立命館大学経営学部教授・報酬委員会委員長)、皆川邦仁(元リコー常務執行役員・監査委員会委員長)、浅妻慎司(元関西ペイント取締役常務執行役員)、桜井恵理子(元ダウ・東レ代表取締役会長・CEO)です。
2. 事業内容
同社グループは、「建築用ガラス事業」「自動車用ガラス事業」「高機能ガラス事業」および「その他」事業を展開しています。
■建築用ガラス事業
建築材料市場向けに板ガラス製品および内装・外装用の加工ガラス製品を製造・販売しています。太陽電池パネル用ガラス事業もこのセグメントに含まれており、グループ売上の43%を占めています。主な顧客は建設業者やガラス加工業者、太陽電池パネルメーカーなどです。
製品の販売対価を主な収益源としています。運営は、日本板硝子ビルディングプロダクツやPilkington United Kingdom Ltd.などの国内外の関係会社に加え、ベトナムや米国の製造子会社などが担っています。
■自動車用ガラス事業
新車組立用および補修用市場向けに、多様なガラス製品を製造・販売しており、グループ売上の51%を占めています。主な顧客は自動車メーカーや自動車ガラス補修業者などです。
製品の販売対価を主な収益源としています。運営は、Pilkington Automotive Ltd.やPilkington North America, Inc.などの関係会社が中心となり、世界各地で事業を展開しています。
■高機能ガラス事業
ディスプレイ用カバーガラスなどの薄板ガラス、プリンター向けレンズ、エンジン用タイミングベルト部材などのガラス繊維製品を製造・販売しており、グループ売上の6%を占めています。主な顧客は電子機器メーカーや自動車部品メーカーなどです。
製品の販売対価を主な収益源としています。運営は、NGF Europe Ltd.やNSG Fiber Products Suzhou Co.,Ltd.などの関係会社が行っています。
■その他
上記セグメントに含まれない小規模な事業や、全社費用、連結調整、ピルキントン社買収に伴う無形資産の償却費などが含まれています。
グループ全体の管理機能や調整業務に関連する費用負担などが主な要素です。運営は、NSG Holding (Europe) Ltd.やPilkington Group Ltd.などの持株会社や管理会社が担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は第155期の約4,992億円から第159期には約8,404億円へと拡大傾向にあります。利益面では変動が大きく、第157期や当期である第159期には税引前損失および当期損失を計上しています。当期は売上高が増加したものの、減損損失等の影響で赤字となりました。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益(または売上高) | 4,992億円 | 6,006億円 | 7,635億円 | 8,325億円 | 8,404億円 |
| 税引前利益 | -172億円 | 119億円 | -219億円 | 176億円 | -85億円 |
| 利益率(%) | -3.4% | 2.0% | -2.9% | 2.1% | -1.0% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -169億円 | 41億円 | -338億円 | 106億円 | -138億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の損益構成を見ると、売上高は微増し、売上総利益も増加しましたが、販売費及び一般管理費の増加やその他の費用の計上により、営業利益は減少しました。売上総利益率は20.0%を維持していますが、営業利益率は4.3%から2.0%へ低下しています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 8,325億円 | 8,404億円 |
| 売上総利益 | 1,805億円 | 1,682億円 |
| 売上総利益率(%) | 21.7% | 20.0% |
| 営業利益 | 359億円 | 165億円 |
| 営業利益率(%) | 4.3% | 2.0% |
販売費及び一般管理費のうち、業務委託費が77億円(構成比5%)、運送保管費が67億円(同5%)を占めています。売上原価については、具体的な内訳の数値データがないため詳細は省略しますが、原材料費やエネルギーコストなどが主要な構成要素と考えられます。
■(3) セグメント収益
自動車用ガラス事業と高機能ガラス事業が増収となった一方、建築用ガラス事業は欧州市場の低迷などにより減収となりました。利益面では、建築用ガラス事業の大幅な減益が響き、全体として営業利益が減少しました。その他セグメントの赤字幅も拡大しています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 建築用ガラス事業 | 3,718億円 | 3,630億円 | 291億円 | 136億円 | 3.7% |
| 自動車用ガラス事業 | 4,176億円 | 4,294億円 | 113億円 | 77億円 | 1.8% |
| 高機能ガラス事業 | 399億円 | 466億円 | 71億円 | 76億円 | 16.2% |
| その他・調整額等 | 33億円 | 13億円 | -117億円 | -123億円 | - |
| 連結(合計) | 8,325億円 | 8,404億円 | 359億円 | 165億円 | 2.0% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
日本板硝子は、事業活動を通じて安定的に資金を生み出すとともに、将来の成長に向けた投資も積極的に行っています。営業活動によるキャッシュ・フローは堅調に推移しており、事業の収益性がうかがえます。一方で、投資活動によるキャッシュ・フローは、設備投資やM&A等に充当されていると考えられます。財務活動によるキャッシュ・フローは、資金調達や返済の状況を示しており、財務基盤の安定化に努めていることが見て取れます。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 588億円 | 524億円 |
| 投資CF | -435億円 | -424億円 |
| 財務CF | -481億円 | 85億円 |
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは経営指針「Our Vision」を掲げています。これは「使命:NSGの存在意義」「目指す姿:NSGのなりたい姿」「コアバリュー:働き方の基盤となる価値観」から構成されており、ガラスとその周辺技術に焦点を当てた価値やサービスを提供することで、社会の持続可能な発展に貢献することを目指しています。
■(2) 企業文化
同社は「Our Vision」の中で「コアバリュー」を定めており、これを働き方の基盤となる価値観として重視しています。また、組織内でのコミュニケーション文化として「Flat(フラットな組織)」「Frank(率直なコミュニケーション)」「Fast(迅速な意思決定)」「Fun(楽しめる職場環境)」の4つのFを浸透させています。
■(3) 経営計画・目標
2030年に目指す姿として「企業としてのフェーズを変え、持続可能な社会の発展に不可欠な存在を目指す」というゴールを設定しています。これに向けた中期経営計画「2030 Vision : Shift the Phase」では、収益性の強化と現金創出力の向上を通じて有利子負債の削減と自己資本の増強を目指しています。
■(4) 成長戦略と重点施策
中期経営計画では、「Business Development」「Decarbonization」「Digital Transformation」「Diverse Talent」の4つのDを戦略の中心に据えています。建築用ガラスでは高付加価値化と脱炭素化、自動車用ガラスではEV化対応や収益性改善、高機能ガラスでは新技術の商業化を推進します。また、DXによるオペレーション刷新や人材投資も強化します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は「Diverse Talent」を戦略の柱の一つとし、強い人材と組織を築くための投資を行っています。明確な人事戦略に基づき、情熱と意思を持つ人にプロフェッショナルな成長機会を提供する企業としての魅力をグローバルに示すとともに、「4つのF」をベースとしたコミュニケーション文化の浸透を図っています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 46.7歳 | 22.1年 | 7,704,380円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 4.9% |
| 男性育児休業取得率 | 41.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 75.0% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 81.3% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 65.9% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性管理職比率目標(2027年3月期までに24%)、二酸化炭素排出量(2024年スコープ1:2,818千トン)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 経済状況、地政学上の影響
世界各国で事業展開しているため、世界経済の変化や地政学的問題の影響を受ける可能性があります。インフレやエネルギー価格上昇、ロシアによるウクライナ侵攻などの情勢変化が、サプライチェーンや事業環境に悪影響を及ぼすリスクがあります。
■(2) 事故・自然災害等による生産中断等のリスク
地震や台風などの自然災害、事故、感染症の流行などにより生産活動が中断する可能性があります。特定の設備でしか生産できない製品もあり、生産中断が発生した場合、生産能力の低下を通じて業績や財務状況に大きな影響が及ぶ可能性があります。
■(3) 原燃材料の調達及び製品供給
ガラス製造には珪砂等の原材料やエネルギーが必要であり、これらの価格変動や調達難のリスクがあります。主要な仕入先との関係終了や契約不履行が生じた場合、調達コストの増加や製品供給の支障を招き、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(4) 財務リスク(資金調達・資産評価)
事業計画の実行や負債返済のために追加資金調達が必要となる可能性がありますが、調達困難な場合や条件が悪化するリスクがあります。また、のれんや無形資産などの減損リスクや、退職給付債務の増加リスク、A種種類株式の希薄化リスクなども存在します。



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