※本記事は、株式会社有沢製作所の有価証券報告書(第78期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月17日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 有沢製作所ってどんな会社?
独自の「織る、塗る、形づくる」技術を軸に、電子材料や産業用構造材料などの製造・販売を展開しています。
■(1) 会社概要
1909年創業の事業を承継し1949年に設立されました。1961年に東京証券取引所市場第二部へ上場し、2002年には市場第一部へ指定替えを果たしています。2000年にアリサワファイバーグラス、2017年にサトーセン、2021年に新揚科技股份有限公司を完全子会社化するなど、国内外で生産や販売体制を強化してきました。
従業員数は連結で1,583名、単体で641名です。筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行の日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位は事業会社の三菱瓦斯化学、第3位も信託銀行である日本カストディ銀行(信託口)となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 15.79% |
| 三菱瓦斯化学 | 4.48% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 3.68% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性2名の計12名で構成され、女性役員比率は17.0%です。代表者は代表取締役社長CEOの有沢悠太氏で、社外取締役比率は約41.7%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 有沢悠太 | 代表取締役社長CEO | 1992年に三菱電機に入社。JPモルガン証券を経て2003年に同社へ入社。取締役常務執行役員などを歴任し、2014年に代表取締役社長、2017年より現職。 |
| 増田竹史 | 取締役専務執行役員管理本部長 | 1986年にアルプス電気へ入社。1990年に同社へ入社し、経営企画部統括や上席執行役員などを経て、2021年に取締役常務執行役員、2023年より現職。 |
| 中島理 | 取締役常務執行役員事業戦略推進本部長兼イノベーション推進本部副本部長 | 1989年に三井物産へ入社し、機能化学品本部などの室長を歴任。2015年に同社へ入社して執行役員電子材料営業部担当を務め、2016年より現職。 |
| 田井誠 | 取締役常務執行役員イノベーション推進本部長兼開発支援部担当事業戦略推進本部副本部長分析センター担当 | 1988年に第一電工へ入社。2002年に同社へ入社し、技術部統括や上席執行役員などを経て、2023年より現職。 |
社外取締役は、中村康二(元三井物産専務執行役員)、我孫子和夫(元AP通信社北東アジア総支配人)、高田博俊(元日本精機代表取締役社長)、沼田美穂(沼田法律事務所所長)、堀江磨紀子(SDGインパクトジャパンパートナー)です。
2. 事業内容
同社グループは、「電子材料事業」「産業用構造材料事業」「電気絶縁材料事業」「ディスプレイ材料事業」および「その他」事業を展開しています。
■電子材料事業
フレキシブルおよびリジットプリント配線板用材料や、プリント配線板用ガラスクロスなどの高機能材料を製造・販売しています。主な顧客は半導体、データセンター、モバイル通信端末、次世代コンピューティングなどの分野に属する電子機器メーカーです。
顧客から製品の販売代金を収益として受け取ります。運営は同社のほか、子会社のアリサワファイバーグラス、新揚科技股份有限公司、サトーセンがそれぞれ専門の製品製造や販売を担っています。
■産業用構造材料事業
水処理用FRP製圧力容器、航空機用ハニカムパネルおよびプリプレグ、引抜成形品などを製造・販売しています。主なターゲットはモビリティ分野やエネルギー分野、水処理プラント関連企業です。
製品の販売や提供を通じて収益を得るモデルです。運営は同社に加え、プロテックインターナショナルホールディングス傘下のProtec Arisawa Europe, S.A.やProtec Arisawa America, Inc.、および有沢総業が行っています。
■電気絶縁材料事業
電気絶縁材料として使用されるガラスクロスやガラステープ、電気絶縁用プリプレグなどの各種成形品を製造・販売しています。主にインフラ関連やエネルギー分野の企業に対して製品を供給しています。
製品の製造・販売対価を収益の柱としています。運営は同社が製造および販売を行うほか、子会社のアリサワファイバーグラス、有沢総業、有沢樹脂工業が製造を担う体制を構築しています。
■ディスプレイ材料事業
3D表示フィルターや偏光利用部材などの光学素子製品を製造・販売しています。産業インフラ用途や医療機器分野、次世代コンピューティング分野に向けて、高精細な映像表示を支える製品を提供しています。
製品の販売を通じて顧客から代金を受け取ります。運営は同社が3D表示フィルターなどの製造・販売を行うとともに、子会社のカラーリンク・ジャパンが偏光利用部材の製造・販売を担当しています。
■その他
産業用構造材料や電気絶縁材料に関連する商品の販売、物流業務、およびゴルフ練習場の経営など、多岐にわたるサービスを提供しています。
関連商品の販売代金や各種サービスの利用料が主な収益源です。運営は同社が関連商品の販売を行い、子会社の有沢総業が物流業務やゴルフ練習場の経営を担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
直近5期間の業績を見ると、売上高は400億円台から推移し、直近では565億円まで拡大して成長基調にあります。経常利益は一時落ち込んだものの、近年は回復傾向が鮮明となり、直近では62億円を計上して利益率も10.9%へと上昇しました。スマートフォンや半導体向けを中心とした電子材料分野の需要増加が全体の業績を力強く牽引しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 431億円 | 427億円 | 421億円 | 498億円 | 565億円 |
| 経常利益 | 42億円 | 27億円 | 15億円 | 53億円 | 62億円 |
| 利益率(%) | 9.8% | 6.4% | 3.5% | 10.6% | 10.9% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 23億円 | 27億円 | 15億円 | 23億円 | 36億円 |
売上高は前期の498億円から当期は565億円へと順調に拡大しました。これに伴い売上総利益も116億円から134億円へ増加し、売上総利益率は23.8%へとわずかに改善しています。徹底したコスト削減の取り組みが功を奏し、営業利益も49億円から58億円へと着実に伸長しました。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 498億円 | 565億円 |
| 売上総利益 | 116億円 | 134億円 |
| 売上総利益率(%) | 23.3% | 23.8% |
| 営業利益 | 49億円 | 58億円 |
| 営業利益率(%) | 9.8% | 10.3% |
販売費及び一般管理費のうち、運賃及び荷造費が12億円(構成比16%)、給料及び手当が8億円(同10%)を占めています。
主力の電子材料事業は、スマートフォンや半導体向けの需要増が牽引し増収となりました。産業用構造材料事業も航空機用ハニカムパネル等の好調により大きく売上を伸ばしています。一方、ディスプレイ材料事業は3D関連材料などの減少により減収となりました。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 電子材料事業 | 315億円 | 359億円 |
| 産業用構造材料事業 | 106億円 | 137億円 |
| 電気絶縁材料事業 | 25億円 | 25億円 |
| ディスプレイ材料事業 | 49億円 | 40億円 |
| その他 | 4億円 | 3億円 |
| 連結(合計) | 498億円 | 565億円 |
同社のキャッシュ・フローは、営業活動で得た資金と借入などによる調達資金を元に、積極的な投資活動を行っている積極型です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 45億円 | 31億円 |
| 投資CF | -21億円 | -71億円 |
| 財務CF | -41億円 | 17億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は10.1%で市場平均を上回り、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も62.5%といずれも市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「創造 Create」「革新 Innovate」「挑戦 Challenge」を基本とし、①新たな価値を創造し顧客満足度を高める、②顧客ニーズを掘り起こし独創的な技術で新事業を創出する、③品質と生産性を向上させ企業体質を強化する、④社会・環境課題に取り組み持続的な成長を実現する、を経営方針としています。顧客へ驚きと喜びを提供し社会の発展に貢献することを使命としています。
■(2) 企業文化
創業以来一貫してユーザーニーズに応えながら技術革新と製品開発に取り組み、独自の「織る、塗る、形づくる」技術を構築してきた企業文化を持ちます。市場のグローバル化やニーズの多様化が急速に進展する中で、さらなる技術の差異化を図るとともに品質と生産性を向上させ、企業価値を創造し続ける姿勢を重視しています。
■(3) 経営計画・目標
事業と財務の両面から企業価値を高めることを目指しており、独自技術を用いた差異化製品の開発や既存事業の深掘り、新規事業の創出を通じて収益力の強化を図っています。財務面の数値目標として、第二次中期経営計画において以下を掲げています。
・ROIC 8%以上(2030年3月期)
・ROE 10%以上(2030年3月期)
■(4) 成長戦略と重点施策
電子材料分野では半導体や次世代モビリティ分野を中心に新製品開発と事業拡大を進め、産業用構造材料および電気絶縁材料分野では水処理プラントや水素エネルギー等のモビリティ・エネルギー分野への事業化を加速します。さらにディスプレイ材料分野では医療機器などの新製品拡販を図る方針です。財務戦略としては将来キャッシュフローを生み出す事業への成長投資と積極的な株主還元を行い、資本効率の向上を探求します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
人材を価値創造の源泉かつ持続的な成長の原動力と位置づけ、求める人材像を「自ら考えCIC(創造・革新・挑戦)を実践する人材」と定めています。経営と事業をリードする人材の育成や多様な人材の獲得・育成、働きがいのある職場づくりに取り組み、年齢や性別などにとらわれない公正な評価や処遇を行って、企業価値向上につなげる方針です。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 45.4歳 | 21.0年 | 6,711,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 19.2% |
| 男性育児休業取得率 | 57.1% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 79.1% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 79.2% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 80.6% |
また、同社は「人的資本経営に関する取組みについて」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、グループ管理職の中途入社社員比率(69.1%)、単体管理職の中途入社社員比率(38.5%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
(1) 電子機器の製品需要の変動
同社グループが製造・販売する製品の主な顧客は、情報機器メーカー、電子部品メーカー、産業用電子機器メーカーなどです。そのため、これらの電子機器市場における急激な需要変動が発生した場合には、同社グループの事業展開や経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
(2) 特定分野への依存と原材料調達
同社グループの売上高は電子材料分野への依存度が高く、同分野の売上が減少した場合には業績に影響が及ぶおそれがあります。また、製品の製造に用いる原材料について、原油や銅価格が著しく高騰し、購入価格が上昇した場合にも、収益性が圧迫されるリスクがあります。
(3) 生産拠点の集中に伴う災害リスク
同社グループの生産拠点の多くは新潟県上越市に集中しています。そのため、同地域において大規模な地震や水害などの自然災害が発生し、生産設備やサプライチェーンに甚大な被害が生じた場合には、生産活動が中断し、同社グループの経営成績に大きな影響を及ぼすおそれがあります。



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