※本記事は、株式会社有沢製作所 の有価証券報告書(第77期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 有沢製作所ってどんな会社?
電子材料や産業用構造材料などを手掛ける化学メーカーです。独自の「織る、塗る、形づくる」技術を強みとし、多岐にわたる製品を展開しています。
■(1) 会社概要
同社は1909年創業の有沢製作所の事業を承継し、1949年に設立されました。1961年に東証二部に上場し、2002年には東証一部へ指定替えとなりました。近年では、2021年に新揚科技股份有限公司を完全子会社化するなどグループ体制を強化しています。2022年の市場区分見直しに伴い、プライム市場へ移行しました。
現在の従業員数は連結1,498名、単体604名です。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位は取引先であり退職給付信託を設定している三菱瓦斯化学、第3位は日本カストディ銀行(信託口)となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) | 13.03% |
| 三菱瓦斯化学株式会社 | 4.42% |
| 株式会社日本カストディ銀行(信託口) | 3.82% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性2名の計12名で構成され、女性役員比率は17.0%です。代表取締役社長CEOは有沢悠太氏が務めています。社外取締役比率は41.7%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 有沢 悠太 | 代表取締役社長CEO | 1992年三菱電機入社。JPモルガン証券を経て2003年同社入社。2014年代表取締役社長、2017年より現職。 |
| 増田 竹史 | 取締役専務執行役員生産本部長兼管理本部長 | 1986年アルプス電気入社。1990年同社入社。経営企画部統括、執行役員経営企画部担当、上席執行役員等を経て2023年より現職。 |
| 中島 理 | 取締役常務執行役員事業戦略推進本部長兼イノベーション推進本部副本部長 | 1989年三井物産入社。機能化学品本部や基礎化学品本部での室長を経て2015年同社入社。2016年より現職。 |
| 田井 誠 | 取締役常務執行役員イノベーション推進本部長兼開発支援部、イノベーションセンター準備室(主)担当事業戦略推進本部副本部長分析センター担当 | 1988年第一電工入社。2002年同社入社。技術部統括、執行役員電子材料技術部担当等を経て2023年より現職。 |
社外取締役は、中村康二(元三井物産専務執行役員)、我孫子和夫(元AP通信社東京支局総支配人)、高田博俊(元日本精機代表取締役社長)、沼田美穂(沼田法律事務所所長)、堀江磨紀子(SDGインパクトジャパン パートナー)です。
2. 事業内容
同社グループは、「電子材料」「産業用構造材料」「電気絶縁材料」「ディスプレイ材料」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 電子材料
電子機器に使用されるフレキシブルおよびリジットプリント配線板用材料、プリント配線板用ガラスクロスなどを製造・販売しています。主な顧客は電子部品メーカーや情報機器メーカーです。
収益は製品の販売によるものです。運営は主に有沢製作所が行い、子会社のアリサワファイバーグラス、新揚科技股份有限公司、サトーセンなどが製造・販売を担っています。
■(2) 産業用構造材料
水処理プラント等で使用される水処理用FRP製圧力容器、航空機用ハニカムパネルおよびプリプレグ、引抜成形品などを製造・販売しています。
収益は製品の販売によるものです。運営は有沢製作所のほか、子会社のProtec Arisawa Europe, S.A.、Protec Arisawa America, Inc.、有沢総業などが行っています。
■(3) 電気絶縁材料
電気絶縁材料として使用されるガラスクロス・テープ、電気絶縁用プリプレグなどを製造・販売しています。
収益は製品の販売によるものです。運営は有沢製作所が販売を行い、製造は子会社のアリサワファイバーグラス、有沢総業、有沢樹脂工業などが担っています。
■(4) ディスプレイ材料
3D表示フィルターや偏光利用部材などのディスプレイ関連材料を製造・販売しています。産業インフラ用途や医療機器分野などで使用されています。
収益は製品の販売によるものです。運営は有沢製作所および子会社のカラーリンク・ジャパンが行っています。
■(5) その他事業
上記事業に関連する商品の販売や、物流業務、ゴルフ練習場の経営などを行っています。
収益は商品の販売代金やサービスの対価によるものです。運営は有沢製作所および子会社の有沢総業が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上高は第76期まで400億円台前半で推移していましたが、第77期には大幅に増加しました。経常利益は第76期に一旦落ち込んだものの、第77期には急回復し、高い利益率を達成しています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 464億円 | 431億円 | 427億円 | 421億円 | 498億円 |
| 経常利益 | 36億円 | 42億円 | 27億円 | 15億円 | 53億円 |
| 利益率(%) | 7.7% | 9.8% | 6.4% | 3.5% | 10.6% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 14億円 | 23億円 | 27億円 | 15億円 | 23億円 |
■(2) 損益計算書
前期と比較して、売上高が増加し、売上総利益率が大幅に改善しました。これにより営業利益は3倍以上に拡大し、高い収益性を示しています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 421億円 | 498億円 |
| 売上総利益 | 74億円 | 116億円 |
| 売上総利益率(%) | 17.5% | 23.3% |
| 営業利益 | 15億円 | 49億円 |
| 営業利益率(%) | 3.5% | 9.8% |
販売費及び一般管理費のうち、その他が32億円(構成比48%)、給料及び手当が22億円(同33%)を占めています。売上原価は売上高の77%を占めています。
■(3) セグメント収益
主力の電子材料事業が大幅な増収となり、全社の成長を牽引しました。ディスプレイ材料事業も大きく伸長しています。一方、産業用構造材料事業と電気絶縁材料事業は売上高が横ばいまたは微減となりました。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) |
|---|---|---|
| 電子材料 | 251億円 | 315億円 |
| 産業用構造材料 | 106億円 | 106億円 |
| 電気絶縁材料 | 25億円 | 25億円 |
| ディスプレイ材料 | 35億円 | 49億円 |
| その他 | 3億円 | 4億円 |
| 調整額 | -9億円 | -10億円 |
| 連結(合計) | 421億円 | 498億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
健全型:営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 32億円 | 45億円 |
| 投資CF | -11億円 | -21億円 |
| 財務CF | -34億円 | -41億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は8.4%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は67.7%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「創造 Create」「革新 Innovate」「挑戦 Challenge」を基本とし、新たな価値創造による顧客満足度の向上、独創的な技術による新事業創出、品質・生産性向上による企業体質強化、社会・環境課題解決への貢献を経営方針としています。顧客の期待を上回り、「驚きと喜び」を提供し続けることで社会の発展に貢献することを目指しています。
■(2) 企業文化
創業以来、ユーザーニーズに応えながら技術革新に取り組み、独自の「織る、塗る、形づくる」技術を構築してきた文化があります。市場のグローバル化やニーズの多様化に伴い、技術の差異化や品質・生産性の向上を図り、企業価値を創造する姿勢を重視しています。また、環境や社会の課題解決を重要な経営課題と捉えています。
■(3) 経営計画・目標
同社グループはROICを目標とする経営指標としており、2025年5月に策定した中期経営計画において、以下の目標を掲げています。
* 2030年3月期でのROIC8%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
独自技術を用いた差異化製品の開発により新たな価値を創出し、既存事業の深掘りと新規事業の拡大を進めます。財務面では成長投資と積極的な株主還元を行い、資本効率の向上を目指します。
* 電子材料:独自の樹脂配合と塗工技術により高機能材料を開発し、半導体や次世代モビリティ分野などで事業を拡大します。
* 産業用構造材料・電気絶縁材料:水処理プラントや燃料電池、航空機内装材など、モビリティ・エネルギー領域の事業化を加速します。
* ディスプレイ材料:産業インフラや医療機器分野において新製品の拡販を図ります。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
人材を価値創造の源泉と位置づけ、「自ら考えCIC(創造・革新・挑戦)を実践する人材」を求めています。多様な人材の獲得と育成、働きがいのある職場づくりに取り組み、企業価値向上とその成果の社員への還元という好循環を目指しています。年齢や性別等に関わらず能力や成果に応じた評価・処遇を行い、中途採用者の管理職登用も積極的に進めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 45.4歳 | 21.3年 | 6,771,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 20.5% |
| 男性育児休業取得率 | 62.5% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 74.8% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 75.5% |
| 男女賃金差異(非正規) | 68.6% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、管理職に占める中途入社社員の割合(連結67.7%)、管理職に占める中途入社社員の割合(単体39.7%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 製品需要の変動
同社グループの製品の主なユーザーは情報機器メーカーや電子部品メーカー等であり、これら電子機器の需要変動が業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 特定の製品への依存
売上高において電子材料分野への依存度が高くなっており、同分野の売上が減少した場合には、グループ全体の経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
■(3) 新規事業の展開
種々の新規事業の立ち上げを図っていますが、その進捗状況によっては、経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
■(4) 原材料の調達
購入する原材料において、原油や銅価の高騰により購入価格が著しく上昇した場合には、経営成績に影響を及ぼす可能性があります。



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