三菱製鋼 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

三菱製鋼 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東京証券取引所プライム市場に上場する特殊鋼メーカーです。特殊鋼鋼材、ばね、素形材、機器装置の製造販売を主要事業とし、自動車や建設機械向け製品をグローバルに展開しています。直近の業績は、売上高が減収となりましたが、海外拠点のコスト改善や精密ばねの収益貢献等により、経常利益は増益を確保しました。


※本記事は、株式会社三菱製鋼 の有価証券報告書(第101期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月19日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 三菱製鋼ってどんな会社?


三菱グループに属する特殊鋼メーカーです。素材から製品までの一貫生産体制とグローバル展開に特徴があります。

(1) 会社概要


1904年創業の東京スプリング製作所と1919年設立の長崎製鋼所を源流とし、1942年の合併を経て三菱製鋼となりました。1964年に三菱鋼材と合併し現在の体制を確立しました。1975年に三菱長崎機工を設立し、近年では2018年にインドネシアの特殊鋼メーカーを連結子会社化するなど、海外展開を加速させています。

連結従業員数は3,841名、単体では681名です。筆頭株主は資産管理を行う日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口)で、第2位は販売先であり源流の一つでもある三菱重工業、第3位は明治安田生命保険相互会社です。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 13.84%
三菱重工業 6.48%
明治安田生命保険相互会社 4.63%

(2) 経営陣


同社の役員は男性8名、女性2名の計10名で構成され、女性役員比率は20.0%です。代表取締役社長執行役員は山口淳氏です。社外取締役比率は33.3%です。

氏名 役職 主な経歴
山口淳 代表取締役社長執行役員 1989年同社入社。ばね営業部長、事業企画部長等を歴任。2021年取締役常務執行役員を経て、2022年6月より現職。
佐藤基行 取締役会長 1978年同社入社。ばね事業部長、常務取締役、取締役社長(代表取締役)等を歴任。2022年6月より現職。
青池慶介 代表取締役常務執行役員社長補佐、CFOサステナビリティ担当 1990年三菱銀行入行。三菱UFJ銀行シニアフェロー、東銀リース取締役常務執行役員等を経て、2025年4月より現職。
山尾明 取締役常務執行役員営業本部長部品事業部担当 1985年同社入社。部品事業部長、鋼材事業部長、営業本部長等を歴任。2023年6月より現職。


社外取締役は、菱川明(元三菱重工業代表取締役常務執行役員)、竹内美奈子(TM Future代表取締役)です。

2. 事業内容


同社グループは、「特殊鋼鋼材事業」、「ばね事業」、「素形材事業」、「機器装置事業」および「その他の事業」を展開しています。

特殊鋼鋼材事業


炭素鋼、低合金鋼、ばね鋼などの特殊鋼鋼材を製造・販売しています。主な顧客は自動車部品メーカーや建設機械メーカーなどで、素材供給を通じて産業基盤を支えています。

収益は、顧客への鋼材販売による対価が主な柱です。運営は主に三菱製鋼(同社)や三菱製鋼室蘭特殊鋼、インドネシアのPT.JATIM TAMAN STEEL MFG.などが行っています。

ばね事業


巻ばね、スタビライザ、板ばね等の自動車・建設機械用部品や精密ばね等を製造・販売しています。自動車メーカーや建機メーカーに対し、サスペンション用ばねやエンジン部品等を供給しています。

収益は、製品の販売代金となります。運営は同社のほか、北米のMSSC CANADA INC.やMSSC US INC.、中国の寧波菱鋼弾簧有限公司など、グローバルな拠点で展開されています。

素形材事業


特殊合金粉末、精密鋳造品、精密機械加工品、鋳鍛鋼品などを製造・販売しています。電子部品や自動車ターボチャージャー部品など、高度な技術を要する分野に製品を提供しています。

収益は、これらの製品販売による対価です。運営は同社およびタイのMSM (THAILAND) CO., LTD.などが担っています。

機器装置事業


鍛圧機械、産業機械、鉄構品、環境リサイクル機器などを製造・販売しています。産業機械メーカーやインフラ関連企業などが主な顧客です。

収益は、機械装置や鉄構品の販売代金および工事収入等からなります。運営は主に子会社の三菱長崎機工が行っています。

その他の事業


グループ内の物流やサービス業務を担っています。内航海運、港湾運送、倉庫業などを展開しています。

収益は、運送サービスや倉庫保管料などの対価です。運営は菱鋼運輸や菱鋼サービスなどが行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績を見ると、売上高は第99期をピークにやや減少傾向にありますが、1,500億円以上の規模を維持しています。利益面では、第100期に一時的な落ち込みが見られましたが、第101期には経常利益、当期純利益ともに大きく回復し、収益性が改善しています。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 978億円 1,463億円 1,705億円 1,699億円 1,596億円
経常利益 -55億円 58億円 37億円 19億円 49億円
利益率(%) -5.6% 4.0% 2.2% 1.1% 3.0%
当期利益(親会社所有者帰属) -56億円 48億円 17億円 -44億円 -0.8億円

(2) 損益計算書


直近2期間の比較では、売上高は減少したものの、売上総利益および営業利益は増加しており、本業の収益力が向上していることがわかります。特に営業利益率は2.8%から4.1%へと改善しており、コスト管理や高付加価値化の取り組みが成果を上げています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 1,699億円 1,596億円
売上総利益 218億円 237億円
売上総利益率(%) 12.8% 14.9%
営業利益 48億円 66億円
営業利益率(%) 2.8% 4.1%


販売費及び一般管理費のうち、役員報酬・従業員給与及び賞与が51億円(構成比29.9%)、運賃諸掛が43億円(同25.2%)を占めています。

(3) セグメント収益


各セグメントの状況を見ると、主力の「特殊鋼鋼材」と「ばね」は減収となったものの、両事業とも大幅な増益を達成しており、利益率が向上しています。「機器装置」は増収増益と堅調です。一方、「素形材」は減収減益となっており、セグメント間で業績の明暗が分かれる結果となりました。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期) 利益(2024年3月期) 利益(2025年3月期) 利益率
特殊鋼鋼材 790億円 727億円 23億円 33億円 4.6%
ばね 705億円 661億円 10億円 20億円 3.0%
素形材 92億円 90億円 8億円 4億円 4.6%
機器装置 97億円 102億円 7億円 7億円 7.0%
その他 15億円 16億円 0.8億円 1億円 9.0%
調整額 -億円 -億円 -0億円 -0.3億円 -%
連結(合計) 1,699億円 1,596億円 48億円 66億円 4.1%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業CFがプラス、投資CFがマイナス、財務CFがマイナスであり、本業で稼いだ資金で投資を行いながら借入返済も進めている「健全型」です。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 65億円 60億円
投資CF -40億円 -52億円
財務CF -116億円 -65億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は5.6%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は30.8%で市場平均を下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同グループは、いかなる経営環境の変化にも対応できる企業体質を確立することを重要課題と認識し、競争力ある事業の育成を通じて、持続的かつグローバルに発展することを経営の基本方針としています。自らの社会的使命を果たすことでより信頼される企業を目指し、各ステークホルダーとの対話を通じて、持続可能な社会の実現に貢献します。

(2) 企業文化


「事業活動」「コンプライアンス」「情報開示」「社員の尊重」「環境保全」「国際化」の6つの柱からなる「三菱製鋼グループ企業行動指針」を定めています。これに基づき、事業を通じた企業価値の向上と、持続可能な健全な社会の実現に向けて取り組む姿勢を共有しています。環境保全、人権や多様性の尊重、法令遵守などを重視する文化があります。

(3) 経営計画・目標


2030年のありたい姿として「企業価値向上」と「持続的成長」を掲げ、その実現に向けた助走期間として「2023中期経営計画(2023~2025年度)」を推進しています。
* 戦略事業の売上比率:2030年に向けて50%に拡大(現状30%)
* CO2総排出量:2030年度に50%削減(2013年度比)

(4) 成長戦略と重点施策


「環境対応」「海外事業」「EVシフト」をキーワードに、市場成長と高収益が期待できる5つの事業と新規事業を「戦略事業」と定め、育成を進めています。基盤事業では収益力の強化を図り、低採算事業の構造改革を進めます。

* 特殊鋼鋼材事業:海外でのコスト改善による体質強化と、国内でのDX化によるコストダウン、カーボンニュートラル対応を推進します。
* ばね事業:精密ばね事業の拡大と、北米・ドイツ事業の構造改革、インド拠点の増強等により事業ポートフォリオを最適化します。
* 素形材・機器装置事業:特殊合金粉末の拡販や洋上風力発電関連機器の受注獲得を目指します。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「人を活かし、技術を活かし、時代の波に乗り続ける企業でありたい」という2030年の姿に向け、「人材への投資」を重点課題としています。従業員エンゲージメントの向上、多様な人材がいきいきと働く環境づくり、女性活躍推進を掲げています。また、戦略事業を伸ばすため、必要なスキルの育成や適材配置を加速させる方針です。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均とほぼ同じ水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 43.5歳 20.6年 7,564,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 4.9%
男性育児休業取得率 100.0%
男女賃金差異(全労働者) 77.9%
男女賃金差異(正規雇用) 82.8%
男女賃金差異(非正規雇用) 56.2%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、有給休暇取得率(75.2%)、女性従業員比率(13.7%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 市場・需要動向に関するリスク


主要な納入先である自動車・建設機械業界の製品需要動向が業績に影響を与えます。特に国内鋼材事業では建機向け需要の変動が大きく、長期的には国内市場の縮小も想定されています。戦略事業の成長が想定通り進まない場合、中長期計画に影響が生じる可能性があります。

(2) 原材料・副資材・エネルギー価格等の変動に関するリスク


製品の主原料である鉄鉱石・原料炭は市況や為替の影響を受けやすく、製造コストの多くを占めます。副資材や電力・ガス等のエネルギー価格も変動するため、これらの市況変動が業績に影響を及ぼす可能性があります。これに対し、一部顧客との売価連動フォーミュラの構築や売価転嫁交渉を行っています。

(3) 海外拠点における地政学及び為替変動リスク


北米、中国、東南アジア等に拠点を有しており、現地の政治・経済・社会的混乱や法的規制、貿易規制等の影響を受ける可能性があります。また、輸出入や海外子会社の財務諸表換算において為替変動の影響を受けます。ヘッジ契約等の対策を行っていますが、リスクを完全に排除することは困難です。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。