※本記事は、三菱製鋼の有価証券報告書(第102期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月17日提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準はJapan GAAPです。
1. 三菱製鋼ってどんな会社?
特殊鋼鋼材、自動車用等のばね、素形材、機器装置の製造販売を主力とする老舗メーカーです。
■(1) 会社概要
1904年創業の東京スプリング製作所と1919年設立の長崎製鋼所を前身とし、1964年の合併により現在の三菱製鋼となりました。その後、国内外で事業拠点やM&Aを通じた拡大を推進し、近年は北米、中国、インド、東南アジアなどに生産・販売拠点を設けてグローバルな事業展開を行っています。
現在、同社グループは連結従業員数3,864名、単体従業員数695名の体制で事業を運営しています。大株主については、筆頭株主が資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行であり、第2位は事業の販売取引先でもある三菱重工業、第3位が明治安田生命保険相互会社となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 10.82% |
| 三菱重工業 | 6.48% |
| 明治安田生命保険相互会社 | 4.63% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性8名、女性2名の計10名で構成され、女性役員比率は20.0%です。代表取締役社長執行役員は山口淳氏が務めています。社外取締役比率は33.3%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 山口 淳 | 代表取締役社長執行役員 | 1989年同社入社。ばね営業部長、事業企画部長などを経て、2021年取締役常務執行役員に就任。2022年より現職。 |
| 佐藤 基行 | 取締役会長 | 1978年同社入社。ばね事業部長、常務取締役を経て、2015年取締役社長に就任。2021年代表取締役社長執行役員を経て、2022年より現職。 |
| 青池 慶介 | 代表取締役常務執行役員 社長補佐、CFO サステナビリティ担当 システム部担当 | 1990年三菱銀行入行。三菱UFJフィナンシャル・グループのコンプライアンス統括部長等を経て、2024年同社代表取締役常務執行役員に就任。2026年より現職。 |
| 山尾 明 | 取締役常務執行役員 営業本部長部品事業部担当 | 1985年同社入社。部品販売部長、ばね営業部長、鋼材事業部長などを経て、2017年取締役に就任。2023年より現職。 |
社外取締役は、竹内美奈子(TM Future代表取締役)、萩田敦司(元三菱重工業ターボ技術部長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「特殊鋼鋼材事業」「ばね事業」「素形材事業」「機器装置事業」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 特殊鋼鋼材事業
同事業では、自動車や建設機械などの産業分野で広く使用される炭素鋼、低合金鋼、ばね鋼などの特殊鋼鋼材を製造・販売しています。国内外の顧客の多様なニーズに応えるため、高品質な鋼材を提供しており、安定した品質と生産体制が強みです。
収益は、製品の販売対価として顧客から受け取る代金から成り立っています。運営は、国内では三菱製鋼や三菱製鋼室蘭特殊鋼が行っており、海外ではインドネシアのPT.MSM INDONESIAやPT.JATIM TAMAN STEEL MFG.などが担っています。
■(2) ばね事業
同事業は、巻ばね、スタビライザ、板ばねなどの自動車・建設機械向けばね製品や、精密ばね、ヒンジ製品などの製造・販売を行っています。幅広い産業に向けて重要保安部品を提供しており、軽量化や高付加価値化の技術開発にも取り組んでいます。
収益は、自動車メーカー等の顧客への部品販売による代金から得ています。事業の運営は、三菱製鋼のほか、北米のMSSC CANADA INC.やMSSC US INC.、中国の寧波菱鋼弾簧有限公司、インドのMSM SPRING INDIA PVT.LTD.などが担当しています。
■(3) 素形材事業
同事業では、自動車内燃機関や電子部品、3Dプリンタ向けなどに使用される特殊合金粉末、精密鋳造品、一般鍛鋼品などの製造・販売を行っています。特に軟磁性粉末などの高機能な高性能粉末の技術開発を推進し、多様な用途拡大を図っています。
収益は、顧客への製品販売に伴う代金から構成されています。事業の運営は主に三菱製鋼が担っているほか、タイにおいてはMSM (THAILAND) CO., LTD.が素形材の製造および販売を展開しています。
■(4) 機器装置事業
同事業は、鉄構品、産業機械、鍛圧機械、環境リサイクル機器などの製造および販売を行っています。近年は安全保障分野やエネルギー関連分野向けの防護装備品やガスタービン向けケーシングの需要に対応し、受注を拡大しています。
収益は、産業用設備や関連機器の顧客への販売、および工事契約の進捗度に基づき認識される対価から得ています。この事業の運営は、主に三菱長崎機工が担っており、国内に生産能力を備えた拠点を有しています。
■(5) その他事業
同セグメントでは、製品の製造事業に関連する各種サービスとして、内航海運、港湾運送、貨物利用運送、倉庫業などを展開しています。グループ内の物流や付帯サービスを支える役割を担っています。
収益は、物流および関連サービスの提供に対する対価として受け取っています。事業の運営は、主に菱鋼運輸や菱鋼サービスが行っており、グループ全体のサプライチェーンの効率化を支援しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
過去5年間の業績を見ると、売上高は1,400億円台から1,700億円台で推移していますが、直近2期間は減少傾向にあります。経常利益は需要変動や高炉トラブル等の影響を受けて増減が大きく、利益率も1〜4%台と変動しています。当期利益は一時的な損失計上により赤字となる期がありましたが、直近では黒字へ回復しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 1,463億円 | 1,705億円 | 1,699億円 | 1,596億円 | 1,546億円 |
| 経常利益 | 58億円 | 37億円 | 19億円 | 49億円 | 40億円 |
| 利益率(%) | 4.0% | 2.2% | 1.1% | 3.0% | 2.6% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 48億円 | 17億円 | -44億円 | -0.8億円 | 17億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は1,596億円から1,546億円へと約50億円の減収となりました。売上総利益も237億円から208億円へ減少しており、売上総利益率は14.9%から13.5%へ低下しています。これに伴い、営業利益は66億円から48億円へ減少し、営業利益率は4.1%から3.1%へと悪化する結果となりました。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1,596億円 | 1,546億円 |
| 売上総利益 | 237億円 | 208億円 |
| 売上総利益率(%) | 14.9% | 13.5% |
| 営業利益 | 66億円 | 48億円 |
| 営業利益率(%) | 4.1% | 3.1% |
販売費及び一般管理費のうち、役員報酬・従業員給与及び賞与が49億円(構成比31%)、運賃諸掛が41億円(同26%)を占めています。
■(3) セグメント収益
特殊鋼鋼材事業は数量減や高炉トラブル等の影響で大きく減収となり、営業赤字へ転落しました。一方、ばね事業は精密部品や国内ばねの数量増などで増収となり、利益も大幅に改善しています。素形材事業は特殊合金粉末の売価改定の遅れがあったものの、精密鋳造品の改善で増益となり、機器装置事業も好調な受注を背景に増収増益となりました。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 特殊鋼鋼材事業 | 815億円 | 649億円 | 33億円 | -10億円 | -1.5% |
| ばね事業 | 661億円 | 762億円 | 20億円 | 40億円 | 5.2% |
| 素形材事業 | 92億円 | 98億円 | 4億円 | 8億円 | 8.2% |
| 機器装置事業 | 105億円 | 118億円 | 7億円 | 9億円 | 7.6% |
| その他 | 37億円 | 37億円 | 1億円 | 1億円 | 2.7% |
| 調整額 | -114億円 | -119億円 | -0.3億円 | -0.1億円 | - |
| 連結(合計) | 1,596億円 | 1,546億円 | 66億円 | 48億円 | 3.1% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社のキャッシュ・フローは、営業活動で得た資金を投資や借入金の返済に充てる「健全型」の傾向を示しています。本業で安定的かつ十分なキャッシュを創出しており、外部からの借入に過度に依存せず、手元資金で持続的な成長投資と財務基盤の強化を両立できる優良な状態にあるといえます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 60億円 | 101億円 |
| 投資CF | -52億円 | -7億円 |
| 財務CF | -65億円 | -87億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は6.7%で市場平均を下回り、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も34.4%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「いかなる経営環境の変化にも対応できる企業体質を確立することを重要課題と認識し、競争力ある事業の育成を通じて、持続的かつグローバルに発展すること」を経営の基本方針として掲げています。自らの社会的使命を果たすことで信頼される企業を目指し、ステークホルダーとの対話を通じて持続可能な社会の実現に貢献することを重視しています。
■(2) 企業文化
同社グループでは、社会における存在意義として「想いをカタチにする力で 挑み 未来(あす)を 支えつづける」というパーパスを定めています。また、「三菱製鋼グループ企業行動指針」とそれを細分化した「三菱製鋼グループ行動規範」を制定し、人権の尊重、多様性の推進、安全で働きやすい職場環境の確保を重視しながら、事業活動を通じて企業価値の向上を図る文化を醸成しています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、「2030年のありたい姿」の実現に向けて、2026年度から2028年度までの3ヵ年を対象とした「2026中期経営計画」を策定しています。この計画では、基盤事業の再建と戦略事業の収益化によって利益構成を転換し、資本効率と実行力を向上させることで、企業価値の向上を目指しています。
* 企業価値の向上(PBR1倍以上)
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は、ROIC(投下資本利益率)経営の深化を通じて事業ポートフォリオの変革を進めています。国内鋼材事業等の基盤事業を再構築して収益基盤とキャッシュ創出力を高め、将来の利益成長ドライバーである海外鋼材・精密部品等の戦略事業へ資源を集中させて「育成」から「収益化」への移行を図ります。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、「人を活かす経営」を経営理念の一つに掲げ、「人」を持続的成長を支える源泉と位置づけています。人的資本経営においては、「挑戦する個の育成」「会社と社員の相互信頼が向上する組織づくり」「組織のパフォーマンスを最大化させる文化の醸成」の3つの戦略を推進し、人材の育成や成長領域への機動的な再配置に向けた仕組みづくりを行っています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 43.3歳 | 20.2年 | 7,877,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 5.6% |
| 男性育児休業取得率 | 100.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 78.0% |
| 男女賃金差異(正規労働者) | 82.8% |
| 男女賃金差異(非正規労働者) | 57.2% |
また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、有給休暇取得率(75.5%)、エンゲージメントサーベイ回答率(96.5%)、女性従業員比率(14.1%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 市場・需要動向の変動リスク
同社の主要製品は自動車や建設機械などの産業分野で使用されるため、景気変動や設備投資動向の影響を受けやすい構造にあります。特に国内鋼材事業は建設機械分野の需要低迷や市場の縮小等の影響により、販売数量の減少や稼働率の低下を招き、経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 原材料・エネルギー価格の高騰リスク
鋼材原料、各種副資材、電力・燃料などの調達価格は、国際市況や地政学的要因、為替動向により大きく変動する可能性があります。これらの価格上昇分を販売価格へ適時かつ十分に転嫁できない場合や、調達網に制約が生じた場合には、生産計画への影響や収益性の悪化を招くリスクがあります。
■(3) 地政学および為替の変動リスク
北米、中国、インド、東南アジア等で展開する生産・販売拠点において、現地の政治・経済情勢、法規制、通商政策の変更、社会情勢の緊張等が事業に影響を与える可能性があります。また、外貨建取引の換算に伴う急激な為替相場の変動は、換算差損益の発生等を通じて財務状態を悪化させるリスクとなります。
■(4) 製品の瑕疵・欠陥リスク
自動車や建設機械等の安全性・信頼性が重視される重要保安部品を製造しているため、万が一製品に重大な瑕疵や欠陥が発生した場合には、製品回収、補償対応、訴訟、信用低下につながる恐れがあります。同社は品質管理体制の強化や品質点検を実施し、未然防止に努めています。



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