愛知製鋼 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

愛知製鋼 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証プライム・名証プレミア市場に上場するトヨタグループの特殊鋼メーカーです。鋼材、鍛造品、電子部品等の製造・販売を主力としています。2025年3月期の連結業績は、販売価格の上昇等により売上収益が増加し、増収増益となりました。


※本記事は、愛知製鋼株式会社 の有価証券報告書(第121期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月27日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。

1. 愛知製鋼ってどんな会社?


トヨタグループ唯一の素材メーカーとして、特殊鋼や鍛造品から電子部品までを手掛ける企業です。

(1) 会社概要


同社は1940年、豊田自動織機製作所の製鋼部門が分離独立し、豊田製鋼として設立されました。1945年に現社名へ変更し、1961年に東京証券取引所へ上場しました。その後、米国やアジア地域への海外子会社設立を進め、2017年にはカンパニー制を導入して組織を改編しています。

連結従業員数は4,522名、単体では2,578名です。筆頭株主は事業会社であり主要顧客でもあるトヨタ自動車で、第2位は資産管理業務を行う信託銀行、第3位は株式会社レノです。トヨタグループの一員として強固な資本関係を築いています。

氏名 持株比率
トヨタ自動車 24.69%
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 8.54%
レノ 7.51%

(2) 経営陣


同社の役員は男性9名、女性1名の計10名で構成され、女性役員比率は10.0%です。代表取締役社長は後藤尚英氏です。社外取締役比率は20.0%です。

氏名 役職 主な経歴
藤岡 高広 代表取締役会長 1979年トヨタ自動車工業入社。トヨタ自動車常務役員を経て、2011年愛知製鋼取締役社長に就任。2023年6月より現職。
後藤 尚英 代表取締役社長 1989年愛知製鋼入社。鍛カンパニーアイチフォージユーエスエイ社長、経営役員開発本部主査などを経て、2023年6月より現職。
中村 元志 代表取締役副社長 1983年トヨタ自動車入社。同社常務理事、衣浦工場長を経て、2018年愛知製鋼取締役専務執行役員。2020年4月より現職。
石井 直生 取締役経営役員経営企画本部長 1986年トヨタ自動車入社。同社渉外広報本部長などを経て、2021年愛知製鋼経営役員企画創生本部長。2024年6月より現職。


社外取締役は、安井香一(元東邦瓦斯社長)、新居勇子(元全日本空輸上席執行役員)です。

2. 事業内容


同社グループは、「鋼(ハガネ)カンパニー」「ステンレスカンパニー」「鍛(キタエル)カンパニー」「スマートカンパニー」および「その他」事業を展開しています。

鋼(ハガネ)カンパニー


特殊鋼(熱間圧延材)の製造・販売を行っています。主な顧客は自動車部品メーカー等です。また、製鋼用資材の生産や鋼材製品の運搬・保管も含まれます。

収益は顧客への製品販売により得ています。運営は主に愛知製鋼が行うほか、アイチセラテック、近江鉱業が製鋼用資材の生産を、アイチ物流が運搬・保管を行っています。

ステンレスカンパニー


ステンレス鋼およびチタン(熱間圧延材、二次加工品)、ステンレス構造物エンジニアリングの製造・販売を行っています。インフラ関連や自動車部品向けなどに素材を提供しています。

収益は顧客への製品販売対価です。運営は愛知製鋼に加え、愛鋼が製品等の加工・販売を、アイチテクノメタルフカウミが圧延・二次加工等を担当しています。

鍛(キタエル)カンパニー


型打鍛造品(自動車部品粗形材、機械部品粗形材など)および鍛造用金型加工品の製造・販売を行っています。自動車のエンジンや足回り部品等の重要保安部品を手掛けています。

収益は製品の販売対価です。運営は愛知製鋼のほか、アスデックスが金型関連を、アイチフォージフィリピンやアイチフォージユーエスエイ等の海外子会社が各地域での製造・販売を行っています。

スマートカンパニー


電子機能材料・部品、磁石応用製品、植物活性材、金属繊維を製造・販売しています。主な製品には車載用放熱部品や超高感度磁気センサ(MIセンサ)、ネオジム系ボンド磁石などがあります。

収益は製品の販売対価です。運営は主に愛知製鋼が行い、アイチヨーロッパや愛知磁石科技(平湖)有限公司などが海外での販売・製造を担っています。

その他事業


上記セグメントに含まれない事業として、コンピュータソフト開発や物品販売、緑化サービスなどを行っています。

収益はサービスの提供や物品販売の対価です。運営はアイチ情報システム、アイコーサービスが行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績を見ると、売上収益は増加傾向にあり、第121期には過去最高を記録しました。利益面では、第118期に一時的な落ち込みが見られましたが、その後回復し、直近では営業利益、税引前利益ともに増加基調を維持しています。当期利益も順調に推移しています。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上収益 2,022億円 2,601億円 2,851億円 2,965億円 2,993億円
税引前利益 56億円 29億円 41億円 109億円 119億円
利益率(%) 2.7% 1.1% 1.4% 3.7% 4.0%
当期利益(親会社所有者帰属) 31億円 11億円 16億円 66億円 78億円

(2) 損益計算書


売上収益は微増し、売上総利益率も改善しました。営業利益率は向上しており、本業の収益性が高まっています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 2,965億円 2,993億円
売上総利益 390億円 399億円
売上総利益率(%) 13.2% 13.3%
営業利益 104億円 120億円
営業利益率(%) 3.5% 4.0%


販売費及び一般管理費のうち、その他が132億円(構成比49%)、従業員給付費用が105億円(同39%)を占めています。売上原価については、原材料費などが主要な構成要素となっています。

(3) セグメント収益


鋼カンパニーは減収増益、ステンレスカンパニーは増収減益となりました。鍛カンパニーは微増収ながら減益、スマートカンパニーは増収増益と、セグメントによってまちまちの動きが見られます。全体としては、価格是正等の効果により増益となりました。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期) 利益(2024年3月期) 利益(2025年3月期) 利益率
鋼(ハガネ)カンパニー 1,502億円 1,474億円 24億円 54億円 3.6%
ステンレスカンパニー 413億円 441億円 38億円 23億円 5.3%
鍛(キタエル)カンパニー 1,243億円 1,255億円 27億円 25億円 2.0%
スマートカンパニー 199億円 206億円 6億円 8億円 4.0%
その他事業 167億円 160億円 10億円 9億円 5.6%
調整額 -560億円 -543億円 -0億円 1億円 -%
連結(合計) 2,965億円 2,993億円 104億円 120億円 4.0%

(4) キャッシュ・フローと財務指標

愛知製鋼は、営業活動によるキャッシュ・フローが減少したものの、投資活動においては有形固定資産の取得増を上回る投資有価証券の売却収入があったことが資金減少額の抑制に寄与しました。財務活動では、コマーシャル・ペーパーの発行による収入があった一方で、自己株式の取得や長期借入金の返済による支出が増加しました。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 338億円 254億円
投資CF -189億円 -179億円
財務CF -163億円 -177億円

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は「国際的な視野に立ち、活力に溢れ、信頼される企業体質をもとに、魅力ある商品を提供することによって社会に貢献する」という経営理念を掲げています。具体的には「研究と創意につとめ、常に時流に先んずる」「相互の信頼と理解のもとに、一致協力する」「責任ある判断と行動のもとに、常に最善を尽くす」という3つの指針に基づき、世界中で選ばれる会社を目指しています。

(2) 企業文化


同社は「Aichi Way」として、「伝承」「感謝」「創造」を基軸とした行動規範・価値観を制定しています。また、スローガンとして「変革のリーダー、私。」を掲げ、従業員一人ひとりが主役となって課題に向き合い、創業の精神である「世のため、人のため」「お役に立つ」に立ち戻ることを重視しています。

(3) 経営計画・目標


2030年ビジョンの実現に向け、「2024-26年度 中期経営計画」を推進しています。最終年度である2026年度には以下の数値目標を掲げています。

* 連結売上収益:3,400億円
* 連結営業利益:150億円
* ROE:4%以上

(4) 成長戦略と重点施策


「稼ぐ力」の強化と社会的価値の創造を両輪とし、環境に優しい鉄屋としての地位確立を目指しています。具体的には、カーボンニュートラルへの貢献、電動化に対応した新製品開発、インド市場(グローバルサウス)への展開などを重点施策としています。

* 次世代製鋼プロセスの構築とグリーン鍛造への進化
* 電子部品、磁石、センサ等の新事業における生産能力増強と新技術投入
* DX活用による経営判断の迅速化と物流改革

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「人を大切にする経営」を掲げ、従業員の幸せと会社の発展の両立を目指しています。多様な人材が能力を発揮できる環境整備(ダイバーシティ&インクルージョン)に加え、モノづくりの「技能」と「問題解決力」、さらにDX推進のための「デジタルリテラシー」の3つを基礎力として強化する人材育成方針をとっています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均とほぼ同じ水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 39.4歳 17.6年 7,632,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 1.8%
男性育児休業取得率 60.4%
男女賃金差異(全労働者) 68.0%
男女賃金差異(正規雇用) 70.3%
男女賃金差異(非正規) 65.3%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、全災害度数率(1.3%)、傷病休業日数率(0.81%)、年次有給休暇取得日数(16.4日)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 経済状況と自動車業界の動向


主力製品である鋼材および鍛造品の主要な需要先は自動車業界です。そのため、経済状況の変化により自動車業界が影響を受けた場合、同社製品の需要が大幅に変動し、経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

(2) 原材料・エネルギー価格の変動


主要原材料である鉄スクラップや合金鉄、生産に必要な電力やLNGなどのエネルギー価格は市場の影響を受けやすく、大きく変動することがあります。これらの価格上昇分を製品価格に転嫁できない場合、業績に悪影響を与える可能性があります。

(3) 為替相場の変動


製品の一部輸出および原材料の輸入を行っているため、為替相場の変動が輸出入価格やエネルギー価格に影響を与えます。また、海外子会社の財務諸表換算においても為替の影響を受けるため、円高・円安の進行により業績が変動するリスクがあります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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