#記事タイトル:大同特殊鋼転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態
※本記事は、大同特殊鋼株式会社 の有価証券報告書(第101期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. 大同特殊鋼ってどんな会社?
特殊鋼の製造・販売を主軸に、機能材料や磁性材料、自動車部品、エンジニアリング事業などを幅広く展開する特殊鋼のリーディングカンパニーです。
■(1) 会社概要
同社の源流は1916年に設立された電気製鋼所にあり、1950年に新大同製鋼として設立され名証へ上場、翌年東証へ上場しました。1976年に日本特殊鋼および特殊製鋼を合併し、現在の商号に変更しています。2013年には知多工場で大型アーク炉が稼働を開始するなど生産体制を強化し、近年は国内外の子会社化を進めています。
2025年3月31日現在、連結従業員数は12,054名(単体3,347名)です。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第3位には事業会社である日本製鉄が入っており、同社とは資本関係にあります。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 9.83% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 6.57% |
| 日本製鉄 | 5.26% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性11名、女性1名の計12名で構成され、女性役員比率は8.0%です。代表取締役社長執行役員は清水哲也氏が務めています。社外取締役比率は41.7%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 清水哲也 | 代表取締役社長執行役員 | 1985年入社。特殊鋼研究所先進材料研究部長、技術開発研究所長、経営企画部長、機能製品事業部長等を経て、2023年6月より現職。 |
| 石黒武 | 代表取締役会長 | 1980年入社。経営企画部長、特殊鋼製品本部長、東京本社長等を経て、2016年代表取締役社長執行役員に就任。2023年6月より現職。 |
| 山下敏明 | 代表取締役副社長執行役員東京本社長 | 1986年入社。自動車ビジネスユニット長、鋼材営業本部長、工具鋼事業部長等を歴任。2024年4月より現職。 |
| 梶田聡仁 | 取締役常務執行役員 | 日本興業銀行入行。みずほ銀行富山支店長、みずほ電子債権記録代表取締役社長等を経て、2017年同社執行役員。2021年6月より現職。 |
| 岩田龍司 | 取締役常務執行役員 | 1987年入社。海外事業部長、自動車ビジネスユニット長、関連事業部長、経営企画部長等を歴任。2023年6月より現職。 |
| 鹿嶋忠幸 | 取締役常務執行役員生産本部長 | 1987年入社。調達部長、知多工場長、鋼材生産本部長等を経て、2023年6月より現職。 |
| 志村進 | 取締役常勤監査等委員 | 1981年入社。機械事業部長、常務執行役員等を歴任し、2019年常勤監査役。2022年6月より現職。 |
社外取締役は、平光範之(日本製鉄常務執行役員)、山本良一(元J.フロントリテイリング代表執行役社長)、神保睦子(元大同大学学長)、小野竜一郎(元三菱UFJ銀行執行役員)、松尾憲治(元明治安田生命保険社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「特殊鋼鋼材」「機能材料・磁性材料」「自動車部品・産業機械部品」「エンジニアリング」「流通・サービス」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 特殊鋼鋼材
自動車や産業機械向けを中心とした構造用鋼、工具鋼などの製造・販売を行っています。顧客は主に自動車メーカーや機械メーカーです。
製品の販売対価を主な収益源としています。運営は主に大同特殊鋼が行い、流通や二次加工は大同DMソリューションや大同興業などが担っています。
■(2) 機能材料・磁性材料
ステンレス製品、希土類磁石、高合金製品、チタン製品、粉末製品などの製造・販売を行っています。電気・電子部品や自動車関連など幅広い産業に素材を提供しています。
製品の販売対価を主な収益源としています。運営は主に大同特殊鋼が行い、二次加工や磁石製造などは日本精線やダイドー電子などが担当しています。
■(3) 自動車部品・産業機械部品
型鍛造品、鋳鋼品、エンジンバルブ、ターボ部品などの製造・販売を行っています。自動車産業や産業機械産業が主要な顧客です。
製品の販売対価を主な収益源としています。運営は主に大同特殊鋼が行うほか、エンジンバルブはフジオーゼックス、鋳鋼品は大同キャスティングスなどが担当しています。
■(4) エンジニアリング
製鉄設備、環境設備、工業炉などの製造・販売およびメンテナンス事業を行っています。鉄鋼業界や環境関連施設などが顧客です。
設備の販売対価や工事代金、メンテナンス料を収益源としています。運営は主に大同特殊鋼が行い、大同マシナリーや大同プラント工業などが事業を展開しています。
■(5) 流通・サービス
不動産事業、保険代理業、福利厚生事業、ゴルフ場経営、情報システム開発、材料分析などを行っています。
サービスの利用料や手数料、賃貸料などを収益源としています。運営は大同ライフサービス、木曽駒高原観光開発、大同ITソリューションズなどがそれぞれの専門分野で行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近3期間の業績を見ると、売上収益は5,700億円台後半で推移しており、横ばい傾向にあります。利益面では、税引前利益、当期利益ともに減少傾向にあり、利益率は9%台から7%台へと低下しています。
| 項目 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 5,790億円 | 5,786億円 | 5,749億円 |
| 税引前利益 | 526億円 | 451億円 | 427億円 |
| 利益率 | 9.1% | 7.8% | 7.4% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 363億円 | 306億円 | 283億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間を比較すると、売上収益は微減となりましたが、売上総利益は増加し、売上総利益率は改善しました。一方で、販売費及び一般管理費の増加やその他の収益の減少などにより、営業利益は減少し、営業利益率は低下しています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 5,786億円 | 5,749億円 |
| 売上総利益 | 1,042億円 | 1,042億円 |
| 売上総利益率(%) | 18.0% | 18.1% |
| 営業利益 | 423億円 | 394億円 |
| 営業利益率(%) | 7.3% | 6.9% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給付費用が301億円(構成比49%)、運搬費が141億円(同23%)を占めています。売上原価の内訳では、材料費や労務費などが含まれますが、従業員給付費用は売上原価と販管費合わせて976億円計上されています。
■(3) セグメント収益
当期は「自動車部品・産業機械部品」セグメントが増収増益となり、特に営業利益が大きく伸長しました。「機能材料・磁性材料」や「エンジニアリング」も増益を確保しましたが、主力の「特殊鋼鋼材」は需要減少により減収減益となりました。「流通・サービス」も減収減益となっています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 特殊鋼鋼材 | 2,833億円 | 2,808億円 | 137億円 | 121億円 | 4.3% |
| 機能材料・磁性材料 | 2,201億円 | 2,198億円 | 103億円 | 110億円 | 5.0% |
| 自動車部品・産業機械部品 | 1,392億円 | 1,470億円 | 57億円 | 113億円 | 7.7% |
| エンジニアリング | 236億円 | 247億円 | 21億円 | 22億円 | 8.9% |
| 流通・サービス | 470億円 | 469億円 | 104億円 | 28億円 | 5.9% |
| 調整額 | -1,347億円 | -1,441億円 | 0億円 | -0億円 | - |
| 連結(合計) | 5,786億円 | 5,749億円 | 423億円 | 394億円 | 6.9% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
大同特殊鋼は、設備投資資金を長期借入金や社債で、運転資金を短期借入金で安定的に調達することを基本方針としています。
営業活動では、税引前利益の増加や営業債権の減少が資金創出に貢献しましたが、法人所得税の支払いが資金流出要因となりました。
投資活動では、有形固定資産等の取得による支出が主な資金流出となりました。
財務活動では、借入金の返済や配当金の支払いが主な資金流出となりました。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 502億円 | 535億円 |
| 投資CF | 136億円 | -156億円 |
| 財務CF | -765億円 | -227億円 |
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは「素材の可能性を追求し、人と社会の未来を支え続けます」を経営理念としています。高機能素材を追求するMissionを達成し、人と社会の未来に貢献していくことを存在意義(Purpose)と認識しており、高機能素材の価値を極め、顧客ベネフィットを創造し、サステナブル社会の実現に貢献することを目指しています。
■(2) 企業文化
同社グループは創業からの歴史を振り返り、強みを生み出してきた人材の行動様式として5つの行動指針を定めています。「高い志を持つ」「誠実に行動する」「自ら成長する」「チームの力を活かす」「挑戦し続ける」の5つであり、これらをサステナブルな人的資本の姿と考えています。
■(3) 経営計画・目標
同社は「2026中期経営計画」において、2026年度の「めざす姿」として以下の数値目標を掲げています。
* 営業利益:600億円以上
* ROE:9%以上
* D/Eレシオ:0.5目安
* 投資額(3年累計決裁額):1,500億円
* 株主還元(配当性向):30%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は2026中期計画を「トランジション・マネジメント」と位置づけ、事業ポートフォリオの変革、経営基盤の強靭化、ESG経営の高度化を推進します。成長市場である半導体、CASE、クリーンエネルギー、航空宇宙、医療分野の需要捕捉に向け、生産技術開発や戦略的設備投資、グローバルサプライチェーンの強化に取り組みます。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は「自律エキスパート人材の獲得」「共創スタッフ人材の獲得」「DE&Iが浸透した職場の実現」を人材マテリアリティとして特定しています。製造現場のモノづくり力を強化するための階層別教育や、DXリーダー育成、海外市場開拓人材の確保を進めるとともに、多様な人材が活躍できる風土形成と働きがいのある職場づくりを推進しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 40.1歳 | 17.8年 | 8,113,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 2.7% |
| 男性育児休業取得率 | 45.1% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 77.1% |
| 男女賃金差異(正規) | 78.4% |
| 男女賃金差異(非正規) | 78.0% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、エンゲージメントスコア(78.5%)、1人当たり有給休暇取得平均日数(13.8日)、休業度数率(0.38)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 事業環境の動向
国内外の景気悪化や主要需要業界である自動車メーカーの減産、電動化の加速などが経営成績に影響を及ぼす可能性があります。また、需要環境の構造変化や戦略的投資事業の計画未達に伴う減損リスク、地政学リスクや為替変動などの外部環境の変化もリスク要因として挙げられます。
■(2) 自然災害
南海トラフ巨大地震や気候変動に伴う大規模洪水等の自然災害が発生した場合、知多工場や星崎工場などの主要生産拠点の操業に甚大な影響を与える可能性があります。人命保護を最優先とした防災対策や、被災時の生産復旧を円滑にするための設備投資検討などを進めています。
■(3) 設備事故・労働災害
特殊鋼関連を主とする大規模主要設備を用いた過酷な環境下での操業において、重大な設備事故や労働災害が発生するリスクがあります。製造現場を中心としたリスク抽出と改善、安全教育の徹底、設備の本質的な安全対策などを継続的に実施しています。
■(4) 環境規制・カーボンニュートラル
環境保全に対する法規制の強化や、カーボンニュートラルに向けたCO2削減対策費用の増大などが事業活動の制約やコスト増加につながる可能性があります。また、渋川工場の鉄鋼スラグ製品等に関連する環境対応が必要となった場合の費用負担リスクもあります。



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