※本記事は、大同特殊鋼株式会社の有価証券報告書(第102期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月30日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. 大同特殊鋼ってどんな会社?
大同特殊鋼は、自動車や産業機械向けの特殊鋼や機能材料などを製造・販売する世界有数の特殊鋼メーカーです。
■(1) 会社概要
同社は1916年に設立された電気製鋼所を前身とし、1950年に新大同製鋼として再発足のうえ名証等に上場しました。その後、1976年に日本特殊鋼および特殊製鋼と合併して現在の大同特殊鋼へ商号変更しています。直近の2026年には特殊鋼事業の競争力強化を目指し、日本高周波鋼業を完全子会社化しています。
同社グループは連結で12,729名、単体で3,370名の従業員を擁しています。大株主については、筆頭株主ならびに第2位株主は資産管理業務等を行う信託銀行です。第3位株主には、事業上の提携関係にあり持分法適用関連会社等を通じて資本関係も有する事業会社の日本製鉄が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 10.35% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 5.51% |
| 日本製鉄 | 5.42% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性2名の計11名で構成され、女性役員比率は18.0%です。代表取締役社長執行役員は清水哲也氏が務めています。また、取締役11名のうち5名が社外取締役であり、社外取締役比率は45.5%となっています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 清水哲也 | 代表取締役社長執行役員 | 1985年同社入社。先進材料研究部長、技術開発研究所長、経営企画部長などを経て2022年に代表取締役副社長執行役員へ就任。2023年より現職。 |
| 石黒武 | 代表取締役会長 | 1980年同社入社。経営企画部長、特殊鋼製品本部長等を経て、2016年に代表取締役社長執行役員へ就任。2023年より現職。 |
| 山下敏明 | 代表取締役副社長執行役員東京本社長 | 1986年同社入社。自動車ビジネスユニット長、鋼材営業本部長などを経て、2023年に代表取締役副社長執行役員へ就任。2024年より現職。 |
| 岩田龍司 | 取締役常務執行役員 | 1987年同社入社。海外事業部長、自動車ビジネスユニット長、関連事業部長、経営企画部長などを経て、2023年より現職。 |
| 鹿嶋忠幸 | 取締役常務執行役員生産本部長 | 1987年同社入社。知多工場副工場長、調達部長、知多工場長、鋼材生産本部長などを経て、2023年より現職。 |
| 丹羽哲也 | 取締役常勤監査等委員 | 1989年同社入社。経理部長、経営企画部長、ESG推進統括部長などの要職を歴任し、2025年より現職。 |
社外取締役は、平光範之氏(日本製鉄常務執行役員)、神保睦子氏(豊橋技術科学大学理事・副学長)、川上紀子氏(NGK社外取締役)、小野竜一郎氏(元三菱UFJリサーチ&コンサルティング取締役専務執行役員)、松尾憲治氏(明治安田生命保険名誉顧問)です。
2. 事業内容
同社グループは、「特殊鋼鋼材」「機能材料・磁性材料」「自動車部品・産業機械部品」「エンジニアリング」「流通・サービス」の5つの報告セグメントで事業を展開しています。
■(1) 特殊鋼鋼材
自動車や産業機械向けを中心とした構造用鋼や工具鋼などの特殊鋼鋼材を製造・販売しています。強度や耐久性が求められる重要部品の素材として、幅広い産業分野に高品質な製品を供給しています。
顧客への特殊鋼鋼材の販売代金を主な収益源としています。事業の運営は同社が主体となり、日本高周波鋼業が製造・販売を担うほか、大同DMソリューションや大同興業などが流通・加工機能を担っています。
■(2) 機能材料・磁性材料
自動車や産業機械、電気・電子部品などに用いられるステンレス鋼製品、高合金製品、希土類磁石製品、チタン製品などを製造・販売しています。電動化や高効率化に貢献する素材を提供しています。
機能材料や磁石製品などの販売代金を主な収益源としています。同社が製品の製造・販売を行うほか、ステンレス製品の二次加工を日本精線や下村特殊精工が、希土類磁石の製造・販売をダイドー電子が担っています。
■(3) 自動車部品・産業機械部品
自動車や産業機械向けの型鍛造品、鋳鋼品、精密鋳造品、自由鍛造品、エンジンバルブなどを製造・販売しています。素材から部品加工まで一貫したモノづくりにより、顧客の多様なニーズに応えています。
鍛造品や鋳造品、自動車部品などの販売代金を主な収益源としています。同社による型鍛造品や自由鍛造品の製造・販売に加え、大同キャスティングスが鋳鋼品を、フジオーゼックスがエンジンバルブ等の製造・販売を行っています。
■(4) エンジニアリング
鉄鋼用溶解設備、環境設備、工業炉およびその付帯設備などの各種機械の設計・製造・販売、ならびに設備のメンテナンスや保守管理業務を行っています。脱炭素社会に向けた環境対応設備の提供も推進しています。
設備機器の販売代金やメンテナンス・保守管理サービスの提供による対価を主な収益源としています。同社が鉄鋼設備や環境設備の製造・販売を行い、大同マシナリーや大同プラント工業が各種機械や工業炉の製造等を行っています。
■(5) 流通・サービス
不動産事業、保険業務、グループの福利厚生関連事業、ゴルフ場経営、情報システムの開発・保守運用、鉄鋼やセラミックス等の分析事業、および同社グループ製品の輸出入業務などを幅広く展開しています。
不動産賃貸収入やシステム開発・保守費用、製品の輸出入手数料などを収益源としています。大同ライフサービスが不動産や福利厚生関連を、大同ITソリューションズが情報システムを、大同興業などが流通やビル賃貸を担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近4期間の業績は、売上収益が5,700億円台で安定して推移しています。税引前利益は原燃料価格の高止まりなどの影響で一時期減少傾向にありましたが、直近の期においては製品価格への適正な転嫁や徹底したコスト削減努力が奏功し、増収増益に転じています。収益体質の強化により、今後の利益成長が期待されます。
| 項目 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 5,790億円 | 5,786億円 | 5,749億円 | 5,781億円 |
| 税引前利益 | 526億円 | 451億円 | 427億円 | 448億円 |
| 利益率(%) | 9.1% | 7.8% | 7.4% | 7.7% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 363億円 | 306億円 | 283億円 | 326億円 |
■(2) 損益計算書
売上収益は前期比で微増となったものの、売上総利益は減少しており、原材料価格の高騰等の影響がみられます。しかしながら、販管費のコントロールやその他の収益の増加などにより、営業利益および営業利益率は前期を上回る結果となり、事業運営の効率化が進んでいることが伺えます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 5,749億円 | 5,781億円 |
| 売上総利益 | 618億円 | 557億円 |
| 売上総利益率(%) | 10.7% | 9.6% |
| 営業利益 | 394億円 | 421億円 |
| 営業利益率(%) | 6.9% | 7.3% |
販売費及び一般管理費のうち、給料手当及び福利費が119億円(構成比18.4%)、運搬費が105億円(同16.2%)を占めています。
■(3) セグメント収益
主力の特殊鋼鋼材および機能材料・磁性材料セグメントは、産業機械向け需要の回復や特殊磁石の堅調な需要に支えられ利益を牽引しています。自動車部品・産業機械部品セグメントは、北米向けの需要増等で増収となった一方、生産体制変更の一時費用により減益となりました。エンジニアリング等の他事業も安定的に推移しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 特殊鋼鋼材 | 2,808億円 | 2,761億円 | 121億円 | 134億円 | 4.8% |
| 機能材料・磁性材料 | 2,198億円 | 2,168億円 | 110億円 | 149億円 | 6.9% |
| 自動車部品・産業機械部品 | 1,470億円 | 1,481億円 | 113億円 | 82億円 | 5.5% |
| エンジニアリング | 247億円 | 277億円 | 22億円 | 26億円 | 9.5% |
| 流通・サービス | 469億円 | 483億円 | 28億円 | 30億円 | 6.3% |
| 調整額 | -1,441億円 | -1,389億円 | -0.2億円 | 0.1億円 | - |
| 連結(合計) | 5,749億円 | 5,781億円 | 394億円 | 421億円 | 7.3% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業の状態となっています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 535億円 | 661億円 |
| 投資CF | -156億円 | -482億円 |
| 財務CF | -227億円 | -185億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は7.2%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は55.2%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「素材の可能性を追求し、人と社会の未来を支え続けます」という経営理念を掲げています。高機能素材の価値を極めることで顧客ベネフィットを創造し、サステナブル社会の実現に貢献していくことを企業の存在意義(Purpose)として認識し、持続的な企業価値の向上を目指しています。
■(2) 企業文化
「高い志を持つ」「誠実に行動する」「自ら成長する」「チームの力を活かす」「挑戦し続ける」の5つの行動指針を定めています。これらは創業からの歴史を受け継ぎ、同社グループの強みを生み出してきた人材の行動様式をまとめたものであり、変化の激しい事業環境下でもサステナブルな成長を実現するための価値観として重視されています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、2026年度までの3ヵ年を計画期間とする「2026中期経営計画」を推進しており、以下の数値目標を掲げています。
* 営業利益:400億円以上
* ROE:7%以上
* D/Eレシオ:0.5目安
* 投資額(3年累計決裁額):1,400億円
* 株主還元:配当性向30%以上、DOE下限指標2.5%
■(4) 成長戦略と重点施策
今後の成長市場である半導体関連分野、CASE(自動車における電動化等)、クリーンエネルギー分野、航空宇宙分野、医療分野の需要を捕捉するための事業ポートフォリオ変革を進めています。また、生産体制の最適化や次世代人材の育成を通じた経営基盤の強靭化、および脱炭素社会に向けたESG経営の高度化にも注力しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、高いスキルを持つ製造現場のエキスパート人材の獲得と育成を図るため、自社の技術学園等を通じた初期・階層別教育を実施しています。また、海外での新市場開拓やDX推進を担うスタッフ人材の育成に注力するとともに、多様な人材が自律的に能力を発揮できる心理的安全性の高い職場づくりを推進しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 40.2歳 | 17.9年 | 8,704,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 3.2% |
| 男性育児休業取得率 | 52.1% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 75.2% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 76.1% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 79.4% |
また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、エンゲージメントスコア(81.2%)、1人当たり有給休暇取得平均日数(13.8日)、従業員一人当たり研修受講時間(40.5時間)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 主要需要業界の動向による影響
自動車メーカーにおける減産や電動化(EV化)の進展加速など、主要な需要先における構造的な環境変化は同社の販売実績に影響を与える可能性があります。また、為替の変動や各国の通商政策、地政学リスクの顕在化によるサプライチェーンの混乱等も、経営成績に悪影響を及ぼすリスクとして挙げられます。
■(2) 原燃料価格の変動と調達リスク
特殊鋼の生産に不可欠な鉄スクラップや合金鉄、レアアース等の原材料、および電力やLNG等のエネルギー価格の急激な高騰は、製造コストを押し上げるリスクとなります。同社は調達ソースの複数化や製品価格への転嫁を進めていますが、需給バランスの崩れ等により安定調達が阻害された場合、生産活動に支障を来す恐れがあります。
■(3) 製品品質保証・製造物責任に関するリスク
同社の製品は、自動車や産業機械などの重要部品に使用されているため、万が一品質に問題が生じた場合、大規模な製造物責任賠償やリコールによる多額の費用負担が発生する可能性があります。同社は品質保証に特化した部門を設立するなど厳格な管理体制を構築していますが、社会的な信用低下に直結するリスクとして認識されています。



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