※本記事は、大平洋金属株式会社の有価証券報告書(第100期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月19日提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準はJapan GAAPです。
1. 大平洋金属ってどんな会社?
主にフェロニッケル製品の製造・販売を行うニッケル事業を展開する総合素材メーカーです。
■(1) 会社概要
1949年に設立され、1952年に上場しました。1954年にフェロニッケル製錬設備へ転換し、1970年に現社名の大平洋金属に変更しました。1999年にフェロニッケル専業メーカーとなり、近年では2024年に小売電気事業者へ登録、2026年にカルシウムアルミネート製造販売事業を開始するなど、新規事業の立ち上げを推進しています。
従業員数は連結で425名、単体で384名です。筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位も同様に信託銀行です。第3位はカストディ業務を行う外国法人の代理人銀行となっており、主に金融機関が上位株主を占めています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口)(うち、投資信託433千株、年金信託17千株、その他1,162千株) | 9.27% |
| 日本カストディ銀行(信託口)(うち、投資信託1,105千株、年金信託127千株、その他123千株) | 7.80% |
| THE BANK OF NEW YORK, TREATY JASDEC ACCOUNT(常任代理人三菱UFJ銀行) | 3.32% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性1名の計10名で構成され、女性役員比率は10.0%です。代表取締役社長は岩舘一夫氏が務めています。社外取締役比率は20.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 岩舘一夫 | 代表取締役社長 | 1985年同社入社。製造部長、環境事業部長、執行役員等を経て、2020年取締役就任。2025年6月より現職。 |
| 猪股吉晴 | 取締役専務執行役員社長補佐、特命事項担当 | 1975年同社入社。品質管理室長、技術開発室長等を経て、2017年取締役就任。2021年より現職。 |
| 原賢一 | 取締役常務執行役員調達担当、営業部長 | 1988年同社入社。営業一部長、執行役員等を経て、2018年取締役就任。2021年より現職。 |
| 松山輝信 | 取締役常務執行役員内部統制・IR・総務・人事・経理担当 | 1988年同社入社。経理部長、人事部長、執行役員等を経て、2018年取締役就任。2021年より現職。 |
社外取締役は、酒井由香里(元ユナイテッドアローズ社外取締役)、天野正人(天野正人国際法律事務所代表)です。
2. 事業内容
同社グループは、「ニッケル事業」「ガス事業」および「その他」事業を展開しています。
■(1) ニッケル事業
同社の中核事業であり、主にフェロニッケル製品の製造と販売を行っています。フィリピンなどの鉱山会社から商社を経由して主原料であるニッケル鉱石を購入し、製錬してフェロニッケル製品として国内外の鉄鋼メーカーやステンレス生産者等の顧客に提供しています。
収益源は、製造したフェロニッケル製品の販売代金です。事業の運営は主に大平洋金属が担っており、子会社の太平洋興産が製錬時に発生する鉱滓を購入・販売しています。
■(2) ガス事業
大平洋金属がフェロニッケル製品などの製造過程で使用するガス類を製造し、安定的に供給しています。自社グループ内の製造プロセスに不可欠な産業用ガスを賄うことを目的とした事業です。
収益源は、製造したガス類の大平洋金属への販売代金です。当事業の運営は子会社の大平洋ガスセンターが行っており、親会社の安定操業を支える重要な役割を担っています。
■(3) その他
報告セグメントに含まれない事業として、主に鋳鍛鋼品や各種産業機械などの仕入・販売、不動産事業、小売電気事業、およびカルシウムアルミネートの製造販売事業などを展開しています。事業の多角化による新たな収益基盤の構築を目指しています。
収益源は、機械部品等の販売代金や不動産賃貸料、電力の供給による収入などです。運営は、パシフィックソーワ、大平洋製鋼、米子製鋼などの関係会社や大平洋金属自身が各事業を担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績をみると、売上高は減少傾向が続いており、特に直近2期間は大幅な減収となっています。利益面では一時的に連続で経常赤字を計上したものの、当期は持分法による投資利益などが大きく寄与し、大幅な経常黒字および当期利益の黒字転換を果たしています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 571億円 | 349億円 | 155億円 | 132億円 | 94億円 |
| 経常利益 | 130億円 | -50億円 | -21億円 | -16億円 | 33億円 |
| 利益率(%) | 22.8% | -14.2% | -13.7% | -12.3% | 35.3% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 112億円 | -71億円 | -30億円 | -30億円 | 26億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は前期から減少しましたが、売上原価も大きく減少したことで売上総損失の赤字幅は縮小しました。販売費及び一般管理費の削減も進んだ結果、営業損失についても赤字幅の改善が見られます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 132億円 | 94億円 |
| 売上総利益 | -52億円 | -31億円 |
| 売上総利益率(%) | -39.4% | -33.4% |
| 営業利益 | -74億円 | -50億円 |
| 営業利益率(%) | -55.9% | -52.8% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給与が4億円(構成比19.5%)、研究開発費が2億円(同13.2%)、役員報酬が2億円(同12.1%)を占めています。
■(3) セグメント収益
主力のニッケル事業は、事業環境の低迷を鑑みた一定の収益性を損なわない戦略的な販売数量の抑制などにより、大幅な減収となっています。一方、ガス事業は設備修繕等の費用が発生したものの、安定した操業により増収を果たしました。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| ニッケル事業 | 124億円 | 87億円 |
| ガス事業 | 7億円 | 7億円 |
| その他 | 1億円 | 0.4億円 |
| 連結(合計) | 132億円 | 94億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFがプラス、投資CFがマイナス、財務CFがマイナスであるため「健全型」に該当します。営業活動で得た利益で投資を行い、余剰資金で借入の返済や株主還元を賄う健全な状態です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 30億円 | 24億円 |
| 投資CF | -2億円 | -17億円 |
| 財務CF | -0.1億円 | -73億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は4.0%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は93.5%で市場平均を大きく上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「人の力を活かし、地球の資源をより有用なるものとして提供し、人類社会の幸福に貢献する」という経営理念を掲げています。また、長期ビジョンとして「持続可能な循環型社会を共創する総合素材カンパニー」を目指し、事業環境の変化に対応可能な経営基盤の確立に取り組んでいます。
■(2) 企業文化
同社は、グループ各社のシナジー効果を最大限に発揮し、世界に誇る製錬技術の開発と品質向上に全力を傾注することを方針としています。また、コンプライアンスの推進やあらゆる環境問題への積極的な取り組み、社員の個性を伸ばし創造性を十分に発揮させる「生きがいのある職場」の実現を重視しています。
■(3) 経営計画・目標
2025年度から2031年度までの7カ年を対象とした中長期戦略「PAMCOvision2031」を策定しています。事業環境が過去の想定から大きく乖離したため、「業態をゼロベースで見直し新たなステージへ」をテーマに掲げています。一定期間は業態転換を進めつつ、足元の業績低迷から速やかな脱却を図る計画です。
■(4) 成長戦略と重点施策
海外におけるニッケル銑鉄の過剰生産やエネルギーコスト上昇などの厳しい事業環境に対応するため、新規事業分野への参入を通じた事業ポートフォリオの再構築を推進しています。具体的には、マット原料向けへの用途拡大、多金属ノジュール受託製錬事業、ベリリウム事業、小売電気事業などの新たな収益の柱の育成に注力しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
事業転換のゴールへ向かうため、従業員の「個の力」と個を基盤とする「組織力」を高める人的資本投資に積極的に取り組んでいます。柔軟な発想と胆力を持った経営人材やリーダーシップの育成、従業員エンゲージメントの向上を図るとともに、多様な人材が既成概念にとらわれず活発な議論ができる環境整備を進めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 43.3歳 | 20.4年 | 5,610,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | - |
| 男性育児休業取得率 | 92.3% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 81.2% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 80.0% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 124.8% |
※女性管理職比率について、有報には「-」と記載されています。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 災害、事故等による影響
重大な労働災害、設備事故および自然災害が発生した場合には、生産活動の停止または制約等により、同社の業績に重大な影響を被る可能性があります。対策としてリスクマネジメント委員会を設置し、危機管理の徹底と早期回復への責任ある対応を進めています。
■(2) 気候変動に関するリスク
気象災害等の物理的な変化や、脱炭素経済への移行に伴う規制等により、事業に影響が及ぶリスクが考えられます。サステナビリティ推進会議を設けて気候関連財務情報タスクフォース(TCFD)の提言に賛同し、温室効果ガス排出量の削減などカーボンニュートラルの達成に向けた取り組みを継続しています。
■(3) 中東やウクライナ情勢による影響
中東やウクライナ情勢の緊迫化に伴いエネルギー価格が高騰し、製造コストが上昇する可能性があります。原燃料は安定したソースから調達しているものの、状況の長期化や調達不安の増幅によって流通に目詰まりを起こし、価格の高騰や事業への大きな影響を与える懸念があります。
■(4) 米国の関税措置に伴う影響
米国の関税措置など各国の通商政策や経済対策により、サプライチェーンの混乱やフェロニッケル製品の需要および価格に影響を与える可能性があります。直接的な業績への影響は限定的と見込まれるものの、世界経済に関する不透明感が深まる場合、同社の事業に大きな影響を及ぼすリスクがあります。



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