日本精線 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

日本精線 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東京証券取引所プライム市場に上場する日本精線は、ステンレス鋼線および金属繊維の製造販売を主力とする素材メーカーです。直近の業績は、金属繊維部門は堅調に推移したものの、主力のステンレス鋼線部門における一部製品の需要低迷などが影響し、微減収ならびに経常減益の決算となっています。


※本記事は、日本精線株式会社の有価証券報告書(第96期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月22日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 日本精線ってどんな会社?


同社は、独自の微細化技術を強みとするステンレス鋼線および金属繊維のトップメーカーです。

(1) 会社概要


1951年に三信特殊線工業として設立され、1956年に現社名へ変更されました。1962年に東証および大証二部に上場し、1996年には東証一部指定を受けています。2003年に大同特殊鋼のグループに入り、その後はタイや中国、韓国への海外展開も積極的に推進してきました。2022年の市場区分見直しにより、東証プライム市場へ移行しています。

現在の従業員数は連結で815名、単体で594名です。筆頭株主は事業会社の親会社である大同特殊鋼で、第2位および第3位には資産管理業務などを行う信託銀行が名を連ねています。

氏名 持株比率
大同特殊鋼 50.37%
日本マスタートラスト信託銀行 6.06%
日本カストディ銀行 1.93%

(2) 経営陣


同社の役員は男性9名、女性2名の計11名で構成され、女性役員比率は18.0%です。代表取締役社長は利光一浩氏が務めています。社外取締役比率は57.1%です。

氏名 役職 主な経歴
利光一浩 代表取締役社長 1985年大同特殊鋼入社。特殊鋼製品や関連事業の要職を歴任し、2022年同社代表取締役副社長執行役員に就任。2023年より現職。
大塚雅彦 取締役 1986年同社入社。枚方工場長などを経て、2025年より常務執行役員管理部門統括等に就任し現職。
山田和仁 取締役 1987年同社入社。タイの現地法人社長や海外部長、東京支店長を経て、2024年常務執行役員鋼線販売部門担当に就任。2025年より現職。


社外取締役は、内山由紀(弁護士)、今泉泰彦(元みずほ銀行取締役副頭取)、藤本節(元東レエンジニアリング代表取締役会長)、加藤順子(朝日興業代表取締役会長)です。

2. 事業内容


同社グループは、「日本」、「タイ」、「中国・韓国」の3つの報告セグメントを展開しています。

(1) 日本


国内におけるステンレス鋼線および金属繊維の製造販売を行っています。高強度や高耐熱など顧客ニーズに応じたオーダーメイドのばね用材や極細線のほか、高機能メタルフィルターなどを提供しています。

顧客への製品販売による収益を主な収益源としています。自動車、医療、電子機器、再生可能エネルギー関連など幅広い産業に素材を供給しており、事業の運営は主に同社および日精テクノが担っています。

(2) タイ


東南アジア地域におけるステンレス鋼線の製造販売を展開しています。インシュリン自己注射器に使用されるばね用材など、現地での需要拡大やグローバルサプライチェーンを見据えた製品供給を行っています。

製造したステンレス鋼線を顧客へ販売することで収益を得ています。グローバル拠点の機能拡充を進めており、事業の運営は主に現地法人のTHAI SEISENが担っています。

(3) 中国・韓国


中国および韓国地域における金属繊維などの製造や販売支援を行っています。環境規制への対応や品質向上が求められる各種フィルター向けの金属繊維製品などを現地の顧客向けに提供しています。

製品販売や販売支援を通じた収益モデルです。中国では耐素龍精密濾機(常熟)が製造販売を担い、韓国では韓国ナスロンが販売支援活動を行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5年間の業績推移を見ると、売上高は400億円台半ばから後半で安定的に推移しています。一方で、経常利益および当期利益については、原材料価格の変動や主要製品の需要動向といった外部環境の影響を受けやすく、増減を繰り返す傾向が見られます。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 448億円 491億円 447億円 467億円 466億円
経常利益 46億円 43億円 37億円 46億円 32億円
利益率(%) 10.3% 8.8% 8.3% 9.8% 7.0%
当期利益(親会社所有者帰属) 28億円 27億円 26億円 30億円 22億円

(2) 損益計算書


売上高は前年と同水準を維持しましたが、売上総利益と営業利益はそれぞれ減少しています。これは金属繊維部門が堅調だった一方で、需要低迷によるステンレス極細線の販売減などが影響したことによるものです。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 467億円 466億円
売上総利益 82億円 68億円
売上総利益率(%) 17.6% 14.6%
営業利益 46億円 31億円
営業利益率(%) 9.8% 6.6%


販売費及び一般管理費のうち、従業員給料手当が9億円(構成比25%)、運搬費が6億円(同16%)を占めています。

(3) セグメント収益


主力の日本セグメントは金属繊維が好調だったものの、極細線の販売減により減益となりました。タイセグメントは為替の影響で現地通貨ベースでは減収減益でしたが、円換算では売上増となっています。中国・韓国セグメントは需要低調により減収減益となりました。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期) 利益(2025年3月期) 利益(2026年3月期) 利益率
日本 415億円 413億円 42億円 28億円 6.8%
タイ 39億円 39億円 2億円 1億円 3.2%
中国・韓国 14億円 13億円 3億円 2億円 15.2%
連結(合計) 467億円 466億円 46億円 31億円 6.6%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業です。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 47億円 36億円
投資CF -13億円 -34億円
財務CF -17億円 -10億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は5.1%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は75.4%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


「お客様にとって価値のある商品とサービスの提供を通じて社会の発展に貢献する」ことを経営の基本理念に掲げています。環境・エネルギーのクリーン化やデジタル化が進むなか、「より細く、より強く、より精密な」方向が求められており、「Micro & Fine Technology」をスローガンに次世代素材の開発をリードする方針です。

(2) 企業文化


「情報を重視し、世界の変化に素早く適応するため、技術・知識・行動の革新に挑戦し続ける」ことや、「利益ある発展と、創造性豊かでいきいきとした企業風土の確立を目指す」ことを企業行動の基盤としています。長年培ってきた技術力を生かし、市場の変化に迅速かつ柔軟に対応できる組織文化を重視しています。

(3) 経営計画・目標


2027年3月期を最終年度とする中期経営計画「NSG26」を推進しており、サステナビリティ成長分野への貢献と企業価値向上を目指しています。また、環境負荷低減に向けた中長期的な削減目標も設定しています。

* 連結売上高:500億円
* 連結経常利益:52億円
* 連結ROE:8%以上
* 2030年CO2排出量削減目標:30%削減(2013年度比)

(4) 成長戦略と重点施策


「サステナビリティ成長分野へ高機能・独自製品の開発・拡販と企業価値向上により持続的成長を図る」を中期スローガンとして掲げています。再生可能エネルギー、医療、IoT関連などへの高機能・独自製品の開発深化、労働力不足に対応した生産基盤の自動化・省人化、ならびに水素回収技術の実用化を重点的に推進していく戦略です。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「企業にとって、最も重要な財産は人である」という考えのもと、変革を実現する人材の育成と多様な人材・多様な働き方の確保をキーワードに人的資本経営を推進しています。各職務系統の「求める人材像」を設定したうえで4項目からなる教育体系を構築し、社員が目的意識を持って計画的に学ぶ機会を支援しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均とほぼ同じ水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 43.0歳 19.4年 7,628,204円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 2.3%
男性育児休業取得率 76.5%
男女賃金差異(全労働者) 55.8%
男女賃金差異(正規) 71.1%
男女賃金差異(非正規) 57.0%


また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、障がい者雇用率(2.8%)、総合職に占める女性労働者の割合(17.9%)、技能職に占める女性労働者の割合(3.6%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 地球環境や自然災害のリスク

気候変動対策に伴う環境規制の厳格化による製造コストの増加や、地震等の大規模災害、感染症拡大によるサプライチェーン寸断のリスクがあります。これに対し、事業活動に伴うCO2排出量削減目標を設定するほか、事業継続計画(BCP)の見直しや耐震補強などのインフラ整備を進めています。

(2) 外部環境変化に伴う受注・調達リスク

自動車、半導体など特定産業の市況変動や、通商政策・地政学リスクにより受注が減少する可能性があります。また、レアメタル価格の高騰による調達コスト増の懸念もあります。対策として、多様な業種への製品ポートフォリオ拡充によるリスク分散や、販売価格への転嫁、サーチャージ制度の運用を行っています。

(3) 安全・品質・情報セキュリティに関するリスク

重量物や特定化学物質を扱う工程での労働災害リスクや、製品欠陥による重大事故、それに伴う損害賠償や信用失墜のリスクがあります。また、サイバー攻撃による情報漏洩の懸念も存在します。フェイルセーフ化など安全設備への投資や、検査工程のシステム化、最新セキュリティ技術の導入で未然防止に努めています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。