※本記事は、日亜鋼業株式会社の有価証券報告書(第74期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 日亜鋼業ってどんな会社?
同社グループは、多様な産業を支える線材製品の総合メーカーとして、社会インフラや自動車向けの製品を提供しています。
■(1) 会社概要
1908年に田中亜鉛鍍金工場として発足し、1952年に日亜鋼業として分離独立しました。1961年に大阪証券取引所へ上場し、1987年には東京証券取引所市場第一部へ指定されています。また、2001年に滋賀ボルトや興国鋼線索(現ジェイ-ワイテックス)を子会社化し、グループ体制を強化してきました。
同社グループは連結従業員827名、単体354名の体制で事業を運営しています。筆頭株主はその他の関係会社である日本製鉄であり、第2位は日亜興産、第3位は資産管理業務を行う信託銀行となっています。国内に複数の製造拠点と営業網を構え、安定した事業基盤を構築しています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本製鉄 | 25.98% |
| 日亜興産 | 7.96% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 7.06% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性3名の計12名で構成され、女性役員比率は25.0%です。代表取締役社長は大西利典氏が務めています。取締役8名のうち、社外取締役の比率は25.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 大西 利典 | 代表取締役社長 | 1986年新日本製鐵(現 日本製鉄)入社、チタン事業部長等を経て、2021年4月より現職。 |
| 後藤田 英昭 | 常務取締役 | 1989年新日本製鐵(現 日本製鉄)入社、君津製鐵所線材部長等を経て、2025年4月より現職。 |
| 山内 幸治 | 常務取締役 | 1990年住友金属工業(現 日本製鉄)入社、日鉄鋼管執行役員等を経て、2026年6月より現職。 |
| 田中 文武 | 取締役 | 1991年同社入社、名古屋営業所長等を経て、2024年4月より現職。 |
| 木戸 邦博 | 取締役 | 1994年同社入社、生産技術部長等を経て、2023年7月より現職。 |
| 有元 教世史 | 取締役 | 1987年日鐵商事(現 日鉄物産)入社、同社常務執行役員等を経て、2024年6月より現職。 |
社外取締役は、石原美保(石原公認会計士・税理士事務所代表)、古島礼子(弁護士法人淀屋橋・山上合同入所)です。
2. 事業内容
同社グループは、「普通線材製品」「特殊線材製品」「鋲螺線材製品」「不動産賃貸」および「その他」事業を展開しています。
■普通線材製品
公共土木向けのかごや落石防護網、民間向けのフェンスなどに使用される各種めっき鉄線および加工製品を製造・販売しています。官公庁や民間企業を主な顧客とし、インフラ整備や防災関連の需要に応える製品を幅広く提供しています。
需要家に対する製品の販売代金を主な収益源としています。同事業の製造および販売活動などの運営は、主に同社が主体となって実施しており、強固な事業基盤のもとで安定的な製品供給を担っています。
■特殊線材製品
自動車産業や電力・通信産業、公共土木向けなどに使用される硬鋼線、各種めっき鋼線、鋼平線、鋼より線、鋼索などを製造・販売しています。多様な産業分野の顧客に対し、高度な技術力を活かした特殊な線材製品を提供しています。
顧客に対する特殊線材製品の販売代金を主な収益源としています。事業の運営については、同社および子会社であるジェイ-ワイテックスの複数社が協同で製品の製造と販売活動を担当しています。
■鋲螺線材製品
土木・建設業などの分野に向けて、トルシア形高力ボルト、六角高力ボルト、GNボルトなどのボルト類を製造・販売しています。主に建設現場やインフラ整備における構造物の接合部品として提供されています。
建設業者や関連商社へのボルト製品の販売代金を主な収益源としています。同事業の運営は、同社に加えて子会社である滋賀ボルトが担当し、グループ内で連携して製造・販売を行っています。
■不動産賃貸
自社で保有する建物や土地などの不動産を活用し、賃貸業を展開しています。立地特性を活かした資産の有効活用により、安定的なキャッシュ・フローの確保を図っています。
入居者やテナントから受け取る不動産の賃貸料を主な収益源としています。本事業は、同社および子会社である滋賀ボルトの複数社がそれぞれの保有資産を管理・運営しています。
■その他
主力である線材製品の製造販売や不動産賃貸事業に属さない付随的な事業を展開しています。具体的には、外部からのめっき受託加工や、製造工程で生じた副産物の販売などを行っています。
顧客からの受託加工手数料や副産物の販売代金を収益源としています。運営については、同社、ジェイ-ワイテックスおよび太陽メッキがそれぞれの設備や技術を活かして担当しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上高は直近5年間で安定的に推移しており、経常利益も一定の水準を維持しています。外部環境の変化により利益率がやや変動する局面も見られますが、基盤となる収益力は底堅い傾向を示しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 307億円 | 341億円 | 345億円 | 341億円 | 338億円 |
| 経常利益 | 26億円 | 23億円 | 21億円 | 21億円 | 22億円 |
| 利益率(%) | 8.5% | 6.7% | 6.2% | 6.3% | 6.6% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 16億円 | 11億円 | 11億円 | 11億円 | 6億円 |
■(2) 損益計算書
売上高が微減となったものの、売上総利益と営業利益はともに増加しており、利益率の改善が進んでいることが読み取れます。コスト構造の見直しや販売価格の適正化が寄与していると考えられます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 341億円 | 338億円 |
| 売上総利益 | 61億円 | 62億円 |
| 売上総利益率(%) | 17.9% | 18.3% |
| 営業利益 | 13億円 | 14億円 |
| 営業利益率(%) | 4.0% | 4.2% |
販売費及び一般管理費のうち、運搬費が9億円(構成比20%)、従業員給料が7億円(同14%)を占めています。
■(3) セグメント収益
特殊線材製品セグメントが売上の過半を占め、着実な増収を記録しています。一方で、普通線材製品と鋲螺線材製品セグメントは売上が減少しており、需要環境の変化が影響しているとみられます。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 普通線材製品 | 94億円 | 92億円 |
| 特殊線材製品 | 168億円 | 172億円 |
| 鋲螺線材製品 | 72億円 | 67億円 |
| 不動産賃貸 | 2億円 | 2億円 |
| その他 | 6億円 | 5億円 |
| 連結(合計) | 341億円 | 338億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFはプラス、投資CFおよび財務CFはマイナスとなっており、本業で稼いだ資金をもとに投資を行い、さらに借入金の返済なども進める「健全型」のキャッシュ・フロー状態です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 24億円 | 30億円 |
| 投資CF | -21億円 | -8億円 |
| 財務CF | -16億円 | -22億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は1.9%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は73.1%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「和親協同・信用保持・創意工夫」の社是の下、株主や取引先、従業員、地域社会等のステークホルダーの負託と信頼に応えて、健全で持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図り、社会の発展に貢献していくことを基本方針としています。
■(2) 企業文化
ESGやSDGsを踏まえ、「めっき技術で社会に貢献する」をキーワードに、エコプロダクト(環境にやさしい商品)、エコソリューション(ニーズに応える提案)、エコプロセス(製造プロセスの構築)の「三つのエコ」を通じて、持続可能な社会の実現に貢献する文化を重視しています。
■(3) 経営計画・目標
国際会計基準のEBITDAに準拠した減価償却前の利益率を指標とし、収益の確保と持続的な成長を目指して以下の目標を掲げています。
* 売上高に対する減価償却前営業利益率8%
* 減価償却前経常利益率10%
* D/Eレシオ(有利子負債/自己資本)0.3倍以下
■(4) 成長戦略と重点施策
コスト改善や物流効率化といった自助努力の継続と、コスト増分の価格転嫁を完遂することで強靭な企業体質を構築します。また、差別化された高付加価値商品と東西の製造拠点からの短納期デリバリーを武器に、製販技一体でのソリューション営業を展開し、既存・新規市場でのシェア拡大を目指します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
盤石な経営基盤の構築と成長のベースは「人財」であるとの認識の下、人物本位の採用と公平・公正な評価による処遇を推進しています。OJTと各階層・部門別のOFF-JTを組み合わせた育成を通じ、社員が働きがいと働きやすさを実感できる「エンゲージメント」の高い会社を目指しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 43.3歳 | 18.8年 | 6,466,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 1.6% |
| 男性育児休業取得率 | 66.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 72.1% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 72.3% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 52.8% |
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 2024年問題(物流・建設)の影響
物流・建設業関連業務における時間外労働の上限規制が適用されたことに伴い、働き手不足が発生し、建設・土木分野における同社製品の需要低迷が継続するリスクがあります。
■(2) 米国トランプ政権の関税・通商政策等の影響
関税や通商政策の動向が、自動車分野の需要や世界的な景気に影響を与える可能性があり、同社グループの生産・販売環境に波及する懸念が存在します。
■(3) 中東情勢の影響
中東情勢の悪化をはじめとする地政学的リスクの高まりにより、サプライチェーンの混乱や需要低迷、燃料の価格高騰などが引き起こされ、同社グループの業績に影響を及ぼすリスクがあります。



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