※本記事は、東邦チタニウム株式会社 の有価証券報告書(第94期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月18日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 東邦チタニウムってどんな会社?
金属チタンの製造・販売を主力とし、その技術を応用した触媒や電子部品材料も手掛ける素材メーカーです。
■(1) 会社概要
1953年、日本鉱業(現JX金属)等の合弁により設立され、翌年にはスポンジチタン製造設備を完成させ事業を開始しました。1961年に東証・大証二部に上場し、2006年に東証一部へ指定替えとなりました。2016年にはサウジアラビアにスポンジチタン製造の合弁会社を設立するなど、グローバル展開を進めています。
連結従業員数は1,260名、単体では1,256名体制です。筆頭株主は同社の親会社であり非鉄金属事業を展開するJX金属で、発行済株式の50.38%を保有しています。第2位は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(6.02%)、第3位は大手鉄鋼メーカーの日本製鉄(4.92%)です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| JX金属 | 50.38% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 6.02% |
| 日本製鉄 | 4.92% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性1名の計10名で構成され、女性役員比率は10.0%です。代表取締役社長社長執行役員は山尾康二氏が務めています。社外取締役比率は50.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 山尾 康二 | 代表取締役社長社長執行役員 | 1981年日本鉱業入社。JX金属取締役・常務執行役員などを経て、2021年6月より現職。 |
| 結城 典夫 | 取締役副社長執行役員 | 1982年日本鉱業入社。JX金属執行役員、同社取締役・常務執行役員、技術本部長などを経て、2023年4月より現職。 |
| 井ノ川 朗 | 取締役 | 1989年日本鉱業入社。パンパシフィック・カッパー執行役員、同社経営管理本部長などを経て、2023年4月より現職。 |
| 飯田 一彦 | 取締役 | 1988年日本鉱業入社。JX金属常務執行役員などを経て、2023年6月より現職。 |
| 片岡 拓雄 | 取締役監査等委員(常勤) | 1983年同社入社。常務執行役員、技術本部副本部長、茅ヶ崎工場長などを経て、2023年6月より現職。 |
社外取締役は、井窪保彦(弁護士)、大藏公治(元日本アマゾンアルミニウム社長)、千崎滋子(公認会計士)、原田直巳(元ルクセンブルグみずほ信託銀行CEO)、小林昭夫(公認会計士)です。
2. 事業内容
同社グループは、「金属チタン事業」、「触媒事業」、「化学品事業」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 金属チタン事業
航空機エンジンや機体、一般産業用途向けのスポンジチタン、チタンインゴット、半導体製造装置向けの高純度チタンなどを製造・販売しています。主な顧客は航空機産業や化学プラント、半導体業界などです。サウジアラビアの合弁会社等とも連携し、グローバルに製品を供給しています。
収益は、国内外の顧客への製品販売による対価が主な柱です。運営は、主に東邦チタニウムが担うほか、米国のToho Titanium America Co.,Ltd.や国内関連会社のトーホーテック、サウジアラビアの関連会社Advanced Metal Industries Cluster and Toho Titanium Metal Co.,Ltd.などが関わっています。
■(2) 触媒事業
プラスチックの一種であるポリプロピレンを製造する際に不可欠な「プロピレン重合用触媒」等を製造・販売しています。同社の触媒は、高品質なポリプロピレンを効率よく生産できる点が特徴で、世界のポリプロピレンメーカーに対して製品を提供しています。
収益は、ポリプロピレンメーカーなどの顧客に対する触媒製品の販売代金から得ています。運営は、主に東邦チタニウムが行っており、米国においてはToho Titanium America Co.,Ltd.を通じて販売活動を行っています。
■(3) 化学品事業
積層セラミックコンデンサ(MLCC)の内部電極材として使用される超微粉ニッケルや、電子部品材料となる高純度酸化チタンなどを製造・販売しています。スマートフォンの普及や自動車の電装化に伴い需要が拡大している分野で、電子部品メーカー等が主な顧客です。
収益は、電子部品メーカーなどの顧客への製品販売によって獲得しています。運営は、主に東邦チタニウムが担っているほか、連結子会社の東邦マテリアルが原料等の販売や資金の貸付等を通じて事業に関与しています。
■(4) その他
報告セグメントに含まれない事業として、関連会社を通じた技術・技能者の派遣や請負業務などを行っています。
収益は、関連会社からの事業収益等が該当します。運営は、関連会社であるTOHOWORLDなどが担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は2021年3月期を底に拡大傾向にあり、2025年3月期には890億円に達しました。利益面では、2023年3月期に高い利益率を記録しましたが、その後は減益傾向となり、2025年3月期の経常利益率は6.2%となっています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 362億円 | 555億円 | 804億円 | 784億円 | 890億円 |
| 経常利益 | -4.2億円 | 52億円 | 105億円 | 63億円 | 55億円 |
| 利益率(%) | -1.2% | 9.3% | 13.1% | 8.0% | 6.2% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -47億円 | 38億円 | 77億円 | 46億円 | 49億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の傾向を見ると、売上高は増加しましたが、売上原価の上昇により売上総利益率は若干低下しました。販売費及び一般管理費も増加しましたが、営業利益は前期を上回る結果となりました。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 784億円 | 890億円 |
| 売上総利益 | 153億円 | 161億円 |
| 売上総利益率(%) | 19.5% | 18.0% |
| 営業利益 | 56億円 | 59億円 |
| 営業利益率(%) | 7.2% | 6.6% |
販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が23億円(構成比23%)、運賃及び荷造費が16億円(同15%)を占めています。
■(3) セグメント収益
金属チタン事業は航空機向け需要が堅調で増収となりました。触媒事業も回復傾向にあり大幅な増収を達成しています。化学品事業は需要回復に伴い増収となりました。全体として全セグメントで売上が増加しました。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) |
|---|---|---|
| 金属チタン事業 | 594億円 | 656億円 |
| 触媒事業 | 73億円 | 107億円 |
| 化学品事業 | 117億円 | 127億円 |
| 連結(合計) | 784億円 | 890億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社は、営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業である「健全型」です。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | -31億円 | 193億円 |
| 投資CF | -80億円 | -116億円 |
| 財務CF | 96億円 | -49億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は6.5%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は46.7%で市場平均とほぼ同じ水準です。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「チタンと関連技術の限りない可能性を追求し、優れた製品とサービスを提供し続けることで、持続可能な社会の発展に貢献します」という経営理念を掲げています。この理念のもと、社会的な責任を果たしつつ、長期的な企業価値の向上を目指しています。
■(2) 企業文化
経営理念を実現するため、「安全とコンプライアンスを最優先し、健全で公正な企業活動を行います」「変革と創造を実践し、従業員と企業の持続的成長を果たします」「顧客、地域社会、株主をはじめとする全てのステークホルダーと対話を進め、信頼・共生関係を築きます」という3つの行動基本方針に基づき行動しています。
■(3) 経営計画・目標
同社は「2030年ありたい姿」を掲げ、その実現に向けたキャッチアップ戦略として「2023-2025年度中期経営計画」を推進しています。特にサステナビリティに関する取り組みの強化を全社的な共通課題とし、「ESG経営の推進」を基本テーマに設定しています。
■(4) 成長戦略と重点施策
金属チタン事業では、航空機向け需要に対応するためサウジアラビア合弁会社のフル生産体制移行や国内工場の能力増強を進めます。触媒事業では生産効率化と増産に取り組み、化学品事業ではMLCC向け超微粉ニッケルの新工場建設を進め、供給体制を強化します。新規事業として水電解装置用チタン多孔質体の事業化も推進します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
人材を事業成長の源泉と位置づけ、多様な個性を持つ従業員の能力向上と自律的な行動を促進しています。技術者発表会や各種研修、通信教育支援などを通じて計画的な育成を図るとともに、安全で快適な職場環境の確保、ダイバーシティ&インクルージョンの推進、柔軟な働き方の選択肢提供などに取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 41.9歳 | 14.2年 | 7,020,000円 |
※平均年間給与は、賞与及び基準外賃金を含んでおります。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 2.8% |
| 男性育児休業取得率 | 46.7% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 71.1% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 75.5% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 33.1% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、従業員満足度調査における総合満足度(3.61)、社員採用(新卒・キャリア採用)における女性の割合(26.1%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 特定用途需要の変動リスク
同社製品は特定用途向けの割合が高く、航空機産業や中国経済の影響を受けるポリプロピレン需要、電子部品需要の変動により業績が大きく左右される可能性があります。特に航空機向けスポンジチタンは世界情勢の影響を受けやすく、製品価格の下落や販売量減少のリスクがあります。
■(2) 原料・エネルギー価格の高騰
チタン製造は多量の電力を消費するため、原油やLNG等のエネルギー価格変動の影響を強く受けます。また、原料鉱石や化学品事業の原料であるニッケル地金の国際市況価格の変動もコストに直結します。価格転嫁が困難な場合、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(3) 為替変動リスク
スポンジチタンや触媒製品などは輸出比率が高く、多くが米ドル建て取引です。為替予約によるヘッジを行っていますが、大幅な円高が進行した場合、円換算での売上高減少や収益性の低下を招き、業績に悪影響を与える可能性があります。
■(4) 自然災害リスク
製品の大部分を自社工場で生産しており、特に茅ヶ崎工場は東海地震の防災対策強化地域内に位置しています。地震等の大規模災害により生産設備に被害が生じた場合、操業停止や供給遅延が発生し、業績や財務状況に深刻な影響を及ぼす可能性があります。



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