イーグル工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

イーグル工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東京証券取引所プライム市場に上場するイーグル工業は、自動車や一般産業機械向けのメカニカルシール、特殊バルブ等の製造販売を展開しています。直近の業績は、主力事業でのEV向け製品の拡販や半導体業界向けの需要回復により増収増益を達成し、売上高と経常利益が過去最高を記録するなど好調に推移しています。


※本記事は、イーグル工業の有価証券報告書(第72期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月22日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. イーグル工業ってどんな会社?


自動車・建設機械、半導体業界等向けにメカニカルシール等の密封装置関連製品を製造販売する企業です。

(1) 会社概要


イーグル工業は1964年にNOKと米国企業の合弁で設立され、メカニカルシールの製造販売を開始しました。1978年に現社名へ変更し、1991年に東京証券取引所第一部へ上場しました。2005年にドイツのブルグマン社と合弁事業契約を結んだほか、2026年にはNOKとの経営統合により持株会社を設立予定です。

現在の従業員数は連結で6,188名、単体で1,335名となっています。筆頭株主は事業会社であるNOKで、第2位は同じく事業会社であるフロイデンベルグ・エス・エー、第3位は資産管理業務を行う信託銀行です。

氏名 持株比率
NOK 32.03%
フロイデンベルグ・エス・エー 8.22%
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 6.07%

(2) 経営陣


同社の役員は男性10名、女性2名の計12名で構成され、女性役員比率は16.7%です。代表取締役会長兼社長は鶴鉄二氏が務めており、社外取締役の比率は33.3%となっています。

氏名 役職 主な経歴
鶴鉄二 代表取締役会長兼社長 1972年NOK入社。1979年同社取締役、1989年同社代表取締役社長に就任。NOK取締役やイーグルブルグマンジャパン代表取締役会長を歴任し、2018年より現職。
中尾正樹 代表取締役副社長業務本部長兼防衛関連統括室長 1980年同社入社。2005年取締役、2009年執行役員に就任。経営企画室長を経て2022年に代表取締役副社長に就任。2024年より現職。
安部信二 代表取締役専務安全環境品質管理室長 1981年NOK入社。2007年同社取締役に就任。常務執行役員、専務取締役営業本部長、グローバル品質・環境管理室長を経て2022年より現職。
上村訓右 代表取締役専務技術本部長 1989年NOK入社。2010年同社執行役員、2014年専務取締役技術本部長に就任。2016年に博士(工学)を取得し、2022年より現職。
嶋田雅英 専務取締役AI・CI事業部長兼原発関連統括室長 1988年同社入社。2011年AI・CI事業部生産技術部長、2019年執行役員AI・CI事業部長に就任。2022年専務取締役を経て2023年より現職。
山本英貴 専務取締役営業本部長 1987年同社入社。2018年執行役員営業本部副本部長、2020年常務執行役員営業本部本部長に就任。2023年より現職。
中澤亮大 専務取締役経営企画室長兼防衛関連統括室副室長 2007年三陽商会入社。2017年同社入社。2021年執行役員経営企画室長、2022年常務執行役員を経て2024年より現職。イーグルブルグマンジャパン代表取締役会長を兼務。


社外取締役は、山澤梨沙(弁護士・東京地方裁判所民事調停官)、庄野勝彦(元日本産業機械工業会常務理事)、坂口昌子(弁護士・元最高裁判所司法研修所弁護教官)、小池孝(湖池屋代表取締役会長)です。

2. 事業内容


同社グループは、「自動車・建設機械業界向け事業」、「一般産業機械業界向け事業」、「半導体業界向け事業」、「舶用業界向け事業」、「航空宇宙業界向け事業」を展開しています。

自動車・建設機械業界向け事業


自動車や建設機械向けのメカニカルシール(軸封装置)や特殊バルブ、電力業界向けの特殊バルブを提供しています。主力製品として電気自動車(EV)駆動モータ用の水冷高速メカニカルシールやサスペンション用ソレノイドバルブなどがあり、自動車メーカーや部品メーカーを主要な顧客としています。

これらの製品の販売代金を顧客から受け取ることで収益を得るモデルです。事業の運営は同社および岡山イーグル、島根イーグル、イーグルインダストリー台湾CORP.などの国内外の生産・販売子会社が連携して行い、グローバルな需要に対応しています。

一般産業機械業界向け事業


産業機械、石油精製、石油化学プラント業界向けにメカニカルシールやダイアフラムカップリングを提供しています。国内外の各種プラントや原子力発電所に設置されるポンプやコンプレッサー用のシール製品を扱い、高い密封性能と低摩擦を実現する技術力を強みとしています。

メカニカルシールの製品販売に加え、納入後の保守・工事などのアフターサービスを提供することで収益を確保するビジネスモデルです。事業の運営は同社とイーグルブルグマンジャパン、およびドイツのイーグルブルグマンジャーマニーなどとのアライアンス体制で行われています。

半導体業界向け事業


半導体チップや液晶パネル、太陽電池パネルなどの半導体製造装置向けに使用される各種シールや電子機器、精密機器向けの精密ベローズを提供しています。AIデータセンター向けなどの高付加価値メモリ需要の拡大を背景に、半導体製造装置各社や大手ファウンドリーを主要顧客としています。

半導体製造装置向けのシール製品やスリップリングなどの製品販売によって収益を得ています。事業の運営は主に同社および新潟イーグル、NEK CO.,LTD.などの子会社が行い、製品の製造から販売までを担っています。

舶用業界向け事業


中・大型船舶のスクリュー部分に設置される船尾管シールや軸受を提供しています。世界の主要造船国において高いマーケットシェアを有しており、新造船向け製品のほか、環境規制に対応した生分解性油適合シールや水潤滑式船尾管システムなどの開発にも取り組んでいます。

新造船向けに製品を納入した後の保守や修理などのアフターサービスを継続的に提供することで収益を確保するビジネスモデルです。事業の運営は同社およびイーグルハイキャスト、KEMELヨーロッパLTD.などの国内外の関係会社が連携して行っています。

航空宇宙業界向け事業


航空機やロケットエンジン向けの各種シールや圧力センサーを提供しています。民間航空機業界向けには低燃費とCO2排出量削減を目指した次世代エンジン用シールを開発し、宇宙産業向けには新型基幹ロケットや再使用ロケットの構成部品用シールなどを展開しています。

航空機エンジン向けシールや衛星関連製品、IoTマルチセンサなどの製品販売により収益を得ています。事業の運営は同社および北海道イーグル、バルコムなどの子会社が担当し、官民双方の需要や海外からの引き合いにも対応する生産体制を構築しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績は、グローバルでのエネルギー需要や国際物流の高水準な推移を背景に、売上高は右肩上がりの成長を続けています。経常利益も増益基調にあり、当期は主力事業での拡販や半導体向けの需要回復が寄与し、大幅な増益を記録しています。利益率も7%〜9%台で安定して推移しており、堅調な事業成長が伺えます。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 1,408億円 1,574億円 1,670億円 1,682億円 1,775億円
経常利益 108億円 123億円 138億円 120億円 172億円
利益率(%) 7.7% 7.8% 8.3% 7.1% 9.7%
当期利益(親会社所有者帰属) 37億円 97億円 104億円 109億円 64億円

(2) 損益計算書


売上高の増加に伴い、売上総利益および営業利益がともに大きく伸長しています。主力製品の販売増加やコストダウン活動、販売価格の適正化が進んだことで、売上総利益率は23.6%から25.8%へ、営業利益率は5.0%から7.6%へと改善しており、収益力の向上が確認できます。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 1,682億円 1,775億円
売上総利益 396億円 457億円
売上総利益率(%) 23.6% 25.8%
営業利益 85億円 135億円
営業利益率(%) 5.0% 7.6%


販売費及び一般管理費(322億円)のうち、従業員給与手当賞与が122億円(構成比38%)、賞与引当金繰入額が14億円(同4%)を占めています。

(3) セグメント収益


主力事業の自動車・建設機械業界向けはEV向け製品の拡販により増収となりました。半導体業界向けは生成AI関連の需要回復で大きく伸長し、舶用業界向けも新造船・修繕需要の好調を維持して増収となっています。一方で、一般産業機械向けや航空宇宙向けは一部需要の減少等によりわずかに減収となりました。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期)
自動車・建設機械業界向け事業 876億円 933億円
一般産業機械業界向け事業 408億円 395億円
半導体業界向け事業 126億円 165億円
舶用業界向け事業 180億円 195億円
航空宇宙業界向け事業 91億円 88億円
連結(合計) 1,682億円 1,775億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業活動で十分なキャッシュを創出し、その資金を設備投資や借入金の返済、株主還元に充てる「健全型」のキャッシュ・フロー・パターンとなっています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 137億円 220億円
投資CF -104億円 -88億円
財務CF -83億円 -83億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は8.0%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は58.2%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、「企業は株主・従業員・社会の三者の共有物であり、これにお客様、サプライヤー、金融機関等を加えた全てのステークホルダーに利益と誇りをもたらす(Profit and Pride for All Stakeholders)」という経営の基本的な考え方を掲げています。長期的利益の犠牲のもとに短期的利益を追求しないことを命題とし、社会に有用な商品を世界中で提供することを目指しています。

(2) 企業文化


遵法精神に則り、「技術に裏打ちされた、独自性のある、かつ社会に有用な商品を世界中で安くつくり、適正価格で売る」という価値観を重視しています。また、経営理念として「愛情と信頼に基づく人間尊重経営」を掲げており、従業員一人ひとりが能力を出し切ることができる働きがいのある職場づくりに努め、高い収益力を持った強い会社となるべく不断の企業活動を展開する文化が醸成されています。

(3) 経営計画・目標


2026年度から2028年度までの3カ年を対象とする新たな中期経営計画を策定し、「持続性ある企業体質の構築 ~Fly Sky High!~」を基本方針として掲げています。グループ全体での中長期的な成長と企業価値の向上を目指し、最終年度の目標経営数値として以下の指標を設定しています。

* イーグル工業グループで売上高2,000億円以上の達成
* 全利益項目において最高益の達成
* ROIC:7%以上
* ROE:9%以上

(4) 成長戦略と重点施策


変化する事業環境に柔軟に対応できる事業体制の整備と、固有技術を活かした次世代製品の開発・事業化を推進しています。また、2026年10月に予定しているNOKとの共同株式移転による経営統合を通じて、両社の経営資源の最適化や効率的な事業運営によるシナジー創出を図ります。さらに、DXの深化や人間尊重に基づく人材育成など、中長期的な企業価値向上に向けた取り組みを進めています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「愛情と信頼に基づく人間尊重経営」の理念のもと、従業員の幸福と持続可能な社会の実現を目指す人材戦略を展開しています。従業員一人ひとりが主体性やチャレンジ意欲を持ち、成長に繋げられるよう、新人からマネジメント層までの教育プログラムを設けて人材育成に注力しています。また、多様な人材が活躍できる環境づくりの一環として、新人事制度の導入や女性活躍施策などの社内環境整備を推進しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 41.8歳 16.1年 8,992,612円


※平均年間給与は基準外賃金及び賞与を含んでおります。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 5.5%
男性育児休業取得率 90.7%
男女賃金差異(全労働者) 75.3%
男女賃金差異(正規雇用労働者) 81.2%
男女賃金差異(パート・有期労働者) 53.7%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性総合職人数(37名)、キャリア志向を持つ女性の割合(30%)、女性管理職人数(15名)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 自動車業界等への依存


同社の製品は約5割が自動車および自動車部品業界向けであり、自動車の生産・販売動向の影響を強く受けます。また、電気自動車や燃料電池自動車の普及進展に伴い、内燃機関向け既存製品の需要減少リスクがあります。これに対し、グローバル生産体制の構築や次世代モビリティ市場をターゲットとした新製品の開発拡販を進めています。

(2) 原材料・部品等の調達とサプライチェーンの混乱


事業活動に不可欠な一部の特殊な原材料や部品は、限られたサプライヤーに依存している場合があります。地政学リスクの高まりや国際物流の停滞、災害等によるサプライチェーンの混乱や供給中断、価格高騰が発生した場合、業績に影響を及ぼす可能性があります。同社は調達先の複数化による安定調達に努めています。

(3) 製品の品質問題が及ぼす影響


世界的に認められた品質管理基準に従って製造を行っていますが、万が一、大規模なリコールや製造物賠償責任につながるような製品の不具合が発生した場合、多大な対応コストの発生や社会的信用の低下を招き、業績および財務状況に影響を及ぼすリスクがあります。「永遠のゼロ」をスローガンとした品質改善活動を継続しています。

(4) 情報セキュリティのリスク


事業活動を通じて顧客や取引先の機密情報、個人情報等を保有しています。サイバー攻撃の高度化や不測の事態によりこれらの情報資産が漏洩・消失した場合、社会的信用の低下や損害賠償請求等により業績に影響を及ぼす可能性があります。専門部署を設置し、セキュリティ対策の強化や従業員教育を推進しています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。