※本記事は、イーグル工業株式会社 の有価証券報告書(第71期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. イーグル工業ってどんな会社?
メカニカルシールや特殊バルブといった、あらゆる産業機械の「漏れ」を防ぐシール製品の大手メーカーです。
■(1) 会社概要
1964年、NOKと米国EG&Gシーロール社の合弁により日本シールオールとして設立され、1978年に現商号へ変更しました。1982年に東証二部へ上場し、1991年に東証一部(現プライム)へ指定替えを果たしました。その後、ドイツのブルグマン社との提携強化や海外拠点の設立を進め、グローバル展開を加速させています。
連結従業員数は6,268名、単体では1,330名体制です。筆頭株主は同社の設立母体でもあるNOKで、第2位はドイツに拠点を置く提携先のフロイデンベルグ・エス・エーです。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| NOK | 32.02% |
| フロイデンベルグ・エス・エー | 8.22% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 7.31% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性11名、女性1名の計12名で構成され、女性役員比率は8.3%です。代表取締役会長兼社長は鶴 鉄二氏が務めています。社外取締役比率は33.3%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 鶴 鉄二 | 代表取締役会長兼社長 | 1972年NOK入社。同社取締役、常務、専務、副社長を経て1989年社長に就任。2018年より現職。 |
| 中尾 正樹 | 代表取締役副社長 業務本部長兼防衛関連統括室長 | 1980年同社入社。取締役海外事業推進室長、執行役員、常務執行役員、専務取締役、経営企画室長等を経て2024年より現職。 |
| 安部 信二 | 代表取締役専務 安全環境品質管理室長 | 1981年NOK入社。同社取締役営業本部長、常務取締役、専務取締役等を経て2022年より現職。 |
| 上村 訓右 | 代表取締役専務 技術本部長 | 1989年NOK入社。同社執行役員技術本部長、常務執行役員、専務取締役等を経て2022年より現職。博士(工学)。 |
| 嶋田 雅英 | 専務取締役 AI・CI事業部長兼原発関連統括室長 | 1988年同社入社。執行役員AI・CI事業部長、常務執行役員等を経て2023年より現職。 |
| 山本 英貴 | 専務取締役 営業本部長 | 1987年同社入社。執行役員営業本部副本部長、常務執行役員等を経て2023年より現職。 |
| 中澤 亮大 | 専務取締役 経営企画室長兼防衛関連統括室副室長 | 2007年三陽商会入社。2017年同社入社。執行役員経営企画室長、常務執行役員等を経て2024年より現職。 |
| 射場 泰光 | 取締役(常勤監査等委員) | 1985年日本長期信用銀行入行。2010年同社入社。執行役員財経本部副本部長、常勤監査役等を経て2024年より現職。 |
社外取締役は、吉川 實(元KHネオケム会長)、庄野 勝彦(元日本産業機械工業会常務理事)、坂口 昌子(弁護士)、小池 孝(湖池屋会長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「自動車・建設機械業界向け事業」「一般産業機械業界向け事業」「半導体業界向け事業」「舶用業界向け事業」「航空宇宙業界向け事業」を展開しています。
**(1) 自動車・建設機械業界向け事業**
自動車や建設機械に使用されるメカニカルシール(軸封装置)や特殊バルブ、電力業界向けの特殊バルブなどを提供しています。主要顧客は自動車メーカーや建機メーカーであり、グローバルに製品を供給しています。
製品の販売対価として収益を得ています。運営は、同社のほか、岡山イーグル、島根イーグル、イーグルインダストリー台湾、EKKイーグル(タイランド)などの国内外の関係会社が行っています。
**(2) 一般産業機械業界向け事業**
産業機械、石油精製、石油化学プラント業界向けにメカニカルシールを提供しています。プラント等の回転機器における漏れを防ぐ重要部品であり、高い信頼性が求められる分野です。
製品販売および納入後のメンテナンス・補修需要から収益を得ています。運営は、同社のほか、イーグルブルグマンジャパン、イーグルブルグマンジャーマニーなどの関係会社が行っています。
**(3) 半導体業界向け事業**
半導体製造装置向けの各種シール(磁性流体シール等)や、電子機器・精密機器向けの精密ベローズ(伸縮管)などを提供しています。半導体製造プロセスの高度化に対応した製品群です。
製品の販売対価として収益を得ています。運営は、同社のほか、新潟イーグル、NEK、アリーナインストゥルメントなどの関係会社が行っています。
**(4) 舶用業界向け事業**
船舶の船尾管シール(軸封装置)や軸受などを提供しています。中・大型船のスクリュー部分に使用され、海水と潤滑油を遮断する役割を担っています。
製品の販売およびアフターサービスから収益を得ています。運営は、同社のほか、イーグルハイキャスト、KEMELヨーロッパなどの関係会社が行っています。
**(5) 航空宇宙業界向け事業**
航空機エンジンやロケットエンジン向けの各種シール、圧力センサーなどを提供しています。過酷な環境下で使用される高機能製品であり、航空宇宙産業の発展を支えています。
製品の販売対価として収益を得ています。運営は、同社のほか、北海道イーグル、バルコムなどの関係会社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は増加傾向にあり、第71期には1,682億円に達しています。利益面では、経常利益は120億円前後で推移していますが、当期純利益は変動が見られ、第71期は前期比で減少しました。全体として売上規模は拡大基調ですが、利益率はやや低下傾向にあります。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 1,305億円 | 1,408億円 | 1,574億円 | 1,670億円 | 1,682億円 |
| 経常利益 | 84億円 | 108億円 | 123億円 | 138億円 | 120億円 |
| 利益率(%) | 6.5% | 7.7% | 7.8% | 8.3% | 7.1% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 43億円 | 37億円 | 97億円 | 104億円 | 109億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の損益構成を見ると、売上高は微増し、売上総利益および売上総利益率も改善しています。これに伴い営業利益も増加していますが、営業利益率は概ね横ばいで推移しています。本業の収益性は維持・向上していますが、コストコントロールや効率化の取り組みが継続して重要となっています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1,670億円 | 1,682億円 |
| 売上総利益 | 377億円 | 396億円 |
| 売上総利益率(%) | 22.5% | 23.6% |
| 営業利益 | 81億円 | 85億円 |
| 営業利益率(%) | 4.9% | 5.1% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給与手当賞与が116億円(構成比37.2%)、賞与引当金繰入額が14億円(同4.4%)を占めています。
■(3) セグメント収益
自動車・建設機械業界向け事業はEV化の影響等で減収減益となりましたが、一般産業機械業界向けおよび舶用業界向け事業が好調で増収増益となり、全社の増益に貢献しました。半導体業界向け事業は在庫調整により減収となり、営業損失を計上しています。航空宇宙業界向け事業は増収増益と伸長しました。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 自動車・建設機械業界向け事業 | 905億円 | 876億円 | 16億円 | 6億円 | 0.6% |
| 一般産業機械業界向け事業 | 385億円 | 408億円 | 32億円 | 54億円 | 13.2% |
| 半導体業界向け事業 | 151億円 | 126億円 | -8億円 | -38億円 | -29.9% |
| 舶用業界向け事業 | 150億円 | 180億円 | 34億円 | 53億円 | 29.2% |
| 航空宇宙業界向け事業 | 80億円 | 91億円 | 6億円 | 10億円 | 11.3% |
| その他 | - | - | - | - | -% |
| 調整額 | -3億円 | -3億円 | 0.2億円 | 0.1億円 | -% |
| 連結(合計) | 1,670億円 | 1,682億円 | 81億円 | 85億円 | 5.1% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 177億円 | 137億円 |
| 投資CF | -120億円 | -104億円 |
| 財務CF | -64億円 | -83億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は4.2%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は55.9%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「企業は株主・従業員・社会の三者の共有物であり、これにお客様、サプライヤー、金融機関等を加えた全てのステークホルダーに利益と誇りをもたらす(Profit and Pride for All Stakeholders)」ことを経営の基本方針としています。長期的利益の犠牲のもとに短期的利益を追求せず、高い収益力を持った強い会社となることを目指しています。
■(2) 企業文化
同社は遵法精神に則り、「技術に裏打ちされた、独自性のある、かつ社会に有用な商品を世界中で安くつくり、適正価格で売る」という価値観を重視しています。また、「愛情と信頼に基づく人間尊重経営」を掲げ、従業員一人ひとりが能力を発揮できる職場づくりや、顧客から信頼される品質の確保に向けた不断の努力を行う風土があります。
■(3) 経営計画・目標
同社は2023年度から2025年度までの中期経営計画「Fly Sky High!」を推進しており、最終年度となる2025年度の目標経営数値を以下の通り設定しています。
* 売上高:1,700億円
* 営業利益:90億円
■(4) 成長戦略と重点施策
「変化への巧緻的対応」や「ESG経営」、「DXの推進」などを主要推進項目に掲げています。特に半導体業界向け事業を将来の成長ドライバーとして注力するとともに、自動車業界向けではEV向けサスペンション用ソレノイドバルブなどの次世代独自技術製品の拡販を進め、事業ポートフォリオの変革と収益性の向上を図っています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「愛情と信頼に基づく人間尊重経営」のもと、従業員の幸福実現と持続可能な社会の実現を目指しています。主体性やチャレンジ意欲を持つ人材を育成するため、新人事制度の導入や多様な働き方を支援する制度整備を行い、女性活躍推進などのダイバーシティ環境づくりにも注力しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 41.5歳 | 15.8年 | 8,343,392円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 5.6% |
| 男性育児休業取得率 | 88.9% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 73.7% |
| 男女賃金差異(正規) | 80.8% |
| 男女賃金差異(非正規) | 44.5% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性総合職人数(38名)、女性管理職人数(15名)、キャリア志向を持つ女性の割合(22%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 自動車業界等への依存
製品の約5割が自動車および自動車部品業界向けであり、同業界の生産・販売動向の影響を受けます。EVや燃料電池車の普及による内燃機関向け製品の減少や、完成車メーカーの海外生産シフト、原価低減要請などが業績に影響を与える可能性があります。
■(2) 技術変化への対応
技術革新や品質向上要求への対応が困難になった場合や、保有技術の陳腐化が生じた場合、事業展開に影響を及ぼす可能性があります。特にカーボンニュートラル対応や電動化に伴う技術変化に対応するため、次世代モビリティ・エネルギー市場向けの研究開発が重要となっています。
■(3) 製品の品質問題が及ぼす影響
世界的な品質管理基準に従って製造していますが、大規模なリコールや製造物賠償責任につながる不具合が発生した場合、対応コストの発生や社会的信用の低下により、業績および財務状況に多大な影響を及ぼす可能性があります。



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