※本記事は、株式会社ディスコ の有価証券報告書(第86期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. ディスコってどんな会社?
精密加工装置・ツールの製造販売を行う企業です。半導体チップの製造工程で「切る・削る・磨く」技術を提供しています。
■(1) 会社概要
1937年に第一製砥所として創業し、1940年に法人化されました。1969年に米国販売拠点を設立して海外展開を開始し、1975年には半導体用ダイシングソーを開発しました。1999年に東京証券取引所第一部に上場し、2022年の市場区分見直しに伴いプライム市場へ移行しています。
同社グループは連結従業員数5,256名、単体3,486名の体制で事業を展開しています。筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位も同様に信託銀行です。第3位は株式会社ダイイチホールディングスです。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) | 16.28% |
| 株式会社日本カストディ銀行(信託口) | 8.18% |
| 株式会社ダイイチホールディングス | 5.52% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性7名、女性4名の計11名で構成され、女性役員比率は36.4%です。代表執行役社長 CEOは関家一馬氏が務めています。社外取締役比率は54.5%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 関家 一馬 | 取締役、代表執行役社長 CEO | 1989年入社。PS事業部技術開発部長等を経て、2009年社長、2022年より現職。 |
| 吉永 晃 | 取締役、代表執行役副社長 | 1982年入社。海外営業部長、営業本部長等を経て、2023年より現職。 |
| 田村 隆夫 | 取締役、執行役常務 | 1977年入社。サポート本部長、総務部長等を経て、2022年より現職。 |
社外取締役は、時丸和好(元三井住友信託銀行執行役員)、隠樹紀子(元モルガン・スタンレー証券MD)、松尾亜紀子(慶應義塾大学教授)、小林英津子(東京大学大学院教授)、Christina L. Ahmadjian(一橋大学名誉教授)、村上敦士(MSTマーシュ社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「精密加工システム事業」を展開しています。
■(1) 精密加工装置
半導体や電子部品等の素材を「切る(Kiru)」「削る(Kezuru)」「磨く(Migaku)」ための精密加工装置を製造・販売しています。主な製品には、シリコンウェーハ等を切断するダイシングソー、薄く削るグラインダ、平滑にするポリッシャ等があります。顧客は主に半導体メーカーや電子部品メーカーです。
収益は、顧客への装置販売代金として受け取ります。高度な加工技術を要するこれらの装置は、顧客の技術課題に対するソリューションとして提供されます。運営は主に同社が担っており、開発・製造・販売を一貫して行う体制を構築しています。
■(2) 精密加工ツール
装置に取り付けて使用される消耗品である精密加工ツールの製造・販売を行っています。製品にはダイシングブレード、グラインディングホイール等があり、装置と組み合わせて最適な加工結果を実現します。また、装置・ツールの保守サービスや、顧客の加工課題を解決するアプリケーション技術の提供も行っています。
収益は、ツールの販売代金や保守・サービス料として受け取ります。消耗品であるツールは、装置稼働に伴い継続的な需要が見込まれます。運営は同社および株式会社ダイイチコンポーネンツなどのグループ会社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績は、売上高、利益ともに右肩上がりの成長を続けています。特に直近の2025年3月期は、売上高が約3933億円、経常利益が約1689億円と、前期比で大幅な増収増益を達成しました。利益率も40%を超える極めて高い水準を維持しており、収益性の高さが際立っています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 1,829億円 | 2,538億円 | 2,841億円 | 3,076億円 | 3,933億円 |
| 経常利益 | 536億円 | 924億円 | 1,123億円 | 1,224億円 | 1,689億円 |
| 利益率(%) | 29.3% | 36.4% | 39.5% | 39.8% | 43.0% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 330億円 | 612億円 | 818億円 | 870億円 | 1,161億円 |
■(2) 損益計算書
売上高の大幅な増加に伴い、売上総利益、営業利益ともに大きく伸長しています。売上総利益率は70%前後と非常に高く、高付加価値製品の販売が好調であることが読み取れます。営業利益率も40%台に乗せており、高い収益構造を維持しながら事業規模を拡大させています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 3,076億円 | 3,933億円 |
| 売上総利益 | 2,086億円 | 2,776億円 |
| 売上総利益率(%) | 67.8% | 70.6% |
| 営業利益 | 1,215億円 | 1,668億円 |
| 営業利益率(%) | 39.5% | 42.4% |
販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が317億円(構成比28.6%)、給料及び賞与が266億円(同24.0%)を占めています。積極的な研究開発投資と従業員への還元を行っていることがわかります。
■(3) セグメント収益
同社は精密加工システム事業の単一セグメントですが、半導体市場における生成AI関連やパワー半導体向けの需要拡大を背景に、売上高が大きく増加しました。高付加価値製品の出荷増や為替の影響もあり、収益性が向上しています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) |
|---|---|---|
| 精密加工システム事業 | 3,076億円 | 3,933億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社は、本業で稼いだ資金で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業(健全型)です。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 975億円 | 1,204億円 |
| 投資CF | -164億円 | -680億円 |
| 財務CF | -309億円 | -382億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は27.6%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は75.1%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「高度なKiru・Kezuru・Migaku技術によって遠い科学を身近な快適につなぐ」というMissionを掲げています。技術とサービスが国際的標準となり、世界各地で喜ばれ、社会・ステークホルダーから歓迎される存在になることをTargetとしています。売上やシェアの拡大ではなく、Missionの実現性とステークホルダーとの価値交換性の向上を「成長」と定義しています。
■(2) 企業文化
1997年に制定した企業理念「DISCO VALUES」を中核とし、200以上の具体的な行動指針「マネジメントガイドラインズ」を定めています。これらを浸透させるため、独自の管理会計「Will会計」や全社的な業務改善活動「PIM(Performance Innovation Management)」を推進し、各組織・個人が自律的に機能する文化を醸成しています。
■(3) 経営計画・目標
2030年度末の到達点を定義した「DISCO VISION 2030」を策定しています。中長期の経営指標として、以下の定量的目標を維持する態勢を構築することを掲げています。
* 4年累計連結経常利益率20%以上
* 4年累計RORA(Return On Risk Assets)20%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
製造拠点を戦略資産と位置づける「Fab Important戦略」を展開しています。開発と製造の一体化による高速PDCAや、技術の内製化によるノウハウ蓄積を進め、競争優位性を確保します。また、「Kiru・Kezuru・Migaku」技術の用途拡大が見込まれるAI、IoT、パワー半導体分野へ注力し、継続的な技術開発投資を行います。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
従業員を重要な資本と捉え、従業員満足志向(Employee Satisfaction Oriented)のマネジメントを実践しています。個人の意志(Will)を尊重する「Will経営」のもと、業務選択や異動の自由、独自の社内通貨を用いた「個人Will会計」などを導入し、自律的なキャリア形成とイノベーションを促進しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 37.3歳 | 10.7年 | 16,718,921円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 7.5% |
| 男性育児休業取得率 | 94.2% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 57.6% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 63.7% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 56.9% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、従業員満足度(ES)調査 肯定回答率(96.0%)、自分は性別による差別を受けていない(98.8%)、自分は年齢による差別を受けていない(98.0%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 半導体市場等の変動による影響
世界中の半導体・電子部品メーカーに製品を供給しているため、顧客の設備投資動向や生産動向の影響を受けます。特に半導体市場の需給バランス変動(シリコンサイクル)により、顧客が投資凍結や減産を行った場合、同社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。これに対し、独自管理会計等の仕組みで変化への対応力を高めています。
■(2) 新技術の誕生による影響
主に半導体シリコンウェーハ加工用の切断・研削装置や精密ダイヤモンド砥石を製造・販売していますが、これらに替わる新たな加工技術が誕生した場合、業績が影響を受ける可能性があります。このリスクに対応するため、レーザやプラズマを用いた加工技術等の開発も進めています。
■(3) 災害等の発生による影響
東京の本社・R&Dセンターや、広島県・長野県の生産拠点で大規模な災害や感染症が発生した場合、事業活動に影響が出る可能性があります。これに対し、BCM(事業継続管理)専門部署を設置し、平時よりリスク対策や従業員への啓発を行っています。また、生産拠点における免震構造の採用などで対策を講じています。



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