※本記事は、株式会社ディスコの有価証券報告書(第87期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月16日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. ディスコってどんな会社?
半導体や電子部品向けの精密加工装置と加工ツールを提供する世界的な製造装置メーカーです。
■(1) 会社概要
ディスコは1937年に工業用砥石の製造・販売を行う第一製砥所として創業しました。1970年に精密切断装置を開発して以降、1975年には半導体用ダイシングソーの販売を開始して精密加工分野で成長を遂げました。1999年に東京証券取引所市場第一部へ上場し、その後もレーザソーなどを開発しています。
現在、同社グループ全体で5,547名、単体で3,687名の従業員を擁しています。大株主の状況を見ると、筆頭株主および第2位の株主は資産管理業務を行う信託銀行であり、第3位にはダイイチホールディングスが名を連ねています。機関投資家による保有比率が高い安定した株主構成となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 15.78% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 8.28% |
| ダイイチホールディングス | 5.52% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性7名、女性4名の計11名で構成され、女性役員比率は36.4%です。代表執行役社長の関家一馬氏をはじめとする経営陣が事業を牽引しています。また、取締役の過半数が社外取締役で構成されています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 関家 一馬 | 取締役 代表執行役社長 CEO | 1989年に同社へ入社。技術開発部長やPSカンパニープレジデントなどを歴任し、2009年に代表取締役社長に就任。2022年より現職。 |
| 吉永 晃 | 取締役 代表執行役副社長 | 1982年に同社へ入社。海外営業部長や営業本部長などを歴任し、海外拠点の代表も務める。2023年より現職。 |
| 田村 隆夫 | 取締役 執行役常務 | 1977年に同社へ入社。経営管理部長や総務部長などを歴任し、長らくサポート本部長を務める。2022年より現職。 |
社外取締役は、時丸和好(元三井住友信託銀行執行役員)、隠樹紀子(元モルガン・スタンレー証券マネージング・ディレクター)、松尾亜紀子(慶應義塾大学教授)、小林英津子(東京大学大学院教授)、Christina L. Ahmadjian(一橋大学名誉教授)、村上敦士(MSTマーシュ代表取締役社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「精密加工システム事業」の単一セグメントで事業を展開しています。
■精密加工装置
同社グループは、半導体や電子部品などの微細加工に使用される精密加工装置を製造・販売しています。主な製品として、ダイシングソー、レーザソー、グラインダ、ポリッシャなどがあり、半導体メーカーや電子部品メーカーが主な顧客です。世界中のハイテク業界に対して、高度な加工技術によるソリューションを提供しています。
収益源はこれらの装置販売の代金です。製品の製造は主にディスコやダイイチコンポーネンツが行い、販売については国内外の子会社(DISCO HI-TEC AMERICA,INC.など)が各地域で担当し、グローバルに事業を展開しています。
■精密加工ツールおよび保守・サービス
精密加工装置に取り付けて使用される精密加工ツール(ダイシングブレード、グラインディングホイールなど)の製造・販売も手掛けています。装置と消耗品の販売に加え、これらに伴う保守・サービスを組み合わせることで継続的に収益を得るモデルとなっています。
ツールの製造や保守・サービスの提供は、主にディスコが担っており、海外における販売・サービス業務はそれぞれの地域の販売子会社が担当しています。加工課題に対する総合的な解決策を提案し、顧客の安定稼働を支えています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
同社の業績は、半導体市場の需要拡大を背景に順調な成長を続けています。特に高性能半導体向けの高付加価値製品の需要が好調に推移し、直近では売上高、経常利益ともに大幅な増加を記録しました。利益率も40%前後の高い水準を維持しており、外部環境の変動に対応できる強固な収益基盤と高い競争力を示しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 2538億円 | 2841億円 | 3076億円 | 3933億円 | 4369億円 |
| 経常利益 | 924億円 | 1123億円 | 1224億円 | 1689億円 | 1849億円 |
| 利益率(%) | 36.4% | 39.5% | 39.8% | 43.0% | 42.3% |
| 当期利益 | 612億円 | 818億円 | 870億円 | 1161億円 | 1317億円 |
■(2) 損益計算書
同社の損益構造を見ると、売上高に対する売上総利益率が70%を超える非常に高い水準にあることが特徴です。これは、精密加工技術という高度な専門性が要求される分野において、圧倒的な付加価値と競争優位性を確立していることを示しています。営業利益率も40%を超えており、極めて高収益な体質を維持しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 3933億円 | 4369億円 |
| 売上総利益 | 2776億円 | 3065億円 |
| 売上総利益率(%) | 70.6% | 70.2% |
| 営業利益 | 1668億円 | 1850億円 |
| 営業利益率(%) | 42.4% | 42.3% |
販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が342億円(構成比28%)、給料及び賞与が324億円(同27%)を占めています。また、売上原価の内訳としては、材料費が39%、労務費が38%、経費が22%の構成となっています。
■(3) セグメント収益
同社は「精密加工システム事業」の単一セグメントで事業を展開しています。生成AIの需要拡大を背景に、データセンター向けや高性能半導体向けの投資が好調に推移しました。高付加価値な精密加工装置や、顧客の設備稼働率に連動する精密加工ツールの出荷が増加し、売上高は前期を上回る実績を残しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 精密加工システム事業 | 3933億円 | 4369億円 |
| 連結(合計) | 3933億円 | 4369億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社のキャッシュ・フローは、営業活動で生み出した資金を新たな設備や研究開発に投資し、余剰資金を株主還元等に充てる健全型です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 1204億円 | 1335億円 |
| 投資CF | -680億円 | -1358億円 |
| 財務CF | -382億円 | -450億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は25.1%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も78.9%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
企業理念である「DISCO VALUES」において、社会的使命(Mission)として「高度なKiru・Kezuru・Migaku技術によって遠い科学を身近な快適につなぐ」を掲げています。目標とする企業像(Target)として、自社の技術とサービスが国際的標準となり、社会やステークホルダーから歓迎される存在となることを目指しています。
■(2) 企業文化
従業員一人ひとりの意志(Will)に基づき働き方を決定できる独自制度「個人Will会計」を導入しています。また、全社的な業務の改善を促す「PIM(Performance Innovation Management)」を推進し、内的動機に基づき自律的に課題解決を図ることで、イノベーションを生み出しやすい文化を醸成しています。
■(3) 経営計画・目標
中長期のマイルストーンとして「DISCO VISION 2030」を策定し、定性・定量の両面で到達点を定義しています。定量的な重要業績指標としては、シリコンサイクルなどの景気変動の影響を的確に把握するため、以下の目標を維持する態勢の構築を掲げています。
・4年累計連結経常利益率20%以上
・4年累計RORA(Return On Risk Assets)20%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
製造拠点を戦略資産と位置づける独自の価値創出モデル「Fab Important戦略」を展開しています。開発と製造を自社内に同居させることで、顧客ごとの仕様変更や改善要望への迅速な対応と高速なPDCAサイクルを実現しています。これにより技術の積み上げを図り、中長期の競争優位性とサプライチェーンの強靭性を確保しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「企業の実態をつくるのは、そこで活動する人であり、企業の質を決定づけるのは人的資源の質である」と定義しています。従業員満足志向を重視したマネジメントを行い、働きがいや働きやすさの土台づくりに取り組んでいます。個人の意志でキャリアデザインを描ける制度を整備し、選択と自己責任によるキャリア形成を基本方針としています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 37.2歳 | 10.6年 | 18,795,641円 |
※平均年間給与は、賞与及び基準外賃金を含んでおります。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 7.4% |
| 男性育児休業取得率 | 97.6% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 57.0% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 63.3% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 58.4% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、ダイバーシティに関する社内教育受講率(100%)、従業員満足度調査における性別による差別がないという肯定回答率(98.8%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 半導体市場等の変動による影響
同社グループの製品は世界中の半導体・電子部品メーカーに販売されており、顧客の設備投資動向に影響を受けます。半導体市場特有のシリコンサイクル(需給変動)による設備の投資凍結や減産が発生した場合、同社の業績に悪影響を及ぼす可能性があります。これに対し、独自の管理会計や改善活動を通じた対応力強化を図っています。
■(2) 新技術の誕生による影響
主に半導体シリコンウェーハ加工用の切断・研削装置や精密ダイヤモンド砥石を製造・販売しています。今後、精密ダイヤモンド砥石に替わる新たな加工技術が誕生し、市場に普及した場合、同社の業績に影響を与える可能性があります。そのため、レーザやプラズマを用いた新技術の開発も進めています。
■(3) 災害等の発生による影響
東京都内に本社や研究開発拠点、広島県や長野県に生産拠点を構えています。これらの地域で大規模な自然災害や感染症の流行が発生した場合、製品の生産や本社機能に支障をきたす可能性があります。独自のBCM(事業継続マネジメント)体制を整備し、免震構造の採用等の対策を進めています。
■(4) 環境規制と情報セキュリティリスク
気候変動や化学物質等の環境規制の厳格化に伴い、対応コストの増加が財務状況に影響するリスクがあります。また、サイバー攻撃や情報漏洩が発生した場合には、業務停止や社会的信用の低下を招く恐れがあります。そのため、専門の委員会を設置し、環境負荷低減や情報資産の保護に努めています。



上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。