※本記事は、エンシュウ株式会社 の有価証券報告書(第156期、自 2023年4月1日 至 2024年3月31日、2024年6月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. エンシュウってどんな会社?
1920年創業の老舗機械メーカーで、工作機械と自動車部品加工の二本柱で事業を展開しています。
■(1) 会社概要
1920年に織機メーカーとして創業し、1937年に工作機械の製造を開始しました。1961年に東証一部へ上場し、1976年よりヤマハ発動機の受託生産を開始して事業を多角化しました。2022年の市場区分見直しを経て、2023年10月に東証プライム市場からスタンダード市場へ移行しています。
連結従業員数は988名、単体では684名です。筆頭株主は同社の取引先で構成される持株会で、第2位は主要な取引先であり、生産技術分野での人的交流もある輸送機器メーカーです。第3位には米国の証券会社が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| エンシュウ取引先持株会 | 16.14% |
| ヤマハ発動機 | 10.24% |
| INTERACTIVE BROKERS LLC | 3.46% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性5名、女性1名、計6名で構成され、女性役員比率は17.0%です。代表者は代表取締役会長 会長執行役員CEOの勝倉宏和氏と、代表取締役社長 社長執行役員COOの鈴木敦士氏です。社外取締役比率は50.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 勝倉 宏和 | 代表取締役会長会長執行役員CEO | 1983年日本興業銀行入行。みずほフィナンシャルグループ監査役室長等を経て2013年同社入社。管理本部長等を歴任し、2023年4月より現職。 |
| 鈴木 敦士 | 代表取締役社長社長執行役員COO | 1986年同社入社。工作機械事業部営業部長、工作機械・レーザー事業部長、営業・開発本部長等を歴任。2023年4月より現職。 |
社外取締役は、山地勝仁(元ヤマハ発動機取締役常務執行役員)、森和彦(浜松ホトニクス取締役上席執行役員)、村松奈緒美(石塚・村松法律事務所弁護士)です。
2. 事業内容
同社グループは、「工作機械関連事業」「部品加工関連事業」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 工作機械関連事業
マシニングセンタなどの工作機械の製造・販売に加え、システムインテグレーションサービスを提供しています。自動車部品加工用設備としての需要が多く、製造現場の自動化・省人化ニーズに対応した製品を展開しています。顧客は主に自動車関連メーカー等です。
収益は、顧客への製品販売による対価、および改造工事や保守サービス等の役務提供による対価から得ています。運営は主にエンシュウが行うほか、米国、タイ、中国、インド等の海外連結子会社が販売や製造サポートを担っています。
■(2) 部品加工関連事業
二輪車・四輪車等のエンジン部品や駆動部品の受託加工を行っています。主な顧客は関連当事者であるヤマハ発動機であり、長年にわたり同社の生産パートナーとしての役割を担っています。
収益は、受託加工製品を顧客へ納入し検収された時点で計上されます。運営は主にエンシュウが行っており、ベトナムの連結子会社ENSHU VIETNAM Co.,Ltd.でも二輪車エンジン部品の受託加工を行っています。
■(3) その他
報告セグメントに含まれない事業として、不動産賃貸事業を行っています。
静岡県内において保有する土地・建物等の不動産を賃貸し、賃貸料収入を得ています。運営はエンシュウが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は220億円から270億円の範囲で推移しています。利益面では変動が見られ、2023年3月期には原材料高騰等の影響で経常赤字となりましたが、2024年3月期には各種改善施策により黒字回復しています。利益率は低水準での推移が続いています。
| 項目 | 2020年3月期 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 271億円 | 221億円 | 239億円 | 248億円 | 241億円 |
| 経常利益 | 17億円 | 4億円 | 6億円 | -0.4億円 | 4億円 |
| 利益率(%) | 6.4% | 1.9% | 2.7% | -0.2% | 1.6% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 13億円 | -2億円 | -4億円 | -1億円 | 2億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の傾向を見ると、売上高は微減したものの、売上原価の低減により売上総利益が増加しました。販売費及び一般管理費は微減しており、結果として営業利益は大きく改善し、利益率はプラス圏へ回復しました。
| 項目 | 2023年3月期 | 2024年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 248億円 | 241億円 |
| 売上総利益 | 36億円 | 40億円 |
| 売上総利益率(%) | 14.4% | 16.6% |
| 営業利益 | 0.8億円 | 5億円 |
| 営業利益率(%) | 0.3% | 2.2% |
販売費及び一般管理費のうち、給料及び賞与が14億円(構成比40%)、運賃荷造費が2億円(同7%)を占めています。売上原価においては、材料費や外注費などが主な構成要素となります。
■(3) セグメント収益
工作機械関連事業は、中国市場の低迷等の影響で減収となり、営業損失が継続していますが、赤字幅は縮小しました。一方、部品加工関連事業は、EV関連部品の増産等により増収となり、価格転嫁や効率化も進んで大幅な増益を達成しました。
| 区分 | 売上(2023年3月期) | 売上(2024年3月期) | 利益(2023年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 工作機械関連事業 | 132億円 | 117億円 | -3億円 | -1億円 | -0.8% |
| 部品加工関連事業 | 116億円 | 123億円 | 4億円 | 6億円 | 4.8% |
| その他 | 0.7億円 | 0.7億円 | 0.5億円 | 0.5億円 | 70.0% |
| 調整額 | - | - | - | - | - |
| 連結(合計) | 248億円 | 241億円 | 0.8億円 | 5億円 | 2.2% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社グループは、設備投資資金や長期運転資金を自己資金及び金融機関からの長期借入で、短期運転資金を金融機関からの短期借入で調達する方針です。
営業活動によるキャッシュ・フローは、棚卸資産や売上債権の減少等により大幅に増加しました。投資活動によるキャッシュ・フローは、主に有形固定資産の取得により増加しました。財務活動によるキャッシュ・フローは、借入金の返済が収入を上回ったことにより支出となりました。
| 項目 | 2023年3月期 | 2024年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | -13億円 | 4億円 |
| 投資CF | -8億円 | -7億円 |
| 財務CF | -3億円 | -2億円 |
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は、「Make a New Enshu for the World's manufacturing」を新長期ビジョンとして掲げ、社員一人ひとりの挑戦を通じて、世界のモノづくりに貢献することを目指しています。また、経営の基本方針として、3つの事業(部品加工、工作機械、システムインテグレーター)のシナジー発揮に挑戦しています。
■(2) 企業文化
同社は「3つの挑戦」を行動指針として重視しています。具体的には、「社員一人一人が新しいモノづくりに挑戦する」「常により高いレベルの品質とコストに挑戦する」「3事業のシナジー発揮に挑戦する」ことを掲げ、新しいエンシュウを作り上げていく姿勢を推奨しています。
■(3) 経営計画・目標
同社は新中期経営計画「Make a New Enshu」において、売上高重視から利益額重視への転換を掲げています。最終年度となる2029年3月期に向けた財務目標を設定しており、2年で盤石な利益体質への転換を目指しています。
* 2027年3月期:全社売上高330億円、営業利益20億円(営業利益率6.1%)、ROE9%
* 2029年3月期:全社売上高380億円、営業利益29億円(営業利益率7.5%)、ROE12%
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は、部品加工事業の拡大強化と工作機械事業の新市場拡販を成長戦略の柱としています。部品加工ではEV部品や新領域での売上拡大を図り、工作機械ではEV化対応や他社との協業によるシェア拡大を進めます。また、自社工場の自動化・省人化を進め、そのノウハウをSier事業として外販するシナジー戦略を推進します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、持続的な成長のために多様な人材が活躍できる環境整備を推進しています。女性採用の強化やキャリアアップ支援、中途採用者の公平な評価と育成、外国人材の能力重視の採用を行っています。また、管理職強化や教育改革、エンゲージメント向上への人的資本投資を進めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2024年3月期 | 43.9歳 | 19.5年 | 5,322,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 1.2% |
| 男性育児休業取得率 | 57.1% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 65.2% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 68.8% |
| 男女賃金差異(非正規) | 67.5% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性採用比率(21.7%)、中途採用者の管理職登用状況(34.1%)、全社員における中途採用者の割合(30.7%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 市場動向によるリスク
工作機械事業は顧客の設備投資動向に敏感であり、特に主要顧客である自動車業界の影響を強く受けます。自動車業界のEV化や構造変化に伴い、内燃機関向け設備の需要減少などの市場変化が同社の業績に影響を与える可能性があります。
■(2) 特定取引先への依存のリスク
部品加工事業において、ヤマハ発動機への売上依存度が高く(直近で売上高全体の約4割)、同社の事業方針や生産動向がエンシュウグループの業績に強い影響を与える可能性があります。
■(3) 為替レートの変動によるリスク
海外売上高比率が約3割あり、米ドルやユーロ建ての取引もあるため、為替変動の影響を受けます。為替予約等で対策を行っていますが、大幅な変動があった場合には業績に影響を与える可能性があります。



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