※本記事は、日本精工株式会社 の有価証券報告書(第164期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. 日本精工ってどんな会社?
ベアリング(軸受)の国内最大手であり、世界でも有数のシェアを持つメーカーです。産業機械向けや自動車向けの軸受、精機製品等をグローバルに展開しています。
■(1) 会社概要
1916年、日本で初めて軸受の生産を開始する企業として設立されました。1962年には米国に販売拠点を設立し、以降、欧州、アジアなどグローバルに展開を進めています。2004年に委員会等設置会社(現指名委員会等設置会社)へ移行し、ガバナンス体制を強化しました。近年では、2021年に状態監視システム事業を取得し、2023年にはステアリング事業の再編を行っています。
連結従業員数は24,057名、単体では7,479名です。筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位も同様に信託銀行です。第3位は大手生命保険会社となっており、機関投資家や金融機関が主要株主を構成しています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) | 16.19% |
| 株式会社日本カストディ銀行(信託口) | 6.59% |
| 明治安田生命保険相互会社 | 5.56% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性12名、女性1名の計13名で構成され、女性役員比率は7.7%です。代表者は代表執行役社長CEOの市井 明俊氏です。社外取締役比率は38.5%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 市井 明俊 | 取締役 代表執行役社長CEO | 1986年入社。経営企画本部長、執行役常務などを経て、2021年4月より現職。 |
| 鈴木 啓太 | 取締役 代表執行役専務CFO | 1987年入社。財務本部長、執行役常務などを経て、2023年4月より現職。 |
| 野上 宰門 | 取締役 | 1984年入社。代表執行役副社長・CFOなどを経て、2023年6月より取締役会議長を務める。 |
| 山名 賢一 | 取締役 | 1986年入社。アセアン総支配人、執行役常務などを経て、2021年6月より現職。 |
社外取締役は、小原 好一(元前田建設工業代表取締役社長)、津田 純嗣(元安川電機代表取締役会長兼社長・指名委員会委員長)、泉本 小夜子(公認会計士・監査委員会委員長)、藤塚 主夫(元小松製作所代表取締役副社長)、林 信秀(元みずほ銀行取締役頭取・報酬委員会委員長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「産業機械」「自動車」および「その他」事業を展開しています。
■産業機械事業
一般産業向けの玉軸受、ころ軸受などの軸受製品や、ボールねじ、リニアガイドなどの精密機器関連製品、状態監視システム等を製造・販売しています。一般産業機械メーカーや半導体製造装置メーカーなどが主な顧客です。
収益は、これらの製品の販売代金として顧客から受け取ります。運営は、製造を主に日本精工、NSKマイクロプレシジョン、NSKベアリング・ポーランドなどが担い、販売を日本精工、NSKコーポレーション、NSK中国などが各地域で行っています。
■自動車事業
自動車および自動車部品メーカー向けに、ハブユニット軸受、ニードル軸受、電動化に対応した軸受やボールねじ、自動変速機用部品などを製造・販売しています。世界の主要な自動車メーカーが顧客となります。
収益は、自動車部品の販売代金として顧客から受け取ります。運営は、製造を日本精工、NSKワーナー、NSKベアリング・マニュファクチュアリング・メキシコなどが担い、販売をNSKコーポレーション、NSKベアリング・ヨーロッパなどが各地域で行っています。
■その他
上記の報告セグメントに含まれない事業として、鋼球の製造・販売や、機械設備の製造などを行っています。これらは主にグループ内への供給や特定の顧客向けに提供されています。
収益は、製品や設備の販売代金として受け取ります。運営は、主に天辻鋼球製作所が鋼球の製造・販売を、NSKマシナリーが機械設備の製造を担当しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近の業績は、売上高が8,000億円前後で推移しています。2023年3月期に一時的に利益率が高まりましたが、その後は原材料価格の高騰やインフレ等の影響を受け、利益率は3%台前半で推移しています。2025年3月期は前期比で増収増益となり、当期利益も増加傾向にあります。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益(または売上高) | 7,476億円 | 8,652億円 | 7,768億円 | 7,889億円 | 7,967億円 |
| 税引前利益 | 59億円 | 295億円 | 433億円 | 262億円 | 251億円 |
| 利益率(%) | 0.8% | 3.4% | 5.6% | 3.3% | 3.2% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 4億円 | 166億円 | 184億円 | 85億円 | 106億円 |
■(2) 損益計算書
2024年3月期と2025年3月期を比較すると、売上高は微増し、売上総利益も増加しています。売上総利益率は約21.7%で安定しています。営業利益は前期比で増加し、営業利益率も改善傾向にあります。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 7,889億円 | 7,967億円 |
| 売上総利益 | 1,652億円 | 1,728億円 |
| 売上総利益率(%) | 21.0% | 21.7% |
| 営業利益 | 274億円 | 285億円 |
| 営業利益率(%) | 3.5% | 3.6% |
販売費及び一般管理費のうち、人件費が633億円(構成比44%)、物流費が219億円(同15%)、研究開発費が122億円(同8%)を占めています。
■(3) セグメント収益
産業機械事業は、設備投資需要の緩やかな回復や為替の円安効果により増収となり、営業利益は大幅に増加しました。一方、自動車事業は、グローバルでの自動車生産台数の下振れ等が影響し減収減益となりました。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 産業機械 | 3,448億円 | 3,615億円 | 80億円 | 139億円 | 3.9% |
| 自動車 | 4,088億円 | 4,017億円 | 186億円 | 161億円 | 4.0% |
| その他 | 352億円 | 335億円 | 24億円 | 23億円 | 6.8% |
| 調整額 | △325億円 | △295億円 | △15億円 | △38億円 | - |
| 連結(合計) | 7,889億円 | 7,967億円 | 274億円 | 285億円 | 3.6% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 998億円 | 822億円 |
| 投資CF | △908億円 | △588億円 |
| 財務CF | △248億円 | △337億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は1.6%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は47.6%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「MOTION & CONTROL™を通じ、円滑で安全な社会に貢献し、地球環境の保全をめざすとともに、グローバルな活動によって、国を越えた人と人の結びつきを強めます。」という企業理念を掲げています。技術力で顧客に提案し、社会に貢献する企業を目指しています。
■(2) 企業文化
「安全・品質・環境・コンプライアンス」をコアバリューとして経営の意思決定や行動の最優先基準としています。また、社員一人ひとりの個性と可能性を尊重し、柔軟で活力のある企業風土で時代を先取りすること、地域に対する使命感を持って行動することを重視しています。
■(3) 経営計画・目標
2026年度までの中期経営計画において、「収益を伴う成長」「経営資源の強化」「ESG経営」を経営課題として掲げています。事業ポートフォリオの変革と資本効率性の追求、財務基盤の安定維持を目指しています。
* 営業利益率:8%
* ROE:8%
* ROIC:6%
* ネットD/Eレシオ:0.4倍以下
■(4) 成長戦略と重点施策
既存ビジネスを伸ばしつつ新たな領域を育てる「Bearings & Beyond」のもと、持続的成長可能な基盤確立を目指します。産業機械事業の拡大や自動車の電動化対応によるシェア維持、アフターマーケット事業の強化、新技術による新商品開発に取り組みます。また、デジタル活用によるモノづくりの変革や品質向上も推進します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「社員一人ひとりの個性と可能性を尊重する」を掲げ、多様な人材の活用、いきいきと働き続ける職場づくり、成長に資する機会と場の提供を推進しています。経営資源の強化として人的資本の価値最大化を目指し、多様な人材の登用、キャリア開発支援、デジタル人材育成等に取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 41.9歳 | 16.7年 | 7,640,178円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 2.9% |
| 男性育児休業取得率 | 103.7% |
| 男女間賃金差異(全労働者) | 73.2% |
| 男女間賃金差異(正規雇用) | 76.5% |
| 男女間賃金差異(非正規雇用) | 63.4% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、従業員における多様性比率(女性、キャリア採用、外国籍社員)(29%)、休業度数率(0.15)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 技術革新への対応遅れ
産業界における技術革新に伴う市場の変化や、顧客からの高度な技術要求に対して、開発対応が遅れるリスクがあります。同社は中長期方針に基づく開発計画の徹底や、オープンイノベーションの活用により対応を進めています。
■(2) 品質問題の発生
製品の重大な品質問題の発生や、品質データの不適切な取り扱いが発生するリスクがあります。これに対し、全社的なトレーサビリティシステムの導入や、品質監査活動の充実、教育の強化を通じて、問題発生の防止と影響の軽減に努めています。
■(3) コンプライアンス違反
法令や規制への対応遅れ、安全保障貿易管理上のリスク、グローバルな税務課題などがあります。グループ全体のコンプライアンス体制を通じた教育研修や情報共有、監査の実施により、法令遵守と公正な企業活動を徹底しています。



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