※本記事は、株式会社上組の有価証券報告書(第87期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 上組ってどんな会社?
港湾運送や倉庫保管をはじめとする総合物流サービスをグローバルに展開する企業です。
■(1) 会社概要
1867年に神戸港開港当時の運上所出入の貨物運搬を請負う神戸浜仲として創業しました。1873年に上組と改称し、1971年に東京証券取引所および大阪証券取引所へ上場しています。近年では海外展開を加速しており、2025年にはインドのSAURASHTRA FREIGHT PVT.LTD.を子会社化し、2026年には日本ポート産業を完全子会社化するなど、物流ネットワークの強化と事業拡大を推進しています。
現在の従業員数は、連結で4,389名、単体で3,633名となっています。筆頭株主は資産管理等の信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位は従業員の福利厚生等を目的とすると推測されるかみぐみ共栄会、第3位は日本カストディ銀行(信託口)といった金融機関や関連団体が上位を占めています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 13.68% |
| かみぐみ共栄会 | 7.47% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 5.10% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性8名、女性4名の計12名で構成され、女性役員比率は33.3%です。代表取締役社長は田原典人氏が務めています。また、取締役8名のうち、社外取締役は3名となっています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 深井 義博 | 代表取締役会長CEO取締役会議長 | 1977年同社入社。東京支店長、青果事業本部長、代表取締役社長等を経て、2026年より現職。 |
| 田原 典人 | 代表取締役社長社長執行役員COO | 1982年同社入社。名古屋支社長、国際物流事業本部統括等を経て、2026年より現職。 |
| 平松 宏一 | 代表取締役専務執行役員 | 1981年同社入社。鉄鋼支店・重量エネルギー輸送事業本部統括等を経て、2026年より現職。 |
| 長田 行弘 | 代表取締役専務執行役員 | 1979年同社入社。港運事業本部長、海外事業本部統括等を経て、2026年より現職。 |
| 椎野 和久 | 代表取締役専務執行役員 | 1981年同社入社。大阪支店長、名古屋支社長等を経て、2026年より現職。 |
社外取締役は、保坂收(元陸上自衛隊東北補給処長)、松村はるみ(ひろぎんホールディングス社外取締役)、柚木和代(元博多大丸代表取締役社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「物流事業」および「その他事業」を展開しています。
■物流事業
港湾荷役、コンテナターミナル運営、上屋保管等を行う港湾運送業をはじめ、倉庫業、貨物自動車運送業、国際複合一貫輸送などを提供しています。国内外の多様な顧客に対して、貨物の保管から入出庫、陸上・海上・航空輸送までを組み合わせた総合的な物流サービスを提供しています。
収益は、顧客からの運送運賃、荷役料、保管料などから得ています。事業の運営は、親会社である上組のほか、上組陸運、上組海運、日本ポート産業などの国内子会社や、海外拠点である上組(香港)有限公司、インドのSAURASHTRA FREIGHT PVT.LTD.などが担っています。
■その他事業
重量貨物・大型貨物の輸送や据付を行う重量建設機工事業のほか、不動産賃貸事業、酒類の製造販売、物品の販売・リース、金融業、太陽光発電事業などを多角的に展開しています。物流設備の設計・施工や工場設備機器の据付工事などの周辺需要に応えています。
収益は、請負工事の代金、不動産の賃貸収入、物品の販売代金やリース料などから得ています。事業の運営は、親会社である上組のほか、各種事業を展開するカミックスや、酒類を製造販売する岩川醸造などの子会社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績は、一時的な足踏みが見られた時期があるものの、全体として堅調な成長傾向にあります。売上高は緩やかに拡大しており、それに伴って経常利益および当期利益も順調に増加しています。特に利益率の向上が続いており、収益性の改善が継続していることがうかがえます。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 2,378億円 | 2,454億円 | 2,381億円 | 2,502億円 | 2,627億円 |
| 経常利益 | 309億円 | 351億円 | 342億円 | 367億円 | 407億円 |
| 利益率(%) | 13.0% | 14.3% | 14.4% | 14.7% | 15.5% |
| 当期利益 | 209億円 | 238億円 | 246億円 | 270億円 | 297億円 |
■(2) 損益計算書
売上高および各段階利益ともに前期を上回り、順調な拡大を示しています。売上高の増加に加えて、売上総利益率および営業利益率もともに改善しており、本業における稼ぐ力が着実に高まっていることが確認できます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 2,792億円 | 2,948億円 |
| 売上総利益 | 555億円 | 621億円 |
| 売上総利益率(%) | 19.9% | 21.1% |
| 営業利益 | 331億円 | 365億円 |
| 営業利益率(%) | 11.9% | 12.4% |
販売費及び一般管理費のうち、給料手当が143億円(構成比56%)と最も大きな割合を占め、次いで退職給付費用が5億円(同2%)となっています。また、営業原価においては、外注費が1,519億円(構成比73%)と大半を占め、次いで労務費が204億円(同10%)を占めています。
■(3) セグメント収益
物流事業は、港湾運送や倉庫、国内運送の取扱量が増加したことに加え、当期に海外子会社を新たに連結したことが寄与し、増収となっています。一方、その他事業については、重量貨物の運搬や据付案件が減少したことや、新車整備および燃料販売の取扱量減少により、減収となりました。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 物流事業 | 2,429億円 | 2,608億円 |
| その他事業 | 362億円 | 339億円 |
| 連結(合計) | 2,792億円 | 2,948億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業である健全型となっています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 404億円 | 357億円 |
| 投資CF | -75億円 | -606億円 |
| 財務CF | -179億円 | -16億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は8.0%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は73.5%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は、「物流を総合的にマネジメントできる企業として、国内外のハード、ソフトの増強、人材の育成に努め、グローバル企業としての価値を高めるとともに、企業の社会的責任(CSR)を果たし、企業価値の更なる向上を図る」ことを経営方針として掲げています。さらに、パーパスに基づき、長期ビジョン2035において「日本と世界で物流の未来をデザインする総合物流カンパニー」となることを目指しています。
■(2) 企業文化
同社は創業以来、「現場力」と「充実したアセット」を武器に、港湾領域で確固たるポジションを築き、社会を支えてきたという自負と価値観を持っています。事業継続性を確保するためにも、長期の視点で変革に取り組むことが不可欠との認識のもと、環境変化への備えとコンプライアンスを重視し、安全な労働環境の徹底など社会的責任を忠実に果たす企業文化の醸成に努めています。
■(3) 経営計画・目標
「長期ビジョン2035」の実現に向け、バックキャストの視点でロードマップを策定し、直近5年間の施策として「中期経営計画2030」を推進しています。本計画の最終年度となる2030年3月期の連結業績目標は以下の通りです。
・連結営業収益:3,500億円
・営業利益:380億円
・EBITDA:550億円
・ROE:8.0%
■(4) 成長戦略と重点施策
経営基盤・基盤事業を強化する構造改革を通じて成長事業への積極投資を進め、成長性と資本収益性の向上を図る方針です。「中期経営計画2030」では、以下の6つの基本方針を重点的な取り組みとして掲げています。
・国内基盤事業のシェア拡大・強靭化
・収益基盤としてのグローバル事業の確立
・新たな物流ニーズに対応した事業拡大
・ポートフォリオ経営を支える経営管理への移行
・全社最適な人材マネジメントの実践
・DXを通じた業務の効率化と提供価値の拡張・高度化
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
持続可能な成長を支えるポートフォリオ経営への変革に向け、「人材ポートフォリオ経営」と「全社最適の人材マネジメントへの転換」を基本方針としています。各現場の強みである部分最適を活かしつつ、グループ全体のシナジーを最大化する全社最適の視点を取り入れた人事制度を構築し、中長期的なスキルギャップの可視化や戦略的な外部採用、自律的なキャリア形成支援を推進しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 41.6歳 | 16.9年 | 7,038,681円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 1.7% |
| 男性育児休業取得率 | 53.2% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 63.1% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 66.6% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 61.1% |
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 輸出入貨物の取扱いによる影響
青果物や穀物など食料品の産地における天候不順による生産量の減少、新たな病原菌の発生による食材や飼料の輸入禁止措置、法律や規制の変更、社会的混乱などの要因により、貨物取扱量が減少し業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 環境規制強化への対応コスト
主要な事業の一つである自動車運送事業において、二酸化炭素や窒素酸化物、粒子状物質の排出量に関する広範囲な規制が課せられています。今後、これらの環境規制がさらに厳しくなることが予想され、新たに追加される規制に対応するための費用の支出を余儀なくされる可能性があります。
■(3) 固定資産および投資有価証券の減損
倉庫や土地等の事業用固定資産を多く保有しており、経営環境の変化で収益性が低下し投資額の回収が見込めなくなった場合、減損損失が発生する可能性があります。また、取引関係の維持等を目的とした投資有価証券についても、市場相場の下落や投資先の財政状態悪化により評価損を計上するリスクがあります。



上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。