※本記事は、日本金銭機械株式会社の有価証券報告書(第73期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 日本金銭機械ってどんな会社?
同社は金銭関連機器の製造・販売を主力事業とし、世界各国の貨幣の法的秩序を保つことに貢献するグローバル企業です。
■(1) 会社概要
1955年に金銭登録機の販売等を目的として設立され、1957年にメーカーへ転換して製造販売を開始しました。1969年には貨幣処理機器、1988年には遊技場向機器へと展開しています。1993年に大阪証券取引所市場第二部特別指定銘柄に株式を上場し、2004年に東京・大阪両証券取引所の市場第一部に指定されました。
従業員数は連結で572名、単体で271名です。筆頭株主は創業家関連の資産管理会社と見られる上東興産で、第2位は信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行、第3位は代表取締役社長の上東洋次郎氏となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 上東興産 | 17.19% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 10.46% |
| 上東洋次郎 | 5.41% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性1名の計10名で構成され、女性役員比率は10.0%です。代表取締役社長は上東洋次郎氏が務めています。社外取締役比率は40.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 上東洋次郎 | 代表取締役社長 | 1984年同社入社。香港子会社代表取締役社長等を経て1993年取締役就任。海外統轄本部長等としてグローバル展開を牽引し、2007年より現職。 |
| 高垣豪 | 代表取締役専務取締役上席執行役員経営企画本部長 | 筒中プラスチック工業を経て1997年同社入社。管理本部総務部長、人事総務企画本部長等を経て2013年取締役就任。2026年より現職。 |
| 井内良洋 | 常務取締役上席執行役員グローバル統轄本部長兼 営業管掌 | デンヨーを経て2004年同社入社。海外統轄部長等を経て香港子会社代表取締役等を歴任。2018年に取締役グローバル統轄本部長に就任し、2026年より現職。 |
| 中谷議人 | 常務取締役上席執行役員生産本部長 兼 生産管掌 | エルナーを経て1990年同社入社。SCM本部や技術本部の副本部長、中国子会社代表取締役、生産本部長等を経て2019年取締役就任。2026年より現職。 |
| 今井崇智 | 常務取締役上席執行役員JCM AMERICAN CORP.代表取締役兼 グローバル統轄本部副本部長兼 経営企画本部副本部長兼 グローバルファイナンス管掌 | 住友石炭鉱業を経て2001年同社入社。財務経理本部副本部長等を歴任し、米国子会社代表取締役を務める。2023年に取締役就任し、2026年より現職。 |
| 寺岡路正 | 取締役(常勤監査等委員) | 1980年同社入社。管理本部長や国内関連事業統轄部長等を歴任。2019年常勤監査役を経て2024年より現職。 |
社外取締役は、吉川興治(元神戸地方検察庁検事正)、猿渡辰彦(元TOTO代表取締役副社長)、佐藤陽子(公認会計士)、米倉裕樹(弁護士法人北浜法律事務所パートナー弁護士)です。
2. 事業内容
同社グループは、「グローバルゲーミング」「海外コマーシャル」「国内コマーシャル」「遊技場向機器」の事業を展開しています。
■グローバルゲーミング
カジノのゲーミングマシン等に搭載される紙幣識別機ユニットやプリンターユニット、現金回収業務自動化システムなどの製造・販売を行っています。世界のカジノホテル等のゲーミング市場が主要な顧客となります。
収益は顧客への製品販売や付加価値の高いシステム提案により得ています。製品の製造および販売は、同社のほか、米国や欧州、フィリピン等の海外子会社が連携してグローバルに展開しています。
■海外コマーシャル
海外の金融・流通・交通市場等のコマーシャル分野向けに、精算機等で使用される紙幣識別機ユニットや紙幣・硬貨還流ユニットなどを提供しています。北中南米や欧州地域の各種商業施設などが対象となります。
収益は対象機器や端末の販売等により獲得しています。製品の開発・製造は同社やフィリピン子会社等が担い、販売活動は欧州、米国、ブラジル等にある海外子会社を通じて行われています。
■国内コマーシャル
国内の流通・交通・医療市場等を対象に、スーパーマーケット向けの入出金機・釣銭機やクリニック向けの自動精算機、各種精算機用の紙幣・硬貨還流ユニットなどを提供しています。
収益は、機器本体の販売や保守サービス等から得ています。製品の製造・販売は同社が行うほか、国内子会社のJCMシステムズが製品の設置工事やサービスメンテナンスを担当して収益を支えています。
■遊技場向機器
パチンコ店などの遊技施設向けに、スマート遊技機専用ユニット、メダル自動補給システム、紙幣搬送システム等の各種周辺設備機器を開発・提供しています。
収益は、遊技場運営法人に対する機器やシステムの販売により獲得しています。国内の販売や保守サービスは同社およびJCMシステムズが担い、市場ニーズに合わせた製品展開を行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績は、パンデミック等の影響から回復基調にあり、2025年3月期までは大幅な増収増益を達成しました。2026年3月期は、新紙幣発行特需の反動等により減収および経常減益となったものの、固定資産売却による特別利益の計上などにより、最終利益は増益を確保しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 200億円 | 253億円 | 316億円 | 378億円 | 316億円 |
| 経常利益 | 14億円 | 13億円 | 36億円 | 47億円 | 35億円 |
| 利益率(%) | 6.9% | 5.0% | 11.3% | 12.4% | 11.2% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -1億円 | 18億円 | 33億円 | 38億円 | 47億円 |
■(2) 損益計算書
売上高の減少に伴い売上総利益も減少しましたが、原価コントロール等により売上総利益率は約40%台を維持しています。一方、販売費及び一般管理費が前年と同水準で推移したため、営業利益率は13.0%から7.9%へと低下しました。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 378億円 | 316億円 |
| 売上総利益 | 153億円 | 129億円 |
| 売上総利益率(%) | 40.6% | 40.8% |
| 営業利益 | 49億円 | 25億円 |
| 営業利益率(%) | 13.0% | 7.9% |
販売費及び一般管理費のうち、給与・賞与が40億円(構成比38%)、支払手数料が8億円(同8%)を占めています。
■(3) セグメント収益
グローバルゲーミングは北米での底堅い需要により増益となりました。一方で海外コマーシャルは欧州の景気減速の影響を受け減収、国内コマーシャルと遊技場向機器は新紙幣更新特需の反動により大幅な減収および営業赤字となりました。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| グローバルゲーミング | 215億円 | 215億円 | 44億円 | 50億円 | 23.4% |
| 海外コマーシャル | 57億円 | 47億円 | -6億円 | -3億円 | -5.8% |
| 国内コマーシャル | 38億円 | 21億円 | 11億円 | -0.9億円 | -4.1% |
| 遊技場向機器 | 68億円 | 33億円 | 14億円 | -7億円 | -20.3% |
| 連結(合計) | 378億円 | 316億円 | 49億円 | 25億円 | 7.9% |
同社は営業CFがプラス、投資CFがプラス、財務CFがマイナスの「改善型」の傾向を示しています。本業で稼いだ資金と資産売却等による収入を合わせ、借入の返済を進めている局面にあると言えます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 76億円 | 59億円 |
| 投資CF | -4億円 | 7億円 |
| 財務CF | -28億円 | -31億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は13.8%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は68.6%であり、いずれも市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「幸せを世界に弘める」というPurpose(パーパス)を掲げています。これは、モノづくりやサービスを通じて豊かで持続性のある社会を実現し、グローバルに貢献する企業を目指すという存在意義を示しています。また、変わりゆく世界のニーズに応え、新たな価値を創造し続けることをMissionとしています。
■(2) 企業文化
同社の企業文化は、創業者の想いである「仕事のはじめに、人間ありき」を根底に据えた「JCM Spirit」として定義されています。お互いを尊重し合い、個性を発揮しながら仕事を通じて成長し続けることを重視し、真に顧客やユーザーの視点に立ったモノづくりやサービスの提供を追求する風土が根付いています。
■(3) 経営計画・目標
同社は2029年3月期を最終年度とする中期経営計画「JCM Global Vision 2032~Next Growth Stage~」を策定しており、定量目標や主要な経営指標を定めています。
* 売上高:420億円
* 営業利益:41億円
* 親会社株主に帰属する当期純利益:29億円
* ROE:8%
■(4) 成長戦略と重点施策
既存事業の安定収益を基盤に、成長投資や事業ポートフォリオの変革を通じた企業価値の最大化を目指しています。グローバルゲーミング事業でシェアを維持・拡大しつつ、海外コマーシャル事業を次なる収益の柱として育成します。また、新たな事業領域の開拓や規律ある資本配分、人的資本の強化などを重点施策として推進します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、従業員一人ひとりが個性を発揮して成長し続けることが継続的な価値創造の基盤であると考え、ダイバーシティの拡充、中核人材の育成、多様な働き方の実現を人財戦略の中心に据えています。専門分野だけでなく経営視点で物事を考えられる人材を育成し、安心して業務に従事できる職場環境の構築を目指しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 43.1歳 | 15.8年 | 7,861,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 3.7% |
| 男性育児休業取得率 | 100.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 63.3% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 72.7% |
| 男女賃金差異(パート・有期) | 53.5% |
また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、採用に占める女性比率(26.7%)、正社員に占める女性従業員比率(17.7%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 経済状況の変動リスク
同社の主力製品であるゲーミング市場向けの紙幣識別機ユニットは、販売先の国や地域の経済状況の影響を強く受けます。紛争やテロ、自然災害等の要因により個人の消費マインドが低下し、カジノ等のゲーミング業界の景況感が悪化した場合、同社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 為替レートの変動リスク
同社は販売先が世界各国に及んでおり、全売上高に占める海外向けの比率が高くなっています。商流の最適化や為替予約取引によりリスク低減に努めていますが、為替レートの急激な変動は外貨建資産負債の期末評価などを含め、同社グループの業績や財政状態に影響を与える可能性があります。
■(3) キャッシュレス化の急速な進展
世界的にキャッシュレス化(電子取引化)が急速に進展しており、同社が主力とする貨幣処理機器への需要構造が変化しつつあります。多様化する代金決済手段の普及によって、想定を超えるスピードで紙幣・硬貨の使用頻度が低下した場合、適正な販売価格の維持や同社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(4) ゲーミング及び風営法等の法的規制
カジノ等のゲーミング業界や国内のパチンコホールなどの事業領域は、厳しい法規制の対象となっています。スロットマシン等に対する法規制の変更や、遊技機の新基準導入などの法改正が行われた場合、製品販売の制限や市場全体の縮小を招き、同社グループの業績および財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。



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