※本記事は、アルプスアルパイン株式会社の有価証券報告書(第93期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月18日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. アルプスアルパインってどんな会社?
同社は、スマートフォンや自動車向けの電子部品、車載情報機器などをグローバルに展開するメーカーです。
■(1) 会社概要
1948年に片岡電気として設立され、1964年にアルプス電気へ社名変更しました。2019年にアルパインを完全子会社化したことに伴い、現在のアルプスアルパインに社名変更しました。2020年にはアルパインの事業を吸収分割により承継し、車載向け事業や電子部品事業の統合と再編を推進してきました。
現在の従業員数は連結で25,924名、単体で6,305名体制です。大株主の構成を見ると、筆頭株主ならびに第3位株主は資産管理業務を行う信託銀行となっており、第2位には事業や投資等を行うエスグラントコーポレーションが名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 20.52% |
| エスグラントコーポレーション | 8.83% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 8.70% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性8名、女性3名の計11名で構成され、女性役員比率は27.3%です。代表取締役社長は泉英男氏が務め、社外取締役が取締役会の過半数を占めています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 泉英男 | 代表取締役社長 | 2018年に取締役車載新事業担当に就任。執行役員やデバイス事業担当などを経て、2023年に代表取締役社長CEO兼技術担当となり、2024年より現職。 |
| 小平哲 | 代表取締役専務執行役員 | 2019年に執行役員品質担当に就任。その後、管理担当CFO兼管理本部長などを経て、2023年に取締役専務執行役員となり、2024年より現職。 |
| 山上浩 | 取締役常務執行役員 | 2019年に執行役員コンポーネント事業担当に就任。資材担当や生産担当を経て、2024年に取締役常務執行役員品質担当兼生産担当に就任。2026年より現職。 |
| 小林淳二 | 取締役執行役員 | 2020年に執行役員経営企画担当に就任。その後、トランスフォーメーション担当などを経て、2024年に取締役執行役員最高経営戦略責任者に就任。2026年より現職。 |
| 笹尾泰夫 | 取締役(監査等委員) | 2010年に取締役に就任。技術本部長や常務執行役員技術担当などを歴任し、2021年に技術担当兼DX推進担当兼技術本部長に就任。2022年より現職。 |
社外取締役は、藤江直文(元アイシン副社長)、隠樹紀子(元三菱UFJモルガン・スタンレー証券マネージング・ディレクター)、伊達英文(元三菱ケミカルグループ最高財務責任者)、中矢一也(元パナソニックヘルスケア専務)、東葭葉子(元監査法人トーマツパートナー)、五味祐子(国広総合法律事務所パートナー)です。
2. 事業内容
同社グループは、「コンポーネント事業」「センサー・コミュニケーション事業」「モビリティ事業」および「その他」事業を展開しています。
■(1) コンポーネント事業
スマートフォン、自動車、コンシューマー機器等の市場向けに、スイッチ類、アクチュエーター、ハプティックリアクター(触覚デバイス)などの電子部品を製造・販売しています。豊富な品揃えと高い品質・生産力を強みに、市場での高シェア維持と競争力確保を図っています。
収益は、スマートフォンメーカーや自動車メーカーなどへの製品販売による代金から得ています。製品の引き渡し時点で収益を認識しています。事業の運営は主にアルプスアルパインが行うほか、中国や韓国などの海外子会社でも製造・販売体制を構築しています。
■(2) センサー・コミュニケーション事業
人や物を検知し位置を特定するセンサーや通信デバイスなどの電子部品を開発・製造・販売しています。自動車業界の電子化進展に伴うデジタルキーシステムや、スマートフォン向けの小型フォトプリンターなどの製品を通じ、人と機器をつなぐソリューションを提供しています。
収益は、自動車メーカーやモバイル関連企業などへの製品販売代金から得ており、製品の引き渡し時点で収益を認識しています。事業の運営は主にアルプスアルパインが担い、海外の各地域の子会社と連携しながらグローバル市場に向けた製品展開を行っています。
■(3) モビリティ事業
自動車メーカー向けに、車載モジュール、インフォテインメント(情報通信機器)、ディスプレイ、サウンドなどの製品を製造・販売しています。車室内空間の価値を高めるデジタルキャビンソリューションを中心に、高付加価値製品へのシフトを推進しています。
収益は、国内外の自動車メーカーへの製品販売代金のほか、カーナビの地図更新サービスなどの付随サービスから得ています。事業の運営は主にアルプスアルパインが行うほか、アルパインマーケティングや海外子会社が連携してグローバルな事業展開を担っています。
■(4) その他
報告セグメントに含まれない事業として、グループ内外に向けたシステムの開発や情報通信機器の販売、オフィスサービス、金融・リース事業、旅行業などを展開しています。各領域の専門性を活かし、事業活動のサポート機能を提供しています。
収益は、システムの提供期間にわたる利用料や、オフィスサービスおよびリース業務の提供対価から得ています。事業の運営は、アルプスシステムインテグレーションやアルプスビジネスクリエーション、アルプストラベルサービスなどの子会社がそれぞれ担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
過去5年間の業績を見ると、売上高は一貫して増加傾向にあり、順調に事業規模を拡大しています。一方、利益面では市場環境の変動や事業構造改革の費用計上などにより一時的に落ち込む時期もありましたが、直近では高付加価値製品へのシフトなどが奏功し、経常利益率も改善傾向にあります。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 8029億円 | 9331億円 | 9641億円 | 9904億円 | 10195億円 |
| 経常利益 | 403億円 | 349億円 | 248億円 | 305億円 | 491億円 |
| 利益率(%) | 5.0% | 3.7% | 2.6% | 3.1% | 4.8% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 230億円 | 115億円 | -298億円 | 378億円 | 269億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の傾向として、売上高の増加に伴い売上総利益および営業利益ともに増加しています。不採算製品の縮小やコスト適正化の取り組みが進み、売上総利益率および営業利益率がいずれも前年を上回るなど、収益体質の改善が確認できます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 9904億円 | 10195億円 |
| 売上総利益 | 1752億円 | 1819億円 |
| 売上総利益率(%) | 17.7% | 17.8% |
| 営業利益 | 341億円 | 420億円 |
| 営業利益率(%) | 3.4% | 4.1% |
販売費及び一般管理費のうち、給与手当及び賞与が444億円(構成比32%)、開発研究費が219億円(同16%)、支払手数料が174億円(同12%)を占めています。売上原価(当期8376億円)は、売上原価合計に対する構成比で82%となっています。
■(3) セグメント収益
セグメント別に見ると、モビリティ事業は新製品の販売増や不採算製品の縮小により大幅な増益を達成しました。コンポーネント事業も売上を伸ばしましたが、資材価格上昇の影響で利益は微減となりました。センサー・コミュニケーション事業は製品構成の端境期等により営業損失となっています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| コンポーネント事業 | 3480億円 | 3584億円 | 304億円 | 302億円 | 8.4% |
| センサー・コミュニケーション事業 | 842億円 | 853億円 | -34億円 | -35億円 | -4.1% |
| モビリティ事業 | 5372億円 | 5551億円 | 56億円 | 142億円 | 2.6% |
| その他 | 210億円 | 208億円 | 15億円 | 13億円 | 6.3% |
| 連結(合計) | 9904億円 | 10195億円 | 341億円 | 420億円 | 4.1% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 658億円 | 959億円 |
| 投資CF | -17億円 | -584億円 |
| 財務CF | -373億円 | -411億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は6.2%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は57.1%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は、「アルプスアルパインは人と地球に喜ばれる新たな価値を創造します」という企業理念を掲げています。この理念のもと、「感動・安全・環境」の価値提供を通じ、人の感性とものがシームレスにつながる世界で期待を超えるイノベーションを生み出し、持続可能な社会を実現することを目指しています。
■(2) 企業文化
創業期に制定された社訓をベースとした「価値の追究」「地球との調和」「社会への貢献」「個の尊重」「公正な経営」の5つの経営姿勢を、グループ共通の価値観として定めています。多様で自律した社員が企業理念に共感し、互いに信頼・連携しながら主体的に行動する風土の醸成に取り組んでいます。
■(3) 経営計画・目標
同社は、目指す将来像としてビジョン2035「人の感性に寄り添うテクノロジーで未来をつくる」を定めています。その実現に向けたマイルストーンとして、「中期経営計画2027」を推進しており、以下の数値目標を掲げています。
* 2027年3月期:PBR1倍以上
* 2028年3月期:ROE10%
■(4) 成長戦略と重点施策
中期経営計画において、モビリティ事業の収益改善を最重要テーマとし、デジタルキャビン領域を中心とした高付加価値製品へのシフトや不採算製品からの撤退を進めます。また、センサー領域を中心とする資本・人的投資の強化や、ロボティクス・ライフサイエンスなどの新規市場開拓を通じた次期主力事業の育成を図ります。さらに、国内生産拠点のコスト競争力向上に向けた機能再編や設備投資を推進し、持続可能な経営基盤の確立を目指します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
創業以来の「人に賭ける」という理念を継承し、人材を価値創造の源泉と位置づけた人的資本経営を推進しています。事業戦略の実行に必要な人材の確保と育成を通じて適所適材の配置を進めるとともに、従業員エンゲージメントの向上による労働生産性の改善を図り、個人の成長と組織の成果最大化の両立を目指しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 41.7歳 | 16.7年 | 6,914,318円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 3.9% |
| 男性育児休業取得率 | 25.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 66.3% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 65.5% |
| 男女賃金差異(パート・有期) | 66.0% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、エンゲージメントサーベイスコアの改善(+3.3pt)、高ストレス職場改善実施率(100%)、品質保証基本教育の受講率(100%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 特定の顧客への依存と需要変動
自動車メーカーやスマートフォンメーカーなどの特定顧客の生産・販売計画に業績が直接的な影響を受けます。電気自動車への移行遅延や市場の需要低下による生産調整、在庫過多などが発生した場合、収益に影響を及ぼす可能性があります。同社は顧客別戦略の推進や取引基盤の多角化を通じてリスクの分散と最適化を図っています。
■(2) 技術革新と製品の陳腐化
AIや次世代通信技術などの急速な技術進化に伴い、市場競争力を維持するための継続的な新製品開発が求められます。顧客ニーズへの対応が遅れ、製品やサービスが陳腐化して販売価格が下落した場合、業績に悪影響を及ぼすリスクがあります。同社は投資対効果を見極めた研究開発を通じて技術力の強化に努めています。
■(3) サプライチェーンの寸断と部材価格の高騰
重要部材の供給不足や地政学的要因による物流の混乱、原油・原材料価格の高騰が発生した場合、調達コストが上昇して利益率が圧迫される可能性があります。同社は重要部材の内製化を進めるとともに、代替調達先の確保や取引先とのパートナーシップ強化により、安定調達とコスト上昇の抑制に取り組んでいます。



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