※本記事は、アルプスアルパイン株式会社 の有価証券報告書(第92期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. アルプスアルパインってどんな会社?
電子部品等のハードウェア技術とソフトウェア技術を融合し、自動車やモバイル市場向けに製品を提供する企業です。
■(1) 会社概要
1948年に片岡電気として設立され、1964年にアルプス電気へ商号変更しました。1967年に米国モトローラ社との合弁で現在のアルパインとなる会社を設立し、車載機器分野へ進出しました。その後、両社は長らく独立して事業を行っていましたが、2019年に経営統合を実施し、現在のアルプスアルパインが誕生しました。
連結従業員数は27,287名、単体では6,429名です。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行で、第2位は同様に資産管理を行う日本カストディ銀行、第3位は株式会社エスグラントコーポレーションです。金融機関や機関投資家が上位株主を占める構成となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) | 19.88% |
| 株式会社日本カストディ銀行(信託口) | 8.75% |
| 株式会社エスグラントコーポレーション | 8.41% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性8名、女性3名の計11名で構成され、女性役員比率は27.3%です。代表取締役社長CEOは泉英男氏です。取締役11名のうち社外取締役は6名(監査等委員を含む)であり、過半数を占めています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 泉 英 男 | 代表取締役社長 | 2018年同社取締役、技術本部副本部長等を歴任。2023年代表取締役社長CEO兼技術担当に就任し、2024年6月より現職。 |
| 小 平 哲 | 代表取締役専務執行役員 | 2019年同社執行役員。品質担当、CFO兼管理本部長等を歴任。2024年6月より代表取締役専務執行役員COO兼CFOとして現職。 |
| 山 上 浩 | 取締役常務執行役員 | 2019年同社執行役員。コンポーネント事業担当、資材担当、生産担当等を経て、2025年4月より品質本部長兼生産本部長として現職。 |
| 小 林 淳 二 | 取締役執行役員 | 2020年同社執行役員。経営企画担当、データソリューションカンパニー長等を歴任。2025年4月より経営戦略本部長兼人事総務本部長として現職。 |
社外取締役は、藤江直文(元アイシン精機代表取締役副社長)、隠樹紀子(元モルガン・スタンレー証券MD)、伊達英文(元三菱ケミカルHD執行役常務CFO)、中矢一也(元パナソニックヘルスケア代表取締役専務)、東葭葉子(元監査法人トーマツパートナー)、五味祐子(国広法律事務所パートナー)です。
2. 事業内容
同社グループは、「コンポーネント事業」、「センサー・コミュニケーション事業」、「モジュール・システム事業」および「その他」事業を展開しています。
■コンポーネント事業
スイッチ類、アクチュエーター(作動装置)、ハプティック(触覚デバイス)などの電子部品を、主に車載市場、モバイル市場、民生機器市場の顧客に提供しています。スマートフォン向けカメラ用アクチュエーターやゲーム機向けデバイスなどで高いシェアを持っています。
収益は、これらの電子部品を自動車メーカーや電子機器メーカー等に販売することによる製品代金です。運営は、主にアルプスアルパインや海外の製造・販売子会社が行っています。
■センサー・コミュニケーション事業
各種センサーや通信デバイス等の開発・製造・販売を行っています。車載用や民生機器用のセンサー技術、および無線通信モジュールなどの技術を強みとし、IoT社会の進展に対応した製品を顧客に提供しています。
収益は、センサーや通信モジュール等の製品販売による代金です。運営は、主にアルプスアルパインおよび国内外の関係会社が行っています。なお、同事業に含まれていたパワーインダクター事業は2025年1月に譲渡されています。
■モジュール・システム事業
車載モジュール、カーナビゲーションやディスプレイオーディオなどのインフォテインメント機器、サウンドシステム等を自動車メーカーや一般消費者に提供しています。なお、同事業は2025年4月1日付で「モビリティ事業」に名称変更されています。
収益は、自動車メーカー向けのOEM製品販売や、市販市場における製品販売による代金です。また、一部の市販製品では地図更新などの付随サービスによる収益もあります。運営は、主にアルプスアルパイン、アルパインマーケティングなどのグループ会社が行っています。
■その他
システム開発、オフィスサービス、金融・リース事業、旅行業など、グループの事業活動を支援するサービスやソリューションを提供しています。
収益は、システム開発の受託料、オフィスサービスの利用料、リース料、旅行取扱手数料などです。運営は、アルプスシステムインテグレーション、アルプスビジネスクリエーション、アルプス・トラベル・サービスなどの子会社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は7,000億円台から9,000億円台後半へと拡大傾向にあります。利益面では第91期に赤字を計上しましたが、第92期には黒字回復を果たしています。利益率は低水準での推移が見られますが、直近では改善傾向にあります。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 7,180億円 | 8,029億円 | 9,331億円 | 9,641億円 | 9,904億円 |
| 経常利益 | 132億円 | 403億円 | 349億円 | 248億円 | 305億円 |
| 利益率(%) | 1.8% | 5.0% | 3.7% | 2.6% | 3.1% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -38億円 | 230億円 | 115億円 | -298億円 | 378億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の比較では、売上高が増加し、売上総利益率および営業利益率ともに改善しています。特に営業利益は大幅に増加しており、本業の収益性が向上していることがうかがえます。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 9,641億円 | 9,904億円 |
| 売上総利益 | 1,661億円 | 1,752億円 |
| 売上総利益率(%) | 17.2% | 17.7% |
| 営業利益 | 197億円 | 341億円 |
| 営業利益率(%) | 2.0% | 3.4% |
販売費及び一般管理費のうち、給与手当及び賞与が418億円(構成比30%)、開発研究費が243億円(同17%)、支払手数料が168億円(同12%)を占めています。
■(3) セグメント収益
当期はコンポーネント事業が円安効果や需要増により大幅な増収増益となり、全社の利益を牽引しました。モジュール・システム事業も黒字転換を果たしています。一方、センサー・コミュニケーション事業は開発費の増加等により営業損失となりました。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| コンポーネント事業 | 3,053億円 | 3,480億円 | 205億円 | 304億円 | 8.7% |
| センサー・コミュニケーション事業 | 841億円 | 842億円 | -15億円 | -34億円 | -4.0% |
| モジュール・システム事業 | 5,544億円 | 5,372億円 | -11億円 | 56億円 | 1.0% |
| その他 | 203億円 | 210億円 | 20億円 | 15億円 | 7.2% |
| 調整額 | - | - | -2億円 | -1億円 | - |
| 連結(合計) | 9,641億円 | 9,904億円 | 197億円 | 341億円 | 3.4% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
アルプスアルパインは、事業運営に必要な流動性と資金の源泉を安定的に確保することを基本方針としています。
営業活動によるキャッシュ・フローは、運転資金及び設備投資資金の調達の主な源泉となっています。投資活動においては、事業譲渡等を進めています。財務活動では、金融機関からの借入金により資金を調達しており、資金調達の多様化を図っています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 892億円 | 658億円 |
| 投資CF | -551億円 | -17億円 |
| 財務CF | -18億円 | -373億円 |
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、企業理念として「アルプスアルパインは人と地球に喜ばれる新たな価値を創造します」を掲げています。創業以来の精神をベースに、ESGやSDGsにも通じる価値観を持って、企業価値の最大化と持続可能な社会への貢献を目指して経営を行っています。
■(2) 企業文化
同社は、創業期に制定された社訓をベースとした5つの経営姿勢「価値の追究」「地球との調和」「社会への貢献」「個の尊重」「公正な経営」をグループ共通の価値観としています。これらを指針として各社が連携し、経営計画を推進しています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、2035年に向けた長期ビジョン「人の感性に寄り添うテクノロジーで未来をつくる」を策定し、その達成に向けて2025年4月から「中期経営計画2027」をスタートさせました。
* 2027年3月期:PBR1倍以上
* 2028年3月期:ROE10%
■(4) 成長戦略と重点施策
「中期経営計画2027」では、従来の売上成長主義から脱却し、資本コストを意識したROIC経営への転換を掲げています。高付加価値製品へのシフト、次世代事業の開拓、経営基盤の強化を重点施策としています。
* 高付加価値の追求:デジタルキャビンへのシフト、不採算製品の縮小、製品ラインアップの絞り込み。
* 次の事業の仕込み:コア技術を活かした新製品や、センサー領域を核とした市場開拓。
* 経営基盤の強化:生産拠点再編・国内強靭化、ソフトウェア開発の強化、人的投資など。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
創業以来の「人に賭ける」という考え方を継承し、「多様で自律した社員が企業理念に共感し、互いに信頼・連携しながら主体的に行動する」姿を目指しています。「人財ポートフォリオの充実」「価値創造人財の確保と育成」「個の能力を発揮できる風土醸成」を重点テーマとし、グローバルでの適材適所や、自律的なキャリア形成の支援に取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 41.9歳 | 17.3年 | 6,412,426円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 4.0% |
| 男性育児休業取得率 | 66.7% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 63.6% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 62.9% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 64.8% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、人財育成費(24,199円/人(単体))、エンゲージメントサーベイスコア(64.5pt(単体))などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 事業戦略リスク
ビジョン2035や中期経営計画2027は、策定時点の前提に基づくものであり、想定通りに進まない場合、目標達成が困難となる可能性があります。また、技術革新のスピードが速い市場において、顧客ニーズや新技術への対応が遅れた場合、競争力を失うリスクがあります。同社はROICに基づく投資判断や市場動向の把握に努め、対応を図っています。
■(2) 地政学・経済安全保障リスク
米中貿易摩擦やウクライナ情勢等の影響による原材料・エネルギー価格の高騰、サプライチェーンの混乱、急激な為替変動などが業績に悪影響を及ぼす可能性があります。特に関税引き上げ等の保護主義的な政策は懸念材料です。同社は情報収集を行い、サプライチェーンの見直しや価格転嫁等の対策を進めています。
■(3) 市場環境リスク
グローバルに事業展開しているため、各国の経済状況の変動による影響を受けます。景気後退や消費低迷、顧客の生産計画の変更などが売上減少につながる可能性があります。また、為替変動リスクに対してはデリバティブ取引等で対策を行っていますが、想定を超えた変動があった場合は業績に影響を与える可能性があります。



上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。