※本記事は、太陽誘電株式会社の有価証券報告書(第85期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 太陽誘電ってどんな会社?
コンデンサやインダクタなどの電子部品を製造・販売し、グローバルに事業を展開する企業です。
■(1) 会社概要
1950年に設立され、磁器コンデンサなどの生産を開始しました。1970年に東京証券取引所市場第二部に上場し、1973年には同市場第一部へ指定されました。早くから台湾、米国、欧州、アジア各地などに販売・製造拠点を設立してグローバル展開を進め、2022年には東京証券取引所プライム市場へ移行しました。
現在の従業員数は連結で20,604名、単体で2,803名となっています。大株主の構成をみると、筆頭株主ならびに第2位の株主は資産管理業務などを行う信託銀行であり、第3位には海外の金融機関が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 27.24% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 17.26% |
| STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 505301 | 3.36% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性6名、女性3名の計9名で構成され、女性役員比率は33.3%です。代表取締役社長執行役員は佐瀬克也氏が務めています。社外取締役比率は55.6%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 佐瀬克也 | 代表取締役社長執行役員 | 1986年4月同社入社。同社上席執行役員、常務執行役員、取締役専務執行役員などを経て、2023年6月より現職。 |
| 福田智光 | 取締役専務執行役員経営企画本部 本部長 | 1990年4月同社入社。同社上席執行役員、取締役上席執行役員、取締役常務執行役員などを経て、2025年6月より現職。 |
| 渡邊敏幸 | 取締役常務執行役員営業本部 本部長 | 1985年4月同社入社。TAIYO YUDEN (SINGAPORE) Presidentなどを歴任し、2025年6月より現職。 |
| 本多敏光 | 取締役(常勤監査等委員) | 1981年3月同社入社。TAIYO YUDEN (PHILIPPINES) Presidentや同社常務執行役員などを経て、2024年6月より現職。 |
社外取締役は、平岩正史(弁護士)、小池精一(元本田金属技術執行役員)、浜田恵美子(元名古屋工業大学教授)、藤田知美(弁護士)、角田朋子(公認会計士)です。
2. 事業内容
同社グループは、「電子部品」の単一セグメントで事業を展開しています。
■コンデンサ
主に積層セラミックコンデンサなどを開発・製造し、国内外のセットメーカーなどへ提供しています。小型、薄型、大容量化に加え、用途拡大が進む大型・高耐圧などの高信頼性積層セラミックコンデンサの開発に注力しており、自動車や情報インフラ・産業機器向けに販売を拡大しています。
国内外のセットメーカー等から製品の販売代金を受け取る収益モデルです。事業の運営は、太陽誘電が原材料や半製品を供給し、太陽誘電ケミカルテクノロジーや新潟太陽誘電などの製造会社が完成品に加工しています。製品の販売は、台湾太陽誘電や香港太陽誘電などの販売会社が国内外に向けて担っています。
■インダクタ
巻線インダクタや積層インダクタなどの各種インダクタを開発・製造し提供しています。小型、薄型、大電流対応品に加え、自動車および情報インフラ向けを中心とした大型、高信頼性品の材料開発やプロセス技術の高度化を通じて、競争力ある商品の展開を進めています。
主に国内外のセットメーカー等から製品の販売代金を受け取る収益モデルです。コンデンサと同様に、太陽誘電を中心としたグループ内の製造会社が製品を生産し、各地の販売会社を通じてグローバルな供給体制を構築しています。
■複合デバイスおよびその他
通信用デバイス(FBAR/SAW)や回路モジュール、アルミニウム電解コンデンサなどを提供しています。特に、自動車や情報インフラ向けの導電性高分子ハイブリッドアルミニウム電解コンデンサの商品開発や、社会課題解決に貢献するソリューションの創出にも注力しています。
国内外の顧客へ製品を供給し、販売代金を受け取る収益モデルです。太陽誘電モバイルテクノロジーやエルナーなどのグループ各社が開発・製造を行い、国内外の販売網を活用して製品を提供しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績を見ると、売上高は一時的な減少があったものの、総じて3,000億円台で堅調に推移しています。経常利益と利益率は増減を繰り返しており、特に前期にかけて落ち込みが見られましたが、当期は需要の回復や為替の影響などにより大幅な増益となり、収益性が改善しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 3,496億円 | 3,195億円 | 3,226億円 | 3,414億円 | 3,553億円 |
| 経常利益 | 722億円 | 348億円 | 138億円 | 105億円 | 241億円 |
| 利益率(%) | 20.6% | 10.9% | 4.3% | 3.1% | 6.8% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 415億円 | 155億円 | -24億円 | -2億円 | 36億円 |
■(2) 損益計算書
直近2年間の収益構造を比較すると、売上高の増加に伴い売上総利益と営業利益がともに拡大しています。売上総利益率は21.0%から23.1%へ上昇し、営業利益率も3.1%から5.6%へと改善しており、原価のコントロールや高付加価値製品の販売が利益に貢献していることがうかがえます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 3,414億円 | 3,553億円 |
| 売上総利益 | 716億円 | 819億円 |
| 売上総利益率(%) | 21.0% | 23.1% |
| 営業利益 | 105億円 | 200億円 |
| 営業利益率(%) | 3.1% | 5.6% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給料手当が152億円(構成比25%)、研究開発費が145億円(同23%)、運賃及び手数料が94億円(同15%)を占めています。また、売上原価の内訳を見ると、材料費が318億円(構成比50%)、経費が130億円(同20%)、労務費が117億円(同18%)となっています。
■(3) セグメント収益
製品区分別の売上動向を見ると、主力のコンデンサは自動車や情報インフラ向け需要の増加により好調に推移し、インダクタも増加しています。一方で、複合デバイスは通信用デバイスの減少などにより大幅な減収となり、その他も微減となりました。全体としてはコンデンサの伸びが牽引し、増収となっています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| コンデンサ | 2,321億円 | 2,518億円 |
| インダクタ | 615億円 | 643億円 |
| 複合デバイス | 230億円 | 148億円 |
| その他 | 248億円 | 245億円 |
| 連結(合計) | 3,414億円 | 3,553億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は4.5%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は56.0%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は、「おもしろ科学で より大きく より社会的に」をミッションに掲げ、独自技術を活かした電子部品の創出を通じて社会に貢献することを使命としています。また、経営理念として「従業員の幸福」「地域社会への貢献」「株主に対する配当責任」を定めており、すべてのステークホルダーから信頼され、感動を与えられるエクセレントカンパニーとなることを将来のビジョンとして目指して経営を行っています。
■(2) 企業文化
経済価値と社会価値を両輪として企業価値向上を図るという考え方をベースに、多様な人材が互いに強みを活かし合う組織の実現に取り組んでいます。従業員一人ひとりの能力や意欲が十分に発揮されている状態と、それを支える組織環境が整備されている状態の双方を包含する「HRウェルビーイング」の実現を重視して経営を行っています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、2030年度を最終年度とする「中期経営計画2030」を策定し、経済価値と社会価値の両輪による企業価値向上を目指しています。自動車や情報インフラ・産業機器などの注力市場における売上比率を60%に高めるほか、需要拡大に対応するため5年間で2,700億円規模の設備投資を計画しています。
* 注力すべき市場の売上比率:60%
■(4) 成長戦略と重点施策
自動車、情報インフラ・産業機器市場を注力市場と位置づけ、AI技術の発展に伴って高性能化が進むデータセンターなどに向けて、小型・大容量・高耐圧などの最先端で高信頼な商品の開発に注力しています。また、安定的な供給を実現するために国内外の生産能力を増強し、ものづくり力の向上やAIを活用した生産効率の改善を推進しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「従業員の幸福」を経営理念の一つに掲げ、人的資本を企業価値創出の源泉と位置づけています。「HRウェルビーイング」の実現を人事戦略の中核に据え、働きやすさと働きがいの双方を向上させる組織風土の醸成を推進しています。また、サクセッションマネジメントの推進や人材ポートフォリオに基づく育成・配置を行い、次世代リーダーなどの人材開発を加速させています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与は東京証券取引所プライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 41.5歳 | 16.4年 | 6,616,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 7.7% |
| 男性育児休業取得率 | 83.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 73.6% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 73.6% |
| 男女賃金差異(非正規) | 68.2% |
また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、新卒女性採用率(30.8%)、ワークエンゲージメント(2.28)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 短期的な需要変動と価格下落圧力
電子機器市場は競争が激しく技術の変化も早いため、商品のライフサイクルが非常に短くなっています。そのため、顧客の在庫や生産計画が大きく変動し、同社グループの受注に直接的な影響を及ぼす可能性があります。また、継続的な値下げ要請等によって電子部品の価格低下が起こるリスクがあります。
■(2) 特定の原材料サプライヤーへの依存
原材料の調達において複数購買化を推進し、安定調達に努めていますが、一部の原材料は特定のサプライヤーからの調達に依存しています。各国の情勢悪化や輸出入規制、需要拡大などによって供給不足や原材料価格の高騰が発生した場合、同社の業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(3) 未知の不具合による品質への影響
同社グループは最先端技術を応用した新製品を積極的に開発・投入していますが、開発技術には未知の分野も多く含まれます。そのため、ISO9001などの品質保証体制を確立しているものの、予期せぬ不具合が発生した場合には、同社グループの業績や社会的信用に影響を与えるリスクがあります。
■(4) 変化の激しい市場における研究開発の遅れ
素材技術からシステム技術まで積極的な研究開発投資を継続し、新製品の早期市場投入によって高いシェアと利益率の達成を目指しています。しかしながら、新製品を投入するタイミングが遅れたり、技術動向の変化に適応できなかったりした場合には、競争力が低下し業績に影響を及ぼす可能性があります。



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