日本電子 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

日本電子 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証プライム上場。世界トップクラスの電子顕微鏡技術を核に、理科学・計測機器、産業機器、医用機器を展開する。第78期連結業績は、産業機器事業の大幅な伸長や円安効果等により増収増益を達成した。新中期経営計画では半導体・ライフサイエンス分野を重点領域とし、更なる成長と収益性向上を目指す。


※本記事は、日本電子株式会社 の有価証券報告書(第78期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 日本電子ってどんな会社?


理科学・計測機器、産業機器、医用機器の製造販売を行う、世界的な精密機器メーカーです。

(1) 会社概要


1949年に日本電子光学研究所として設立され、電子顕微鏡の製造販売を開始しました。1962年に東証二部へ上場し、1966年には東証一部へ指定替えとなりました。2025年1月には、超電導技術を有するジャパンスーパーコンダクタテクノロジーの全株式を取得し連結子会社化するなど、技術基盤の強化を進めています。

同グループの従業員数は連結で3,604名、単体で2,315名です。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行で、第2位は日本カストディ銀行、第3位はニコンとなっています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 13.09%
日本カストディ銀行(信託口) 6.27%
ニコン 4.47%

(2) 経営陣


同社の役員は男性12名、女性1名の計13名で構成され、女性役員比率は7.7%です。代表取締役社長兼CEOは大井泉氏が務めています。社外取締役比率は33.3%です。

氏名 役職 主な経歴
大井泉 代表取締役社長兼CEO 1986年入社。経営戦略室長、取締役兼常務執行役員などを経て2019年代表取締役社長兼COO。2022年6月より現職。
田澤豊彦 取締役兼専務執行役員 1984年入社。開発・基盤技術センター担当、SA事業ユニット長などを歴任。2018年6月より現職。統括開発技術副担当。
矢口勝基 取締役兼専務執行役員 1982年入社。財務本部長、米国支配人などを経て2024年4月より現職。財務・IT・輸出貿易管理担当。
関敦司 取締役兼常務執行役員 1983年入社。総務本部長、業務監理室長などを経て2018年6月より現職。総務本部・人財本部副担当。
小林彰宏 取締役兼常務執行役員 1984年入社。欧州支配人、デマンド推進本部担当などを経て2022年6月より現職。SIサービス事業担当。
金山俊彦 取締役兼執行役員 1990年入社。財務本部長、欧州支配人などを経て2024年6月より現職。経営戦略室長。


社外取締役は、菅野隆二(元ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ社長)、寺島薫(元富士フイルム執行役員)、四方ゆかり(元グラクソ・スミスクライン人財担当取締役)です。

2. 事業内容


同社グループは、「理科学・計測機器事業」、「産業機器事業」、「医用機器事業」を展開しています。

(1) 理科学・計測機器事業


透過電子顕微鏡、走査電子顕微鏡、核磁気共鳴装置(NMR)、質量分析計などを製造販売しています。これらは、大学・官公庁の研究機関や民間企業の研究所における基礎研究、材料開発、品質管理などで使用されています。

収益は、これらの機器の販売代金および保守サービス料から得ています。運営は、主に日本電子(親会社)が行うほか、日本電子山形や海外の販売子会社などが担当しています。

(2) 産業機器事業


電子ビーム描画装置、電子ビーム金属3Dプリンター、プラズマ発生用高周波電源などを製造販売しています。主な顧客は半導体デバイスメーカーや電子部品メーカーなどで、生産ラインや開発現場で利用されています。

収益は、装置の販売および保守サービス料から得ています。運営は、日本電子(親会社)および日本電子インスツルメンツなどのグループ会社が行っています。

(3) 医用機器事業


自動分析装置、臨床検査情報処理システムなどを製造販売しています。これらは、病院や検査センターなどの医療機関で使用され、血液や尿などの検体検査に利用されています。

収益は、装置やシステムの販売および保守サービス料から得ています。運営は、主に日本電子(親会社)および日本電子山形などが行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上収益(または売上高) 1,104億円 1,384億円 1,627億円 1,743億円 1,967億円
経常利益 66億円 163億円 235億円 300億円 344億円
利益率(%) 5.9% 11.8% 14.4% 17.2% 17.5%
当期利益(親会社所有者帰属) 37億円 123億円 178億円 217億円 187億円


直近5期間において、売上高は一貫して増加傾向にあり、第78期(2025年3月期)には過去最高の1,967億円に達しました。経常利益も大幅な増益基調が続いており、利益率も5.9%から17.5%へと大きく改善しています。当期純利益については、第78期に投資有価証券評価損を計上した影響等で前期比減益となりましたが、高水準を維持しています。

(2) 損益計算書

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 1,743億円 1,967億円
売上総利益 793億円 924億円
売上総利益率(%) 45.5% 47.0%
営業利益 275億円 355億円
営業利益率(%) 15.8% 18.0%


販売費及び一般管理費のうち、給料手当が176億円(構成比31%)、研究開発費が120億円(同21%)を占めています。売上原価においては、製品原価等が大半を占めています。売上高の増加に伴い売上総利益率および営業利益率が改善しており、収益性の向上が見られます。

(3) セグメント収益


理科学・計測機器事業は電子顕微鏡を中心に堅調に推移しました。産業機器事業はスポットビーム型電子ビーム描画装置などが好調で、大幅な増収増益となりました。医用機器事業は国内が安定しているものの、海外市場の影響で横ばいとなりました。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期) 利益(2024年3月期) 利益(2025年3月期) 利益率
理科学・計測機器事業 1,200億円 1,248億円 168億円 150億円 12.0%
産業機器事業 390億円 565億円 162億円 263億円 46.6%
医用機器事業 153億円 154億円 5億円 7億円 4.3%
その他・調整額 - - -60億円 -65億円 -
連結(合計) 1,743億円 1,967億円 275億円 355億円 18.0%

(4) キャッシュ・フローと財務指標

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 153億円 231億円
投資CF -180億円 -9億円
財務CF -8億円 -171億円


同社は、本業で稼いだ資金(営業CFプラス)を使って借入金の返済(財務CFマイナス)を進めつつ、投資も手元資金の範囲内で行っている「健全型」のキャッシュ・フロー状態にあります。

企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は14.3%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は61.4%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は、「創造と開発」を基本とし、常に世界最高の技術に挑戦し、製品を通じて科学の進歩と社会の発展に貢献することを経営理念としています。また、長期ビジョンとして「ビジョン2035」を設定し、「最先端テクノロジーに挑戦するお客様とイノベーションを共創する、グローバルリーダーになる」ことを掲げています。

(2) 企業文化


同社は、従来の「YOKOGUSHI」戦略を進化させた「YOKOGUSHI 2.0」を通じて、分野別のソリューション提供基盤を強化する方針を持っています。これは、機器・機能、アプリケーション・サービス、共創の3軸の革新・拡張を通じて、高い付加価値を創出する取り組みです。また、「人・組織・社会」に力点をおき、顧客満足度や従業員エンゲージメントの向上、ガバナンス強化やゼロカーボンアクションを推進しています。

(3) 経営計画・目標


同社は中期経営計画「Evolving Growth 2.0 -A New Horizon-」において、2029年度を最終年度とする目標を設定しています。

* 売上高営業利益率:20%
* 自己資本当期純利益率(ROE):15%以上
* 投下資本利益率(ROIC):15%以上

(4) 成長戦略と重点施策


新中期経営計画では、高い市場成長性が見込まれ、かつ同社のニッチなテクノロジーが活用できる半導体・ライフサイエンス分野を重点領域に設定しています。製品ごとに市場へのアプローチ方法を変え、顧客の課題解決型ソリューションを創出し、イノベーションを提供できるグローバルリーダーを目指します。

具体的には、「YOKOGUSHI 2.0」による分野別ソリューションの強化、資本効率を重視した経営による収益性の向上、戦略的な投資と株主還元の両立を推進します。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は、新中期経営計画の実現に向け、長期目線での人材育成と、変化に対応するスピード・柔軟性の両立を目指しています。具体的には、管理職の役割を部下の成長支援へとシフトさせ、専門職への適切な権限委譲を進めます。また、公正な評価・報酬制度の改定やタレントマネジメントを通じて育成スピードを上げるとともに、社員のキャリア自律を促進し、ウェルビーイング経営(ダイバーシティ&インクルージョンやエンゲージメント向上)を推進します。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 44.5歳 16.6年 8,280,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 5.2%
男性育児休業取得率 55.9%
男女賃金差異(全労働者) 82.9%
男女賃金差異(正規雇用) 85.7%
男女賃金差異(非正規雇用) 98.0%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、離職率(1.6%)、博士号取得社員数(124名)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 金利変動のリスク


同社グループは、金利スワップ取引を利用して支払金利の変動リスクを回避していますが、有利子負債の一部は金利変動の影響を受けます。そのため、金利が上昇した場合、支払金利や調達コストが増加し、経営成績および財務状況等に悪影響を及ぼす可能性があります。

(2) 各セグメントのリスク


理科学・計測機器事業は、各国の官公庁の研究開発予算や民間企業の設備投資動向の影響を受けます。また、産業機器事業および医用機器事業は、市況の急激な変動による設備投資動向の影響を受けるため、これらの需要変動が経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

(3) 第4四半期偏重の売上構造


同社グループの売上高は、官公庁や民間企業の予算執行時期である3月に検収が集中するため、第4四半期の割合が高くなる傾向にあります。この季節変動を考慮して計画を策定していますが、検収作業の遅延などにより売上計上が翌期にずれ込んだ場合、経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

(4) 保有資産の価格変動リスク


同社グループは、取引関係維持などの目的で投資有価証券(非上場株式を含む)を保有しています。市場価格のあるものは相場変動により、非上場株式等は発行会社の純資産や事業計画等を勘案して減損処理を行う場合があるため、株価下落や投資先の業績悪化などが経営成績および財政状況に影響を及ぼす可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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