※本記事は、ヒロセ電機株式会社の有価証券報告書(第79期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. ヒロセ電機ってどんな会社?
電子機器等を接続する多極コネクタや同軸コネクタなど、高性能な電子部品の開発・製造・販売を手掛ける専業メーカーです。
■(1) 会社概要
1937年8月に広瀬商会として創立され、電気絶縁物および通信機部品の製造販売を開始しました。1948年には丸形・角形・同軸コネクタの生産を始め、1963年に現在のヒロセ電機に社名を変更しています。1984年11月の東京証券取引所市場第一部上場後も、国内外で生産・販売拠点を拡大し、2025年にはエス・イー・アールなどを連結子会社化して事業領域をさらに広げています。
同社グループの従業員数は連結で5,110名、単体で1,039名です。筆頭株主および第2位の株主は資産管理業務を行う信託銀行となっており、第3位には公益財団法人であるヒロセ財団が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 13.75% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 9.78% |
| 公益財団法人 ヒロセ財団 | 9.60% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性13名、女性2名の計15名で構成され、女性役員比率は13.0%です。
代表取締役社長は鎌形伸氏が務めています。社外取締役は7名です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 鎌形 伸 | 代表取締役社長 | 1990年NTTデータ通信入社。2002年ヒロセ電機入社。管理本部IT統括室長、管理本部長等を経て、2025年6月より代表取締役社長。東北ヒロセ電機、郡山ヒロセ電機などの代表取締役社長を兼任。 |
| 石井 和徳 | 取締役会長 | 1982年入社。技術本部副本部長、営業本部長、代表取締役社長等を歴任。東北ヒロセ電機などの代表取締役社長を経て、2025年6月より取締役会長。 |
| 小原 秀 | 取締役技術本部長 | 1989年入社。技術本部産機事業部事業部長、自動車事業部事業部長、技術本部副本部長等を歴任。2023年6月より取締役技術本部長。 |
| 佐藤 博志 | 取締役営業本部長 | 1993年三井物産入社、2001年キーエンス入社。2017年ヒロセ電機入社。営業本部海外事業部長を経て、2020年4月より営業本部長、2019年6月より取締役。 |
| 郡司 吉広 | 取締役製作本部長 | 1982年郡山ヒロセ電機入社。東北ヒロセ電機宮古工場長、製作本部副本部長等を歴任し、2024年6月より取締役製作本部長。 |
| 松永 光生 | 取締役管理本部長 | 1994年サンエス入社、1996年川澄化学工業入社。1999年ヒロセ電機入社。営業本部グローバルSCM部長等を経て、2025年6月より取締役管理本部長。 |
| 李 相燁 | 取締役 | 1984年韓国火薬入社。1989年ヒロセコリア入社。ヒロセコリア代表理事社長などを歴任し、2018年6月よりヒロセ電機取締役。 |
| 森 敬 | 取締役(監査等委員) | 1986年入社。経営革新推進室室長、社長室室長を経て、2025年6月より取締役(監査等委員)。 |
社外取締役は、元永徹司(イクティス代表取締役)、西松正記(元野村土地建物代表取締役社長)、坂田誠二(元リコーCTO)、各務洋子(駒澤大学教授)、三浦健太郎(ティー・ピー・エス研究所監査役)、髙嶋健司(髙嶋公認会計士事務所所長)、石田晴美(文教大学教授)です。
2. 事業内容
同社グループは、「多極コネクタ」「同軸コネクタ」および「その他」事業を展開しています。
■多極コネクタ
丸形コネクタ、角形コネクタ、プリント配線板用コネクタ等を提供しています。スマートフォンや通信機器などの情報通信分野をはじめ、FA機器、計測・制御機器、医療機器等の産業用機器分野や自動車分野まで、幅広い顧客層に製品が利用されています。
製品の販売を通じた収益を主な事業モデルとしています。事業の運営はヒロセ電機が中核となり、製造は東北ヒロセ電機、郡山ヒロセ電機、ヒロセコリア等が担い、販売は広瀬(中国)企業管理やヒロセエレクトリック(U.S.A.),INC.などが幅広く展開しています。
■同軸コネクタ
マイクロ波のような高周波信号を接続する特殊な高性能コネクタや光コネクタを提供しています。スマートフォンなどの無線LANやBluetooth通信のアンテナ接続、自動車のGPSアンテナ接続、さらに無線通信インフラや電子計測器向けに製品を展開しています。
各種コネクタ製品を顧客へ販売することで収益を得ています。製造の多くを一関ヒロセ電機、ヒロセコリアなどが担い、販売についてはヒロセエレクトリックヨーロッパB.V.、ヒロセエレクトリックシンガポールPte.Ltd.などがグローバルに対応しています。
■その他
上記コネクタ以外の電子部品として、半導体テスト製品やマイクロスイッチ、コネクタ用の治工具類などを提供しています。様々な機器の検査や制御に欠かせない製品を幅広くカバーしています。
製品販売による収益を柱としています。当該事業の運営はヒロセコリア、一関ヒロセ電機、盛岡ヒロセSERなどが製造を担い、販売はヒロセSERや廣瀬電機香港貿易などが担当しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上収益は直近5期間で増加傾向にあり、堅調な推移を示しています。税引前利益や当期利益も高水準を維持しており、安定した収益確保と事業の継続的な成長が伺えます。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 1637億円 | 1832億円 | 1655億円 | 1894億円 | 2113億円 |
| 税引前利益 | 431億円 | 486億円 | 388億円 | 462億円 | 466億円 |
| 利益率(%) | 26.3% | 26.5% | 23.4% | 24.4% | 22.1% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 314億円 | 346億円 | 265億円 | 330億円 | 331億円 |
■(2) 損益計算書
売上収益は前年比で成長しており、営業利益も小幅ながら増加しました。売上総利益率および営業利益率は前年からわずかに低下したものの、依然として20%超の極めて高い水準を維持しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1894億円 | 2113億円 |
| 売上総利益 | 398億円 | 437億円 |
| 売上総利益率(%) | 21.0% | 20.7% |
| 営業利益 | 427億円 | 430億円 |
| 営業利益率(%) | 22.5% | 20.4% |
販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が90億円(構成比20%)、給与及び賞与手当が48億円(同11%)を占めています。また、売上原価は1,223億円で、売上収益の58%を構成しています。
■(3) セグメント収益
主力である多極コネクタ事業は売上成長を果たしたものの、増益には至りませんでした。一方、同軸コネクタ事業は売上と利益の双方で大幅な伸びを示し、その他事業も黒字転換するなど全体の業績を牽引しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 多極コネクタ | 1708億円 | 1858億円 | 394億円 | 368億円 | 19.8% |
| 同軸コネクタ | 137億円 | 183億円 | 34億円 | 59億円 | 32.0% |
| その他 | 49億円 | 71億円 | -1億円 | 4億円 | 4.9% |
| 連結(合計) | 1894億円 | 2113億円 | 427億円 | 430億円 | 20.4% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業と言えます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 557億円 | 459億円 |
| 投資CF | -429億円 | -92億円 |
| 財務CF | -167億円 | -379億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は8.9%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は80.2%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「英知をつなげる小さな会社」という企業理念に基づき、人々の英知の結集である製品を「つなぐ」コネクタの専業メーカーとして、持続可能な社会の実現に貢献するとともに継続的な成長を目指しています。
■(2) 企業文化
同社は企業理念を土台とし、これまで培ってきた価値観を「HIROSE Philosophy」として整理・体系化しています。これを企業文化としてグローバルで共有・実践することで、人づくりの基盤とし、さらなる成長の原動力と位置づけています。
■(3) 経営計画・目標
中期経営目標として、高収益体制を維持しつつ企業価値の増大に取り組み、中長期的に資本の効率性を追求し、株主資本配当率(DOE)5%を目標に掲げています。
* 2029年度連結売上収益:2,900億円
* 営業利益率:23%以上
* ROE:12%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
市場開拓においては、自動車分野、産業用機器分野、スマートフォンを含む民生用機器分野を重点的に進めます。また、さらなる飛躍を目指すため、人財投資、ESG投資、IT投資の3つの領域において基盤強化に取り組み、高収益体制の維持と中長期的な売上成長を両立させます。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
多様な価値観を有する人財が能力を最大限発揮できる環境が競争力の源泉であるとの認識のもと、属性にとらわれない採用を推進しています。また、次世代リーダーの計画的な育成や、部署をまたぐ異動による組織の活性化を通じて、挑戦的な業務に取り組める環境整備を図っています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 40.7歳 | 13.1年 | 8,474,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 1.9% |
| 男性育児休業取得率 | 64.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 52.6% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 54.2% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 33.5% |
また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性の平均勤続年数(9.51年)、2024年度新規入社者における女性の割合(24.1%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) スマートフォン市場への依存
同社の主たる事業領域である電子部品事業は、スマートフォン市場への依存度が比較的高く、市場動向により業績が影響を受ける可能性があります。そのため、新技術を有した製品を提案するとともに、他アプリケーションへの展開を進めています。
■(2) 大口顧客グループからの受注動向
特定の大口顧客グループの受注量に売上が影響を受ける可能性があります。同社グループは、積極的に新技術を有した製品を提案することで顧客の信頼獲得に努め、リスクの軽減を図っています。
■(3) 製品需要の変動と在庫リスク
エレクトロニクス製品に使用されるコネクタは需要変動が大きく、実態との乖離による在庫リスクや、納期遅延・販売機会の喪失リスクがあります。これに対し、情報交換の強化や一部製品の受注生産により対応しています。
■(4) 組立外注および部品・材料供給先のリスク
生産の一部を複数の外部協力会社に委託していますが、委託生産が困難になったり、部品・材料の供給が滞った場合、生産量の減少やコストアップにつながり、事業活動に支障をきたす可能性があります。



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