※本記事は、株式会社朝日ネット の有価証券報告書(第35期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 朝日ネットってどんな会社?
インターネット接続サービス「ASAHIネット」や教育支援サービス「manaba」を提供する独立系通信事業者です。
■(1) 会社概要
同社は1990年に設立され、2000年にMBOにより独立系通信事業者となりました。2006年に東証二部へ上場し、翌2007年には東証一部へ指定替えを行っています。同年に教育支援サービス「manaba」を開発し、事業領域を拡大しました。2022年の市場区分再編に伴い、現在は東証プライム市場に上場しています。
現在、連結子会社はなく単体での事業運営を行っており、従業員数は214名です。筆頭株主は信託銀行ですが、第2位株主には設立母体であり業務提携関係にある朝日新聞社が名を連ねています。また、第3位には個人大株主が入っており、安定的な株主構成となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) | 11.49% |
| 朝日新聞社 | 8.26% |
| 杉山 裕一 | 7.58% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性6名、女性1名の計7名で構成され、女性役員比率は14.3%です。代表取締役 社長執行役員は土方次郎氏が務めています。社外取締役比率は42.9%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 土方 次郎 | 代表取締役社長執行役員 | 朝日新聞社を経て同社入社。一度退任し東日本電信電話(NTT東日本)に入社後、再度同社に戻り取締役副社長を経て、2013年より現職。 |
| 溝上 聡司 | 取締役上席執行役員 | 日本電信電話(NTT)を経て同社に入社。取締役執行役員などを歴任し、2022年より現職。 |
| 小松 大 | 取締役上席執行役員 | オプトを経て同社に入社。執行役員事業開発室担当などを経て、2024年より現職。 |
| 本田 徹 | 取締役(常勤監査等委員) | トランスコスモスを経て同社に入社。内部監査室長などを歴任し、2024年より現職。 |
社外取締役は、八尾紀子(弁護士)、古賀哲夫(元東日本電信電話副社長)、樋口一磨(弁護士)です。
2. 事業内容
同社グループは、「ISP事業」および「その他」事業を展開しています。
■(1) インターネット接続サービス
個人・法人向けにインターネット接続環境を提供するサービスです。光ファイバー(FTTH)を利用した「AsahiNet 光」や「フレッツ光」対応コース、モバイル通信サービスなどを展開しています。また、通信事業者向けにIPv6接続サービスをローミング提供するVNE事業「v6 コネクト」も手がけています。
収益は主に、会員からの月額接続利用料や、提携事業者(VNO)からの通信量に応じた利用料から得ています。運営は同社が行っています。高品質な通信環境を維持しつつ、顧客満足度の高いサービス提供に注力しており、第三者機関による調査でも高い評価を得ています。
■(2) インターネット関連サービス
インターネット接続に付随するメール、セキュリティ等の付加価値サービスや、教育機関向けのクラウド型教育支援サービス「manaba」を提供しています。「manaba」は大学等の授業支援やポートフォリオ機能を備え、教育の質保証やDX化を支援するプラットフォームです。
収益は、付加価値サービスの月額利用料や、「manaba」の契約ID数に応じたライセンス料等から構成されています。運営は同社が行っています。「manaba」は多くの大学で全学導入されており、学修ログの活用や外部システム連携など、機能強化を進めています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績は堅調に推移しています。売上高は114億円から131億円へと着実に増加しており、経常利益も18億円前後から24億円へと拡大基調にあります。利益率も15%〜18%と高い水準を維持しており、安定した収益基盤と効率的な経営が継続されていることが読み取れます。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 114億円 | 116億円 | 122億円 | 122億円 | 131億円 |
| 経常利益 | 18億円 | 18億円 | 18億円 | 20億円 | 24億円 |
| 利益率(%) | 15.7% | 15.9% | 15.2% | 16.3% | 18.1% |
| 当期純利益 | 13億円 | 13億円 | 13億円 | 13億円 | 18億円 |
■(2) 損益計算書
売上高の増加に伴い、売上総利益および営業利益が増加しています。特に営業利益率は16.1%から17.9%へと上昇しており、収益性が向上しています。売上原価や販管費のコントロールが適切に行われ、増収効果が利益拡大に直結している様子がうかがえます。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 122億円 | 131億円 |
| 売上総利益 | 38億円 | 44億円 |
| 売上総利益率(%) | 31.1% | 33.9% |
| 営業利益 | 20億円 | 23億円 |
| 営業利益率(%) | 16.1% | 17.9% |
販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が4.5億円(構成比21.4%)、業務委託費が2.8億円(同13.5%)を占めています。また、売上原価においては、通信回線使用料が49億円(構成比56.6%)と過半を占めており、次いで減価償却費が10億円(同11.1%)となっています。
■(3) セグメント収益
インターネット接続サービスは、FTTH接続契約数の増加やVNE「v6 コネクト」の通信量増加により増収となりました。一方、インターネット関連サービスは、「manaba」の全学導入校数が減少したことなどにより減収となりました。全体としては接続サービスの好調が業績を牽引しています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) |
|---|---|---|
| インターネット接続サービス | 108億円 | 117億円 |
| インターネット関連サービス | 14億円 | 13億円 |
| 合計 | 122億円 | 131億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社は、本業の営業活動で稼いだ資金で借入返済や自己株式取得を行いつつ、投資も手元資金で賄っている健全型企業です。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 25億円 | 25億円 |
| 投資CF | -18億円 | -6億円 |
| 財務CF | -8億円 | -12億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は13.7%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は88.5%で市場平均を大幅に上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「交流と創造」を企業理念に掲げ、情報技術を活用して人と人との交流の価値を高め、社会の発展に貢献することを使命としています。社会基盤として重要な役割を担う先進的で高品質なインターネット接続サービスを適切な価格で安定的に提供することを経営の基本方針としています。
■(2) 企業文化
人々の生活や事業活動を支えるインフラ事業の担い手として、常に社会にとっての善とは何かを考えながら事業を展開する文化があります。健全な企業活動を通じて事業リスクを最小化すると共に、持続可能な企業価値の向上および社会の発展への貢献を目指しています。また、法令遵守や企業倫理の徹底も重視しています。
■(3) 経営計画・目標
健全な財務基盤の維持と株主還元の充実を目指し、ROE(自己資本利益率)および1株当たり純利益を重要な経営指標としています。また、ISP事業では接続契約数や平均退会率、顧客満足度を、教育支援事業では契約ID数や導入校数を重視しています。
* 2026年3月期 売上高:135億円
* 2026年3月期 営業利益:23.5億円
* 投資家が期待する利回りを上回るROE10%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
「ASAHIネット」では、光コラボや10Gbps対応サービスの販売強化、Webチャネルでの集客、法人会員向け固定IPサービスの拡充に注力します。「v6 コネクト」では提携事業者との協業維持と新規開拓を進めます。「manaba」では、LTI対応や学修ログ分析、アクティブラーニング支援機能の開発により、利用拡大と退会抑止を図ります。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
性別、国籍、障がいの有無などに関わらず、すべての従業員の価値観が尊重され、能力を発揮できる職場環境の提供を目指しています。長く安心して働き続けられ、向上心を持って仕事に取り組める環境整備、ダイバーシティ・ワークライフバランスの推進、労働安全衛生の向上に取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 40.2歳 | 9.2年 | 5,243,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 8.4% |
| 男性育児休業取得率 | - |
| 男女賃金差異(全労働者) | - |
| 男女賃金差異(正規雇用) | - |
| 男女賃金差異(非正規) | - |
※男性労働者の育児休業取得率及び労働者の男女の賃金の差異については、公表義務の対象ではないため、有報には本項の記載がありません。
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、有給休暇の取得率(82.0%)、一月当たりの労働者の平均残業時間(13.5時間)、女性社員比率(50.1%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 事業環境の変化について
FTTH市場の成熟や競争激化により、会員獲得が計画通り進まない場合、契約数の伸びが鈍化する可能性があります。また、インターネット関連サービスの事業化や収益拡大が、想定外の環境変化やユーザー獲得の不振により遅れるリスクもあります。
■(2) 競合について
通信キャリアなど、資本力や知名度で勝る大手事業者が主な競合となります。競合他社の営業方針や価格競争の激化により、同社のシェアや収益性が低下し、業績や財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(3) 収益構造について
新規会員獲得に伴う先行費用や販売報奨金の支払いが一時的に収益を圧迫する可能性があります。また、動画配信等によるトラフィックの急増は、バックボーン回線費用の増加を招き、利益を圧迫する要因となります。通信原価の変動は業績に大きな影響を与えます。



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