※本記事は、株式会社朝日ネットの有価証券報告書(第36期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月19日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 朝日ネットってどんな会社?
インターネット接続サービスや教育支援サービスを主力とし、社会基盤を支える企業です。
■(1) 会社概要
1990年4月、朝日新聞社とトランスコスモス等の出資により設立され、1994年6月にインターネット接続サービスを開始しました。2006年12月に東京証券取引所市場第二部へ上場し、2007年12月には同市場第一部銘柄に指定されています。2007年には自社開発の教育支援サービスを開始しました。
現在の従業員数は単体で220名です。筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位は事業会社である朝日新聞社、第3位は投資組合となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 9.95% |
| 朝日新聞社 | 8.56% |
| 光通信KK投資事業有限責任組合 | 7.74% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性6名、女性2名の計8名で構成され、女性役員比率は25.0%です。代表取締役社長執行役員は小松大氏が務めています。社外取締役の比率は50.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 小松大 | 代表取締役社長執行役員 | 2004年オプト入社。2009年同社に入社し、事業開発室担当などの執行役員を経て、2026年より現職。 |
| 土方次郎 | 取締役 | 1993年朝日新聞社入社。エースネット取締役を経て、同社代表取締役社長を歴任。2026年より現職。 |
| 溝上聡司 | 取締役上席執行役員 | 1985年日本電信電話入社。1996年同社に入社し、2006年に取締役就任。2022年より現職。 |
| 本田徹 | 取締役(常勤監査等委員) | 1991年トランスコスモス入社。2002年同社に入社し、内部監査室室長などを経て、2024年より現職。 |
社外取締役は、井上福造(元東日本電信電話社長)、八尾紀子(TMI総合法律事務所パートナー)、樋口一磨(弁護士法人樋口国際法律事務所代表弁護士)、宮石知子(公認会計士宮石知子事務所代表)です。
2. 事業内容
同社グループは、ISP事業の単一セグメントで「インターネット接続サービス」および「インターネット関連サービス」を展開しています。
■(1) インターネット接続サービス
全国規模の通信網を構築し、個人および法人顧客にインターネット接続環境を提供しています。光回線やモバイル回線など多彩な接続サービスに加え、通信機器の提供やサポート窓口の運営も行い、安定した通信環境を実現しています。
顧客から月額利用料などの通信サービス対価を受け取る収益モデルです。運営は朝日ネットが単独で行い、提携先の電気通信事業者から提供されるアクセス回線と自社のバックボーン回線を組み合わせてサービスを提供しています。
■(2) インターネット関連サービス
インターネット接続を基盤としたメール、セキュリティ、独自ドメインなどの付加価値サービスのほか、クラウド型教育支援サービス「manaba」を大学などの教育機関向けに開発・提供しています。
サービスの利用者や教育機関から利用料などの対価を受け取る収益モデルです。教育支援サービスでは契約ID数に応じた課金体系を採用しており、運営は朝日ネットが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績を見ると、売上高は右肩上がりで順調に推移し、継続的な成長を実現しています。経常利益も前年度まで増加傾向にありましたが、当期はシステム更改や原価高騰などの影響により減益となりました。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 116億円 | 122億円 | 122億円 | 131億円 | 135億円 |
| 経常利益 | 18億円 | 18億円 | 20億円 | 24億円 | 18億円 |
| 利益率(%) | 15.9% | 15.2% | 16.3% | 18.1% | 13.5% |
| 当期純利益 | 13億円 | 13億円 | 13億円 | 18億円 | 13億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は増加したものの、売上原価の増加幅が大きく、売上総利益および営業利益は前年度を下回る結果となりました。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 131億円 | 135億円 |
| 売上総利益 | 44億円 | 41億円 |
| 売上総利益率(%) | 33.9% | 30.4% |
| 営業利益 | 23億円 | 18億円 |
| 営業利益率(%) | 17.9% | 13.3% |
販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が5億円(構成比20.7%)、業務委託費が3億円(同13.5%)を占めています。売上原価では、通信回線使用料が50億円(構成比52.7%)、減価償却費が13億円(同13.3%)を占めています。
■(3) セグメント収益
主力であるISP事業において、通信量の増加に伴う提携事業者との取引拡大や、光接続サービスの会員獲得強化が奏功し、売上高全体を牽引しました。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| インターネット接続サービス | 117億円 | 122億円 |
| インターネット関連サービス | 13億円 | 13億円 |
| 連結(合計) | 131億円 | 135億円 |
営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 25億円 | 19億円 |
| 投資CF | -6億円 | -22億円 |
| 財務CF | -12億円 | -14億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は9.9%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は90.3%であり、いずれも市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「交流と創造」という企業理念のもと、情報技術を活用して人と人との交流の価値を高め、社会の発展に貢献することを使命としています。社会基盤として重要な役割を担う先進的で高品質なインターネット接続サービスを適切な価格で安定的に提供し、教育の質を高めるインフラとしての価値向上を目指しています。
■(2) 企業文化
同社は、特定の個人に依存することなく、組織全体の標準スキルを底上げすることで組織の総和を最大化することを重視しています。ストックビジネスの安定性に甘んじず、時代の変化に合わせて自らの能力を謙虚に向上し続け、周囲を鼓舞・率先し、イノベーションを起こすことのできる人材を理想とする組織文化です。
■(3) 経営計画・目標
健全な財務基盤の維持を重要視し、ROEおよび1株当たり純利益を収益性の主要な指標として設定しています。投資家が期待する利回りを上回るROE10%以上の達成を目標とし、継続的な成長による株主還元の充実を図ることを経営方針に掲げています。会員制ビジネスの特性から、接続契約数や平均退会率も重要視しています。
■(4) 成長戦略と重点施策
「ISP」「VNE」「manaba」の3事業を中核に据えた成長戦略を加速させ、既存事業の連続性と市場ニーズを重視しながら周辺領域への展開も進めます。ISPでは光コラボモデルやマンション全戸加入プランの拡販、VNEでは提携拡大とコスト最適化、教育分野では学習分析を通じた教育の質保証の実現に取り組みます。
* 売上高:140億円
* 営業利益:18億円
* 経常利益:18億円
* 当期純利益:13億円
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
性別や国籍などに関わらず多様な人材が能力を発揮し、長く安心して働き続けられる職場環境の提供を目指しています。当社の強みとなる領域を担う人材は直接雇用と長期雇用を原則とし、自律的組織の確立を図る一方で、周辺業務には外部パートナーを活用して組織の柔軟性と機動性を保持する方針です。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 40.4歳 | 9.8年 | 5,128,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 5.0% |
| 男性育児休業取得率 | 100.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 65.8% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 64.9% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 154.2% |
また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、有給休暇の取得率(81.4%)、一月当たりの労働者の平均残業時間(16.3時間)、女性社員比率(48.3%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 通信環境の変化と競争激化
FTTH市場でのシェア拡大を目指す中で、契約数の伸び悩みや競合他社との競争激化により、業績が影響を受ける可能性があります。大手通信キャリアなど、豊富な経営資源を持つ他社との競争環境にさらされています。
■(2) 収益構造に関する要因
キャンペーン等の実施による先行費用の発生や、トラフィックの急増による通信回線使用料の大幅な増加が、一時的に収益を圧迫するリスクがあります。エネルギー価格の高騰や賃金上昇もコスト増の要因となります。
■(3) サービスの中断と停止
24時間365日の管理体制を敷いていますが、システム障害や通信回線障害、自然災害、サイバーテロ等によりサービスが停止するリスクがあり、発生時には信用毀損や業績悪化につながる恐れがあります。
■(4) 提携先との契約および法的規制
NTT等の提携電気通信事業者とのアクセス回線提供に関する契約内容が変更されるリスクや、電気通信事業法、個人情報保護法などの各種法的規制に対応するための費用負担が増加するリスクが存在します。



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