イリソ電子工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

イリソ電子工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

同社は東京証券取引所プライム市場に上場しており、自動車や産業機器向けのコネクタ製造・販売を主力事業としています。直近の業績は、円安の影響等により売上高は微増したものの、原材料価格の高騰や販売費及び一般管理費の増加、構造改革費用の計上などが響き、営業利益および当期純利益は減益となりました。


※本記事は、イリソ電子工業株式会社 の有価証券報告書(第59期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. イリソ電子工業ってどんな会社?


車載機器や産業機器向けに、高信頼性の多極コネクタを開発・製造・販売するグローバルメーカーです。

(1) 会社概要


1963年にイリソ電子工業所として創業し、1966年に法人設立されました。1973年にピン事業、1975年にコネクタ事業を開始し、本格的な多極コネクタ分野へ進出しました。1993年の上海現地法人設立以降、フィリピン、ベトナム等に生産拠点を拡大し、グローバル展開を推進しています。2016年には東京証券取引所市場第一部に上場し、現在はプライム市場に上場しています。

2025年3月31日現在の連結従業員数は2,936名、単体では594名です。大株主構成は、資産管理業務を行う信託銀行が上位を占めるほか、創業者の佐藤定雄氏が第4位の株主となっています。第2位の有限会社エス・エフ・シーは、住所地等から創業者に関連する資産管理会社と推察されます。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) 14.10%
有限会社エス・エフ・シー 11.09%
株式会社日本カストディ銀行(信託口) 8.62%

(2) 経営陣


同社の役員は男性8名、女性1名の計9名で構成され、女性役員比率は11.1%です。代表取締役社長執行役員は鈴木仁氏が務めています。社外取締役比率は44.4%です。

氏名 役職 主な経歴
鈴木 仁 代表取締役社長執行役員 1989年同社入社。技術本部長、取締役専務執行役員などを歴任し、2021年4月より現職。
武田 佳司 取締役専務執行役員社長補佐兼製造本部、技術本部、品質保証本部管掌 1987年同社入社。ベトナム現地法人社長、製造本部長、取締役副社長執行役員などを経て、2025年4月より現職。
佐藤 定雄 取締役 1963年創業。社長、会長を経て、2025年4月より現職。
大平 明彦 取締役執行役員営業本部長 2006年同社入社。米国現地法人社長、海外営業本部長、常務執行役員などを経て、2025年6月より現職。


社外取締役は、藤田浩司(弁護士)、佐藤登(元サムスンSDI常務)、柴田雅久(元パナソニック専務執行役員)、内田明美(元東プレ取締役)です。

2. 事業内容


同社グループは、「日本」「アジア」「欧州」「北米」の4つの報告セグメントで事業を展開しています。

(1) 日本


同社が担当し、国内の自動車電装品メーカーやエレクトロニクス製品メーカー向けにコネクタの販売を行っています。また、グループ全体の研究開発機能やマザー工場としての役割も担っています。
収益は、主に国内顧客への製品販売による対価として得ています。運営はイリソ電子工業が行っています。

(2) アジア


中国、シンガポール、タイ、フィリピン、ベトナムなどの現地法人が担当し、日系顧客の現地生産拠点やローカル企業向けにコネクタを製造・販売しています。同社グループの主要な生産拠点もこの地域に集中しています。
収益は、アジア地域の顧客への製品販売により得ています。運営は上海意力速電子工業有限公司、IRS(S)PTE LTDなどが担っています。

(3) 欧州


ドイツの現地法人が担当し、欧州地域の自動車部品メーカーや産業機器メーカー向けに販売活動を行っています。環境規制や安全基準の厳しい欧州市場において、現地のニーズに合わせた製品提案を行っています。
収益は、欧州地域の顧客への製品販売により得ています。運営はIRISO ELECTRONICS EUROPE GmbHが行っています。

(4) 北米


アメリカおよびメキシコの現地法人が担当し、北米地域の顧客向けに販売を行っています。自動車産業が集積する地域を中心に、営業活動を展開しています。
収益は、北米地域の顧客への製品販売により得ています。運営はIRISO U.S.A.,INC.などが行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


売上高は緩やかな増加傾向にありますが、利益面では減少が見られます。特に直近の当期純利益は前期比で大きく減少しており、収益性の改善が課題となっています。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 365億円 439億円 529億円 553億円 563億円
経常利益 30億円 48億円 77億円 72億円 55億円
利益率(%) 8.1% 11.0% 14.5% 13.0% 9.8%
当期利益(親会社所有者帰属) 21億円 39億円 55億円 56億円 27億円

(2) 損益計算書


売上高は増加しているものの、売上原価および販売費・一般管理費の増加により、営業利益および営業利益率は低下しています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 553億円 563億円
売上総利益 171億円 179億円
売上総利益率(%) 31.0% 31.8%
営業利益 59億円 53億円
営業利益率(%) 10.7% 9.4%


販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が30億円(構成比24%)、研究開発費が15億円(同12%)、運搬費が14億円(同11%)を占めています。

(3) セグメント収益


アジアセグメントが売上の過半を占め、成長を牽引しています。日本および欧州、北米は前期比で減収となっており、地域によって明暗が分かれる結果となりました。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期)
日本 97億円 90億円
アジア 292億円 323億円
欧州 97億円 92億円
北米 66億円 58億円
連結(合計) 553億円 563億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


同社は、営業活動で得た資金を借入金の返済や株主還元に充てつつ、将来のための投資も自己資金の範囲内で行っている「健全型」のキャッシュ・フロー状態にあります。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 129億円 120億円
投資CF -91億円 -88億円
財務CF 23億円 -55億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は3.6%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は77.3%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は「人の心を尊重し、豊かな価値を創り、社会貢献に努める」ことを経営理念としています。全社員の知恵をお客様の課題解決に注ぎ、お客様が提供する製品・サービスの未来に続く架け橋となるべく、「顧客価値を創造する100年企業」となることを目指しています。

(2) 企業文化


2023年4月に策定されたステートメント「私たちは、社会やお客様の期待を超える“つなげる”を実現します」に基づき、人と環境にやさしく、様々な機能を容易につなげる未来の創造を目指しています。また、2035年のありたい姿として、「社会やお客様の期待を超える“つなげる”で、成長を続ける企業」「社会、環境、品質を重視し、社員とステークホルダーが“わくわく”する企業」を設定しています。

(3) 経営計画・目標


2024年度から2026年度までの中期経営計画期間を、課題克服と成長軌道への回帰に向けた足場固めの3年間と位置付けています。

* 2027年3月期 売上高:650億円
* 2027年3月期 営業利益率:15.4%超
* 2027年3月期 ROE:10.0%
* 2027年3月期 ROIC:10.0%

(4) 成長戦略と重点施策


「車載のイリソ」から「モビリティのイリソ」への基盤構築を目指し、パワートレイン分野や統合ECU分野での製品ラインアップ拡充を進めます。また、インダストリアル市場を第二の柱として育成するため、高速フローティングBtoBコネクタ等による新規顧客開拓を強化します。生産面では、秋田工場の立ち上げや設備・金型の標準化、内製化拡大による生産性向上とコスト削減を推進します。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「多様な人財づくり」を重要課題とし、性別や国籍、採用経路にかかわらず、多様な価値観を持った社員が能力を発揮できる環境整備に努めています。具体的には、階層別研修やスキル習得研修を通じた育成、在宅勤務やフレックスタイム制度の導入による働き方改革、公正な評価に基づく登用を推進しています。また、安全で健康的な労働環境の提供を最優先事項としています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 41.6歳 11.6年 6,888,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 2.0%
男性育児休業取得率 71.4%
男女賃金差異(全労働者) 68.1%
男女賃金差異(正規雇用) 78.7%
男女賃金差異(非正規雇用) 64.1%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、新卒採用に占める女性比率(23.1%)、本社外国人役員比率(5.9%)、正社員離職率(5.9%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 市場環境の変化


同社グループの連結売上高の約86%は車載関連市場向けが占めており、自動車関連製品の需要動向は世界経済情勢の影響を大きく受けます。世界経済の悪化や自動車市場の急激な変化により需要が大幅に落ち込んだ場合、業績に影響を及ぼす可能性があります。これに対し、FA機器や通信機器等の非車載関連市場への販売強化を進めています。

(2) 製品の欠陥


製品の欠陥、リコール等の発生を最小にする生産体制をとり、保険にも加入していますが、大規模なリコールや製造物責任賠償につながる欠陥が発生した場合、多額のコスト発生や社会的信用の低下により、業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。開発から出荷に至る全段階で細心の注意を払い、品質管理を徹底しています。

(3) 研究開発活動


技術革新とコスト競争が激しい市場において、顧客ニーズの変化や技術の進歩に対応した新製品開発が期待通りに進まない場合、将来の成長と収益性が低下する可能性があります。マーケティング活動による市場ニーズの把握と、必要な研究開発投資や設備投資を行うことで、継続的な新製品開発に努めています。

(4) 重要な訴訟等


国内外での事業活動に関連して、知的財産権の侵害やその他の訴訟、紛争の対象となるリスクがあります。第三者の知的財産権を侵害したとして損害賠償請求を受けた場合、生産・販売活動の制約や損害賠償金の支払いが発生する可能性があります。知的財産権の一元管理と情報共有により、リスク低減を図っています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。