※本記事は、ASTI株式会社 の有価証券報告書(第62期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月18日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. ASTIってどんな会社?
車載電装品やワイヤーハーネス、民生機器用コントローラなどを製造する独立系メーカーです。海外生産比率が高く、特にインド市場での成長に注力しています。
■(1) 会社概要
1963年に設立され、1972年に二輪車用ワイヤーハーネスの生産を開始しました。その後、1995年に名古屋証券取引所市場第二部へ上場し、2002年には東京証券取引所市場第二部へ上場しました。2004年にはインドに子会社を設立するなどアジア展開を加速させ、2022年の市場区分見直しに伴いスタンダード市場へ移行しました。
連結従業員数は4,233名、単体では675名です。筆頭株主は主要取引先等で構成されるASTI共栄会で、第2位はASTI従業員持株会となっており、安定株主が上位を占めています。第3位には個人株主が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| ASTI共栄会 | 7.55% |
| ASTI従業員持株会 | 6.85% |
| 中島 秀樹 | 3.23% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性6名、女性1名の計7名で構成され、女性役員比率は14.3%です。代表取締役社長は波多野淳彦氏が務めています。社外取締役比率は42.9%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 波多野 淳 彦 | 取締役社長(代表取締役)(経営本部長)(新規事業部長) | 経済産業省出身。中部経済産業局長などを経て同社入社。常務取締役、経営本部長などを歴任し2020年より現職。 |
| 原 一 隆 | 取締役(開発事業部長) | 2003年同社入社。技術開発部長、電子機器事業部長などを経て2018年より現職。 |
| 深 田 弘 文 | 取締役(ハーネス事業部長) | 1986年同社入社。工場長やインド子会社社長などを経て2020年より現職。 |
| 百 鬼 直 樹 | 取締役(常勤監査等委員) | 1987年同社入社。総務部長、企画室長、内部監査室長などを経て2019年より現職。 |
社外取締役は、捻橋かおり(辻巻総合法律事務所弁護士)、鵜飼裕之(元名古屋工業大学学長)、栗原博(元富士ゼロックス代表取締役社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「車載電装品」、「民生産業機器」、「ワイヤーハーネス」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 車載電装品
各種電子制御ユニット、エアコン制御システム、コーナーセンサ、バッテリー用充電器などの製造販売を行っています。主な顧客は四輪・二輪メーカー等です。
収益は製品の販売代金から得ています。運営は主に同社が行うほか、インド、ベトナム、中国の各子会社(ASTI ELECTRONICS INDIA PRIVATE LIMITED、ASTI ELECTRONICS HANOI CORPORATION、浙江雅士迪電子有限公司など)が製造販売を担っています。
■(2) 民生産業機器
洗濯機用・食器洗浄機用電子制御基板、通信用スイッチユニット、産業用ロボットコントローラ基板などを製造販売しています。家電メーカーや産業機器メーカーが主な顧客です。
収益は製品の販売代金から得ています。運営は同社に加え、ベトナムのASTI ELECTRONICS HANOI CORPORATIONや中国の杭州雅士迪電子有限公司などの海外子会社が製造販売を行っています。
■(3) ワイヤーハーネス
四輪・二輪用ワイヤーハーネス、船舶用ワイヤーハーネスなどを製造販売しています。自動車やバイクの神経・血管にあたる重要部品であり、輸送用機器メーカーへ供給しています。
収益は製品の販売代金から得ています。運営は同社のほか、インド、ベトナム、中国、フィリピンの各子会社(ASTI ELECTRONICS INDIA PRIVATE LIMITED、ASTI MANUFACTURING PHILIPPINES INC.など)が製造販売を担っています。
■(4) その他
新規事業として、メディカル・超音波製品分野における新製品開発や製造販売を行っています。美容分野商材や医療機器などが含まれます。
収益は製品の販売代金から得ています。運営は主に同社が行っており、一部の研究開発機能などを海外子会社が担う場合があります。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は452億円から654億円へと拡大傾向にあります。経常利益は2024年3月期に31億円まで伸長しましたが、直近の2025年3月期は16億円へ減少しました。利益率も変動しており、直近は2.4%となっています。当期純利益も増減があり、直近は6億円となりました。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 452億円 | 588億円 | 649億円 | 636億円 | 654億円 |
| 経常利益 | 14億円 | 8億円 | 21億円 | 31億円 | 16億円 |
| 利益率(%) | 3.1% | 1.4% | 3.2% | 4.8% | 2.4% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 12億円 | 7億円 | 13億円 | 9億円 | 6億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間を比較すると、売上高は636億円から654億円へ増加しましたが、売上総利益は72億円から64億円へ減少しました。売上総利益率は11.3%から9.8%へ低下しています。これに伴い営業利益も22億円から15億円へ減少し、営業利益率は3.5%から2.3%へ低下しました。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 636億円 | 654億円 |
| 売上総利益 | 72億円 | 64億円 |
| 売上総利益率(%) | 11.3% | 9.8% |
| 営業利益 | 22億円 | 15億円 |
| 営業利益率(%) | 3.5% | 2.3% |
販売費及び一般管理費のうち、給料及び賞与が18億円(構成比36%)、その他経費が13億円(同27%)を占めています。売上原価においては、中国市場の競争激化等による採算悪化の影響が見られます。
■(3) セグメント収益
民生産業機器は通信用スイッチユニット等の好調により増収増益となりました。車載電装品もインドでの販売増により増収増益です。一方、ワイヤーハーネスは中国EV市場の競争激化等により減収大幅減益となりました。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 車載電装品 | 217億円 | 219億円 | 7億円 | 7億円 | 3.4% |
| 民生産業機器 | 176億円 | 193億円 | 0.2億円 | 4億円 | 2.3% |
| ワイヤーハーネス | 242億円 | 239億円 | 16億円 | 3億円 | 1.3% |
| その他 | 1億円 | 2億円 | -1億円 | -0.2億円 | -7.4% |
| 連結(合計) | 636億円 | 654億円 | 22億円 | 15億円 | 2.3% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 32億円 | 56億円 |
| 投資CF | -20億円 | -15億円 |
| 財務CF | -16億円 | -27億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は2.6%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は53.3%で市場平均をやや下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同グループは「社会が求めるより良きものを合理的に生産し、信頼される健全経営を展開して参画者総ての文化の高揚を計る」を経営理念として掲げています。この理念を基本に、常に新しいフィールドへ事業活動を積極的に展開していくことを経営の基本としています。
■(2) 企業文化
進取の精神で挑戦と創造を積み重ねることを重視する文化があります。60年を超える歴史の中で、時代の要請に応じた生産体制を構築し、持続的な企業であることを目指しています。また、リスク管理・コンプライアンスや品質保証を重視し、不良品ゼロに向けた地道な努力を重ねる姿勢を持っています。
■(3) 経営計画・目標
中期経営計画「VISION2025」を推進しており、経営上の目標達成状況を判断する客観的な指標として、売上高および営業利益を用いています。具体的な数値目標の記載はありませんが、持続可能な人員採用に関する指標として以下の目標を掲げています。
* 外国籍従業員の社員比率:5%
* 女性の管理職比率:10%
■(4) 成長戦略と重点施策
「VISION2025」では、「低炭素社会の実現に資する電子ユニット」「重要電子機器をつなぐワイヤーハーネス」「新規事業」「海外における受注生産事業」の4分野を重点的に強化しています。特に成長著しいインド市場での販売拡大や、フィリピンでの生産体制拡充、ベトナム・インドでのR&D機能強化に注力しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
国内での少子化に伴う人材不足に対応するため、外国籍を含めた人材の多様性確保を推進しています。また、ベトナムやインドにR&D部門を設置し、外国人技術者を日本へ転勤させるなどして研究開発人員を補強しています。持続的な事業運営のため、多様な人材が活躍できる制度や施策を進めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 43.1歳 | 17.4年 | 5,519,434円 |
※平均年間給与は基準外賃金及び賞与を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 3.9% |
| 男性育児休業取得率 | 116.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 60.8% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 63.6% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 78.2% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、外国籍従業員の社員比率(2.7%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 海外事業展開に伴うリスク
インド、ベトナム、中国、フィリピンで事業を展開しており、現地の政治・経済情勢、法規制、為替動向等が業績に影響を与える可能性があります。特に米国関税政策や中国の景気停滞による受注変動、原材料調達難のリスクがあります。これに対し、フィリピンでの生産体制整備などリスク分散を図っています。
■(2) 地震等自然災害による影響
国内生産拠点が静岡県西部地域に集中しており、南海トラフ地震等の大規模災害が発生した場合、操業中断や復旧費用により業績に影響が出る可能性があります。浜松市北部の浸水想定のない地点に浜松工場を建設し、本社機能の代替体制や海外拠点でのバックアップ体制の整備を進めています。
■(3) 品質に関するリスク
製品の品質トラブルにより多額の回収費用や補償費用が発生した場合、業績に影響を及ぼす可能性があります。特に生産の主体となりつつある海外事業における品質の維持・向上を最優先課題とし、品質保証委員会を中心に不良品ゼロに向けた取り組みを推進しています。



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