※本記事は、ASTI株式会社の有価証券報告書(第63期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月17日提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準はJapan GAAPです。
1. ASTIってどんな会社?
車載電装品や民生産業機器、ワイヤーハーネスの製造販売を手掛ける同社グループの特徴を解説します。
■(1) 会社概要
1963年5月にペンオイルセールスとして設立され、1992年にアスティ、1995年に現在のASTIへと商号を変更しました。1995年に名古屋証券取引所市場第二部、2002年には東京証券取引所市場第二部に上場を果たしています。2011年からは電動車用バッテリー充電器の開発・生産を開始し、事業領域を拡大しています。
現在の従業員数は連結で4,282名、単体で689名となっています。主要な株主としては、筆頭株主および第2位株主として従業員や取引先による持株会・共栄会が名を連ねており、第3位には取引金融機関である名古屋銀行が位置しています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| ASTI従業員持株会 | 8.81% |
| ASTI共栄会 | 7.57% |
| 名古屋銀行 | 2.53% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性6名、女性1名の計7名で構成され、女性役員比率は14.3%です。代表取締役社長は波多野淳彦氏が務めています。社外取締役比率は42.9%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 波多野 淳彦 | 取締役社長(代表取締役)(経営本部長)(新規事業部長) | 1985年通商産業省(現経済産業省)入省。在中日本大使館公使や経産省中部経済産業局長等を歴任。2018年同社入社。常務取締役、経営本部長等を経て2020年10月より現職。 |
| 原 一隆 | 取締役(開発事業部長) | 2003年同社入社。技術開発部長、電子機器事業部長を歴任。2017年6月に取締役就任。2018年10月より現職。 |
| 深田 弘文 | 取締役 | 1986年同社入社。竜洋工場長、インド子会社社長、掛川工場長等を歴任。2018年執行役員就任。2020年6月より現職。 |
| 百鬼 直樹 | 取締役(常勤監査等委員) | 1987年同社入社。総務部長、企画室長、内部監査室長等を歴任。2017年常勤監査役就任。2019年6月より現職。 |
社外取締役は、鵜飼裕之氏(愛知東邦大学学長)、栗原博氏(元富士ゼロックス社長)、広瀬史乃氏(阿部・井窪・片山法律事務所パートナー)です。
2. 事業内容
同社グループは、「車載電装品」「民生産業機器」「ワイヤーハーネス」および「その他」事業を展開しています。
■車載電装品
各種電子制御ユニット、エアコン制御システム、バッテリー用充電器などを製造販売しており、主に自動車関連メーカーを顧客としています。
運営は同社およびインド、ベトナム、中国などの子会社が担当しており、製品の販売を通じて収益をあげています。
■民生産業機器
洗濯機用や食器洗浄機用の電子制御基板、通信用スイッチユニット、産業用ロボットコントローラ基板などを製造販売し、家電メーカーや産業機器メーカーを顧客としています。
事業運営は同社ならびにベトナム、中国の子会社が行っており、製品の販売による収益を確保しています。
■ワイヤーハーネス
四輪・二輪用のワイヤーハーネスや船舶用ワイヤーハーネス等を製造販売しており、各種輸送機器メーカーを顧客として事業を展開しています。
運営の主体は同社をはじめ、インド、ベトナム、フィリピンに展開する子会社が担い、製品販売から収益を得ています。
■その他
医療関連分野において、極細の注射針などメディカル関連製品の開発・製造・販売を展開しています。
同事業は主に同社が主体となって運営しており、国内外の医療機関や研究機関向けの製品販売から収益を得ています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は600億円台で安定的に推移しているものの、当期は中国事業の再編などの影響により減収となりました。利益面でも資材価格の高騰等が影響し、営業利益および経常利益の減少傾向が見られますが、最終利益については固定資産売却益などにより増加を確保しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 588億円 | 649億円 | 636億円 | 654億円 | 624億円 |
| 経常利益 | 8億円 | 21億円 | 31億円 | 16億円 | 13億円 |
| 利益率(%) | 1.4% | 3.2% | 4.8% | 2.4% | 2.1% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 7億円 | 13億円 | 9億円 | 6億円 | 7億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間では、事業撤退等の影響で売上高が減少したものの、不採算事業の縮小などにより売上総利益率は改善しています。一方で、賃上げに伴う労務費の増加などにより販管費が増加したため、営業利益率は低下する結果となりました。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 654億円 | 624億円 |
| 売上総利益 | 64億円 | 65億円 |
| 売上総利益率(%) | 9.8% | 10.3% |
| 営業利益 | 15億円 | 13億円 |
| 営業利益率(%) | 2.3% | 2.1% |
販売費及び一般管理費のうち、給料及び賞与が19億円(構成比38%)、その他が14億円(同28%)を占めています。また、売上原価の構成比は90%となっています。
■(3) セグメント収益
セグメント別の業績を見ると、ワイヤーハーネス事業は中国での事業撤退により大幅な減収となりましたが、損失の減少により増益を達成しました。車載電装品は増収ながら付加価値減少等で減益、民生産業機器は減収ながら通信用スイッチユニット等の販売増で増益となっています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 車載電装品 | 219億円 | 223億円 | 7億円 | 4億円 | 1.6% |
| 民生産業機器 | 193億円 | 189億円 | 4億円 | 5億円 | 2.9% |
| ワイヤーハーネス | 239億円 | 209億円 | 3億円 | 4億円 | 1.8% |
| その他 | 3億円 | 3億円 | -0億円 | -0億円 | -5.9% |
| 調整額 | - | - | 1億円 | 0億円 | - |
| 連結(合計) | 654億円 | 624億円 | 15億円 | 13億円 | 2.1% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業活動によるキャッシュ・フローはプラスを維持しており、得られた営業利益から金融機関への借入返済を行いつつ、将来の成長に向けた設備投資等の資金を内部で賄っている健全型の財務状態といえます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 56億円 | 42億円 |
| 投資CF | -15億円 | -25億円 |
| 財務CF | -27億円 | -21億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は2.9%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は55.5%で、いずれも市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「社会が求めるより良きものを合理的に生産し、信頼される健全経営を展開して参画者総ての文化の高揚を計る。」を経営理念に掲げています。この理念を基本に、進取の精神で挑戦と創造を積み重ね、常に新しいフィールドに事業活動を積極的に展開していくことを経営の基本としています。
■(2) 企業文化
経営理念に示された「信頼される健全経営」を具現化することがコーポレート・ガバナンスの一環であると捉えています。その実現に向けて、透明で公正な企業経営や経営の執行と監督の分離、社会に対する積極的な情報開示、企業倫理の確立などに継続して取り組む姿勢を重視しています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、経営上の目標達成状況を判断するための客観的な指標として、売上高および営業利益を設定しています。変動する経済環境の中で需要の変化を機敏に捉え、生産の重点を移行しながら継続的な成長を目指しています。
■(4) 成長戦略と重点施策
新中期経営計画「VISION2030」のもと、以下の4分野を重点的に強化していく戦略です。
・インド事業の強化とR&D部門の拡充による水平分業体制の構築
・EV関連各種電子部品における自社開発・自社設計製品の強化
・二輪車や船外機用ワイヤーハーネスの生産体制充実と付加価値増大
・自社開発注射器などメディカル関係製品の世界向け販売拡大
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
多様な人材の確保・育成と能力を発揮しやすい職場環境の整備を重要課題と位置づけています。外国籍人材の活躍推進や公正な処遇、それを支える人事施策を推進するほか、海外事業や技術領域の高度化に対応するため、語学力・技術力・マネジメント力を備えた人材の確保・育成を進めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 43.1歳 | 17.4年 | 5,685,872円 |
※平均年間給与は基準外賃金及び賞与を含んでいます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 5.0% |
| 男性育児休業取得率 | 150.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 61.7% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 64.0% |
| 男女賃金差異(パート・有期) | 75.4% |
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 海外事業展開と地政学リスク
インド、ベトナム、中国、フィリピン等での事業展開において、各国の政治・経済情勢や法律規制の変更、中東情勢や中国の景気停滞等の影響により、当初予定していた販売量を確保できないリスクがあります。
■(2) 大規模な自然災害による操業への影響
国内の生産拠点が静岡県西部地域に集中しているため、南海トラフ地震等の大規模な自然災害が発生した場合、操業の中断や多額の復旧費用が発生し、業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
■(3) 製品の品質トラブルに伴う影響
製品の品質には万全を期していますが、予期しない品質トラブルにより多額の回収費用や補償費用が発生した場合、同社グループの経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼすリスクがあります。



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