※本記事は、株式会社ワコムの有価証券報告書(第43期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. ワコムってどんな会社?
同社は、ブランド製品事業およびテクノロジーソリューション事業を中心に展開する企業です。
■(1) 会社概要
1983年に電子機器事業等を開始して以来、グローバル展開を推進してきました。1988年にドイツ、1991年に米国に販売・開発拠点を設立し、2002年にはテクノロジーソリューション事業へと進出しました。2005年に東京証券取引所市場第一部へ上場し、直近では2026年にリクロスエクスパンションを子会社化しています。
同社グループの従業員数は連結で930名、単体で404名です。大株主の状況については、筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位は事業会社であるサムスンエレクトロニクスシンガポールピーティーイーリミテッド、第3位も信託業務等を行う海外法人となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 13.82% |
| サムスンエレクトロニクスシンガポールピーティーイーリミテッド | 6.24% |
| エイブイアイジャパンオポチュニティートラストピーエルシー | 4.78% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性8名、女性1名の計9名で構成され、女性役員比率は11.1%です。代表取締役社長チーフエグゼクティブオフィサーは井出信孝氏が務めています。社外取締役比率は55.6%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 井出信孝 | 代表取締役社長チーフエグゼクティブオフィサー | 1995年シャープ入社。2013年同社入社。2015年テクノロジーソリューションビジネスユニットシニア・バイスプレジデントなどを経て、2018年4月より現職。 |
| 小峰明武 | 取締役チーフレベニューオフィサー | 1996年中央監査法人入所。公認会計士資格取得後、2011年同社入社。2020年エグゼクティブ・バイスプレジデントなどを経て、2025年4月より現職。 |
| 小島周 | 取締役チーフファイナンシャルオフィサー | 1992年日商岩井入社。アサヒホールディングス取締役等を経て、2024年同社入社。ファイナンスエグゼクティブ・バイスプレジデントなどを経て、2025年6月より現職。 |
| 中嶋崇史 | 取締役チーフオペレーションオフィサー | 2014年リクロスエクスパンション代表取締役。2024年同社社外取締役に就任し、2026年3月より現職。 |
社外取締役は、稲積憲(ピルボックスジャパン代表取締役社長)、稲増美佳子(HR INSTITUTE USA社長・指名委員長)、東山茂樹(ミモザ社外取締役・監査等委員長)、細窪政(グレートアジアキャピタル&コンサルティング代表社員)、小野祐司(M&Pインベストメント・コンプライアンス代表取締役)です。
2. 事業内容
同社グループは、「ブランド製品事業」および「テクノロジーソリューション事業」の2つの報告セグメントを展開しています。
■ブランド製品事業
クリエイターやビジネス向けのペンタブレットおよび関連するソフトウェアの開発・製造・販売を行っています。主な製品は、液晶ディスプレイ面に直接描画できるディスプレイ製品や繊細な描画が可能なペンタブレットであり、グラフィックデザインや映画・アニメ制作、教育、医療などで広く利用されています。
収益源は、一般消費者やプロのクリエイター、ビジネス顧客等からのハードウェアの販売代金です。当事業の運営は、日本国内においては同社が行い、海外市場においてはワコムヨーロッパ、ワコムテクノロジー、ワコムチャイナなどの連結子会社が各地域を担当してグローバルに展開しています。
■テクノロジーソリューション事業
モバイル機器向けのデジタルペン技術(アクティブES方式、EMR方式)を搭載したデジタルペン、マルチタッチセンサー、タッチパネルなどの部品およびモジュールの開発・製造・販売を行っています。スマートフォン、タブレットPC、電子書籍端末などのメーカーへの組み込み利用が中心です。
収益源は、スマートフォンメーカーやノートPCメーカー等のOEM顧客からの部品およびモジュールの販売代金です。当事業の運営は、同社のほか、ワコムチャイナ、ワコムタイワンインフォメーション、ワコムベトナムサイエンスアンドテクノロジーなどの連結子会社と共同で行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績推移を見ると、売上高は1,088億円から1,188億円の間で推移しており、一定の事業規模を維持しています。経常利益は一時的に落ち込む時期もありましたが、直近では140億円まで回復し、当期利益も95億円と大幅な増益を達成しました。全体として収益性の改善が進んでいます。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 1,088億円 | 1,127億円 | 1,188億円 | 1,157億円 | 1,100億円 |
| 経常利益 | 144億円 | 29億円 | 99億円 | 104億円 | 140億円 |
| 利益率(%) | 13.2% | 2.5% | 8.3% | 9.0% | 12.7% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 114億円 | 49億円 | -0.2億円 | 42億円 | 133億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は1,157億円から1,100億円へと減少した一方で、売上総利益は401億円から413億円に増加しました。事業構造改革等による固定費削減効果により、営業利益は102億円から134億円へと増加し、収益性の改善が顕著に表れています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1,157億円 | 1,100億円 |
| 売上総利益 | 401億円 | 413億円 |
| 売上総利益率(%) | 34.7% | 37.6% |
| 営業利益 | 102億円 | 134億円 |
| 営業利益率(%) | 8.8% | 12.2% |
販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が83億円(構成比30%)、給与手当が59億円(同21%)を占めています。
■(3) セグメント収益
ブランド製品事業は、新製品の投入や事業構造改革が奏功し、増収ならびに営業黒字への転換を達成しました。一方、テクノロジーソリューション事業は、OEM顧客の需要動向や円高などの影響を受け、減収減益となりました。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| ブランド製品事業 | 287億円 | 327億円 | -29億円 | 20億円 | 6.2% |
| テクノロジーソリューション事業 | 869億円 | 773億円 | 185億円 | 171億円 | 22.1% |
| 連結(合計) | 1,157億円 | 1,100億円 | 102億円 | 134億円 | 12.2% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社のキャッシュ・フローは「健全型」です。営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業の状態を示しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 83億円 | 103億円 |
| 投資CF | -23億円 | -37億円 |
| 財務CF | -132億円 | -160億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は28.0%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は57.6%であり、いずれも市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「Life-long Ink」というビジョンを掲げています。これは、人間と社会にとって意味のある体験を、技術を通して長い期間提供し続け、この世界を少しでも人間的なものにすることに寄与するという存在意義を示しています。究極の「かく」体験を追求する道具屋として、社会への貢献を目指しています。
■(2) 企業文化
同社は、「人間にとって意味のある体験」を届ける道具屋として、社員自身が自ら解き放たれ、自分自身に正直に生き、自分史上最高のパフォーマンスでお客様やコミュニティと共創を重ねていく環境づくりを重視しています。多様性を重んじ、各地域の文化を尊重しながら一人ひとりの成長を支援する文化が醸成されています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、2029年3月期を最終年度とする中期経営計画「Wacom Chapter 4」を推進しており、企業価値の向上に向けて事業成長と資本効率性の改善を掲げています。
* 売上高1,500億円
* 営業利益150億円
* ROE(自己資本利益率)20%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は「かく」こと全般の総合的な体験を届ける道具屋として、事業モデルの進化を図っています。「創る」「学ぶ/教える」「はたらく/楽しむ、その先へ」「より人間らしく生きる」の4領域において、AIやデジタル技術を接続した新たな価値創出を進め、競争力強化や継続収益型ビジネスの拡大を重点施策として推進しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、事業戦略の実現に必要な「あるべき人材ポートフォリオ」を明確化し、インプット技術開発人材、AI・データ人材、DX実装人材などの専門人材の確保と育成を進めています。経験を通じて学ぶことを重視し、熱意ある人材を重要プロジェクトへ抜擢するほか、社内公募制や社内外との交流を通じた自発的な学びを支援しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 45.5歳 | 11.5年 | 9,852,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 23.2% |
| 男性育児休業取得率 | 60.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 71.9% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 79.3% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 42.1% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、産前産後休業を経て育児休業から復帰する割合(100%)、倫理・行動規範トレーニングの修了率(90%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 経営環境に関するリスク
世界各国の経済動向や為替レートの変動、グラフィックス業界の動向が事業に影響を及ぼす可能性があります。また、AIやクラウド等の技術革新に伴う市場環境の急速な変化や、それに伴う競争の激化により、製品の需要が変動するリスクが存在します。
■(2) 事業活動に関するリスク
一部の主要な販売先への依存や、海外での生産委託、部品調達の長期化・価格高騰などが事業活動に支障をきたすリスクがあります。また、情報の漏洩やサイバー攻撃への対応、人材の確保や品質問題なども重要な事業リスクとして認識されています。
■(3) 法的規制及び訴訟等に関するリスク
グローバルに事業を展開しているため、各国の法的規制や環境規制、個人情報保護法等の遵守が求められます。さらに、知的財産権の侵害に関わるクレームや訴訟、各国の独占禁止法に関する規制適用なども業績に影響を与える可能性があります。



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