※本記事は、日野自動車株式会社 の有価証券報告書(第113期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
なお、日野自動車(親会社:トヨタ自動車)は、三菱ふそうトラック・バス(親会社:ダイムラートラック)との経営統合に向けて設立される統合持株会社ARCHIONの完全子会社となる再編を行うことから、2026年3月30日をもって上場廃止となりました。
1. 日野自動車ってどんな会社?
トラック・バスの製造販売大手であり、トヨタグループの一員として受託生産や開発も行う商用車メーカーです。
■(1) 会社概要
1910年に前身となる東京瓦斯工業が設立され、1942年に日野重工業として独立しました。1949年に東京証券取引所へ上場し、2001年にはトヨタ自動車の子会社となりました。2022年にエンジン認証申請における不正行為を公表し、現在は再発防止と信頼回復に向けた改革を進めています。
連結従業員数は33,608名、単体では11,950名です。筆頭株主は親会社である自動車メーカーで、第2位、第3位は資産管理業務を行う信託銀行です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| トヨタ自動車 | 50.14% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 10.30% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 3.27% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性8名、女性3名の計11名で構成され、女性役員比率は27.3%です。代表取締役社長は小木曽聡氏です。社外取締役比率は36.4%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 小木曽 聡 | 取締役社長代表取締役経営全般CEO兼CHRO | 1983年トヨタ自動車入社。同社執行役員、アドヴィックス取締役社長等を経て、2021年6月より現職。 |
| 佐藤 直樹 | 取締役・専務役員日本事業COO | 1989年日野自動車入社。中長期商品戦略部長、戦略・企画領域長等を経て、2023年6月より現職。 |
| 長田 准 | 取締役 | 1990年トヨタ自動車入社。同社執行役員Chief Risk Officer兼Chief Compliance Officer等を経て、2024年6月より現職。 |
社外取締役は、吉田元一(元三井物産副社長)、武藤光一(元商船三井会長)、中島正博(モリタホールディングス会長兼CEO)、君嶋祥子(中外製薬上席執行役員)です。
2. 事業内容
同社グループは、「日本」、「アジア」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 日本
トラック・バスの製造販売、トヨタ自動車向け車両およびユニットの受託生産を行っています。国内市場においては、部品供給の改善等によりトラック・バスの需要が増加しており、特に大型トラックの販売が好調です。また、コネクティッド技術を活用した物流ソリューションの提供も進めています。
主な収益源は、トラック・バス等の製品販売による売上、補給部品の販売、およびトヨタ自動車からの受託生産収入です。運営は主に同社および国内連結子会社(販売会社、製造会社等)が行っています。
■(2) アジア
アセアン地域を中心としたトラック・バスの製造販売を行っています。タイやインドネシアなどの主要市場において、現地のニーズに合わせた車両の開発・生産・販売を展開しています。
収益は、現地顧客への製品および補給部品の販売から得ています。運営は、タイの日野モータースマニュファクチャリングタイランドやインドネシアの日野モータースマニュファクチャリングインドネシアなどの現地子会社が担っています。
■(3) その他
北米、オセアニア、中南米、中近東など、「日本」「アジア」以外の地域における事業を含みます。特に北米市場においては、トラックや部品の製造販売を行っています。
収益は、各地域の顧客への製品および補給部品の販売から得ています。運営は、米国の日野モータースマニュファクチャリングU.S.A.などの現地子会社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の推移を見ると、売上高は回復傾向にあり、当期は過去最高水準となっています。利益面では、認証不正問題の影響等により第111期に巨額の最終赤字を計上した後、第112期に一旦黒字化しましたが、当期は北米での認証関連損失計上により再び大幅な最終赤字となりました。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 14,984億円 | 14,597億円 | 15,073億円 | 15,163億円 | 16,972億円 |
| 経常利益 | 123億円 | 380億円 | 158億円 | -92億円 | 393億円 |
| 利益率(%) | 0.8% | 2.6% | 1.0% | -0.6% | 2.3% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -75億円 | -847億円 | -1,177億円 | 171億円 | -2,178億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間を比較すると、売上高は増加し、営業損益は黒字に転換しました。売上原価率は依然として高い水準にありますが、営業利益率は改善しています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 15,163億円 | 16,972億円 |
| 売上総利益 | 2,336億円 | 2,957億円 |
| 売上総利益率(%) | 15.4% | 17.4% |
| 営業利益 | -81億円 | 575億円 |
| 営業利益率(%) | -0.5% | 3.4% |
販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が608億円(構成比26%)、製品保証引当金繰入額が468億円(同20%)を占めています。
■(3) セグメント収益
直近の2025年3月期は、国内での売上台数増やトヨタ向け車両の台数増、為替の円安等により主力の日本セグメントが大幅な増収と黒字転換を果たし、連結全体でも営業黒字へと大きく改善しました。
日本市場は、日野ブランド事業の国内向け大型トラックの売上台数が増加したほか、北米向けの輸出増、トヨタ向けのSUVや小型トラック(ダイナ等)の台数増により、大幅な増収となりました。利益面でも、国内売上台数やトヨタ向け車両台数の増加、円安等の効果により、前年の損失から284億円の黒字へと力強く改善しています。
一方、アジア市場は、タイを中心としたアジア経済の低迷によって売上台数が減少し、減収減益となりました。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 日本 | 7,864億円 | 9,513億円 | -156億円 | 284億円 | 3.0% |
| アジア | 4,515億円 | 4,142億円 | 319億円 | 246億円 | 5.9% |
| その他 | 2,783億円 | 3,318億円 | -263億円 | 65億円 | 2.0% |
| 調整額 | - | - | 20億円 | -19億円 | - |
| 連結(合計) | 15,163億円 | 16,972億円 | -81億円 | 575億円 | 3.4% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFはプラス、投資CFはマイナス、財務CFはプラスで、営業利益を出しつつ借入等で資金調達を行い、投資を実行している「積極型」です。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | -1,104億円 | 11億円 |
| 投資CF | 392億円 | -46億円 |
| 財務CF | 556億円 | 297億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は-76.3%で市場平均を下回り、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は12.1%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「人、そして物の移動を支え、豊かで住みよい世界と未来に貢献する」ことを会社の使命としています。この使命のもと、人流・物流の課題解決を通じて、持続可能な社会の実現に貢献することを目指しています。
■(2) 企業文化
企業理念体系「HINOウェイ」において、共有すべき3つの価値観を定めています。「誠実」(コンプライアンスを徹底し、誠実に行動する)、「貢献」(安全・環境にこだわり、未来の社会を支える)、「共感」(互いを尊重し、安全安心な職場をつくる)です。
■(3) 経営計画・目標
中長期的な成長に向けた方針として、順次利益水準の回復を図り、以下の数値目標の実現を目指しています。
* 2030年度:営業利益率8%
■(4) 成長戦略と重点施策
収益力の回復と信頼回復に向け、「商品・サービスを軸にした経営」への変革を進めています。具体的には、事業ポートフォリオの見直し(選択と集中)を行い、創出したリソースを強みのある商品や市場(日本、アセアン、オーストラリア等)に投下します。
また、カーボンニュートラル実現に向けたマルチパスウェイ(内燃機関と電動車の両輪)の推進や、自動運転等のCASE技術を活用した社会課題解決に取り組みます。さらに、三菱ふそうトラック・バスとの経営統合に向けた準備を進めています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
人材を重要な資産と位置づけ、「人の成長」を主眼とした人的資本経営を推進しています。「自ら考動・新たな価値を創造できる人材」の育成を目指し、評価・賃金制度の見直しや学びの支援を実施しています。また、企業理念の浸透や社内コミュニケーションの活性化、職場環境の整備を通じて、従業員が誇りを持ちいきいきと働ける組織づくりに取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 41.8歳 | 19.3年 | 6,554,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 2.8% |
| 男性育児休業取得率 | 68.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 77.8% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 77.3% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 90.3% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、外国人管理職比率(7.3%)、キャリア採用者管理職比率(40.5%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) エンジン認証不正問題
日本市場および北米市場向けエンジンにおいて認証手続上の不正行為が判明しました。これに伴い、行政処分、制裁金の支払い、集団訴訟への対応などが発生しています。米国当局とは和解に至りましたが、ニュージーランド等での訴訟リスクが残存しており、経営成績および財政状態に重大な悪影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 三菱ふそうトラック・バスとの経営統合の成否等
三菱ふそうトラック・バスとの経営統合契約を締結しましたが、エンジン認証不正問題に関連する金銭負担の規模等によっては、統合が実施されない可能性があります。また、統合に伴う第三者割当増資により、大規模な株式の希薄化が生じる予定です。
■(3) 親会社との取引
親会社であるトヨタ自動車から乗用車等の生産を受託しており、売上高の一定割合を依存しています。トヨタ自動車の方針変更や発注量の減少等があった場合、同社の業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(4) 材料価格の変動
鋼材等の資材や部品を国内外から調達しており、原材料価格の変動の影響を受けます。材料価格の高騰が長期化した場合、製造コストが増加し、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。



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