愛三工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

愛三工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

愛三工業は東京証券取引所プライム市場および名古屋証券取引所プレミア市場に上場し、燃料ポンプやスロットルボデーなど自動車部品の製造・販売を主力としています。直近の業績は売上高3,308億円、営業利益183億円と前年比で減収減益となりましたが、電動化製品や新領域への投資を推進しています。


※本記事は、愛三工業株式会社の有価証券報告書(第124期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月11日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 愛三工業ってどんな会社?


自動車部品の製造・販売をグローバルに展開し、燃料系や吸排気系部品に強みを持つ企業です。

(1) 会社概要


1938年12月に設立され、1945年10月にキャブレタや燃料ポンプなど自動車部品の製造に着手しました。1980年11月に名古屋証券取引所市場第二部に上場し、現在はプライム市場に属しています。2022年9月にデンソーから燃料ポンプモジュール事業を譲受し、2026年4月にはトライスを子会社化しました。

同社グループの従業員数は連結で8,712名、単体で2,580名です。筆頭株主は事業会社のトヨタ自動車で、第2位は資産管理業務を行う信託銀行、第3位は事業会社の豊田自動織機となっています。トヨタグループとの強固な資本・事業関係を基盤に事業を展開しています。

氏名 持株比率
トヨタ自動車 31.75%
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 9.16%
豊田自動織機 8.36%

(2) 経営陣


同社の役員は男性11名、女性3名の計14名で構成され、女性役員比率は21.4%です。代表取締役副社長副社長経営役員は中根徹氏が務めています。社外取締役の比率は35.7%です。

氏名 役職 主な経歴
中根徹 代表取締役副社長副社長経営役員 1980年4月同社入社。第1営業部長、執行役員、常務執行役員、専務執行役員等を経て、2025年4月より現職。
加藤茂和 取締役副社長副社長経営役員 1987年4月トヨタ自動車入社。同社経理部企画室長等を経て、2019年4月同社執行役員。2025年4月より現職。
山中章弘 取締役副社長副社長経営役員 1988年4月トヨタ自動車入社。同社パワートレーンカンパニーChief Project Leader等を経て、2025年4月より現職。
野村得之 取締役 1985年4月トヨタ自動車入社。同社常務理事等を経て、2018年6月同社社長執行役員。2026年1月より現職。
上原隆史 取締役 1991年4月トヨタ自動車入社。同社パワートレーンカンパニーPresidentを経て、2025年6月より現職。


社外取締役は、大井祐一(元豊田通商代表取締役)、柘植里恵(公認会計士)、入部百合絵(愛知県立大学教授)、高山直士(元森精機製作所専務執行役員)、船引英子(元三菱UFJリサーチ&コンサルティング執行役員)です。

2. 事業内容


同社グループは、「日本」「アジア」「米州」「欧州」およびその他の事業を展開しています。

(1) 自動車部品事業


燃料ポンプモジュール、スロットルボデー、キャニスタ、エンジンバルブなどの自動車部品の製造・販売を行っており、国内外の自動車メーカーを主要な顧客としています。特に燃料系や吸排気系部品において高い技術力を有しています。

収益は、完成した製品を顧客の自動車メーカー等に供給することで得ています。事業の運営は、日本国内では愛三工業が中心となり、アジア、米州、欧州の各地域においてはそれぞれの現地連結子会社(愛三天津汽車部件、フランクリンプレシジョンインダストリーなど)が担っています。

(2) 自動車部品以外の事業


自動車部品の製造・販売以外の領域として、自動車運送取扱業務、土木建設業、コンピュータシステムおよびプログラムの開発・販売などの事業を展開しています。

収益は、輸送サービスやシステム開発・販売による対価として得ています。これらの事業の運営は、国内の連結子会社である愛協産業およびアイサンコンピュータサービスが行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績を見ると、売上高は1,938億円から3,308億円へと拡大傾向にあります。経常利益も103億円から192億円へと伸長しており、利益率は5%台で安定的に推移しています。成長投資を継続しながらも底堅い収益力を維持しています。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 1,938億円 2,408億円 3,143億円 3,373億円 3,308億円
経常利益 103億円 141億円 172億円 193億円 192億円
利益率(%) 5.3% 5.8% 5.5% 5.7% 5.8%
当期利益(親会社所有者帰属) 61億円 92億円 27億円 165億円 156億円

(2) 損益計算書


売上高は前期の3,373億円から当期は3,308億円と微減しましたが、営業利益は183億円と横ばいを維持しています。売上総利益率および営業利益率ともに安定しており、堅実な事業運営がうかがえます。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 3,373億円 3,308億円
売上総利益 490億円 432億円
売上総利益率(%) 14.5% 13.1%
営業利益 183億円 183億円
営業利益率(%) 5.4% 5.5%


販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が43億円(構成比17%)、荷造運搬費が25億円(同10%)を占めています。

(3) セグメント収益


日本および欧州セグメントは増収となりましたが、アジアセグメントは販売数量の減少や為替の影響により減収となりました。米州セグメントは前年とほぼ同水準の売上を維持しています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期)
日本 999億円 1,012億円
アジア 1,441億円 1,358億円
米州 773億円 776億円
欧州 159億円 163億円
連結(合計) 3,373億円 3,308億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業CFはプラス、投資CFはマイナス、財務CFはプラスとなっており、営業で利益を出し、借入によって積極投資を行う「積極型」の状態です。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 282億円 72億円
投資CF -201億円 -116億円
財務CF 109億円 41億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は9.4%で市場平均と同じ水準ですが、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は45.5%で市場平均を下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は「お客様第一の心で商品を創り」「知恵と技術で高品質を実現し」「人を大切にする明るい職場を築いて企業の繁栄と豊かな環境作りで社会に貢献する」ことを経営の基本方針として掲げています。また、「この手で笑顔の未来を」というVISION2030のもと、持続可能な社会への貢献を目指しています。

(2) 企業文化


「認め合い、活かし合う」をキーメッセージにダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DEI)を推進し、多様な人材が活躍できる職場環境の整備に努めています。また、「自律的に学び、考え、果敢に挑戦する」人材の育成をスローガンに掲げ、対話文化を醸成する風通しの良い組織づくりを重視しています。

(3) 経営計画・目標


2025年度から2027年度の中期経営計画において、安定的成長と持続的収益性を中期的な目標指標として掲げています。既存事業の競争力強化と新規領域の事業育成により、着実な企業価値の向上を図ります。

* 売上高:3,500億円
* 営業利益率:7.7%
* ROE:12.0%

(4) 成長戦略と重点施策


エンジン領域の重要機能部品である燃料ポンプモジュール等の重点4製品で圧倒的な競争力を持つ世界No.1製品を目指すとともに、電動化製品事業の推進により資本効率を意識した製品開発を強化します。さらに、アンモニア水素発電などのクリーンエネルギー領域への参入や、トライスグループとのシナジー創出を図ります。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


人的資本を重要な経営資源と位置づけ、従業員エンゲージメントの向上を重視しています。「愛三カタリバ」などの対話会を通じて風土改革を進め、自律的なキャリア形成を支援するプログラムを充実させています。また、グローバル人材の育成に向けて海外トレーニー制度を導入し、国内外で活躍できる基盤を強化しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均とほぼ同じ水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 44.6歳 21.7年 7,645,998円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 2.5%
男性育児休業取得率 85.9%
男女賃金差異(全労働者) 74.1%
男女賃金差異(正規雇用) 73.6%
男女賃金差異(非正規) 53.0%


また、同社はサステナビリティのセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、人間ドック受診率(87.0%)、災害発生度数率(0.47)、海外拠点幹部ポストナショナルスタッフ充足率(76.0%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 経済状況の変動


同社グループの製品需要は各国の自動車生産台数に大きく影響されるため、日本、アジア、米州等の主要市場における景気後退や自動車生産の減少は、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。

(2) 特定の取引先への依存


同社グループの売上高の約5割をトヨタ自動車向けが占めており、同社の販売動向や事業方針の変更が業績に直接的な影響を与えるリスクがあります。

(3) 原材料や部品の価格高騰


製品の製造に使用する原材料や部品の市況変化により、価格の高騰や品不足が生じた場合、製造原価の上昇を招き、収益性が低下する恐れがあります。

(4) 国内外グループ経営に潜在するリスク


世界各国で生産・販売を行っているため、予期せぬ政治的要因、政府の規制変更、社会的混乱、ストライキなどが発生した場合、サプライチェーンの分断や操業中断のリスクがあります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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