※本記事は、愛三工業株式会社 の有価証券報告書(第123期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月11日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 愛三工業ってどんな会社?
自動車の「走る・曲がる・止まる」を支える燃料系・吸排気系部品等をグローバルに供給するメーカーです。
■(1) 会社概要
同社は1938年に設立され、1945年に自動車部品製造を開始しました。2001年に東京・名古屋証券取引所市場第一部に上場し、2022年4月にプライム・プレミア市場へ移行しました。同年9月にはデンソーから燃料ポンプモジュール事業を譲り受け、主力事業の競争力を強化しています。
連結従業員数は8,781名、単体では2,538名です。筆頭株主は主要販売先でもあるトヨタ自動車で、第2位は同じく自動車部品大手のデンソー、第3位は信託銀行です。トヨタグループの一員として、強固な事業基盤とサプライチェーンを有しています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| トヨタ自動車 | 28.97% |
| デンソー | 8.79% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 8.47% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性12名、女性2名(社外含む)の計14名で構成され、女性役員比率は14.3%です。代表取締役社長経営役員は野村得之氏です。社外取締役比率は21.4%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 野村得之 | 代表取締役社長経営役員 | トヨタ自動車常務理事・先進技術開発カンパニー等を経て、2018年より現職。 |
| 中根徹 | 代表取締役副社長経営役員 | 同社入社後、第1営業部長、専務執行役員等を経て、2020年より現職。 |
| 加藤茂和 | 取締役副社長経営役員 | トヨタ自動車(中国)投資有限会社執行副総経理等を経て、2024年より現職。 |
| 山中章弘 | 取締役副社長経営役員 | トヨタ自動車パワートレーンカンパニーChief Project Leader等を経て、2024年より現職。 |
| 草野正樹 | 取締役 | 同社生産・物流本部長、愛三(佛山)汽車部件有限公司総経理等を経て、2022年より現職。 |
| 此原弘和 | 取締役 | 同社執行役員、愛三(佛山)汽車部件有限公司総経理等を経て、2024年より現職。 |
社外取締役は、大井祐一(元豊田通商副社長)、柘植里恵(柘植公認会計士事務所所長)、入部百合絵(愛知県立大学教授)です。
2. 事業内容
同社グループは、「日本」「アジア」「米州」「欧州」の4つの報告セグメントで事業を展開しています。
■(1) 日本
同社および国内関係会社が、燃料ポンプモジュール、スロットルボデー、キャニスタなどの自動車部品の製造・販売を行っています。また、自動車部品以外にも、運送取扱業務、土木建設業、コンピュータシステム開発等も手掛けています。
収益は主に自動車メーカー等への製品販売およびサービス提供による対価です。運営は同社のほか、テイケイ気化器、ニチアロイ、愛協産業、アイサンコンピュータサービス等の国内子会社が行っています。
■(2) アジア
韓国、中国、インドネシア、タイ、インド等のアジア地域において、自動車部品の製造・販売を行っています。急速に成長するアジア市場において、現地の自動車メーカー等へ製品を供給しています。
収益は自動車メーカー等への製品販売代金です。運営は、愛三(天津)汽車部件有限公司、PT. Aisan Nasmoco Industri、Aisan Auto Parts India Pvt. Ltd.などの現地法人が行っています。
■(3) 米州
米国およびメキシコにおいて、自動車部品の製造・販売を行っています。北米市場の需要に対応し、現地生産・供給体制を構築しています。
収益は自動車メーカー等への製品販売代金です。運営は、Franklin Precision Industry, Inc.、Aisan Auto Parts Mexico, S.A. de C.V.などの現地法人が行っています。
■(4) 欧州
フランス、チェコ、ベルギー、スロバキアにおいて、自動車部品の製造・販売を行っています。欧州の環境規制等に対応した製品を供給しています。
収益は自動車メーカー等への製品販売代金です。運営は、Aisan Industry France S.A.、Aisan Industry Czech, s.r.o.などの現地法人が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は一貫して増加傾向にあり、特に直近2期で大きく伸長しています。利益面でも、経常利益・当期利益ともに増加基調を維持しており、売上規模の拡大に伴い利益額も成長しています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 1,814億円 | 1,938億円 | 2,408億円 | 3,143億円 | 3,373億円 |
| 経常利益 | 50億円 | 103億円 | 141億円 | 172億円 | 193億円 |
| 利益率(%) | 2.7% | 5.3% | 5.8% | 5.5% | 5.7% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 27億円 | 61億円 | 92億円 | 27億円 | 165億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間を比較すると、増収効果により売上総利益が増加しています。販売費及び一般管理費も増加していますが、営業利益および営業利益率は改善傾向にあり、本業の収益性が高まっています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 3,143億円 | 3,373億円 |
| 売上総利益 | 412億円 | 490億円 |
| 売上総利益率(%) | 13.1% | 14.5% |
| 営業利益 | 155億円 | 183億円 |
| 営業利益率(%) | 4.9% | 5.4% |
販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が91億円(構成比30%)、製品保証引当金繰入額が80億円(同26%)を占めています。
■(3) セグメント収益
全セグメントにおいて売上高が増加しました。特に日本セグメントは販売数量増や収益改善により大幅な増益となりました。海外各セグメントも販売数量増や為替の影響により増収増益を達成しており、グローバル全体で好調に推移しています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 日本 | 919億円 | 999億円 | 8億円 | 23億円 | 2.3% |
| アジア | 1,357億円 | 1,441億円 | 77億円 | 78億円 | 5.4% |
| 米州 | 711億円 | 773億円 | 56億円 | 72億円 | 9.2% |
| 欧州 | 156億円 | 159億円 | 9億円 | 13億円 | 8.1% |
| 調整額 | - | - | 6億円 | -2億円 | - |
| 連結(合計) | 3,143億円 | 3,373億円 | 155億円 | 183億円 | 5.4% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業活動で得た資金に加え、財務活動による調達も行いながら、将来の成長に向けた投資活動を積極的に実施している「積極型」のキャッシュ・フロー状態です。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 386億円 | 282億円 |
| 投資CF | -97億円 | -201億円 |
| 財務CF | -114億円 | 109億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は9.8%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は45.1%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「お客様第一の心で商品を創り」「知恵と技術で高品質を実現し」「人を大切にする明るい職場を築いて」「企業の繁栄と豊かな環境作りで社会に貢献する」ことを経営の基本方針としています。この理念のもと、事業活動を通じて持続可能な社会の実現に貢献することを目指しています。
■(2) 企業文化
同社は「人を大切にする」精神を基盤とし、従業員一人ひとりが高い志とやりがいを持って働ける風土づくりに取り組んでいます。また、製造現場における競争力強化活動として「MMK(もっとものづくり強化)」をグローバルに展開し、変化に強い柔軟な体質づくりを推進しています。
■(3) 経営計画・目標
同社は中期的な経営方針として、既存事業の強化と新規領域の育成を掲げています。2025年2月に公表した中期経営計画では、2025年度から2027年度の期間において、以下の数値目標を設定しています。
* 売上高:3,500億円
* 営業利益率:7.7%
* ROE:12.0%
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は「VISION2030」の実現に向け、既存のパワートレイン製品事業の競争力を一層強化するとともに、電動化製品の開発加速やクリーンエネルギー活用技術の向上に取り組んでいます。特に、電動化対応製品(e-Axle等)や、カーボンニュートラル達成に向けた水素・アンモニア発電技術の研究開発に注力しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、「自律的に学び、考え、果敢に挑戦する」人財が、「認め合い、活かしあい」ながら成長し続ける組織を目指しています。「風土改革」「人財変革」「多様な人財活躍」を柱とし、従業員エンゲージメントの向上や、電動化・DXに対応するスキルの習得(リスキリング)を積極的に支援しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 44.5歳 | 21.9年 | 7,114,814円 |
※平均年間給与は、賞与および基準外賃金を含んでおります。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 1.6% |
| 男性育児休業取得率 | 76.9% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 74.1% |
| 男女賃金差異(正規) | 73.1% |
| 男女賃金差異(非正規) | 51.8% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、ソフトウェア・電子人財育成(105人)、デジタル人財(53人)、従業員エンゲージメント(53Pts.)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 特定の取引先への依存
同社グループの売上高の約5割はトヨタ自動車向けです。主要な販売先である同社の販売動向や生産計画の変更は、同社グループの業績に直接的な影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 車の電動化に関する新製品開発
自動車業界における電動化の急速な進展に伴い、技術革新への対応が求められています。電動化パワートレイン制御分野等での新製品開発や技術変化への対応が遅れた場合、将来の成長性や収益性が低下する可能性があります。
■(3) 海外展開に伴うリスク
同社グループはアジア、米州、欧州など世界各地で事業を展開しています。各地域の政治・経済状況の変化、予期せぬ法規制の変更、為替レートの変動などが、業績や財務状況に影響を与える可能性があります。



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