※本記事は、武蔵精密工業の有価証券報告書(第99期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月22日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 武蔵精密工業ってどんな会社?
自動車および2輪車向け重要保安部品の開発・製造をグローバルに展開する独立系部品メーカーです。
■(1) 会社概要
1938年に個人経営の大塚製作所として創業し、1944年に大塚航空工業として法人化されました。1963年に現在の武蔵精密工業へ商号を変更しています。1980年以降は米州やアジアなど海外へ積極的に進出し、2004年に東証・名証二部に上場、翌2005年に一部(現プライム・プレミア)に指定されました。直近ではAI外観検査機やハイブリッドスーパーキャパシタの開発など、新規事業の創出も進めています。
同社グループの従業員数は連結で12,227名、単体で1,111名です。筆頭株主は主要取引先でもある事業会社のホンダで、第2位および第3位は資産管理業務などを行う信託銀行です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 本田技研工業 | 24.96% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 7.59% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 6.63% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性8名、女性3名の計11名で構成され、女性役員比率は27.0%です。代表取締役社長CEOは大塚浩史氏が務めています。社外取締役の比率は72.7%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 大塚浩史 | 代表取締役社長CEO(最高経営責任者) | 1993年同社入社。英国やハンガリーの現地法人社長、営業本部長などを経て、2006年5月より代表取締役社長。2019年4月より現職。 |
| トレーシー・シビル | 代表取締役副社長CFO(最高財務責任者)CHO(最高人事責任者) | 1997年カナダ現地法人入社。同社グローバルIT戦略担当、経理統括、CFO、CHOを歴任し、2025年4月より現職。 |
| 森崎健司 | 代表取締役副社長COO(最高執行責任者)日本地域CEOリスクマネジメントオフィサー | 1985年九州武蔵精密入社。インド現地法人副社長、同社CMO(最高ものづくり責任者)、COOなどを経て、2025年4月より現職。 |
社外取締役は、宗像義恵(元インテル副社長)、神野吾郎(サーラコーポレーション社長兼グループ代表・CEO)、ハリ・ネアー(元テネコCOO)、富松圭介(元モルガン・スタンレーMUFG証券エグゼクティブ・ディレクター・指名・報酬委員長)、小野塚惠美(エミネントグループ社長CEO・ガバナンス委員長)、山本麻記子(TMI Associates London LLP Managing Partner)、大久保和孝(大久保アソシエイツ社長)、渡辺尚(フリーダムワン社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「日本」「米州」「アジア」「中国」「欧州」の5つの地域セグメントで事業を展開しています。
■(1) 日本
自動車向けパワートレイン(PT)部品やリンケージ&サスペンション(L&S)部品、2輪車用部品の製造・販売を行っています。また、新規事業としてハイブリッドスーパーキャパシタ等の開発も進めています。
主な収益源は、完成車メーカーや部品メーカーへの製品販売代金です。運営は同社(武蔵精密工業)および、子会社の九州武蔵精密や武蔵エナジーソリューションズなどが行っています。
■(2) 米州
米国、カナダ、メキシコ、ブラジルにおいて、PT部品、L&S部品、2輪車用部品等の製造および販売を展開しています。
完成車メーカー等に対する製品の販売代金が主な収益源となります。事業の運営は、ムサシオートパーツミシガン、ムサシオートパーツカナダ、ムサシドブラジルなどの各現地法人が主体となって行っています。
■(3) アジア
タイ、インドネシア、インド、ベトナムにおいて、自動車用のPT部品・L&S部品や、2輪車用部品の製造・販売を行っています。特に2輪車向けトランスミッションなどで強みを持ちます。
現地の完成車メーカー等に対する製品販売によって収益を得ています。ムサシオートパーツカンパニーやムサシオートパーツインディアなどの各現地法人が運営を担っています。
■(4) 中国
中国市場において、日系および現地の民族系自動車メーカー向けにPT部品やL&S部品の製造・販売を行っています。
部品の販売代金を主な収益源としています。運営は、武蔵精密汽車零部件(中山)や武蔵汽車零部件(天津)などの中国現地法人が行っています。
■(5) 欧州
ドイツ、ハンガリー、スペインなどにおいて、自動車向けPT部品およびL&S部品の製造・販売を展開しています。
欧州の完成車メーカーおよび部品メーカーに対する製品販売により収益を得ています。運営は、ムサシヨーロッパを中心とした欧州域内の各子会社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の売上高は着実に拡大傾向にあり、3,400億円台に到達しています。経常利益も成長を続けており、当期は202億円と利益率を向上させています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 2,419億円 | 3,015億円 | 3,499億円 | 3,472億円 | 3,472億円 |
| 経常利益 | 94億円 | 70億円 | 156億円 | 180億円 | 202億円 |
| 利益率(%) | 3.9% | 2.3% | 4.4% | 5.2% | 5.8% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 41億円 | 49億円 | 84億円 | 96億円 | 105億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は横ばいながら、売上総利益および営業利益ともに前年を上回っています。原価低減や適正な価格転嫁の進展により、収益性が改善していることが伺えます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 3,472億円 | 3,472億円 |
| 売上総利益 | 527億円 | 555億円 |
| 売上総利益率(%) | 15.2% | 16.0% |
| 営業利益 | 197億円 | 205億円 |
| 営業利益率(%) | 5.7% | 5.9% |
販売費及び一般管理費のうち、給与手当及び賞与が99億円(構成比28%)、荷造運搬費が43億円(同12%)を占めています。
■(3) セグメント収益
各セグメントの売上高の推移を見ると、米州および日本で増収となった一方、欧州や中国では市況の変化や日系自動車販売の低迷影響等により減収となっています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 日本 | 400億円 | 415億円 |
| 米州 | 1,046億円 | 1,110億円 |
| アジア | 819億円 | 807億円 |
| 中国 | 315億円 | 291億円 |
| 欧州 | 893億円 | 849億円 |
| 連結(合計) | 3,472億円 | 3,472億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
本業の営業活動で得た資金の範囲内で、借入金の返済や積極的な設備投資を賄えている健全型のキャッシュ・フロー状況です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 319億円 | 330億円 |
| 投資CF | -161億円 | -279億円 |
| 財務CF | -77億円 | -80億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は1.1%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も40.5%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、長期ビジョンとして「Go Far Beyond! ~枠を壊し冒険へ出かけよう!~」を掲げています。激変する事業環境の中、長い歴史の中で培った挑戦のDNAを受け継ぎ、自らの限界や常識・既成概念を壊すことで、新たな価値の創出と更なる成長を目指しています。
■(2) 企業文化
Origin(創業の精神)、Purpose(使命)、Way(行動指針)で構成される「ムサシフィロソフィー」を事業運営の基軸としています。テクノロジーへの情熱とイノベーションを生み出す知恵をあわせ持ち、人と環境が調和した豊かな地球社会の実現に貢献する文化を重視しています。
■(3) 経営計画・目標
カーボンニュートラルの実現に向けた「グリーンオペレーション100」として、創業100周年を迎える2038年までに事業活動でのカーボンニュートラル、2050年までにバリューチェーン全体のカーボンニュートラル実現を目標としています。また、収益性向上の指標としてROA・ROE・ROICの向上を目指しています。
■(4) 成長戦略と重点施策
「選択と集中」の観点から、変化の激しい市場環境に即応できる強靭で柔軟な事業構造の確立を目指しています。四輪向けでは内燃機関から電気自動車までの最適ポートフォリオ構築、二輪向けではインド等でのEV駆動ユニット拡販を推進します。また、AIデータセンターを支えるハイブリッドスーパーキャパシタ事業を新たな成長の柱として育成します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「自律したプロ人財」の育成を掲げ、主体的に挑戦する組織風土の醸成に取り組んでいます。全従業員向けにフィロソフィー基礎研修を実施するほか、AI・デジタル前提の業務変革に向けたリスキリング環境を提供し、国籍や部門の壁を越えて活躍できるグローバルリーダーの輩出に注力しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 42.3歳 | 17.2年 | 7,012,793円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 3.1% |
| 男性育児休業取得率 | 66.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 70.8% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 71.2% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 62.0% |
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 電動化トレンドと自動車業界の構造変化
自動車の電動化(EV化)は地域ごとに進展スピードが異なり、完成車メーカーの戦略見直しの動きが出るなど不確実性が高まっています。これらの構造変化への対応の遅れが、同社グループの業績に影響を与える可能性があります。
■(2) 特定の取引先への依存
同社は本田技研工業を主要な取引先としており、ホンダグループへの売上高比率は約51%を占めています。ホンダグループの事業戦略や購買政策の変更が、同社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(3) 新規事業展開に関するリスク
新技術の獲得や事業開発のスピード向上のため、M&Aやスタートアップ企業への出資を伴う共同開発を行っています。対象企業の事業活動が想定通り推移しない場合、減損損失の発生により同社グループの業績に影響を与える可能性があります。
■(4) 情報セキュリティリスク
外部からのサイバー攻撃や情報システムへの不正アクセス等により、機密情報等の改ざん・流出、重要な業務・サービスの停止が発生する可能性があります。その結果、社会的信用の低下や損害賠償責任が生じるリスクがあります。



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