※本記事は、武蔵精密工業株式会社 の有価証券報告書(第98期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月20日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 武蔵精密工業ってどんな会社?
ホンダ系の自動車部品メーカーとして、パワートレインや足回り部品をグローバルに展開する企業です。
■(1) 会社概要
1938年に大塚製作所として創業し、航空機部品やミシン部品を経て、1956年に本田技研工業と取引を開始しました。その後、自動車部品事業を拡大し、1998年に株式を店頭登録、2005年に東証一部へ指定替えとなりました。近年は新規事業創出に注力し、2020年に武蔵エナジーソリューションズを子会社化しています。
連結従業員数は12,420名、単体では1,093名です。筆頭株主は主要取引先でもある本田技研工業で、第2位は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行です。第3位も同様に資産管理を行う日本カストディ銀行となっており、事業会社と機関投資家が主要株主を構成しています。
■(2) 経営陣
同社の役員は男性7名、女性4名の計11名で構成され、女性役員比率は36.0%です。代表取締役社長最高経営責任者は大塚浩史氏です。社外取締役比率は約63.6%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 大塚 浩史 | 代表取締役社長最高経営責任者 | 1993年入社。海外現地法人社長や営業本部長を経て、2006年より社長、2019年より現職。 |
| トレーシー・シビル | 代表取締役副社長CFO(最高財務責任者)CHO(最高人事責任者)グローバルIT戦略担当 | カナダ現地法人出身。執行役員、CFO等を経て2022年代表取締役就任。2025年より現職。 |
| 森崎 健司 | 代表取締役副社長COO(最高執行責任者)リスクマネジメントオフィサー | 九州武蔵精密入社。海外拠点駐在や生産・工機事業統括を経て、2024年代表取締役就任。2025年より現職。 |
| 宮澤 実智 | 取締役(監査等委員) | 1985年入社。総務部法務課長、サステナビリティ推進室長、人事部長代行を経て2019年より現職。 |
社外取締役は、宗像義恵(元インテル取締役副社長)、神野吾郎(サーラコーポレーション社長兼CEO)、ハリ・ネアー(元テネコCOO)、富松圭介(元UBS証券エグゼクティブ・ディレクター)、小野塚惠美(エミネントグループ社長CEO)、山本麻記子(弁護士)、大久保和孝(公認会計士)です。
2. 事業内容
同社グループは、「PT(パワートレイン)」「L&S(リンケージ&サスペンション)」「2輪」の3つの報告セグメントで事業を展開しています。
■PT(パワートレイン)
自動車のエンジンの動力をタイヤに伝えるための重要部品を製造・販売しています。主な製品には、プラネタリィギヤアッセンブリィ、デファレンシャルギヤアッセンブリィ、カムシャフト、トランスミッションギヤなどがあり、自動車メーカー等へ供給しています。
収益は、自動車メーカー等の顧客に対する製品の販売代金から得ています。運営は、国内では同社および九州武蔵精密、武蔵キャスティング等が、海外では各地域の現地法人が担っています。また、新規事業としてAI外観検査機や蓄電デバイスの開発・製造を行う子会社もこのセグメントに含まれます。
■L&S(リンケージ&サスペンション)
自動車の走行安定性や乗り心地を左右する足回り部品を製造・販売しています。サスペンションアームアッセンブリィやサスペンションボールジョイントなどが主力製品で、世界各国の自動車メーカーに供給されています。
収益は、製品の販売により顧客から対価を得ています。運営は、国内では同社が、海外では北米、欧州、アジア等の現地法人が製造・販売を行っています。特に欧州や北米での需要に対応しています。
■2輪
オートバイ等の2輪車用駆動系部品を製造・販売しています。トランスミッションギヤアッセンブリィやカムシャフトなどで高いシェアを持ち、主要な2輪車メーカーへ製品を提供しています。
収益は、2輪車メーカー等への部品販売によるものです。運営は、国内では同社および九州武蔵精密が、海外ではインドネシア、ベトナム、インド等のアジア地域を中心とした現地法人が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は増加傾向にありましたが、当期は微減となりました。利益面では、経常利益は変動があるものの当期は増加しています。一方、当期純利益は前期と比較して減少しました。全体として、売上規模は拡大基調から横ばいとなり、利益率の改善が進んでいます。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 2,047億円 | 2,419億円 | 3,015億円 | 3,499億円 | 3,472億円 |
| 経常利益 | 83億円 | 94億円 | 70億円 | 156億円 | 180億円 |
| 利益率(%) | 4.0% | 3.9% | 2.3% | 4.4% | 5.2% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 41億円 | 41億円 | 49億円 | 84億円 | 96億円 |
■(2) 損益計算書
前期と比較すると、売上高はわずかに減少しましたが、売上原価の低減により売上総利益は増加し、利益率も改善しました。営業利益および営業利益率も上昇しており、本業の収益性が向上していることがうかがえます。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 3,499億円 | 3,472億円 |
| 売上総利益 | 507億円 | 527億円 |
| 売上総利益率(%) | 14.5% | 15.2% |
| 営業利益 | 184億円 | 197億円 |
| 営業利益率(%) | 5.3% | 5.7% |
販売費及び一般管理費のうち、給与手当及び賞与が93億円(構成比28%)、荷造運搬費が46億円(同14%)を占めています。
■(3) セグメント収益
地域別の売上状況を見ると、米州とアジア(中国を除く)が増収となる一方、日本、中国、欧州では減収となりました。特にアジアでの2輪販売の増加や米州での好調な需要に加え、円安がプラスに寄与しました。一方、中国や欧州では市場環境の変化や需要減少の影響を受けています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) |
|---|---|---|
| 日本 | 424億円 | 399億円 |
| 米州 | 1,016億円 | 1,046億円 |
| アジア | 761億円 | 819億円 |
| 中国 | 339億円 | 315億円 |
| 欧州 | 961億円 | 893億円 |
| 連結(合計) | 3,499億円 | 3,472億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社は「健全型」です。本業で稼いだ資金(営業CFプラス)の範囲内で、設備投資等(投資CFマイナス)や借入金の返済(財務CFマイナス)を行っており、財務の健全性を維持しながら事業運営を行っている状態です。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 316億円 | 319億円 |
| 投資CF | -160億円 | -161億円 |
| 財務CF | -178億円 | -77億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は6.8%で市場平均を下回り、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は40.3%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「Origin(創業の精神)」「Purpose(使命)」「Way(行動指針)」で構成される「ムサシフィロソフィー」を基軸に事業を運営しています。長期ビジョンとして「Go Far Beyond! ~枠を壊し冒険へ出かけよう!~」を掲げ、新たな価値の創出と更なる成長を目指しています。
■(2) 企業文化
「Way(行動指針)」を重視し、自らの限界や組織・風土の壁、常識・既成概念を壊して変革を起こす姿勢を推奨しています。「自律したプロ人財」の育成を目指し、主体性と自立性をベースに個々人が能力を開発していく組織風土の醸成に取り組んでいます。挑戦を続けるDNAを受け継ぎ、ワクワクする仕事をすることを良しとする文化があります。
■(3) 経営計画・目標
ムサシ100年ビジョンの実現に向け、人・しくみ・事業の各視点で方針を定め、既存事業の深化と新規事業の創出による成長を目指しています。経営上の目標達成状況を判断する指標として、売上高に対する利益率や資本効率性(ROA・ROE・ROIC)、自己資本比率などを重視しています。
■(4) 成長戦略と重点施策
「EV時代をリードする事業構造への転換」と「新規事業の加速」を掲げています。既存事業では、EV化に対応した高付加価値商品の提供やDXによる生産効率化を進めます。新規事業では、データセンター向け等の「Energy Solution」、インド等での「e-Mobility」、AI外観検査機等の「Smart Industry」領域に注力しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「自律したプロ人財」の育成を掲げ、ムサシフィロソフィーを体現し、変革に挑戦できる人材を求めています。グローバルリーダーの育成や、イノベーション・デジタル領域での能力開発に注力するとともに、多様性を尊重し、国籍や性別に関わらず活躍できる環境整備や健康経営を推進しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 42.0歳 | 17.2年 | 6,851,921円 |
※平均年間給与は基準外賃金及び賞与を含んでおります。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 3.2% |
| 男性育児休業取得率 | 39.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 70.6% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 71.8% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 64.6% |
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 市場環境の変化と電動化の進展
景気後退による売上減少や、急速なEVシフトに伴う部品点数の減少が懸念されます。同社はEV、ハイブリッド、内燃機関車のいずれにも対応できる事業構造を構築し、付加価値の高い商品を開発することで影響の低減を図っています。
■(2) 特定の取引先・地域への依存
ホンダグループへの売上依存度が高く、同グループの戦略変更の影響を受ける可能性があります。また、世界各国で事業展開しているため、各国の政情不安や規制変更のリスクもあります。顧客基盤の拡大やグローバルな生産体制の相互補完により対応しています。
■(3) 原材料調達とサプライチェーン
部品・原材料の一部を特定のサプライヤーに依存しており、入手困難や価格高騰が発生した場合、業績に影響を与える可能性があります。新たな調達先の開拓やサプライチェーンの見直しを進め、安定調達とコスト競争力の維持に努めています。



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