田中精密工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

田中精密工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態


※本記事は、田中精密工業の有価証券報告書(第75期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月22日提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準はJapan GAAPです。

0. まとめ

田中精密工業は東京証券取引所スタンダード市場に上場し、自動車部品を中心とする部品製造事業やソリューション、モビリティ事業を展開しています。直近の業績は売上高438億円と増収となった一方、北米での新規立ち上げコスト等により営業利益は24億円と減益になりました。電動化対応や新規事業の拡大を推進中です。

1. 田中精密工業ってどんな会社?

自動車部品の製造販売を主力とし、ソリューションやモビリティ事業も展開する企業です。

(1) 会社概要

1948年に創業し紡機軸受用部品の製造を開始しました。1957年に設立され、同年より本田技研工業との取引を開始して自動車部品事業を拡大しています。2004年にジャスダック証券取引所へ上場し、現在は東京証券取引所スタンダード市場に上場しています。近年はM&Aや組織再編を通じた事業領域の拡大を進めています。

現在の従業員数は連結で1,383名、単体で428名体制です。筆頭株主は主要取引先である事業会社の本田技研工業で、第2位は取引先等の持株会である田中共進会持株会、第3位はベンチャーキャピタル等の投資育成機関である名古屋中小企業投資育成が名を連ねています。

氏名 持株比率
本田技研工業 24.35%
田中共進会持株会 13.02%
名古屋中小企業投資育成 5.40%


(2) 経営陣

同社の役員は男性6名、女性2名の計8名で構成され、女性役員比率は25.0%です。代表取締役社長執行役員は田中英一郎氏が務めています。社外取締役比率は25.0%です。

氏名 役職 主な経歴
田中英一郎 代表取締役 社長執行役員 2003年同社入社。常務執行役員、代表取締役副社長執行役員などを経て2022年より現職。
山田勝也 取締役 執行役員部品製造事業部長 1990年同社入社。営業企画部長、執行役員などを経て2018年より現職。
沖健司 取締役 執行役員管理本部長モビリティ事業部長ティースタート社長執行役員 1994年同社入社。管理部長などを経て2021年に取締役執行役員、2026年より現職。


社外取締役は、高木悦郎氏(TSK代表取締役会長)、松山科子氏(東京エレクトロン業務デザイン本部プロモーション担当VP)です。

2. 事業内容

同社グループは、「部品製造事業」「ソリューション事業」および「モビリティ事業」を展開しています。

(1) 部品製造事業

国内外の完成車メーカー等を顧客として、四輪車や二輪車、汎用機向けのエンジン部品やトランスミッション部品などの自動車部品を製造・販売しています。また、鋳造金型や航空宇宙向け部品の製造も手掛けています。

完成した製品を顧客に納入することで製品代金を受け取る収益モデルです。運営は同社のほか、エフ・ティ・プレシジョン・インコーポレーテッドなどの海外子会社や、米谷製作所などの国内子会社が担っています。

(2) ソリューション事業

製造業における工場自動化ニーズを背景に、無人自動搬送車(AGV)や組立装置、検査装置などのFA関連設備のほか、電動化関連設備を中心とした製造・販売を行っています。

顧客の工場等に設備を搬入し、据付や試運転等の検収が完了した時点で製品代金を受け取ります。運営は主に子会社のタナカエンジニアリングが行っています。

(3) モビリティ事業

一般消費者等の顧客を対象に、ホンダブランドの新車および中古車の販売や、レンタカーサービスなどを展開しています。また、整備や車検などのアフターサービスも提供しています。

車両の引き渡し時やオークションの落札時、整備等のサービス完了時に販売代金やサービス料を受け取ります。運営は主に子会社のホンダ自販タナカが行っています。

3. 業績・財務状況

同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移

直近5期間の業績を見ると、売上高は自動車業界の回復基調や新規連結効果により増加傾向にあります。一方、利益面では原材料価格の高騰や北米での新規立ち上げコストの影響などを受け、増減を繰り返す傾向が見られます。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 297億円 342億円 425億円 405億円 438億円
経常利益 13億円 28億円 40億円 31億円 26億円
利益率(%) 4.4% 8.3% 9.3% 7.7% 5.8%
当期利益(親会社所有者帰属) 7億円 12億円 21億円 18億円 12億円


(2) 損益計算書

直近2期間の収益構造を比較すると、売上高が増加した一方で売上総利益はほぼ横ばいとなっており、売上総利益率は低下しています。これにより営業利益も減少する結果となりました。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 405億円 438億円
売上総利益 74億円 74億円
売上総利益率(%) 18.4% 16.8%
営業利益 27億円 24億円
営業利益率(%) 6.7% 5.4%


販売費及び一般管理費のうち、従業員給与・賞与が15億円(構成比29%)、研究開発費が5億円(同10%)を占めています。一方、売上原価は364億円で、売上高に対する売上原価の構成比は83%となっています。

(3) セグメント収益

部品製造事業は子会社化や新規受注により増収となりましたが、北米での減収影響等により減益となりました。ソリューション事業やモビリティ事業は、需要拡大や中古車販売の好調によりそれぞれ増収となっています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期) 利益(2025年3月期) 利益(2026年3月期) 利益率
部品製造事業 303億円 329億円 21億円 17億円 5.3%
ソリューション事業 14億円 14億円 3億円 4億円 25.8%
モビリティ事業 88億円 94億円 3億円 3億円 3.2%
連結(合計) 405億円 438億円 27億円 24億円 5.4%


(4) キャッシュ・フローと財務指標

営業で利益を出し、借入によって積極投資を行う状態である「積極型」のキャッシュ・フローとなっています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 44億円 47億円
投資CF -31億円 -74億円
財務CF -21億円 17億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は4.8%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は54.4%となっており、いずれも市場平均を下回っています。

4. 経営方針・戦略

同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念

同社グループは、「心が動く、未来を創る -Next Solution, Next Smile.-」をグループパーパスとして掲げています。お客様や社会の課題解決を通じて新たな価値を創出し続ける企業を目指しており、環境変化を成長機会と捉えて成長性と資本効率の向上を両立する経営を推進しています。

(2) 企業文化

人材を最も重要な経営資源と位置付けており、パーパスを全社で共有し、社員一人ひとりが主体的に課題解決に取り組み、自ら考え挑戦し続ける企業文化の定着を図っています。多様な人材が能力を最大限に発揮できる環境を整備し、変革を実行できる組織体制の構築を推進しています。

(3) 経営計画・目標

同社は長期経営計画「Next35」を策定し、事業ポートフォリオの変革による収益力の強化と資本効率の改善を目指しています。営業利益、ROE、ROICを重要な経営指標と位置付け、中長期的な企業価値の向上に取り組んでおり、以下の数値目標を掲げています。

* 2030年目標:営業利益25億円、ROE7%、ROIC7%
* 2035年目標:営業利益43億円、ROE10%、ROIC8%

(4) 成長戦略と重点施策

従来の内燃機関関連部品中心の事業構造から脱却し、成長領域へのシフトを進めています。次世代モビリティ領域や熱マネジメント領域へ経営資源を重点配分するとともに、ソリューション事業では製造現場の課題解決を図るビジネスモデルを確立し、モビリティ事業ではプラットフォーム型事業への転換を図ります。

5. 働く環境

同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針

事業ポートフォリオの変革及び収益構造の高度化を実現するため、人材価値の最大化を基本方針とし、「改革を実現し、常に『進化』し続ける集団の形成」を人材マネジメントポリシーに掲げています。次世代人材の育成や自律的・挑戦型組織への転換を重要課題と位置付け、人的資本の高度化と組織能力の強化を図っています。

(2) 給与水準・報酬設計

同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 43.5歳 19.1年 5,243,607円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示

同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 6.1%
男性育児休業取得率 100.0%
男女賃金差異(全労働者) 68.5%
男女賃金差異(正規雇用労働者) 78.4%
男女賃金差異(パート・有期労働者) 104.3%


6. 事業等のリスク

事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 自動車産業の電動化進展に伴う市場構造の変化

同社グループは自動車部品の製造販売を主力としており、業績は自動車産業の動向に大きく影響を受けます。特に、電動化の進展等による市場構造の急激な変化は、既存製品の需要減少に繋がる可能性があり、次世代モビリティ関連製品や新規事業への展開遅れが業績に影響を及ぼすリスクがあります。

(2) 本田技研工業グループへの高い売上依存

同社の主要な販売先は本田技研工業およびその関係会社であり、連結売上高に占める同グループ向けの販売が高い比率を占めています。そのため、同グループの生産動向や販売状況、販売方針の変更等が生じた場合、同社の業績や財務状況が直接的な影響を受ける可能性があります。

(3) 特定の内燃機関関連製品への依存

多様な自動車部品を扱っているものの、四輪エンジン部品であるロッカーアームAssyが連結売上高の約半数を占める重要な収益源となっています。電動化の進展に伴う内燃機関関連製品の構造的な需要縮小や、技術革新による代替製品の出現等により受注が減少した場合、業績に影響を及ぼすリスクがあります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。